安いだけのワインとコスパワインは別物です。飲んでがっかりしないためには選び方が重要です。
手頃で美味しいワインをつくるためには工夫が必要で、低価格ワインならなおさらです。
大事なのはワイナリーが効率よく良質なワインをつくれる理由に納得できること。
なぜ安くて美味しいのかの理由を添えて、1500円以下のコスパワインをご紹介します。
「コスパ最強」の厳密な意味とは
「コスパ最強」「圧倒的なコスパ」「コスパ抜群」
ワインを始めいろいろな商品に使われる常套文句です。
口に合わないものも含めて楽しめる懐の広い方なら何も言いません。目についたもの、おすすめされるものを片っ端から試してみるという選び方もあります。
でもなるべくハズレのワインを引きたくないなら。安易に「コスパ」という言葉に踊らされないように注意しましょう。
「コストパフォーマンスがいい」とは
①そのワインは飲んで美味しいと感じる
②飲み手にとって感じた美味しさに対する相場観がある
③その相場観に対して実売価格が低い
この3つの条件がそろって初めて「コストパフォーマンスが良いワイン」ということができます。
だから5万円のワインでも10万円でもおかしくない美味しさなら「コスパのいいワイン」です。逆に1000円のワインでも美味しく感じない、料理酒に使うしかなくなるなら、「コスパの悪いワイン」です。
「コスパのいい」その根拠は?
もしも美味しさに対して万人が納得する点数をつけられるのなら、コスパのいいワイン選びは簡単です。
しかしそんなものは夢物語。「美味しい」というのは主観的な感情であり、個人の好みに左右されるからです。
だから「これはコスパのいいワインです」という文言から読み取れるのは、「このフレーズを考えた人は、このワインがお好きなんですね」という情報だけ。その人がコスパが良いと思っていることしかわかりません。
あなたが同じように感じる保証は全くない。おわかりいただけるでしょう。
真剣に考えて「コスパがいい」と主張するなら、その根拠を示すはずです。その見極めがハズレなくワインを選ぶ最重要ポイントです。
ブランドや定価に対して価格が安い
自分の飲んだ感想をもとにコスパを納得してもらうことは大変です。だからもっと手軽な方法でコスパを伝えている例もあります。
その一つは商品のブランド力。
「シャブリが2000円」「シャンパンなのに4000円」「ナパ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨンが3500円」
こういったものはワインのタイプや産地がブランドとして相場を伝えてくれます。それを下回る価格なら「コスパがいい」と言えます。
ワインのメーカー希望小売価格もまた端的にその価値を表したものです。値付けの信頼性はともあれ、それに対して大きく値引きされていたら「コスパがいい」というより「お買い得」なのは確かです。
より安く提供するために流通を効率化する努力は価値あることですが、それにワインの知識は必要ありません。筆者の出番はないということです。
だからこそ今回はブランドや値引き率に頼らないコスパワインの紹介をいたします。
大量生産しているものは安くて美味しい
1500円以下で美味しいワインをつくるには、どうしてもスケールメリットが必要です。
つまらない事実ですが、工場のようなワイナリーで完全機械化してつくったものの方が、価格に対して高品質です。
一方でワインは均一な品質のものを大量につくるのが難しい飲み物です。ブドウの品質は畑の栽培条件や管理の仕方で大きく変わるからです。
その矛盾のバランスポイントにコスパワインはあります。
1500円のワイン価格に含まれるもの
あなたが支払う1500円が、そのまま生産者の手元に入るわけではありません。
まずは10%の消費税。
そして我々小売店の粗利。その中には楽天などのモール利用料やクレジットカード手数料、広告などの販売費用や人件費などが含まれます。
そしてワインを輸入する業者の粗利。そこに1本あたり75円の酒税や海外からコンテナ船で仕入れる輸送費、販促費などが含まれます。輸送や保管にかかる費用は、1500円のワインも10万円のワインも同様にかかります。
生産国によっては関税もかかります。
輸入元が直接契約するワイナリーのワインでもこれだけの費用がかかるのです。
1500円という販売価格に対して何パーセントがワイナリーの出し値、いわゆる「セラードア価格」なのかは公表されませんし、私も知りません。
それでも本当の原価は相当に安いことが想像がつくでしょう。1本1500円でつくるワインではなく、1本数百円でつくるワインなのです。
目指すのは「美味しいこと」より「不味くないこと」
「凝縮感のある果実味」「洗練された酸味」「複雑で奥行きのある風味」・・・
ワインを「美味しい」と感じる要素は様々ですが、この価格帯のワインではなかなか美味しさを追求することはできません。おそらく醸造家が目指しているのは、悪い要素が出ないこと。
欠陥と呼ばれる風味がない。果実味・酸味・渋味などに突出しすぎるものがない。良くない苦みなどの悪い味がない。これが1500円の良いワインの条件といっても言い過ぎではないでしょう。
ただし悪い要素はそもそもワインの説明書きには書かれないので、飲まずに判断するのは難しいところです。
好みにあわせるよりワイン自体の品質を
美味しさより不味くないことを目指す。
それゆえワインの産地や品種などが同じなら、それぞれの銘柄で味わいの方向性は似通ってきます。
その上で少しの凝縮感やバランスの差で、最終的な美味しい/美味しくないの印象が大きく違う。
もっと上の価格帯なら、自分が好みとする味わいに応じたワインのタイプを選ぶことが重要になってきます。タイプがあっていれば、銘柄ごとの品質の小さな差は無視して満足できます。
しかしこの価格帯で選ぶなら、ワイン自体の完成度を優先した方が満足度が高いと考えます。
例えばランチ。ラーメンをこよなく愛する人にとっては、2000円の高級うどんよりも1000円のラーメンの方が、きっと満足度は高いでしょう。
でも500円の予算で激安ラーメンを探し求めるくらいなら、500円のうどんの方ががっかりする確率は低いのでは。
ブドウの調達コストを下げるには
悪いところのないワインを手頃に大量につくるには、大量のブドウを安定して安く仕入れることが必要。そのためにはたくさんの契約農家からブドウを購入するか、新興産地に広大な自社畑を構えることです。
その上で安価なブドウ生産に向いた環境というものもあります。
涼しい産地よりは暖かい産地の方が有利です。1本の樹に実るブドウの房を制限せずとも、ブドウの糖度が上がりやすい。同じ面積の畑からたくさんブドウを得やすいのです。
降雨量はある程度少ない方がいいでしょう。とくにブドウの生育期に雨が降らなければ病気が少なく、その対策へのコストがかかりません。「農薬を使う必要がないから実質有機栽培」みたいな環境が理想です。足りない水分は灌漑(水やり)すればいいのですから。ただし豊富な水源があればの話です。
斜面の畑より平坦な畑の方が機械化しやすく、栽培コストは低くなります。
1500円以下のワインに「選果をしていいブドウだけを使う」なんてほぼ不可能。機械収穫しても悪いブドウが混ざりにくい、恵まれた環境が求められます。
こういった手頃で美味しいワインをつくる条件を踏まえ、これから紹介するワインについて見極めていってください。
「美味しい」理由に納得できるコスパ赤ワイン4選
今回ご紹介するワインは、厳密な数が分からないものも含めて大量生産されているであろうワインです。大量生産には大量消費が狙えることも重要。そのために奇抜な味ではなく幅広い層に好かれること、リピートされることを狙っています。ディープなワイン好きではなく、ワイン初心者が喜ぶ味です。
そのポイントの一つが穏やかなタンニン。その地域・その品種のワインの標準値と比べて、渋味穏やかにつくられている傾向があります。
栽培のしやすさと低リスクゆえに
アルゼンチンの中でも特に標高が高く乾燥したエリアにあるエル・エステコ社。少なくとも400haの自社畑と契約畑からの生産なので、スケールメリットがあることは間違いないです。それに加えて典型的な「リスクの低いブドウ栽培」が、健全で手頃なワイン生産を可能としています。
内陸部にあるこの地域は基本的に雨が降りません。年間200mm以下。農業をするには灌漑(水やり)が絶対必要です。そんな乾燥した環境ですから、カビ系の病害はほとんど発生せず、その対策も不要です。
雨が降らない乾燥した地域はその水の確保が難しいことも。でもここにはアンデス山脈の雪解け水があります。
極めて健全に熟したブドウからつくられるこのワイン。力強い日照を思わせる濃密な果実味が、一つ上のクラスの満足感を与えてくれます。
栽培の効率化ゆえに
このワインのブドウをつくるのはリヴェリナ地区。ここはオーストラリアにおける手頃なワインの一大産地です。
地図で確認するかぎりこのワイナリーの立地は、「大鑽井盆地(だいさんせいぼんち)」の端にかかっています。広大な平野で海から遠く乾燥しているのですが、井戸を掘れば豊富な地下水が得られます。
広大な平野であるこの地域は、栽培の機械化が容易です。人件費の高いオーストラリア。効率化が強く求められているのでしょう。
あまり機械化についてはワイナリーも語らないのですが、収穫だけでなく剪定なども機械化しているのではないでしょうか。加えてオークチップを使った醸造により、この価格ですが樽香漂うリッチな風味を持つ、フルボディな赤ワイン。14%のアルコール度数で飲みごたえがあります。
スケールメリット+販売戦略ゆえに
「安くて美味しいワインといえばチリ」というイメージをお持ちの方は多いはず。実際に気候は安定していて栽培しやすいことに加え、日本に入ってくるのは大規模なワイナリーが多いです。それゆえコスパワインのイメージが定着してきました。
この「インドミタ」というワイナリーも畑の面積500haですから大規模です。でも飛びぬけているわけではありません。
加えて販売するうえでの事情が価格に影響しています。輸入元の系列酒販店で「これくらいの価格で売りたい」というところからスタートした商品開発だったため、大量販売を前提に利益を削って輸入していると聞きます。
その事情を信じるか否かは別にして、このワインが美味しいのは確か。この価格でスタンダードクラスではなく「レゼルバ」とついた上級ワインだから。収穫は手摘み、オーク樽熟成といったきちんとコストをかけた醸造をしているからです。
地元の人の生活に根付いたワインゆえ
ワイナリーが老舗ほど高級というのはあまりなく、むしろ何百年と続いてきたワイナリーは手頃なワインをつくっていることが多いです。現代のように何万円もする輸入ワインが当たり前のように消費される。そうなる前から地元の人に消費しつくされるワインをつくってきたから。その路線を大きく変える必要がないからでしょう。
コンティ・ゼッカはプーリア州で500年以上にわたりワインをつくってきたそうです。自社畑はもちろん広大でスケールメリットはもちろんあるのですが、ただ安くて美味しいワインをつくることだけを目指していません。「サレント」という土地が環境的・経済的に持続し発展していくことを目指しています。
イタリアのワイン評価誌「ガンベロ・ロッソ」の最高評価「トレ・ビッキエリ」を10回以上も獲得しているのは、その決意の現れでしょう。
「美味しい」理由に納得できるコスパ白ワイン4選
1500円以下の価格帯において比較したとき、白ワインは赤ワインに比べて飲み切れないような味のものに当たる確率は低いように感じます。白ワイン用のブドウの熟度は赤ワインほど求められないこと。果汁だけで醸造するので果皮や種の成熟度が影響しにくいのが理由ではないでしょうか。
その分、どんな味づくりをするのか、どういう美味しさを求めるのかという醸造家の意志が重要だと感じます。
ライトなワイン好きを満足させてこそ銘醸造家
このワインが美味しい保証はともかく醸造家の腕前です。
リカルド・コタレッラ氏。イタリアワイン界の大御所です。2000年代初頭に数々の醸造家賞を受賞し、「魔術師」「天才」と称えられる人物。輸入会社との縁で北海道の余市にある「キャメル・ファーム・ワイナリー」にてコンサルタントを務めることでも有名です。
高級ワインも手掛けるのですが、称賛を浴びる理由はなんといってもデイリー価格のワインの品質が高いこと。親しみやすさが全開のワインが多い傾向です。
この1本もまさにそう。力強さや上品さはあまりなく、酸味の穏やかさゆえに肩肘はらずに飲みたくなるカジュアルな味わい。どうしてもこのワインでないといけない理由はない。でも飲み終わった後に全く不満がないワインです。
新興国だからこそ可能な自社畑
日本においては「モルドバワイン≒ラダチーニ」。
1998年設立とまだかなり若いワイナリーなのに、自社畑の面積はなんと1000haです。
「新興国」と述べましたが、決してモルドバはワインの歴史が短い国ではありません。むしろ5000年前からつくられているそうです。
しかし日本においてまだまだ知られてないことからわかるとおり、高品質なワイン、わざわざ日本まで輸送して販売するようなワインは多くはなかったはずです。
だからこそ広大なブドウ畑を取得できたのでしょう。フランスやイタリアではまず不可能です。
安い人件費を活かして、そのブドウのほとんどが手摘みなんだとか。チョットナニヲイッテイルノカワカラナイ・・・
ラダチーニのワインはこのワイン以外もよく売れます。珍しいモルドバ産のワインが売れるのは、「安くて美味しいラダチーニ」という認識が定着してきているから。その原動力が「カベルネ・ソーヴィニヨンの白ワインって!?」となるこの1本です。
名前は書けないけれどもこの生産者は・・・
大量生産の懸念は市場の飽和です。十分に価格に見合う品質でも「これ前に飲んだから他のものを・・・」と避けられることがあります。レストランからすると「スーパーで並んでいて安ワインのイメージがあるから・・・」とオンリストを避けることもあります。
それを避ける手法の一つがブランド名、エチケットを変えることです。単純にラベルだけ変えるのではなく中身も違うのでしょう。
この「ブルーノ・ティエリー」はローヌ地方では誰もが名前を知る超有名生産者の別ブランド。名前を書くことはできませんが、少し前まで1500円以下の旨安ワインとして頻繁に名前の挙がっていたものです。(値上がりしました)
大規模生産者だけあり地方全体の特徴をあらわす味わい。ヴィオニエによるアロマティックな香りとボリューム感のある味わいです。
需要に応じて消費者の求める味を・・・
ドイツワインの悪いところは名前が長ったらしく小難しいところです。しかしワインを細かく造り分けるドイツでは必要なのです。
それを緩和する方法の一つはブランドの多様化。ジョセフ・ドラーテンはまさにその手法をとっており、当店が扱っているワインだけでこのワインを除き2つの輸入元から4商品入ってます。
様々なブランド名でワインを展開する場合、生産者に焦点を当てたプロモーションは困難です。「ジョセフ・ドラーテンだから美味しそう」とはなりにくい。ゆえにラベルを見てだいたいワインの味を想像でき、その通りであることが重要。
「ゲヴュルツトラミネール」という品種名からライチのような甘く芳醇な香りを。「カビネット」の表記からカジュアルな薄甘口であることが想像できます。まさにその通りの味です。
生産者を知ってより深くワインを楽しむ第一歩に
ワインを選ぶ方法はいろいろあります。
知人や有名人、ショップの人など、誰かのおすすめを参考にする。
ワイン評価誌やコンクールの結果を信頼する。
Vivinoなどのアプリやネット通販の口コミ点数を調べる。
そういった明快な基準に比べると、生産者のことを知って判断するのは非常にまどろっこしい。面倒な手法です。
たかだかワイン1本選ぶのに、そんな手間はかけたくない。別に少々口に合わなくたって構わない。そう考える方も多いでしょう。
でも当ブログはワインを趣味として楽しみたい方に向けて書いております。趣味は仕事以上に真剣に取り組むからこそ人生を豊かにしてくれるのではないでしょうか。
ただお買い得な1本を買って飲むだけじゃない。興味を持ってワインを楽しむための選択。
生産者に注目してワインを選んでいくと、ワインの背景を含めて楽しめるようになりもっと面白くなるはずです。