
ブドウの産地が温暖か冷涼かに優劣はありませんが、その味わいの特徴や適した楽しみ方が異なります。産地の気候という原因とワインの風味という結果の関係を知れば、適したシーンも見えてきます。好みだけでなく飲むシチュエーションに応じたワイン選びができれば、愛好家としてのあなたのステージも一つ上がったと言えるでしょう。有名な国際品種で温暖産地と飲み比べれば、ワイングラスの向こうにより鮮明で興味深い世界が広がるでしょう。
冷涼産地のおすすめワイン7選
産地が冷涼であるワインの魅力は、簡単に言うならスマートで上品な味わいです。そのようなワインは例えばどこの産地のどんなワインか。COCOSのラインナップから厳選してご紹介します。
「ドイツワインらしさ」の期待通りに
冷涼産地だからこそつくれるワインの代表と言えるのが、甘味と酸味が調和した半辛口ワインです。甘味を残したワイン自体は、発酵を止めることで世界中どこでもつくれます。しかしそこに上品な酸味が伴わないと、もったりと飽きやすい味わいとなってしまうでしょう。美しい酸味が特徴のリースリングと産地特性が相まって確立されたスタイルと言えるでしょう。
リースリングの半甘口は、他の産地でも見つかります。しかし手頃な価格のワインは多くの種類手に入り、飲み比べが楽しいのは、やはりドイツのモーゼル地方です。
なぜドイツでは甘口ワインが有名?
近年は辛口の生産が増えているドイツですが、今なお全体の3〜4割を甘口・半辛口が占めるという、世界でも類を見ない「甘美な伝統」を守る国です。
その背景には、かつての醸造技術と冷涼な気候の偶然の産物がありました。まだ温度管理が難しかった時代、冬の訪れが早いドイツでは、発酵の途中で地下セラーが冷え込み、酵母の活動が止まってしまうことが多々ありました。そうして意図せず糖分が残ったワインですが、当時、貴重だった「甘み」と、冷涼産地特有の「美しい酸」が完璧な調和を見せたことで、貴族や愛好家たちを虜にしたのです。
この「寒さがもたらした奇跡」こそが、今私たちが楽しむドイツワインの骨格となっています。
フードペアリングがいろいろ脳裏に浮かぶ
ドイツで赤ワインの産地としては北限にあるアール地方。フルーツ感が抑えられた滋味深い香りに、軽めの口当たりながらじわっと旨味が広がるスタイルは、なかなか他では味わえません。
少し鉄分を感じるような個性的な風味で、料理を工夫すればピッタリはまるペアリングができそう。例えばバルサミコソースで食べる、少し臭みのある鴨などは抜群です。


いろいろな風味がコンパクトに収まっている
ニュージーランドの南端であるセントラル・オタゴは、かつて「寒すぎてブドウ栽培には向かない」と考えられていた産地です。しかし2000年ごろから急速に、「ブルゴーニュ以外のピノ・ノワールの銘醸地」としての地位を確立してきました。
セントラル・オタゴのパイオニアの一人であるリッポン。ワイナリーと畑があるのは、セントラル・オタゴのサブリージョンの中でも特に冷涼とされる「ワナカ」のエリアです。最もサザンアルプス山脈に近く、その吹き降ろしが畑を冷涼にします。そこでゆっくりと成熟するブドウには、非常に多くの風味が詰まっていて、濃厚ではないのに香りが緻密だと醸造家は語ります。
アルゼンチンワインのイメージと1000km違う!
アルゼンチンワインとしてピノ・ノワールのイメージは薄いでしょうが、実は今注目され始めている産地「パタゴニア」があります。アルゼンチンにおけるワイン生産の中心地メンドーサから南へ約1000km。緯度の高さからの涼しい気候。非常に乾燥した地域で昼夜の寒暖差がとても大きいのでしょう。美しい酸味を備えています。さらに生産者のスタイルでしょうか。12.5%と低いアルコールで、レースのように軽やかで繊細な口当たりです。
舌が肥えた消費者も満足する泡
イングリッシュスパークリングが近年話題です。それはかつて寒すぎた気候が、温暖化によってブドウ栽培が安定してきたという点で、「新しい産地」だからです。
ナインティンバーはその先駆けといえる生産者。ブドウ栽培北限に位置する涼しい環境と、シャンパーニュに似たチョーク質の石灰質土壌がみられる畑。高品質スパークリングに非常に適した地にて、長年シャンパンを消費してきた市場が満足するワインをつくります。
この軽やかさはブルゴーニュにもない?
タスマニア島も高緯度産地の一つ。繊細な口当たりのシャルドネを多くの生産者がつくっています。少し高価なワインが多い中で、ムーリラのワインは手頃で秀逸. シャルドネのアロマティックな亜種を使い、冷涼産地ならではの軽やかでみずみずしい上品さを備えています。この繊細さは、今やシャブリにもなかなか見つかりません。
極寒の地でないとつくれない!
凍結したブドウからつくるアイスワインは、冷涼産地の中でも特に寒い地域でしかつくれない代表格。ドイツ産が有名ですが、冬の冷え込みが不十分でつくれないヴィンテージも多くなってきました。そこで安定したアイスワインの産地として注目されているのがカナダ。オンタリオ湖によって急激な温度変化から守られています。
濃密でフルーティーな香りと透明感のある甘味。それを支える豊かな酸味が魅力です。
産地の気候と味わいの関係を整理する
産地が違えば風味が大きく違う。これはワインにおいては当たり前です。
でも考えてみてください。例えば北海道産の玉ねぎと九州産の玉ねぎで、誰もが判別できるほどの違いはありますか?
産地が冷涼か温暖かで、どうしてこうもワインの味わいが違うのか。気温がワインに与える影響を解説します。
気温は品種選択の重要要素
ワインを造る際にブドウ品種の選択は重要です。伝統産地では数百年という年月をかけて、その土地の気候や土壌に適したものが選び抜かれてきました。「適した」品種を使えば、あまり手間をかけずとも品質の高い房が実り、病気になりにくく、生産量が安定するのです。適していない品種はその逆で、例えば過熟や糖度不足などの問題が起こります。


その選択において大きな指標の一つが有効積算温度。これは1日1日の気温がどれだけ植物の生長に貢献したかという考えです。ブドウの糖度は概ねこの積算温度に従って上がっていきます。
有効積算温度が低い涼しい産地においては、糖度が上がりやすい早熟な品種を選ぶことで、安定して成熟させられます。一方で有効積算温度が高い暖かい地域では、糖度が上がりにくい晩熟な品種を選ぶことで、酸味を保ったバランスの良いワインをつくることができます。
産地が違えば、ブドウ品種の選択が違うことが多いので、ワインの風味も異なる。これが産地とワインの関係の一つです。
果実味と酸味のバランス感
同じブドウ品種で比較した時も、気候によりワインの風味は異なります。
ブドウは成熟するにつれ、糖度が上がって酸味が減っていきます。もし同じタイミングで収穫するとすれば、暖かい産地の方がより甘くて酸味の低いブドウとなり、アルコール度数が高くリッチでまろやかなワインになります。
とはいえブドウの収穫日は様々な要素を考えて決めます。暖かい産地でも上品なワインをつくりたいなら早めに収穫しますし、風味豊かにしたいなら収穫を遅らせます。どちらもその生産者にとっては「完熟したブドウを完璧なタイミングで収穫した」となります。
ハングタイムは長いほどいい?
ブドウの収穫日は、一般に開花から100日後と言われます。そのブドウが樹に実っている期間を「ハングタイム」と呼びます。
涼しい産地でハングタイム120日のブドウと、暖かい産地でハングタイム80日のブドウがあり、たまたま糖度と酸度が同じくらいだったとします。それでもブドウの風味は大きく違います。
実はブドウの成熟には、糖度の上昇と酸味成分の分解の他に、「フェノールの成熟」と呼ばれるものがあります。これは簡単にはタンニンや風味が魅力的なものになることと考えてください。そのスピードは気温に寄らず一定だといいます。
涼しい産地に向いたブドウを暖かい産地で無理に栽培し、早摘みで味のバランスを整えようとしても、いいワインにはなりません。色が薄く、風味に乏しくて未熟な青臭さがある、アルコール感の目立つワインになってしまうでしょう。


これは極端な例です。ハングタイムは長いほどいいのかは、考えの分かれるところです。たとえば先述のリッポンなどは、冷涼産地でブドウがゆっくり成熟するゆえ 「濃厚ではないのに香りが緻密」になると考えています。一方で全く別の産地にて、あえてハングタイムが短くなる土地を選ぶ生産者もいます。
高品質なワインの条件「気温の日較差」
一般に気温の日較差(にちかくさ)が大きい産地ほど、高品質なワインがつくられると言われます。気温の日較差とは、最高気温と最低気温の差。昼間が暑く、夜が涼しい(寒い)ほどいいのです。
例えばカリフォルニアの「パソ・ロブレス」という産地では、夏の気温の日較差が20-30℃だとか。最高気温40℃の日の夜には10℃になるのです。身体には堪えるでしょうが、ブドウにはこれがいいのです。
ブドウは昼間に太陽光を浴びて光合成を行い、夜間には眠ります。しかし夜間の気温が高いと活動を止めず、酸味を分解してしまうそうです。


例えば広島県の三次ワイナリー。みずみずしくやさしい味わいのワインが人気です。広島県は瀬戸内海の影響で、気温の日較差が少ない穏やかな気候。それがワインの味わいに現れているのではと考えます。
気候と味わいの関係とは
この風味の成熟の関係で、ワインの果実味と酸味のバランスは、決して造り手の自由ではありません。気候と味わいの関係は、大まかには次の通り。
暖かい産地:アルコール度数高めでリッチな味わい。まったりとした口当たり
涼しい産地:アルコール度数が低く、軽やかな口当たりで後味さわやか
どちらが良いというものではありませんが、近年は冷涼産地のワインがより注目されています。
冷涼産地のワインの魅力とは
スマートで軽やかな口当たり。上品で豊かな酸味。そんなワインが好きな人もいる一方で、「薄くて物足りない」「すっぱい」と感じる人もいます。これは個人の好みです。
それとは別に、タイプが違えば適した飲み方やフードペアリングがあります。冷涼産地のワインを選ぶメリットをご紹介します。
飽きずに1本飲み切っての心地よさ
一口目から虜にするような美味しさも大事。一方でそのボトルを飲み切ったころに、また購入したいと感じさせてくれる美味しさもまた大事です。
濃厚でどっしりと重たいワインは、1口目のインパクトは抜群ですが、途中で飲み疲れてしまうこともあります。それに対して冷涼産地の軽やかなワインは、スイスイと飲み進めやすい心地よさが魅力と考えます。(なお、これは高めの酸味に耐性のある者としての意見かもしれません)
心地よく飲み続けられて最後まで飽きない。気づけばボトルが空いているような、引き際の見事さを冷涼産地のワインは持っています。


一方で「一人で1日1本は多すぎる。健康にもお財布にも悪い」そういう良識のある考えの方は、温暖産地のワインから探す方がいいかもしれませんね。
ヘルシーな料理へのペアリングとして
フードペアリングの基本は「風味と口当たりをあわせること」と言われます。冷涼産地の軽やかな口当たりのワインは、軽やかな料理と相性がいいということです。
近年、高級レストランの料理はあっさりとした口当たりのものにシフトしています。それは好みや流行というより、アイデンティティーを示すための必然です。新鮮で高品質、なかなか入手できない食材を使い、その魅力を存分に表現した料理をつくる。そのためにはたっぷりの油脂をつかった味付けの濃い調理法は選ばれません。技巧をこらしつつも油脂を控え、素材を引き立てるような料理でこそ「唯一無二」となります。
料理が軽めであるなら、それと調和するワインも軽めのものが求められます。料理の格に合うほど豊かな風味を備えつつ、口当たりはライトで引き締まった酸味がある。そんなスタイルのワインは、冷涼産地でつくられます。


抜栓前後で美味しさを保つ
冷涼産地ゆえの酸度の高さ。それはワインを抜栓した後もボトルの状態でも、美味しさをキープする助けとなります。
ワインの酸化防止剤として入っている亜硫酸は、pHが低いほどよく働く性質があります。それゆえ酸度が高くpHが低いものの方が、抜栓後にも味が変わりにくい傾向があります。赤ワインより案外白ワインの方が長持ちする理由です。
これは熟成ポテンシャルにも影響します。数十年後に美味しいワインの必須条件は豊かな酸味。それを備えるワインが多いのです。
例えばたまたま見つけた手頃なのに古いヴィンテージのワイン。おっかなびっくり購入してみるなら、冷涼産地のワインの方がハズレは少ないでしょう。


畑が冷涼になる要因とは
ここまで冷涼産地のワインの特徴と魅力をお話しました。ではそんなワインはどうやって選べばいいのでしょうか?産地の表記からそれは読み取れるのでしょうか。
ブドウ畑が冷涼になる条件を知れば、決して簡単でないことが分かります。
涼しい畑の条件とは
畑が涼しくなる条件は次のようなものです。
- 場所が高緯度(赤道から離れるほど冷涼)
- 標高が高い(標高が100m上がれば平均気温が0.6度下がる)
- 寒流が流れる海が近い
- 日当たりの悪い斜面に位置する
- 雨や曇りの日が多く日照時間が短い
- 日中に霧がかかる
緯度に関しては、そのワイナリーをGoogle Mapなどで検索すれば分かります。しかしその他を地図から読み取るのは簡単ではありません。例えば産地表記が「カリフォルニア」や「西ケープ州(ウェスタン・ケープ)」などのワインには、温暖産地のワインも冷涼産地のワインもあります。
初見のワインについてどれほど冷涼な産地のワインかを判断するのは、経験があっても難しいことです。
クールで上品なワインが流行るにつれ、こういった条件で畑が選ばれるようになってきました。しかし歴史を紐解けば、伝統産地はこれとは逆の選ばれ方をしてきたのは興味深いことです。
畑選びの変遷
数百~数十年前。美味しいワインをつくる上で最も大事なのは、ブドウをいかに十分な糖度まで成熟させるかでした。なので暖かくてブドウが熟しやすい場所を選んで畑を切り開いてきました。
そもそも北西ヨーロッパ自体、緯度の割には暖かいからこそブドウを栽培しやすいのです。それはスペイン沿岸を流れる北大西洋海流の影響です。その上でよりブドウが熟すよう、日当たりのいい斜面の畑を選び開墾したのです。


例えば先ほどご紹介したクロイツベルク。ドイツのアール地方は赤ワイン生産の北限といってもいい産地です。緯度が高く日照が弱いため、気温が低く十分な熟度を確保するのは簡単ではありません。その困難を、南向きの急斜面を選んで畑にすることで克服。斜面の畑が効率よく日照を得ることができます。黒色のスレート土壌が昼間に蓄えた熱を夜に放出し、ブドウの成熟を助けます。斜面の畑は空気の流れが良く、霜害が少なくて収穫が安定します。高緯度地域で工夫しながらブドウを育ててきたのです。
一方でニューワールドと呼ばれる地域にワインが伝わる際、逆に緯度の割に涼しい産地が選ばれました。カリフォルニア、チリ、南アフリカなどは、沿岸を流れる寒流の影響が大切。例えばナパ・ヴァレーは北半球にありながら、北ではなく南に行くほど畑は冷涼です。
冷涼産地のワインが高価な理由とは
今回ご紹介したワインを含め、冷涼産地のワインは高価なものが多いです。温暖な産地の方が、安くて美味しい物がたくさん見つかるという方が正確でしょう。
これはどうしてでしょうか。
温暖産地は単位収量を上げやすい
ワインの生産コストを下げる上で有効なのが、単位収量を上げること。つまり同じ面積の畑からより多くのブドウを生産することです。そのためにはブドウの樹を増やすというより、間引きをあまりせずに1本の樹につける房の数を増やします。栄養は分散しますのでブドウは熟しにくくなります。
温暖産地なら収量を増やしても、糖度は一定以上には上がるでしょう。しかし冷涼な産地だと未熟な状態で収穫せざるを得なくなるかも。糖分は捕糖できても、風味の未熟さはワインの風味を損ないます。


温暖産地の方がブドウの大量生産が容易。だから安くて美味しいワインが多いのです。
病気や霜害のリスク
畑の湿度が高い状態が続くと、カビなどの病害のリスクが高まります。雨が降ったあと、どれだけ早く乾いた状態に戻るかは、気温の影響が大きいです。雨に濡れた地面、夏と冬ではどちらが早く乾くかと想像すればわかりやすいでしょう。
カビ病が大量発生すると、生産量や品質に悪影響です。なのでそれを予防するために農薬散布などの防除をするのですが、温暖産地だとそのコストが減ります。温暖で乾燥した産地だと、ほとんど何もしなくても病気にならないということもあります。


霜害を受けた新芽
(Instagramより)
霜害(そうがい)は多くの産地で発生します。春先に樹が活動を始め、新芽が出てから氷点下まで冷え込む日があると、それが凍って死んでしまうのです。霜害でその年の収穫量が半減することすらあります。
数年に1度の割合で霜害が起きるとすれば、ある程度の被害が出ても大丈夫なように価格設定をする必要があります。霜害は一般に寒い地域で起きやすいので、これもワインのコストを高くする要因です。
欲しいワインを絞り込む指針として
今回は「冷涼産地」として、世界中の多種多様な産地をとても大雑把な括り方をしました。当然、冷涼産地のワインと言ってもそのスタイルは様々です。
それでも共通点がないわけではありません。自分はピノ・ノワールやリースリングが好きなのか。あるいは冷涼産地のワインが好きなのか。もし後者なら、他の産地・品種でも楽しめるかもしれません。
「あなたはどんなワインが好き?」と聞かれて、詳細な条件を答えられるのはいいことです。一方でそればかりだとすぐに飽きてしまうかも。
好みのワインを探す方針として、時に絞り込み条件を広げてみては?今回のように産地の気候に注目すれば、これまで選ばなかったタイプの好きなワインに出会えるかもしれません。







