あなたは「お気に入り」と言えるワインの生産者はいますか?
飲んで美味しかったワインや家飲みの定番となる銘柄はあっても、どんな人が作っているのかまで意識を向けることは少ないでしょう。
ひょっとしたらそれは、ワイナリーの規模が大きくて作っている”人”が気にならないのかも。
作り手の顔が見える小さなワイナリーから、「ヴィンテージごとに毎年飲みたい!」と言えるようなお気に入りの生産者を見つけてみましょう。
大規模になると人が見えない
チェーンのファミリーレストランに入ったとき、「この料理はどんな人がつくっているのかな?」と意識する人は稀でしょう。
市販されているビールを飲むとき、メーカーや銘柄にはこだわりがあっても、その味を決めている人について考えることはまずないはず。
チェーンのレストランだってキッチンで調理している人はいるわけですし、セントラルキッチンでつくっている人も、本部でそのレシピを決めている人もいます。
でもその人について知りたいとは思わない。規模が大きすぎて、一人の”人”の影響が小さいからです。
ワインについても同じようなことが言えます。
大規模なワイナリーの役割分担
ワインの味を決めることにおいて、最も重要な役割を果たす人が、「醸造家」「ワインメーカー」です。
しかし大規模なワイナリーにおいては、「この美味しいワインがつくられるのは、彼のおかげだ」とは決してなりません。
年間何百万本何千万本とつくる大規模ワイナリーでは、専門性を持ったスタッフが各分野を担当します。
栽培チーム、醸造チーム、マーケティング、経理、人事・・・・
醸造家も一人ではなく、何人もがチームを組んで分担し、その上にチーフワインメーカーがいます。
ブドウは契約農家から購入したもの、という場合も少なくありません。
時に本当に誰がつくっているのかわからない場合も
例えばナパ・ヴァレーのダックホーングループのように、大規模でも誰がこのブランドを担当しているのかハッキリしている場合もあります。
一方で、調べてもワインメーカーどころかワイナリーの所在地すらよくわからないワインもあります。
それは別にいい加減に作っている安かろう悪かろうのワインだけではありません。安くて美味しいと多くの方が飲んでいるワインの中にもあります。
例えばイーターというブランド。
手ごろなナパ・ヴァレーのカベルネとして、当店で人気のワインです。
ところがこのワインも、調べたところでどんな人がつくっているのかわかりません。
それもそのはず。委託を受けてこのワインをつくっているのが、カモミだからです。
(これって書いていいんでしたっけ?)
※飲み比べれば共通点はありますが、同じワインというわけではありません。
作り手の見えないPBワイン
これはいわゆる大手スーパーのPB(プライベートブランド)商品のようなもの。
スーパーに行くと、「MaxValu」ブランドや「LIFE SELECT」などのPB商品が並んでいます。
そしてたいていは、似たような他のブランド商品よりちょっとだけ安い。
これらは大手スーパーなどの委託を受けて、様々なメーカーが自社ブランドを出さずにつくっているもの。
製造から流通までの中間コストを省いて、コストダウンを図っているのです。
例えばモントレーに本拠地を置くシャイド・ヴィンヤーズは、2000haもの自社畑を持っているそうです。
それだけの畑があれば、生産本数は膨大なもの。しかし、本国のHPを見ても、そう多くのラインナップを持つわけではありません。
ここも、多くの委託醸造ワインをつくっているのです。
作り手の見えないワインは、安くて美味しい
こういった裏事情を知って「そうなんだ!飲んでみたい!」とワクワクは、しないんじゃないでしょうか。
でも決して悪いことじゃないんです。
端的に言って、作り手の見えないワインは、安くて美味しいです。
当店のワインの売上本数でランキングをつくれば、上位のワインはもうほとんどが醸造家のよくわからないワインです。
初期投資が抑えられるので、コンセプトに沿った手ごろで良質なワインがつくれるのです。
残りも購入したブドウで大規模に生産しているワイナリーです。
スケールメリットによりコストダウンがはかれる大規模ワイナリーは、値段の割に品質が高いのです。
ワインを選ぶうえでコストパフォーマンスは非常に重要です。
当店も仕入れを決める際に、「この味はこの価格に見合っているかどうか」については真剣に検討します。
結果として、今回ご紹介するような”安いとは言えないが高くない”価格帯においては、小規模な生産者はそう多く扱っておりません。
生産規模からワイナリーの収入を推測する
先ほどまで小規模ワイナリー、大規模ワイナリーという言葉を使っておりましたが、厳密な定義があるわけではありません。
「畑を〇ha以上持ってたら中規模」だったり、「年産〇本以下は小規模」なんて決まりはないのです。
今回の特集では小規模ワイナリーについて次のように定義しました。
・ドメーヌなら所有面積10ha以下
・ネゴシアンなら年産10万本以下
(ドメーヌとは自社畑を所有しそこからワインをつくる生産者のブルゴーニュなどでの通称。ネゴシアンは購入したブドウからつくる)
これくらいの生産規模があれば、どれくらいの収入になるのでしょうか。
生産量の計算
ワインの品質を決める上で重要なのが、単位面積あたりの収量です。
1haの畑から、何リットルのワインがつくれるのか。〇〇hl/haと表します。
(ヘクトリットル パー ヘクタール ヘクトリットルは100リットル)
例えばブルゴーニュのグラン・クリュなら35hl/ha以下というような収量制限が法律で決まっています。
冬の剪定や夏のグリーンハーベスト(間引き)で収量制限を行うことで、ブドウに栄養が集中して凝縮感のあるワインが生まれます。その分、収穫量が減ってしまうので、ワインの価格を上げる必要があります。
ここでは仮に75hl/haとして計算します。(簡単にするため)
詳しくは私も知りませんが、日本で2,3千円台で市販されるワインの収量としてそう的外れではないはずです。
10haの畑を持つなら、年間750hlのワインをつくることができるので、750ml換算で年産10万本という数字になります。
ワイナリーを出るときの価格が1本あたり500円なら、年商5000万円。1000円なら年商1億円という計算です。
ワインをつくるための費用
ここからワインをつくり販売するための費用が引かれていきます。
直接的なところですと、ワインのガラス瓶やコルク、エチケットのコスト。オーク樽熟成を行うならその購入費。ブドウを購入してつくる生産者なら、その購入費が材料費です。
自社畑ならブドウの購入費はかかりませんが、管理のために人を雇えば人件費、そうでなくとも固定資産税はかかります。
10haの畑の管理を家族だけで賄うのは、無理ではないが難しいといったくらいでしょうか。産地の環境によって管理の手間は大きく違いますので、一概には言えません。
年間を通しての人件費もそうですが、収穫のための人件費もバカになりません。数日間だけの季節労働者の確保は、どこでも悩みの種です。
農作業の機械や醸造設備を購入、ないし修理する費用も必要です。
海外へ輸出するとなると、販促費用なしに売れるワインなどそうそうありません。
銀行から借り入れして設立したワイナリーなら、その返済も必要でしょう。
つくったワインが仮にすべて順調に出荷できたとしても、これだけの費用はかかってくるのです。
ワインを販売するための費用
ワインはワイナリーを出た金額のままお客様の手元に届くわけではありません。
生産国内でワインをとりまとめ、コンテナを単位になるように調整する輸出業者。
海外から美味しいワインを見つけて来て、それを日本に紹介する輸入元。
そして輸入元から仕入れたワインを、お客様に販売したりレストランに卸したりする酒屋。
外で飲むのなら、ワインを仕入れて提供するレストラン。
これらの中間業者がいて、初めてそのワインに出会って飲めるのです。
そして中間業者の数だけ費用がかかります。
この費用を考えると、我々が購入しているワインの金額に対して、生産者が手にする金額は小さなものです。
小規模ワイナリーの魅力
何かをつくることにおいて、基本的に効率を考えるなら大量生産です。
スケールメリットを享受することで、価格の割に質の高いものが提供できます。
その点で、小規模ワイナリーは決して優れていません。
なるべく値ごろ感のあるものを厳選して紹介はしますが、それでも同等品質でもっと安いワインはあります。
それでもおすすめする理由である、小規模ワイナリーの魅力。
それは顔の見える生産者は愛着を持ちやすいという点に尽きます。
小規模な飲食店の魅力
サイゼリヤや鳥貴族、かつや・・・
勢いのある飲食チェーンのコストパフォーマンスは、信じられないなと常々感じます。
でも「お気に入りの飲食店ってどこ?」と聞かれて答えるお店って、そういう大規模チェーンより、個人経営の小さなお店じゃないでしょうか?
コスパだけならチェーン店にかなわない。でも、オーナーさんのセンスや大切にしているものがお店作りに現れていて、オリジナリティーを感じる。
空間と時間に店主の人柄が現れている。
万人受けを狙うのではなく、自分と感覚の似た人にだけ評価してもらって通ってもらえればいい。
そんなお店だからこそ、気に入ったらまた行きたくなるし、人に紹介するし、愛着も沸くというもの。
ワインもそうだと思います。
顔の見えるワイン
先述のように、大規模なワイナリーだと「この人がつくった」というのはさして重要ではありません。
しかし小規模なワイナリーなら、どんな人が作ったか、すぐ写真が出てきます。
その生産者が、どんなことを大切にし、どんな思いでワインをつくっているのか。一生懸命伝えようとされている輸入元さんもたくさんあります。
どんな人がつくったものか日本にいながら知ることができるのです。
さらに今の時代、SNSと機械翻訳を駆使すれば、地球の反対側のワイン生産者がどんな人かを知るのは、そう難しくありません。
追いかけたくなるお気に入りのワイナリー
大規模なワイナリーなら、醸造家は醸造大学を出た人が雇われて務めている場合が多いでしょう。
だから醸造家が変って味わいが変ったということも、度々あります。
しかし家族経営の小規模ワイナリーなら、父ちゃん・母ちゃんから娘・息子にバトンが渡されていくだけ。
代替わりで味が変わる例はありますが、何十年単位のことです。
そしてワインをつくる上での哲学・大切にしているものは、受け継がれていくもの。
だから一度お気に入りを見つけたなら、来年も再来年もきっとあなたを満足させてくれるはずです。
小規模ワイナリーがつくる8本のワイン
小さければ愛着がわくというものではないでしょう。まず大事なのはワインが美味しいこと。それがスタート。
普段ご自身がよく飲むブドウ品種や地域のワインからで結構です。ちょっとだけ割高なのを、「小さいところなんだから、ちょっと応援してやるか」くらいの気概で試してみてください。
そしてもしお口に合ったら、ぜひこの特集ページに戻ってきていただき、「どんな顔の人が作っているんだろう?ほかにどんなワインがあるのかな?」っていうのを気にしてみてください。
ワイナリーは次世代の遊び場♪
《年間生産量:約3万本》
ワイナリーの家に生まれながらそこを飛び出して独立し、小さなワイナリーを営むヨハン・クルーガー氏。きっとその情熱は、シャルドネ、ピノ・ノワールといったブルゴーニュ品種に向けられているのでしょう。プラッター5つ星がその品質の証です!
南アフリカと聞くと暑い地域というイメージがあるかもしれませんが、冷たい海からの影響を受け、ブルゴーニュ品種に向いた冷涼な畑もたくさんあります。
カリフォルニアやブルゴーニュで経験を積んで帰国したヨハン氏が得意とするのがまさにそれらの品種。ブドウは様々な地域から購入しそれぞれでワインに仕上げています。だから何種類ものピノ・ノワールは全て違う個性を持っています。
今は非常に小さな生産規模ですが、次世代がワインをつくりはじめるころにはワイナリーはもっと大きくなっていることでしょう。
日本のためにつくってくれるチャコリ♪
《所有畑面積:7ha弱》
小さな生産者は小回りが利くのも魅力!この「ピルピル」は輸入元さんからの要望で、この地域には珍しい天然微発泡タイプに仕上げていくれているといいます。この地域伝統のクジラ漁を描いたラベルがかわいい、食欲を刺激するようなワインで大人気です!
「チャコリ」というのは、スペインのバスク地方で名産のワインのこと。赤白ロゼスパークリングいろいろありますが、典型的なチャコリのイメージと言えば白の微発泡タイプ。エチケットも特別なもので用意してくれました。
さほど大きくない規模ゆえ小回りが利くのか、最近は甘口をつくったりジンやベルモットをつくったりと様々なチャレンジをしています。
4代続く苗木屋からワインづくりに
《所有畑面積:10ha》
「ヴァンダンジュ=収穫」という、まさにブドウ栽培を宿命づけられたような家系。バンジャマンとディアーヌ夫妻の代になってから2015年にワインづくりを始めたばかり。にも関わらず美味しいのは、苗木屋としてブドウの樹を知り尽くしているからでしょう。
ワインづくりを始めたばかりでいいものがつくれるのか?と疑問に思われるかもしれません。
実はバンジャマンはシャンパンの「クリスタル」で有名な「ルイ・ロデレール」グループで醸造の経験を積んでいますし、妻のディアーヌは国家資格である醸造技師・エノログの資格持ち。こりゃ安心だ。
フランスにおいてサスティナブル農法の非常に厳しい認証であるHVEに基づいた栽培を行っています。
少ない生産量ゆえに消費は地元のレストランが中心。輸出されるのはわずか5%です。
わずか4樽のワインからスタート
《年間生産量:約1.8万本》
ワインメーカーとして他のワイナリーで働く傍らに、特定のブドウ農家とコラボレーションしたワインをつくるジュリアン・ブローデンさん。師から「小さな規模から始めなさい」とさとされた通り4樽からスタートしたワインづくりは、今新しい風となっています。
彼女は自社畑は持たず、ニュージーランドのホークス・ベイにある農家とコラボレーションしてワインをつくるスタイル。
そのワインを彩るエチケットは、ナパ・ヴァレーのアーティスト、アンジェラ・ティレル氏の作品です。ジュリアンさんがナパで働いていたころ、彼女から部屋を借りていた経緯でコラボレーションが実現しました。
この生産規模でやっていけるのは、彼女自身が別のワイナリーと兼業だから。
本国の他に彼女のワインを飲めるのは、フランス、シンガポールと日本だけです。
愛する故郷でワインも人ものびのびと♪
《所有畑面積:9ha》
非常に歴史の長いワインであり、イタリアの人々の生活に溶け込んだ白ワイン「ソアーヴェ」。もともと格式ばったワインではありませんが、特にバッティステッレのワインからは、のびのびとした印象を感じます。
ジェルミーノとクリスティーナ・ダルボスコ夫妻が営むワイナリーは、もともとブドウ栽培のみだったところから2002年にワインづくりをはじめました。
緑豊かな傾斜面の畑は、日本で食用ブドウを栽培しているような背の高い仕立てがなされています。
収穫量が増えやすい栽培法もあってでしょうか。ガルガネーガの房はこんなに大きくなるようで、小さなワイナリーとしては非常にリーズナブルな価格が嬉しいところです。
The癒し系!近所へはこの自転車で配達します♪
《畑面積:9ha、年産:5.5万本》
自然の中でのワインづくり。それを象徴するかのようなアネ・トラウトワインさんの暮らしには、日本の都会とは違った時間が流れているかのようです。ほんわかした彼女の人柄を反映するかのような、優しい味わいのワインで癒されてください。
彼女のこの雰囲気ゆえに、「田舎っぽくてあか抜けない味わいなのかな」と侮ることなかれ。
ワイナリーはなんと1649年から続く超老舗。さらにアネさんは、ブルゴーニュのメオ・カミュゼやルフレーヴで研修した経験を持ちます。
先代のとき、ドイツとしてはかなり早い段階でビオディナミ農法を採用。その「子供たちが安心して暮らせる社会をつくるために」と想いはしかと受け継がれています。
代々受け継ぐ畑は、子供のころからの遊び場!
《所有畑面積:5ha》
現在7代目の女性当主としてドメーヌを引っ張るモウド・プレネールさん。彼女は子供のころからブドウ畑で遊んで過ごし、ブドウの樹はもはや家族!今は8代目の遊び場です。畑を知り尽くした彼女のブドウ、そりゃあいいシャンパンになるというもの!
「私たちのブドウの木は、家族の一員のように、欠点もあれば資質もあり、個性的です。繊細な人を怒らせないよう、高慢な人に媚びないよう、気を配っています。」
「私たちは弱いものを甘やかし、勇者を祝福します。ブドウ畑を回るときは、すべての畑を回るんです。どの畑も怒らせないようにね。」
まさにブドウの樹とともに育っているがゆえに出てくる言葉ではないでしょうか。
「知る人ぞ知る」お気に入りがあってこそワイン好き
誰もが知っている有名なワインを飲む。その楽しみ方を否定するつもりはありません。多くの人が認める高品質なワインだから、ワイン好きなら皆が知っているようになっていくのです。
そりゃあそんなワインの方が、ハズレがありません。
その点、小規模生産者の初めて目にするワインを買って飲むのは、勇気が要るでしょう。レビューを参考にしようにも見当たらない。
けれど「知る人ぞ知る」状態なのは、無名なのはワインが美味しくないからではありません。
小規模ゆえにプロモーション費用が出せない、地元消費用くらいの数しかつくってない、まだワイナリー設立から間もない・・・
そんな知る人ぞ知るワインの中から美味しいワインをつくる生産者を見つけられたら、嬉しくなりませんか?
ワイン好きが集まる場に持って行っても、「美味しい!こんなワインあったんだ!」となるんです。
小規模ワイナリーのお気に入りを見つける喜びは、隠れ家的なレストランを見つけたときの嬉しさに似ているかもしれません。
誰に勧めても間違いない私のお気に入りワイン。どうせならほとんどの人が知らない小さな生産者から見つけちゃいましょう。