ブドウ品種の特性が、ワインの味わいにきちんとソフトタッチに表現されている。
ビオディナミ栽培でヴィーガンフレンドリーにワインをつくるロングリッジは、決して手法優先ではありません。
自然を大切に・何も加えずにという理想と、飲み手に喜ばれる味わいを見事に両立しています。
それぞれに飲むべき理由のあるワインと、そのワインに込められた想いをご紹介します。
ロングリッジのあるところ
南アフリカのステレンボッシュ。
その南側、ヘルダーバーグ山脈が東側に走る斜面に、ロングリッジの美しいヴィンヤードはあります。
ロングリッジの小高い丘からは、遠くテーブルマウンテンやフォールス湾を見下ろすことができます。
海から8kmほどと近いため、冷たい風の影響を受けて他のステレンボッシュ地区よりも2~3℃ほど気温が低いのが特徴です。
花崗岩質の土壌の下には粘土質土壌があり、しっかり水分を蓄えます。
降水量は800mmほどと多くはありません。
しかしその保水性により、地中深くまで根を伸ばしたブドウは、十分な水分を確保できます。
ロングリッジでは、基本は無灌漑(かんがい:水やりのこと)で栽培していますが、必要な年は灌漑する用意もあるそうです。
ロングリッジの目指すもの
人も環境も健康に。
そしてワインには余計なものを一切加えたくない。
その想いでロングリッジではビオディナミを実践しています。
南アフリカの国土の多くを、自然公園が占めています。
自然公園に認定する意義は、そこの動植物を開発から保護すること。
それもあってか南アフリカの生産者は、オーガニック栽培を含めたサスティナビリティーや環境保護に対する意識が非常に高い。
醸造責任者であるジャスパー・ラーツ曰く、180年ほどの歴史のあるロングリッジは、ビオディナミの農法により更に200年を超えて農業を実践できるといいます。
(今回の訪問では、ジャスパーさん体調不良のためお会いできませんでした。)
ビオディナミとはオーガニックをさらに進めた農法。
農薬などの使用はオーガニックの規定よりさらに厳しく、除草剤や化学肥料は当然使いません。
最大の特徴は栽培における作業の日程を、月の満ち欠けを考慮したカレンダーに従うこと。
月の引力は植物の成長サイクルに影響するから、施肥や剪定などのタイミングにもそれに合わせてやるべきだ、との考えです。
そのほか、プレパラートと呼ばれる調剤を畑にまきます。
代表的なものは牛糞を雄牛の角に詰めて半年地中で保管したものなど。
根底には、ブドウ畑とその周りの環境をひとつの生態系と捉え、その中での動植物の循環を重視します。
例えばアルザスやロワール、オーストリアなどのビオディナミが盛んな地では、プレパラートは自身で作らずとも購入することができます。
ロングリッジではプレパラート調剤の調合まで自社で行い、ロングリッジという美しい生態系をつくりあげているのです。
そこまでやっているところは、ビオディナミの生産者の中でも多くはありません。
(今回訪問した生産者では、デヴィッド・ナディアがビオディナミに移行中です。)
どうしてロングリッジでビオディナミを実践するのか。
ロングリッジではワインをつくる際、余計なものは一切加えません。
自然酵母で発酵を行い、無濾過・無清澄、最低限の亜硫酸のみです。
そういったワインづくりをすることで、南ステレンボッシュのテロワールが最も表現されると考えているのです。
ロングリッジ広報のノア・ハドソンさんに語ってもらいましょう。
そのために必要なものは、完璧に健全なブドウと完璧な衛生管理です。
より質の高いブドウを得るためのビオディナミ農法なのです。
「ビオワインは臭い、変な香りがする」
15年ほど前の自然派ワイン黎明期には、多くの不衛生でひどい臭いのワインが売られていました。
また、一部にはそのような香りこそいいんだという方もいます。
そのころの「ビオワイン」のイメージで敬遠される方がいるのもよくわかります。
しかしロングリッジに関しては、その心配は全く不要。
品種とテロワールを反映した素直な香りです。
彼らの素晴らしいワインづくりは、プラッター誌にて最高評価をつけたキャシー・ヴァンジルMWが保証しています。
ロングリッジのワイン
ロングリッジのレストランにて、料理と合わせながら当店未入荷・日本未入荷のものも含め13種類のワインをテイスティングしました。
価格も含めて特に良かったものを抜粋してご紹介します。
エミリー
スパークリングワインと同じように、2週間ほど早く収穫したブドウを使ってつくられるキュベ、エミリー。
シャルドネにわずかにピノ・ノワールをブレンド。
発酵はコンクリートエッグタンクで行い、そのままシュール・リー。
味わいはいわば泡のないスパークリングワイン。
フレッシュなレモンのような爽やかな風味が特徴です。
エミリーは女性の名前。
1899年、イギリスとオランダが南アフリカの領有を争った戦争がありました。
その際、イギリス人でありながら敵軍オランダの兵士も分け隔てなく治療し、多くの命を救いました。
戦後、その功績が湛えられて表彰されました。
偉大な彼女の名前が付けられた白ワインです。
残糖度が4.5g/l。
ほんの少しロゼワインのニュアンスも感じる、繊細で不思議な白ワインです。
その繊細さが、意外やピリッとスパイシーな料理に合う。
似た料理を食べた経験がなく説明が難しいのですが、細く切ったキムチの上にローストしたカリフラワーをのせたこの料理に素晴らしく合いました。
ソーヴィニヨン・ブラン 2016
ココス未入荷 検討中・・・
一風変わったこのソーヴィニヨン・ブラン。
ステンレスタンク発酵・熟成のものが多いソーヴィニヨン・ブランですが、これはオーク樽で発酵・熟成したものをメインに用い、コンクリート製の卵型タンクで熟成したものを少量ブレンド。
ソーヴィニヨン・ブランの特徴香、柑橘類やハーブ、青草のフレッシュな香りはなく、控えめな香りにややオイリーな口当たり。
オークの風味もほぼ感じないので、幅広い料理に合うでしょう。
ヴィンテージは2016年、4年経っているのですがまだまだフレッシュ。
醸造の段階で程よく酸素との接触があるので、瓶詰後の変化も安定してくっくりとしたものとなるのでしょう。
これからようやく熟成の段階に入っていくところです。
エンドウ豆のソースを添えたキノコのバターソテーに素晴らしくマッチしました。
ロングリッジ シャルドネ 2017
ロングリッジ所有の畑で最大面積を誇るのがこのシャルドネ。
土壌は花崗岩なので、ライムのような風味とミネラル感を感じます。
オーク樽の熟成も行っていますが、その割合は年々減らしているのだとか。
味わいを程よくサポートする程度にとどめています。
近年のワインの流行は、オーク樽の風味を抑えて酸味を活かし、上品で料理と合わせやすいスタイルです。
ロングリッジも消費者の好みの変化に対応していっているということです。
このシャルドネがまた絶妙なバランス。
舌で感じる味わいのボリュームがしっかりしているので、バターを使ったきのこ料理は素晴らしく、またご家庭でも用意しやすいでしょう。
ロングリッジ ピノタージュ 2018
個人的に、今回のワイナリーツアーで最も気に入ったピノタージュがこちら。
果実の風味はしっかり熟しており酸味は穏やか。
しかし口当たりは非常に柔らかくしなやかで軽やか。
特に意識せずに飲めば、いわゆる「イージーなワイン」と言えるでしょう。
しかしよくよく味わうならこのバランスを実現する困難さがわかるはず。
暖かい地方のピノ・ノワールのようでもありながら、余韻が非常に上品で、気付けばグラスが空になっているでしょう。
キュベ リカ ピノ ノワール 2017
『リカ』というのはワインメーカーであるジャスパーさんのお母さんの名前。
南アフリカではポピュラーな名前だそうです。
ロングリッジがあるのはステレンボッシュの南部ですが、このピノ・ノワールだけはお隣の産地エルギン産のブドウを持ってきています。
黒系果実の密度のある香りがあり、非常にレベルが高い。
手ごろに果実味豊かなピノ・ノワールを探すなら、カリフォルニアのものに先んじておすすめしたいワイン。
当店でも人気ですが、輸入元様からもものすごくよく売れているそうです。
ロングリッジ カベルネ ソーヴィニヨン 2017
フレッシュでピュアな果実感がから、目を閉じればロングリッジの開けた景色が思い浮かぶような赤ワイン。
ステンレスタンク発酵、オーク樽熟成なのですが、ラステンバーグよりはタンニンが落ち着いていて、優しくエレガントな味わいです。
さほどガツンと濃いわけではありません。
これが意外とボルドーにもカリフォルニアにもないスタイル。
ボルドーでこれくらいの価格・凝縮感だと若いうちはもっとタンニンがとげとげしいか、酸味が強いもの。
カリフォルニアのものなら口当たりはもっとなめらかで厚みがあるのでしょうが、それだけ平坦でべたっとした印象になりがち。
この絶妙なバランスは、ステレンボッシュのなかでも海に近いやや冷涼な気候、それからほぼ無灌漑による栽培がもたらすものでしょう。
テーブルマウンテン山脈の稜線に沈む夕日のごとく美しい、ロングリッジのワイン。
ワインを飲む際に、輝くように美しいヴィンヤードを思い浮かべて頂けたら幸いです。