上質なワインでもシチュエーションを間違えば、100%の魅力を楽しめないことがあります。1~2人で時間をかけて飲む1本と、5~6人以上で分けて楽しむ1本では、そのワインにかける時間が違うからです。抜栓後の飲みごろを考えることで、とっておきのワインを最大限味わうことができます。手持ちの中でどのワインを明けるか迷った時、何人で飲むかを考えてタイプを絞ってみてはいかがでしょうか。
ワインと飲み方のミスマッチ
飲む人数なんて関係あるの?好きなワインを好きに飲めばいいのでは?
この考えを否定するつもりはありません。ワインは嗜好品なのですから、自分が好きなものを飲むのが一番です。
一方でワインにはそれぞれ美味しさの持続性があるのは間違いありません。
飲み方を間違えて残念な思いをした実体験をご紹介します。
2時間後には香りがへたっていた
ブルゴーニュでそこそこ評判の高い生産者がつくるワインを、知人と2人でレストランに持ち込み開けました。
それはニュイ・サン・ジョルジュ1級ヴォークランの2013年。飲んだのは2017年くらいだったと憶えています。
もうずいぶん昔なので、詳細な風味は憶えていません。しかし開けたての香りは素晴らしく、繊細かつ華やかで思わずにやけてしまうようなものでした。
ただ2本目に開けたので飲むペースはそう早くありません。1本目の途中に抜栓しておき、食事も終わってワインだけでゆっくりと。開けて2時間くらいで飲み切ったでしょうか。
温度が上がりすぎて酸味がだれてきたのもあります。しかしそれ以上に香りのボリュームが落ちて、適度に酔った鼻には何も感じなくなってしまいました。味わいも弱々しい印象。いわゆる「へたった」状態になってしまったのです。「最初は美味しかったのに・・・」
全てのワインがこうなるとは申しません。2時間以上をかけて良くなっていくワインもたくさんあります。ただ、この時のヴォークランはそうではありませんでした。
ヴィンテージに関して「当たり年/ハズレ年」という表現を使うのは、私はあまり好みませんん。それぞれの特徴があり良さがあるからです。ただしブルゴーニュの2013年に関しては、期待を超えてきた経験が本当に少ない。
このワインに関して言えば、2時間かけてゆっくり飲むことで美味しいうちに飲み切ることができなかった。もったいないことをしたというのが反省点です。
開けるなら3~4人いる場で開けるべきだった。2人で飲むなら別のヴィンテージだとなお良かった。そう考えます。
当時は今よりブルゴーニュワインは安かったものの、当時の私にとっては高級品です。ワインの選び方が未熟でした。
抜栓したワインの飲みごろとは
よく「ワインの飲み頃」という言葉を目にすると思います。この場合は抜栓前、リリースされてからボトルの状態で何年後あたりに飲むのがもっとも美味しいかという意味です。
抜栓後についても「飲み頃」というのはあると考えます。
どんなワインでも抜栓して長期間放ったらかしにすれば、酸化して香りもなくなり飲めない味になります。しかしそれまでの過程は一定ではありません。飲み頃、美味しさのピークがあります。
美味しさのイメージ曲線
「美味しさ」というのは数値にできない前提で、あえてそれをイメージとして話します。
最も美味しい時を100としたとき、大まかに次のように変化するものがあります。
- 開けたときが100で最も美味しく、数時間は同じくらいで、やがて徐々に落ちていく
- 開けたときが100で最も美味しく、ゆるやかに落ちていく
- 開けたときは50~70で、数十分から数時間かけて100になり、その後ゆるやかに落ちていく
- 開けたときは50~70で、数十分かけて100になり、その後数時間で急激に落ちる
この時間のスケールはワインにより様々です。ピークに至るのが2日目、3日目というケースもあります。中には2,3日目はイマイチだけど5日目くらいにまた良くなったという変わり者もいます。
保管方法によっても違えば、同じワインでも飲む人でピークの評価が分かれることもあります。
とはいえワインの風味・美味しさは時間で増減するというのは間違いありません。
先述のヴォークランは4番目。ピークに達したあと予想以上に早く落ちるタイプだったのです。
抜栓後の飲みごろを左右するもの
そのワインが実際にどんなタイムスパンでどのように美味しさが変化するのか。正確に知るには実際に開けて時間をかけて飲むよりほかにありません。
しかしだいたいでいいから、飲む前に味の変化を予想したいもの。
私は次のような項目から総合的に判断します。
美味しさのピーク推測のポイント
- 酸味とタンニンの量
- 熟成度合い
- 価格と生産量
- 亜硫酸
亜硫酸に関しては、「亜硫酸無添加やごく少量だと、早く劣化しそうだから早めに飲んでしまおう」ということです。ただワインの情報に亜硫酸量が書いてない場合も多いため、あまり判断基準にはできません。
そのほかの3つについては、飲み方やシチュエーション選択に関係するので、詳しくご説明します。
ワインの味わいタイプと適したシーン
美味しさのイメージ曲線をもとにすれば、注目すべきタイムスパンは2つ。
抜栓後にピークに達するまでどれほどの時間がかかるか。数分か数十分か、数日単位か。
ピークに達した後の大きな劣化がどれほど早いか。2~3時間か2~3日間かそれ以上か。
これを考えると、おのずと適した飲み方が見えてきます。
熟成ワインはみんなで飲もう
劣化が早くとも数十分のうちに飲んでしまえば問題ありません。そのためには複数人で飲むこと。ワイン1本を6人で飲めば一人125ml。ちょっと多めのグラス1杯です。普通に飲めば30分もかかることはないでしょう。
ピークのうちになるべく早く飲んだ方がいいワインの典型が古酒です。
ワインに含まれる成分で、酸化防止の働きを持つ亜硫酸。それは熟成により酸化されて別の成分に変わってしまいます。熟成ワインは亜硫酸含有量が少なく、酸素に弱い状態にあるのです。
20年、30年前につくられたような貴重な古酒はだいたい高価です。一人で自宅で飲むのは、価格の面でも「美味しいうちに飲み切る」という点でももったいない。
貴重な古酒はワイン好きを集めてみなで分かち合うことをおすすめします。
スパークリングワインも開け時を選ぶ
炭酸が抜けたコーラが美味しくないように、泡の立ち上らないスパークリングワインも魅力が損なわれます。「抜栓後に空気に触れることによる劣化」とは違いますが、比較的早めに飲むべきでしょう。
製法によって泡の持続性に違いが出ます。
伝統的方式やトランスファー方式でつくられるものは、同量ずつぐらいで飲めば3日程度は大丈夫でしょう。それに対してシャルマ方式のスパークリングワインは泡の抜けが早いので、できれば1日で飲み切ってしまいたいところ。ならばお先に弱い人は複数人で飲むときに開けるべきでしょう。
スパークリングワインの製法分類についてはこちらの記事で解説しております▼
ただしスパークリングワインの泡の強さをどこまで求めるかは、人それぞれの好みです。泡が弱めでも気にならない、むしろ味わいをしっかり感じられて好きという方は、もっと保存しても大丈夫でしょう。
眠りから覚めるのに時間がかかるワイン
抜栓してから空気に触れることで、香りが豊かになり良くなっていくワインも多いです。古酒であったとしても、開けて30分程度してから急に良くなることもあります。まるで眠っていたワインが目覚めるかのように。
一方で開けたてから大して変わらない、むしろ緩やかに香りが弱くなる一方のワインもあります。
そのワインがどちらなのかを推測する上で最も分かりやすい指標。それは価格です。
高価なワインは風味が開くのに時間がかかることが多い。手頃なワインは開けたときがピーク。大雑把に言うとそんな傾向があります。
時間をかけて良くなるワインをピーク前に飲み切ってしまうのも、それはそれでもったいない。高級ワインをパーティーで開ける場合は注意が必要です。この「ワインの状態」を整えるのも、レストランで働くソムリエさんの大事なスキルの一つです。
デキャンタと事前抜栓で対処する
美味しいピークのタイミングをコントロールするワイングッズがデキャンタ(カラフェ)。この容器にワインの中身を移すことで空気に触れさせ、短時間で風味を開かせることができます。ただしやりすぎると香りが平たんに感じることも。必ず美味しくなるわけではないので、ワインを飲んでその性質を見極め、適切なデキャンタージュ(エアレーション)を行うのが大事です。
ソムリエの特殊技能の一つです。
もう一つの方法は、飲む予定の時間より前に抜栓しておくことです。これなら特別な道具もなにも要りません。最初に一口飲んで味を確認するとともに、ボトル内の液面を広げておくとより効果的です。
このワインは開くのに30分ほどかかりそうだから、それくらい前に抜栓しておこう
長年ワインを飲んでいる人は、結構当たり前にやっています。もちろんプロでない一般消費者が。よく考えればすごいこと。経験のなせる業です。
渋くて酸っぱいワインは早めに抜栓すべし
ワインの強い渋味は不快に感じやすい要素です。そして酸味は渋味を感じやすくさせます。
しかし強い渋味は抜栓からの時間である程度和らぎます。まろやかな印象になっていくのです。
だからこそ渋くて酸っぱいワインにも事前抜栓は有効です。渋味の穏やかなワインに比べてより効果を感じやすいはず。割と手頃なワインでもそうした方が美味しいことが多いです。
カベルネ・ソーヴィニヨンは本来は酸味も渋味も高め。そうでないものもありますが、渋味の強いタイプは手頃でも時間をかけて楽しむべきでしょう。
でも手頃なワインであるなら1人で開けることも多く、その場合は飲み始めにピークを持ってくる必要はないでしょう。飲んでいるうちに、あるいは2日目、3日目にピークが来てもいい。こういったワインは劣化が遅く、数日後にも美味しく飲めることが多いです。
赤ワインに含まれるタンニンもまた、酸化防止剤の効果を持つからです。
ゆっくりと1本を味わうことで、同じワインでいくつもの表情を感じることができます。
もっと長持ちな酸っぱい白ワイン
開けたてがピークであっても、その後の劣化が非常にゆっくりなワインもあります。
お酒に弱くて少ししか飲めない方、外食が多くて毎日は家で飲まない方などは重宝するでしょう。
先述の通り渋い赤ワインも長持ちする傾向にあります。でもそれ以上によく持つのが、実は酸味の高い白ワインです。
特にリースリングでつくられる白ワインは、5日~1週間程度あまり味の変化を感じないこともあります。
抜栓してからあまり変化しません。なのでパーティーで飲んでも問題ありませんし、一人で家飲みするにも気軽に開けられます。
豪華な風味の濃厚ワインはパーティー向け
凝縮感のある果実味と複雑な樽香を持つような、派手な風味のワイン。どしっとパワフルな味わいは、少な目の量でもしっかり満足できます。
だから5人以上で飲んで一人グラス1杯だったとしても、しっかり記憶に残ります。パーティーにピッタリなのです。
こういうタイプはたくさんありますが、たとえばこのワインなどでしょうか。
「果実爆弾」と言わんばかりの凝縮感に、様々な表現をしたくなる複雑な風味。余韻もすばらしく広がります。
これも先述の「事前抜栓」をすべきタイプですが、割と早めに開くはずです。
ただし自分へのご褒美として一人飲みすると、その濃厚さゆえに疲れちゃうかも。例えは悪いかもしれませんが、少量だから美味しいフォアグラを腹いっぱい食べようとうするようなものです。
風味も価格も豪華なワインはみなで飲みましょう。
ワインのタイプ別おすすめの飲み方
ここまでワインの風味変化から導く、飲み方の適・不適を挙げました。まとめると次の通り。
ワインのタイプ | 1~2人の少人数 | 5人以上の大人数 |
---|---|---|
古酒 | × | ◎ |
スパークリングワイン (伝統的方式) |
〇 | ◎ |
スパークリングワイン (その他の方式) |
△ | ◎ |
渋味の強い赤ワイン | ◎ | △~〇 (デキャンタなどで上手に開かせれば◎) |
酸味の強い白ワイン | ◎ | △~〇 (酸味が強いのは好みが分かれる) |
豪華な風味の濃厚ワイン | △ | ◎ (抜栓のタイミングに注意) |
あくまで大雑把なものであり、ワイン次第です。あなたのお酒の強さや劣化への敏感さ次第でも判断は変わります。
いつもよりも上等なとっておきのワインをいつどこで飲むか迷ったとき。
あるいは飲みたいときは決まっていてワインを選んでいるとき。
この表を選ぶヒントに思い出していただけたら幸いです。
KATAYAMA
周りの人の話を聞いていると、筆者はどうやら割と開けたての味を好むようです。筆者が「抜栓2時間後くらいがピーク」と判断したワインを、「2日目の方が美味しかったよ」と考える人も少なくないということ。これは味の好みであり、誰が正しいという話ではありません。自身の傾向が分かってくると、「飲みかけのこのワイン、残りは明日にするべきか、飲んでしまうべきか」の判断がより正確になります。
ワインの多様性は飲み手をもって成立する
なぜワインの種類はこうまで多いのか。
その一番の理由はワインはブドウ次第だから。品種や栽培環境により様々な個性を持ったブドウが生まれるからです。
でもそれだけではないとも考えます。
つくる方の多様性だけではない。飲み手側の多様性もある。
いろいろな飲み方でいろいろな味を求める消費者がいるから、いろいろなワインの供給が成立しているのではないでしょうか。
レストランでグラスワインとして飲み美味しかったワイン。それがそのまま自宅で一人飲むのに適しているとは限りません。その逆もしかり。
ワインを選ぶ際、自分の好みに合わせるだけでなく、いつどこで誰と飲むかもあわせて考えてはいかがでしょうか。