「古いワインほど価値がある」というのはよくある誤解。飲んでがっかりした経験もあるのでは?
ワインは時間とともに風味を変えますが、美味しくなるかどうかはワインと期間と飲み手によります。
最後は好き嫌いなので、熟成した風味を持つワインをまず飲んでみるのが手っ取り早い。
5000円以下で味わえるちょっと熟成したワインと、注意したい味わい方をご紹介します。
※ご紹介するワインは次回ヴィンテージ入荷の予定がないものがほとんどです。終売の際はご了承ください。
古酒が高価な理由とは
「芸能人格付けチェック」のようなテレビ番組には、1本が100万円もするようなとても高価なワインが登場します。
2024年に放送された回では、「ル・パン 1995」が登場しました。29年も前のフランス、ボルドー産赤ワインです。過去にはもっと古いワインが登場したことも。
2017年なら当店にもあります。
一般論として、値段はその商品の価値を表す最も分かりやすい指標です。
それもあって「ワインは古いほど価値がある」「古いワインの方が美味しい」ように考えられがち。しかしそれはワインによくある誤解です。
「熟成」の意味はそもそも・・・
「ワインを熟成させる」「熟成したワイン」という言葉をよく目にします。
そもそも熟成とは、その食べ物・飲み物を保管することで好ましい変化が生じることを言います。つまり美味しくなったら「熟成」、不味くなったら「劣化」です。
だから「熟成」と「劣化」の境界線は非常にあいまいで、主観に左右されるものです。
そしてワインを保管しても必ずしも「熟成」するわけではありません。むしろ全体の割合としては「劣化」するものが多いです。
熟成ポテンシャルのあるワイン
数年~数十年保管することで風味が向上すると『予想される』ワイン。それを「熟成ポテンシャルがある」と言います。それは現在の味わいから飲み手の経験に基づいて判断することです。熟成して美味しくなったワインを飲んだことがないと、判断できることではありません。まだタイムマシンは発明されてないのですから。
古くなったときワインとして価値があるのは、相応の熟成ポテンシャルがあるワインのみです。ワインの第一の価値は美味しいお酒であることですから、時間を経て美味しくなっている、美味しさを保っていると予想される。だから古いワインに価値があると考え、高い値段がつくのです。
先ほどの「ル・パン 1995」は29年熟成するポテンシャルがあります。むしろもっと美味しくなっていく可能性があります。
だから発売当時の値段よりもずっと値上がりして、100万円という値段がつくのです。
熟成しないが美味しいワイン
誤解しないでいただきたいのは、「熟成ポテンシャル」というのはワインの性質の一つだということ。
ワイン評論家がつけるポイントなら熟成ポテンシャルが高い方が有利ですが、熟成ポテンシャルがなくても良質なワインはいくらでもあります。
たとえばニュージーランドのマールボロ産ソーヴィニヨン・ブランのスタイルがそれです。
青草やグレープフルーツ、パッションフルーツなどのアロマが豊かに香り、スッキリとフレッシュな味わい。その魅力は新しいワインの方がより顕著に感じられます。だから一般に新しい方が美味しい。
一般的に高価なワインほど熟成ポテンシャルがありますが、それも絶対ではありません。
熟成を美味しいと感じるかどうかは別問題
「熟成」か「劣化」かは「美味しさ」という主観的なもので判断される以上、どうしても飲み手の好みの差があります。
専門家が「熟成して飲み頃だ!」と価値を感じたワインが、あなたの口にあうとは限らない。だから「芸能人格付けチェック」が盛り上がるんです。
「ポテンシャルのあるワインは熟成して美味しくなる」というのは正確ではありません。
「ワインは保管期間で風味を変える。ポテンシャルのあるワインはそれを好みと判断する人の割合が高い」と言った方が正しいでしょう。
イギリスや日本のワイン市場は熟成ワインを高く評価する傾向にあり、アメリカはむしろ若いワインの方を好むと言われています。
古酒が高価な理由とは
よく古いワインのことを「ヴィンテージワイン」と呼びます。明確な定義はありませんが、何十年も熟成した古酒のことを言います。そして高価です。
一つの理由は、何十年も保管されるようなワインはもともと高価で熟成ポテンシャルのあるワインであったから、今も美味しく飲めるだろうと期待できるから。
もう一つは希少価値が高くて価格競争がないからです。
例えば先ほどのル・パン。当店と同じ2017年なら、楽天市場に同じものが数点見つかります。まだそれほど古くないからです。だから他店の価格と比較して、価格優位性があると考えなければ仕入れません。
それに対して古いものは1本しか見つからない、ヴィンテージによっては販売がないものもたくさんあります。となると価格競争がないので、販売店側は利益をとりやすくなります。
ル・パンはボルドーワインの中でもかなり生産量が少ないので、若いヴィンテージのものも高価です。比較的流通量が多いワインほど、ヴィンテージワインとの価格差が大きくなります。
つまりそれは古酒としての品質だけでなく希少価値に値段がついているということです。
熟成でワインの風味はどう変わる?
古いワインは若いワインより割高ですが、それでもあえて古いワインを飲むワイン好きは多いです。
熟成ワインの風味が好きであることの証です。中には「このワインは熟成させないと価値がない」とまで言い張る人も。
そもそもワインは熟成するとどのように美味しくなるのでしょうか。
色の変化
一番客観的に判別できる若いワインと古いワインの違いは、色の変化です。
若いころは紫がかった赤色やルビー色だった赤ワインが、次第に青みが抜けてオレンジやレンガ色が混ざり、次第に薄い茶色へと変化していきます。
ソムリエがテイスティングのときにグラスを斜めにしているのは、液面の淵の色合いを観察しているのです。
色の濃さ自体も熟成とともに透き通った淡い色合いに変化します。
これは白ワインについても言えること。若いうちはレモンイエローや黄色だったワインが、だんだんとトーンが暗くなり、茶褐色に向かっていきます。
第3アロマの発達
ワインからは様々な香りを感じます。その香り成分の由来から、ブドウ由来の第1アロマ、醸造の過程で生まれる第2アロマ、その後の熟成で生まれる第3アロマに分類されます。
第3アロマと分類される熟成の香りは、腐葉土や枯れ葉、キノコ、獣臭、トリュフ、紅茶、ドライフルーツなどなど。
言葉からは「それって本当に美味しそうな香りなの?」と思えるでしょう。
順番が逆なんです。
熟成したワインが美味しいと感じる。その美味しいを伝えたいがために、その香りを何とか言葉にしようとする。そうしてどうにか近しいものを当てはめたのが、これら第3アロマの表現なのです。
第1アロマが弱くなり、第3アロマが徐々に支配的になっていく。これが熟成による香りの変化です。
熟成したワインの風味を言葉にするとき、上記のような表現を用いはしますが、魅力的な香りを表すには大事なものが足りていない。そんな感覚がいつもあります。熟成ワインの香りは言葉にできないんです。
果実味の減退
第1アロマの減少に伴い、明確なフルーツを想わせる風味は弱くなっていきます。
人によってはこれを「ワインが薄くなった」と捉えることがあるでしょう。少なくとも「力強い」という表現は用いられません。
だから「古いワインより若いワインが好き」というのも決して恥ずかしいことではありません。そういう人もたくさんいます。
しかしワインの風味を要素に分解して比較すると、若いワインより熟成したワインの方がアロマのボリュームが大きいこともあります。余韻の長さでも熟成ワインが勝ることもあり、果実味が弱くなったり口当たりが軽くなったのを「薄くなった」と捉えるのは誤りです。
まろやかになる渋味
熟成によって赤ワインの渋味はまろやかになります。渋味はあるもののより細かな印象になり、心地よい刺激となるのです。
その理由はタンニンの重合。タンニンはいろいろな物質とくっつきやすい性質を持ちます。わずかに流入する酸素と結びついたり、タンニン同士でくっつくと、分子として大きくなったり澱(おり)として沈殿します。
粗塩と細かな塩だと、同量でも細かな塩の方が塩味を強く感じます。粗塩の方がゆっくり溶けるので、舌への刺激がまろやかなのです。
タンニンも同じようなことが言えます。そもそも澱となることで総量が減るのに加え、数が減って塊として大きくなるので、刺激がマイルドになるのです。「タンニンがこなれてきた」と表現することがあります。それと関係してか、酸味もシャープな印象が和らぎます。
一方でそのタンニンは、ワインを酸化から守る酸化防止剤の働きをします。何十年、それこそ100年後に美味しくのめることを考えてつくられるワインの中には、発売直後はタンニンが強すぎてバランスが悪いものもあります。
同じワインを何十本と買って熟成させながら飲む人やレストランをターゲットにしているということです。
年を取るスピードにワイン差
これまで説明したワインの風味変化は、一律に起こるわけではありません。
一般的に言うなら高価なワインほど熟成の変化はゆっくりで、手頃なワインほど早く年を取ります。もっと安いワインは熟成せずに劣化の一方です。
その原因の一つはタンニン。渋味の強いワインほどゆっくりと熟成し、渋味の弱いワインは早く熟成し早く劣化します。
酸味も重要な要因で、酸味が高いほど熟成ポテンシャルが高いものが多いと言えます。
渋味や酸味と凝縮感などから、ソムリエやテイスターは熟成ポテンシャルを推測します。
ワインの「飲み頃」とは
強すぎるタンニンやきつい酸味が和らぎ、よりバランス良く風味豊かになった状態。それを「ワインの飲み頃」と表現します。中には発売直後が飲み頃で、あとは劣化していくだけのワインもあります。
ワインは熟成とともに美味しさを増していき、ある時のピークを境に段々と美味しさが減っていきます。この上り坂のある程度から、下り坂のある程度の期間までが「ワインの飲みごろ」です。
非常に主観的なことで、上記の図はあくまでイメージ。上記の色や風味や味わいの変化が連続的に起こります。
ワインを購入した後、自宅のセラーで保管するのは、わずかな電気代以外にコストはかかりません。せっかく高いお金を出して買ったワイン、飲み頃のピークに開けたいと考えるのは自然なことです。
このワインの飲みごろはいつか。このワインは今開けて飲んで後悔がないか。この大事に保管してきたワインは、いつまでに飲んだ方がいいのか。ワインの飲みごろに関する疑問はもっともですが、公式で答えを導けるものではありません。
感じ方は人それぞれ
何十年と保管したワインが、美味しくなっているかどうか。それにワインアドヴォケイトなどの評価は有用です。バレルテイスティングを除くおおよそのワインに、飲み頃予想が記載されているからです。
ただしそのワインが飲み頃かどうかの判断は「ワインのどういう風味を好きと感じるのか」で大きく左右されます。
同じワインを飲んで一人は「タンニンがこなれてきて飲み頃に入ったね」という。もう一人は「第3アロマの発達がまだまだであと5年は寝かせたかった」という。
別のワインを飲んで「味わいが弱々しくて飲み頃を過ぎてしまっている、もったいない」といい、もう一人は「繊細な味わいに美しく熟成した素晴らしいワインだ」という。
好みが分かれるからこそ、ともかく飲んでみて経験を積むのがいい。自分がどれくらい熟成ワインや古酒が好きなのか。自分にとっての「飲み頃」は、他の人の判断と比べて早いのか遅いのか。
感じ方は人それぞれだからこそ、どう感じるかを話し合ってみましょう。
熟成ワイン初心者は・・・
ワイン飲み始めの方がいきなり20年前の熟成ワインを飲んで美味しいと感じることはない。私はそう考えます。熟成ワインに現れる特徴香が、他の美味しい飲み物と全く共通点がないから。それまで好んで飲んできたお酒の風味とあまりにかけ離れるからです。
もしあなたが熟成ワイン初心者なら、まずはそれほど熟成していないワイン、好みにあわなくてもそれほど痛くない金額から試してみるべきです。買ったワインが口に合わないのは悲しいでしょうが、若いワインでもハズレることはあります。失敗を恐れていてはワインの楽しさは広がりません。
次の章でご紹介するのは、熟成の風味がしっかりと感じられるようになってきた、飲み頃の入口くらいのワインです。
5000円以下ちょっと熟成したワイン6選
これからご紹介するワインは、若いころの味わいとは明確な違いが出ていると感じるものです。
だから「熟成ワイン」と呼んでもいいでしょうが、「古酒」「ヴィンテージワイン」と呼ぶほどではない。違和感があります。
値段も5000円以下のものだけをピックアップしましたので、熟成ワイン初心者の方も安心して試していただきたいです。
熟成感★★☆☆☆ タンニンの滑らかさがGood!
2000円台前半のワインで9年の熟成となるとかなり長い方。しかし熟成リリースを基本としている生産者であり蔵出しなので、古酒にありがちなボトル差はあまり心配しなくていいです。
サンジュヴェーゼ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー。どれもタンニンが強めな品種です。それが長い瓶熟成によってシルキーな口当たりとなり、心地よく口内を刺激します。
風味にはそれほど強い熟成香は現れていないので、ステップアップのための1本として適当です。
熟成感★★☆☆☆ 熟成ワインの本場だけある値ごろ感
熟成ワインの最大供給地はなんといってもフランスのボルドー地方。
なかには「ワインは熟成させて飲むもの」という前提に立ったワインづくりをする生産者も少なくありません。
それもあってかワイナリーで長く保管されたものが日本に入ってくるのも珍しくない。このワインも2023年後半に入荷したものです。それもあってカシスやラズベリーなどの第1アロマはまだまだ健在。そのうえで熟成香が感じ始めた段階です。
供給量が多いだけあり、手頃な値段のものも少なくありません。熟成ワインは基本スポット商品、輸入元の在庫がなくなれば次回入荷未定です。でも熟成した手頃なボルドーは継続的になにかしらが入荷します。
この1本であなたの好みを見極めて、口にあったなら他にもいろいろ探してみる。その試金石となるでしょう。
熟成感★★★☆☆ 手頃な熟成シャルドネは希少!
タンニンがワインを酸化から守るということもあり、やはり熟成ワインは圧倒的に赤ワインが多いです。白ワインで熟成ポテンシャルのあるワインをつくりやすい品種は限られています。
シャルドネの古酒はもちろんたくさんあるのですが、そのほとんどがブルゴーニュ産の高級品。「ちょっと試しに・・・」という値段じゃありません。
だからこそ10年も経っていなくても、この価格でカリフォルニア産2015年のシャルドネは珍しい!
若いころの香りは「ブドウ由来のフルーツ香」+「樽熟成のヴァニラ香」といったものだったのでしょうが、熟成でそれが分離できないほどに調和します。なんとも表現しずらい、上品な甘い香り。
現在は2020~2022年くらいが流通する樽熟シャルドネとは大きく違う風味です。
熟成感★★★★★ 24年熟成でこの値段はバグ!?
輸入元さんの情報によれば、このワインはオークの小樽4年熟成のあと、さらに大樽でなんと13年熟成!
長く樽熟成するほど美味しいってことはありませんので、これは明確に「熟成ワインとして差別化した商品にする」という狙いでしょう。
ずいぶん前からこのヴィンテージを販売しています。相当数つくったものと推測できます。
《テイスティングノート》
乾いた土やキノコ、ドライフラワーのような熟成香が支配的ですが、口に含むとまだまだフレッシュな果実味が残っています。チョークの粉のような非常に細かなタンニン。若いスペインワインのパワフルさはなく、上品でしなやかな口当たりです。
24年前のワインの風味かというとそれには若々しいですが、澱はなくて扱いやすい熟成ワインです。この価格を考えると間違いなく価値ある1本です。
熟成感★★★★☆ 熟成の風味とまだ若いタンニン
シチリア島の高級ワイン「エトナ・ロッソ」は、酸味も渋味も強めであることが特徴。若いころは上品で軽やかながら筋肉質というか細マッチョな味わいです。
このワインは10年以上の熟成を経て、果実味の減退が進んでおり、香り感じるフルーツは奥の方に少しだけ。その代わりにキノコや枯れ葉のような熟成香が全面に現れています。
香りや果実味の透明感はまるで飲み頃のピノ・ノワールみたい。とはいえ穏やかになったもののタンニンは豊富で若々しいので、全く別物なのは確かです。
《テイスティングノート》
バラのドラウフラワーや枯れ葉、杉のような熟成香の奥に、フルーツの香りもわずかに残っています。タンニンはこなれているもののまだ豊富。上品な酸味とともに余韻に長く続きます。紅茶やフォン・ド・ヴォーのような旨味感で消えていきます。
熟成感★★★★☆ 甘口の熟成は待てない!
甘口のリースリングは、実は赤ワインに勝るとも劣らない熟成能力を持ちます。
ただし赤ワインと大きく違うのは、若いころからでも「渋味が強すぎて飲みづらい」ということがありません。だから熟成するけど今飲んでも美味しい。ふとした拍子に我慢できず開けてしまう危険があぶない!
それに熟成のスピードもゆっくりで、このワインのクラスでも5年程度ではさして違いは感じられないでしょう。
だから圧倒的に熟成したものを購入するのを推奨します。
熟成した甘口ワインは、甘味がどんどん上品になり不思議と控えめに感じます。決して砂糖を加えてつくるリキュールでは替えのきかない満足感です。
熟成ワインを楽しむ際の注意点
ワインはそもそも取り扱いに注意が必要で、簡単に味わいを損なってしまう飲み物です。さらに味わいが多様なので、ベストな状態で飲んだとて口にあうかに100%はありません。
熟成ワイン・古酒はそれに輪をかけて注意を払う必要があります。
保管に最大限の注意を
ワインを守る亜硫酸は熟成の期間を通してほとんど消費されていしまいます。さらに瓶詰して20年以上が経過したような天然コルクは脆くなり、空気が入って劣化しやすくなります。(※コルクのグレードにもよる)
高温や温度変化、直射日光といったワインの敵の悪影響をより受けやすいのです。
なので保管にはより注意が必要。ワインをきっちり定温保管している信頼できるショップから買うのはもちろんですが、購入後はワインセラーで保管するか、輸送の振動が落ち着いたら早めに飲むのがベストです。
澱(おり)の取り扱いに注意
長くボトルの状態で熟成したワインには澱(おり)が沈殿しています。赤ワインの場合はタンニンや酒石酸などが結晶化したもので、白ワインの場合も酒石酸結晶が出ることがあります。
澱は食べても体に害はありませんが、口当たりは悪いです。
ワインを数日程度立てて静かに保管すれば底に沈みます。ゆっくりグラスに注ぐかデキャンタに上澄みだけを移すことで、最後まで美味しく楽しめます。
熟成ワインは高めの温度で
熟成香は高めの温度で開きやすいです。
赤ワインなら18~20℃くらい、白ワインなら12~15℃くらい。若いワインより高めの温度で飲んだ方がよりその特有の香りを楽しめるでしょう。
抜栓後は早く飲むべし
古いワインが長い眠りから覚めるように、抜栓後15分から30分で急に良くなることは経験があります。でも個人的には2時間を超えて良くなった経験はありません。むしろ基本的には時間とともに劣化していきます。
熟成香が支配的でタンニンが穏やか、飲み頃後半にさしかかっていると考えられるワインは、あまり翌日に持ち越すことをおすすめしません。できれば開けたその日のうちに飲み切るのがいいでしょう。今回ご紹介したようなちょっと熟成した程度のものだと、翌日まで持つものもあります。
それもあって、特に貴重な熟成ワインは友人と集まる日など特別なときに数人で開けることをおすすめします。
経験的にはアルゴンガスなどを用いたうえで、翌日残念な思いをしたことが何度かあります。
『蔵出し』かどうかの違い
20年前の収穫年のワインといっても、「蔵出し」かどうかで大きく違います。
発酵・熟成の過程を経て17年前に出荷されたものが、卸売り・小売業者の倉庫で熟成して、あなたの手元に届く。
ワイナリーが瓶詰後に保管していたものが、最近エチケットを貼って出荷され、あなたの手元に届く。
後者の方がはるかに品質が安定しており、若々しく感じます。
蔵出し熟成ワインの出荷作業について詳しくはわかりません。ボトルの状態から推測するに、澱引き(澱を俗ために別のボトルに移し変える)を行ったうえで、熟成で目減りしたワインの量を補って出荷するようです。エチケットは出荷の際に貼るので、何十年前のワインがきれいなエチケットであることから、蔵出しかどうかの判断ができます。
ボトル差はあるもの
そのうえで熟成ワイン・古酒にはどうしてもボトル差があります。
同じ銘柄・同じヴィンテージであったとしても、前に飲んだものと違って残念な味わいであることもあります。その逆もしかり。
ワインショップの人が実際に飲んで確かめて販売していても、別のボトルは状態が違う可能性があります。それは古いワインほど顕著です。
ブショネに当たってしまった際も古いワインほどその影響が致命的ですし、補償対象外であることが多いです。
最後は心の余裕をもって
ワイン選びで絶対に失敗したくない。確実に自分が好きなワインにだけお金を使いたい。自分が知らない美味しさがあっても一向にかまわないなら、古いワインに手を出すべきではありません。
熟成したワイン・古酒があなたを喜ばせてくれるかどうか。
それはワインの状態や品質、あなたの好みや経験値に大きく左右されます。何十万円の高価なワインが絶対美味しいのではありません。
そのうえで「好みと少し違っても、それもまた経験」と楽しむ心の余裕を持てるかどうか。好奇心と財布の余裕を持つ人だけが、心を揺り動かされるような熟成ワインに出会えるのでしょう。
熟成ワインにしか出せない特別感を
出来上がった飲み物を何十年も保管して、風味が変わったものをありがたがって楽しむ。こんな楽しみ方、ワインくらいじゃないでしょうか。
ウイスキーの20年ものといっても、メーカーでの熟成が長いのであって、リリースされたのはごく最近。蒸留酒の場合その後大きく風味を変えることはありません。
日本酒にも古酒はありますが、熟成ワインに比べると一般的とは言えません。
ワインという飲み物は無数にあります。その銘柄も毎年何万本とつくられているうちの1本です。なかなか「特別な1本」とは言えません。
しかし熟成ワインはそうではありません。同じヴィンテージは二度とつくれず、抜栓されるたびに地球上に存在するボトルが1本また1本と減っていきます。それはどのワインも同じですが、消費されずに残っているボトルが圧倒的に少ないのです。
もしかしたらそのヴィンテージには二度と出会えないかもしれない。「美味しかったからもう1本」なんてできない特別感。それは若いワインには出せないものです。
今回ご紹介したのはそんな特別な1本ではありません。いつか特別な1本を味わうために自分の準備を整えるものです。まずはちょっと熟成したワインで、あなたの好みを確かめて