もしオーストリアで国際品質の赤ワインを飲みたいのであれば、ブルゲンラントで見つかります!
白ワインが多いこの国において、唯一赤ワインが主役となる地域。
「ブラウフレンキッシュ」というブドウで、世界でも他にない個性を見せてくれます。
モリッツのワインを通してオリジナリティあふれるオーストリアの赤ワインをご紹介します。
オーストリアの4ステップ
オーストリアワインは日本の市場において決してメジャーとは言えません。
その一番の理由は手ごろなワインが少ないから。国を挙げて中~上級ワインに注力しているため、スーパーやカジュアルなレストランで目にする機会が少ないのです。
なので他の有名産地のワインをいろいろ飲んだ方が「そういえば飲んだことなかったな。どんな国なんだろう?」と注目する流れが多いでしょう。オーストリアワインを楽しむようになったら、脱ワイン初心者。そう思ってもいいかもしれません。
知り方はイタリアワインと一緒
オーストリアワインはどのように知っていけばいいか。「イタリアワインと同じ」と考えてください。
イタリアは地ブドウの国。その土地と、そこで昔からある固有のブドウと、そのブドウでつくられるワイン。それをセットで楽しんでいくのがイタリアワインを知る方法です。
ヴェネト州なら「コルヴィーナ」や「ロンディネッラ」のブレンドで、陰干しブドウからつくられる「アマローネ」が有名、といったように。
4つの地域で理解するオーストリアワイン
オーストリアはイタリアと違い、全域でワインがつくられてはいません。西半分がアルプスの山岳地帯だからです。
ゆえに代表となる生産地は大きく4つ。以前は北の「ヴァッハウ」と南の「ヴェストシュタイヤーマルク」をご紹介しました。それぞれ白ワイン、ロゼワインの産地でした。
今回はオーストリアの東の端。赤ワインの産地である「ブルゲンラント」をご紹介します。
オーストリアで最も温暖な「ブルゲンラント」
オーストリアの国土は狭く、さらにワイン生産地は東側に偏っています。
にも関わらず、「オーストリアワイン」と一口にまとめられない、産地ごとの特徴があります。
その気候の違いは、主に外的要因です。
パノニア平原からの暖かい風
「ブルゲンラント」という生産地域は、首都ウィーンから見て南東から南。ハンガリーとの国境沿いに広がります。
栽培面積は約1.2万ha。オーストリア全体のおよそ1/4です。
ここがオーストリアの中で特に赤ワインの産地とされるのは、ここが最も温暖な地域だからです。
ブルゲンラントを温暖にするもの。それはパノニア平原からの暖かく乾いた風です。
パノニア平原はハンガリーやスロヴェニア全域を含む東ヨーロッパの巨大な平原です。
この平原は大きな山脈に囲われた盆地です。同じく盆地である京都や甲府が夏にかなり暑いように、パノニア平原も夏はかなり温暖です。
そこからやってくる風に暖められるので、オーストリアは東へ行くほど気温が高いのです。
なお、京都の冬が厳寒であるように、冬には冷たい風が送られてくるようです。
暖かい地域は赤ワインに向いている?
ワインの生産地域全般で考えて、涼しい地域は白ワインの比率が高く、暖かい地域は赤ワインの生産が多くなる傾向にあります。
白ワインはブドウを搾った果汁のみを発酵させます。それに対して赤ワインは果皮や種も使います。
果皮が未熟ですと濃い色がつかなかったり青い風味が強くなってしまったりします。種が未熟だとタンニンが荒くなります。
だから赤ワインにつかう黒ブドウには、より高い熟度が求められるのです。
ブドウが熟すには温度が必要。暖かい地域が有利というわけです。
もちろん、ブドウ品種によります。ピノ・ノワールを代表に、冷涼な地域でも熟しやすい黒ブドウはたくさんあります。
一方で晩熟、熟すのが遅い品種は温暖な地域でしか栽培できません。オーストリアにおいては「ブラウフレンキッシュ」が代表格です。
オーストリアの赤ワイン、2大品種
オーストリアの赤ワインにおいて、本来の主役は「ツヴァイゲルト」という品種です。
栽培面積は「ブラウフレンキッシュ」の倍以上。
この2つのブドウ品種を比較します。
ツヴァイゲルトについて
ツヴァイゲルトは交配品種であり、ザンクト・ローラン(サン・ローレント)とブラウフレンキッシュのかけ合わせで1922年に開発されました。ザンクト・ローランもオーストリアの土着黒ブドウです。
ブラウフレンキッシュと一番の違いは、オーストリアのワイン生産地域ほぼ全域で栽培ができること。例えばグリューナーフェルトリーナーの産地である北西部の「カンプタル」というところでも、シュロス・ゴベルスブルクという生産者が特筆すべきものをつくっている。そうジャンシス・ロビンソンMWは述べています。
その大きな理由は、成熟が早いとは言わないまでも遅くないこと。だから特別温暖な地域でなくとも栽培しやすいのです。
ワインの特徴としては、オーク樽熟成したもの・しないものともに上質なものが出来上がること。
酸味は高めなものが多く、ボディ感はやや細身。樽熟成していないものは赤しそや梅のようなニュアンスを持ち、少し日本のマスカット・ベーリーAに似ているところもあります。
後に述べるブルゲンラント内の生産「ノイジードラーゼー」でつくられるツヴァイゲルトがこちら。
まさに樽熟成なしでフレッシュに仕上げられています。
お金の取れる品種・取れない品種
商業用に長く栽培されているブドウは、それぞれに何かしらの魅力を持ちます。
1000を大きく超える種類のブドウでワインがつくられている。それがワインの魅力のひとつ。
しかし、いろいろなブドウのワインを飲んでみたいという方でも、お金を掛けたいブドウ品種はわずかではないでしょうか。
自分で1本1万円つかって飲みたいブドウ品種って、片手で数えられるほどではありませんか?
ある意味それが国際品種の条件です。
ピノ・ノワール、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、リースリング、メルロー、ソーヴィニヨン・ブラン。
そこに続くのが、ネッビオーロ、サンジョヴェーゼ、セミヨン・・・そしてひょっとしたらこのブラウフレンキッシュかもしれません。
ブラウフレンキッシュについて
ブラウフレンキッシュはブルゲンラント北部から、そこに隣接するニーダーエスタライヒ東部(ウィーンを取り囲むように広がる生産地域)、つまりオーストリアでも特に温暖な地域で栽培されています。
晩熟、つまり熟すのが遅く畑に対しての要求が多い品種です。その分、タンニン豊かでフルボディのすばらしい熟成ポテンシャルを持ったワインを生みます。
ドイツでは「レンベルガー」、ハンガリーでは「ケークフランコシュ」という名前で呼ばれており、昔から地域に根差していたことが分かります。しかし、ブラウフレンキッシュで高級ワインがつくられているのは、ここブルゲンラントくらいじゃないでしょうか。
ブラウフレンキッシュの最大の魅力は、厚みのある口当たり。「ヴェルヴェットのような」という表現がされる、素晴らしくなめらかで重厚感のある舌ざわりです。
「ヴェルヴェット」がピンとこない方は、小中学校の体育館にあったステージ脇の緞帳・カーテンを思い浮かべてください。くるまれて遊んだあの高級感のある布がヴェルヴェットです。
そのブラウフレンキッシュの生産者としてジャンシス・ロビンソンの『The Grapes』で真っ先に名前が挙がるのが、「モリッツ」です。
目指したのは類まれなるエレガンス「モリッツ」
モリッツ醸造所のオーナー兼醸造家「ローラント・フェリッヒ」氏。もともとワイナリーの生まれで、フェリッヒ醸造所にて弟とワインをつくっていたといいます。
その時の主力商品は樽熟成したシャルドネと貴腐ワイン。
彼は考えました。このままでいいのか。ブルゴーニュやカリフォルニアの下位互換となるようなシャルドネ、中途半端な貴腐ワインをつくり続けていていいのか。
ブルゴーニュや北ローヌの有名生産者のもとで修業し、決心します。
「どこかのワインの模倣ではだめだ。世界に誇れるオーストリアの赤ワインをつくろう」
そう志して故郷ブルゲンラントに戻ったのです。
料理に寄り添う彼のワイン、その評判は・・・
2001年に独立した彼は、地元の農家に交渉して古い樹の植わった区画を譲りうけていきます。
この地の誇りであるブラウフレンキッシュで彼がつくりたかったのは、料理に寄り添うワインでした。
先述の通り、ここの温暖な気候ゆえにブラウフレンキッシュはフルボディのワインになりやすい品種です。
しかしあえて彼はアルコール度数を抑えたワインをつくります。タンニンの抽出も穏やか。
それは素材を活かした料理に寄り添うような、エレガントなワインをつくりたかったからです。
そうしてリリースした彼のファーストヴィンテージ。
フルボディの赤ワイン中心のオーストリア市場にて"大不評”だったといいます。
世界が認めたモリッツの味わい
普通なら消費者の評判を聞いて、方針転換も考えるもの。
しかし彼は自身の哲学を貫きます。国内で評価されないならと、市場を世界に求めたのです。
普通に考えたら、国内市場で評価されないものが世界で通用するはずはありません。
しかし現実にモリッツのワインは、世界中のワイン通を魅了していきました。
その理由の一つは、消費者の嗜好がアルコールの高いビッグなワインから、上品で繊細なものにシフトしていったこと。
そしてそれ以上に、モリッツのワインがその土地の味わいであったから。他の地域・他の品種では表現できない味わいだったからでしょう。
その基本となるのがこのワイン。「ブルゲンラント」の地域名を冠したブラウフレンキッシュです。
そのために彼がとった手法は"地に足の着いた"自然なワインづくりでした。
しかし彼は、よく耳にする「自然派ワイン」の生産者と一緒にされるのを嫌がります。
その考えを理解するには、まずこの土地の歴史について知る必要があります。
時代に翻弄されたブルゲンラント
この地のワインづくりは3000年前、ケルトの時代から続いているといいます。
温暖でブドウが熟しやすいというのは、以前は今にも増して価値が高かったはず。18世紀にかけて発展をつづけます。
この時代には世界で最も高価に取引されるワインの一つだったそうなのです。
しかしながら、この地域は戦争に翻弄されます。ノイジードラーゼーの南にあるショップロン(ドイツ名オーデンブルク)の支配権は幾度も変わり、第一次、第二次世界大戦と資本主義・共産主義の対立構造のなかで分断されます。それはワインの文化も破壊してしまったのです。
ローランとさんは、「人の文化がワインを生み出す」という考えを持っています。だからこそ、一度は失われてしまったショップロン周辺のワインを、21世紀に蘇らせたいと考えたのです。
彼の哲学が表れた「スーパーナチュラル」
ワインの基本はもちろん自然。 しかしワインは文化が生み出したものだ。人類が発展させてきたものだ。 自然から恩恵を受けるように働きかけるが、文化や歴史、作り手の哲学が反映されているものだ。
ローランとさんは語ります。
最近の自然派ワインブームは行き過ぎている。「亜硫酸を少なくする」「培養酵母を使わない」そういったメソッドの組み合わせが自然なワインづくりではないんだと。
誇張されすぎている。わざとらしすぎるものがある。
そのメッセージを皮肉も込めて表しているのがこの白ワイン。その名も「スーパーナチュラル」。
「ナチュラルワインを超えている、別物だ」そう主張しているかのようです。
この地に根差した文化のあらわれがモリッツのワイン
化学肥料も除草剤も使わずに育てたブドウを、自然酵母で亜硫酸以外何も加えずにつくっている。
それだけ聞くと、先述の「自然派ワイン」の生産者と同じことです。
しかしその背景には文化がある。昔ながらのこの土地の味わいを生み出すため、伝統的な手法をとるんだという、地に足のついた根拠がある。
それがモリッツのワインを"この土地だけのもの"としているのでしょう。
同じようにブラウフレンキッシュを適した気候で自然派の方法でつくっても、モリッツのワインにはならない。だって土地が違えば文化が違うから。
当店で販売している中では、この「レゼルヴ」が最上級。これでも十分、手を出すのをためらう価格帯です。
しかし単一畑からつくられるモリッツの上級クラスは2万円をつけます。
自分のワインはワールドクラス。ブルゴーニュの1級畑のピノ・ノワールや、ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンと比べて見劣りするものではない。
その自信の現れです。
見逃せない甘口ワインの産地
ブルゲンラントは赤ワインの産地であると同時に、貴腐ブドウからつくる極甘口のデザートワインの産地でもあります。
ハンガリー国境も横断する「ノイジードル」湖。ドイツ語で「ゼー」が「湖」なので、「ノイジードラーゼー」と表記されることもあります。
この湖がもたらす霧が貴腐ブドウを育むのです。
ノイジードラーゼー
ノイジードラーゼーはなかなか大きな湖です。その面積は315㎢なので、琵琶湖のおよそ半分。
南北36km、東西6~12kmも大きさがあるのに、水深が非常に浅く、深いところでも1.8mほどしかありません。
(最初見た時は誤植かと疑ったほどです)
自然環境とその周辺の農業景観、独特の文化景観が評価され、2001年にはユネスコの世界文化遺産に登録されました。
条件がかみ合って初めて生まれる貴腐ワイン
ボトリティス・シネリアという貴腐菌によって干しブドウ状になった貴腐ブドウから、極甘口のデザートワインがつくられます。
それは奇跡のように条件がかみ合ったときのみです。
まず、完熟したブドウに貴腐菌がつかなければいけません。早くても遅くてもダメ。単にブドウにカビが生えるだけです。
夜から朝にかけて霧が発生する地域で貴腐菌がつきやすいのですが、日中は晴れてくれないと困ります。貴腐菌はブドウの皮に穴を開けます。そこから水分が蒸発しブドウが萎んで果汁が凝縮されるのに、太陽の力が必要なのです。
だから収穫期が乾燥し過ぎても菌がつかないし、雨が多くても望ましくない腐敗が広がります。
そんな不安定な貴腐ワインの生産に、あえて特化しているのが「クラッハー」という生産者です。
クラッハー 甘口ワインのトップ生産者
ノイジードラーゼーの地域に32haの畑を持つのがクラッハー。
イギリスである世界最大規模のワインコンクール「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で「Sweet Wine Maker of the Year」を受賞した経歴を持ちます。
シャルドネやウェルシュリースリング、ツヴァイゲルトとなかなか珍しいブドウから貴腐の甘口ワインをつくっているのが特徴です。
この2本の糖度は100g/L前後。コカ・コーラと同じくらいです。
こちらは約170g/Lなので、貴腐ワインらしい濃厚な甘味。
試して見やすい1/4サイズのボトル。甘味は約190g/Lとヤクルト並みです。
ノイジードラーゼーの貴腐ワインは、「世界三大貴腐ワイン」には数えられません。「ソーテルヌ」などに比べて知名度は圧倒的に劣ります。
しかしその分、価格が高すぎないのが嬉しいところ。
温暖な地域だけあり甘口ワインとしては酸度は低めであり、まったり濃厚な甘味が楽しめます。
赤ワインと甘口ワインの産地、ブルゲンラント
オーストリアでいい赤ワインを探すなら、ブルゲンラント。特にモリッツがつくるブラウフレンキッシュを検討すべきです。
ならこう考えるのでは?
別にわざわざオーストリアで赤ワインを探さなくても。5000円出すなら美味しい赤ワインは世界中にあるよ
それは否定できません。
でもどうせワインを楽しむなら、いろいろな「美味しい」を知っていた方が、人生豊かになるんじゃないでしょうか。
ピノ・ノワールと比べて、しなやかな口当たりの厚みにより魅力がある。
カベルネ・ソーヴィニヨンと比べて、より食事に寄り添うエレガンスがある。
ブラウフレンキッシュは決して国際品種の下位互換ではありません。
替えの効かないオンリーワンのプレミアムワインは、あなたの「ちょっといいワイン」にアクセントを加えてくれるはずです。