シェーブルチーズの一つ、「サントモール・ド・トゥーレーヌ」にはロワールのソーヴィニヨン・ブランがあいます。
それほど流通も多くなくて、単価もやや高めなシェーブルチーズ。
だからこそ友人を招いた席などで、特別感を演出することができます。
チーズとワインのあう/あわないの体験は、友人とあなたの食体験を豊かなものにしてくれるでしょう。
「あう/あわないでこんなに違うの!?」
例えば休日、自宅に親しい友人を招いて料理とワインでもてなす。
逆に友人宅に招かれたから、何か手土産を持っていく。
何度もそうするような親しい間柄なら、「今回はちょっと凝ったものを用意してみようか」となりませんか?
チーズとワインがピッタリあうというのを体感する。もしくは全くあわない体験とを比較する。
きっと「こんなに違うの!?」と驚きをともなう食体験となるでしょう。
ワインのある飲み会のお供に
ワイン好きの大人が3、4人集まって飲むなら、ワインが1本だけということはないでしょう。たとえまずはビールで乾杯だったとしても、2、3本は空くことが多いはず。
そこにチーズと、そのチーズにピッタリのワインが1本あったなら。
その組み合わせにおいては「うわぅ!美味しい!」となるはず。そうなるように用意するのですから。
ですが他の1、2本のワイン。それらに対してはほとんどの場合「まずっ!ワインがもったいない」となるでしょう。それくらい、チーズとワインは基本あわない。中にはピッタリあうものもある、というくらいだからです。
だからこそ面白い!
ワインやチーズの知識がなくたって、美味しい/美味しくないは感じます。
同じチーズでも、ワインによって大きく印象が変わる。その体験はきっとその飲み会を大いに盛り上げてくれるはず。
「今度もまたチーズとワイン、別のもの食べさせてよ!」とリクエストされちゃうかもしれませんね。
チーズとワインは再現が容易
ワインと料理に相性の良し悪しがあるのは多くの方がご存知でしょう。
ちょっと高級なフレンチレストランやビストロなどでは、ペアリングコースところもあります。コース料理のそれぞれの品に相性のいいグラスワインをセットで提供してくれます。体験すれば「これがマリアージュというものか!」と思わず唸ることでしょう。
でもそれを家庭で再現することは、普通は無理です。
ワインはボトルの写真を撮らせてもらって、Googleレンズで検索すれば、だいたいのものは購入できます。
(ヴィンテージが新しいものしか手に入らなかったり、稀にネット販売不可のワインもあります)
でも同じ料理はそうそうつくれません。
その点チーズは基本、切って提供するだけです。
特に「原産地呼称」(※)に認定されたチーズの中でメジャーなものは、百貨店などのチーズ売り場でだいたい手に入ります。
通販で購入することもできます。(チーズの通販は発送まで時間がかかるお店が多いので注意が必要)
同じ組み合わせを家庭で楽しむというのが容易なのです。
※原産地呼称
いわばその土地だけのブランド品。認定されているものの名称は他の地域では作れません。
チーズだけでなくワインなども対象。フランス産なら「AOP」、イタリア産なら「DOP」と表記されます。
シェーブルチーズとは
シェーブルチーズはチーズの製法ではなくミルクの種類を表しています。以前よりご紹介してきたチーズの原料が主に牛のミルク、たまに羊乳なのに対して、シェーブルチーズは山羊のミルクからつくられます。
チーズの種類の中でシェーブルチーズは決して多いとは言えません。しかしその歴史自体は牛乳のチーズよりも長いといいます。
実はお腹にやさしい!?シェーブルチーズ
あなたの周りに、「たくさん牛乳を飲むとお腹をくだしやすい」という方はいませんか?
その原因は主に乳脂肪を分解・消化吸収する能力に個人差があるからだと言われています。
山羊のミルクに含まれる脂肪分は、牛乳に比べて脂肪の種類が違い、脂肪酸の大きさが1/6だといいます。
(※「プティ・シェーブル」様HPより)
牛乳のチーズは体質にあわない方でも、ひょっとするとシェーブルチーズは大丈夫ということもありません。
また山羊のミルクはas1カゼインというたんぱく質の含有量が少ないです。これは牛乳アレルギーを引き起こす物質として知られています。
アレルギーは下手すると命に係わることなので、私が「牛乳アレルギーの方でも山羊のミルクは大丈夫」なんて言うことはできません。でもお医者様に相談してみる価値はあるでしょう。
シェーブルチーズの製法
シェーブルチーズの製法は、ミルクを固めてカードと乳清に分けるところまでは牛乳のチーズと大きくは違いません。
しかしレンネット(凝乳酵素)を加える量が少ない、もしくは加えず、主に乳酸菌の力でミルクを凝固させます。
このれは味わいの違いにも表れてきます。
熟成の際に表面に塩をまぶすこともありますが、木炭の粉を使うこともあります。
シェーブルチーズの表面が灰色のものもあるのはこのためです。
熟成は1週間から10日程度と短いものが多く、賞味期限は製造から1か月ほど。割と新鮮さが求められるチーズであるため、販売側としては少し扱いにくい。そのため販売しているお店も在庫数もそう多くはありません。
シェーブルチーズの味わい
表皮の部分とその下のしっかりとした食感の層。それからほろほろとした中心部という構造になっているものが多いです。
シェーブルチーズは温めるとやわらかくはなりますが、他のチーズのようにとろけてくることはありません。
種類や熟成度合いにもよりますが、臭いのクセはやや強めです。
何といっても一番の特徴は酸味でしょう。乳酸菌の働きでミルクを固めるからか、ヨーグルト的な爽やかな酸味があります。
臭いと酸味があるゆえ、やや人を選ぶチーズと言えるでしょう。
代表的なシェーブルチーズ
シェーブルチーズの代表格といっても、他のチーズに比べるとやはり知名度では劣ります。
百貨店のチーズ売り場などでよく見かけるのが「ヴァランセAOP」。ピラミッドの頂点がカットされたような形をしています。
山羊ミルクのクセは比較的おだやかだと言われています。シェーブルチーズらしく、まわりに木炭の粉がまぶされていて、これが酸味を和らげているそうです。
今回ご紹介する「サントモール・ド・トゥーレーヌAOP」も独特な形をしています。筒状の形で中心部に形を保つための藁が通されています。こちらも一般に炭がまぶされていますが、中には炭なしの白い表皮のものもあります。
より爽やかな酸味があります。サラダに使っても美味しいのでしょうが、単価がなかなか高いです。
サントモール・ド・トゥーレーヌとワインの相性を検証する
今回はサントモール・ド・トゥーレーヌAOPとワインの相性を検証していきます。
まずは「チーズとワインの故郷をあわせる」に従い、ロワール地方のソーヴィニヨン・ブランを。当店のラインナップの中にトゥーレーヌ地方のソーヴィニヨン・ブランがなかったので、近くの産地であるサンセールのソーヴィニヨン・ブランを選びました。
【Excellent】サントモール・ド・トゥーレーヌにあうサンセールのソーヴィニヨン・ブラン
ロワール地方の中でサンセール地区はプイィ・フュメ地区と並んで高品質のワインを生むブランド産地。
最初の香りは控えめながらも複雑で、緻密な口当たりの爽やかな白ワインを生みます。一般的にはトゥーレーヌ地区より格上です。
この相性はやはり鉄板!文句なく美味しいです。
この「レ・バロンヌ」は、それほど熟したフルーツの風味は持ちません。どちらかというとレモンなどの柑橘の風味の方が強いです。
しかしサントモール・ド・トゥーレーヌとあわせたときは、「レ・バロンヌ」の風味がより熟したフルーツ、アプリコットなどのように感じます。
ワインの酸味・チーズの酸味がどちらも気にならず、旨味感に変わるのです。
チーズ自体が少しクセがあるものだけに、ワインがあれば「こりゃうまい!」となるはずです。
【BAD】サントモール・ド・トゥーレーヌにあわないサヴァニャン
先ほどの「レ・バロンヌ」は、それほど果実感が強くなく酸味が高めで樽熟成をしないタイプの白ワインです。
その点ではこの「サヴァニャン・ウイエ」も同じ「スッキリ辛口の白ワイン」です。
並べて飲めばもちろん風味は全然違いますが、味わいのタイプとして分類していけば同じような傾向です。
ところがこれがあわない。悲しくなるくらい美味しくない。
同時に口に含んだ状態では、主にチーズの塩味しか感じず、ワインが消えてしまいます。そのくせ余韻はやたらと酸っぱい。
酸っぱいのも爽やかな酸味ではなく、酢酸的な思わず顔尾をしかめる類の刺激です。
(このワインはコンテチーズと素晴らしい相性をみせてくれます)
【Not Bad?】サントモール・ド・トゥーレーヌとあわなくはないフランチャコルタ
あう/あわないの判断に非常に迷ったのがこのフランチャコルタ。
程よく長い熟成期間により泡がきめ細かく、それでいて酵母やトーストの香りは控えめ。白い花のような上品な風味を持つスパークリングワインです。
サントモール・ド・トゥーレーヌとあわせたとき、このスパークリングワインの風味は蓋がされているように感じます。
しかし別のフルーツのような風味を感じるようになるため、完全にNGとも言えません。
ワインを飲んだ後に食べるチーズは、風味がより複雑になるので、「チーズを美味しくするワイン」ということはできそうです。
考察 サントモール・ド・トゥーレーヌにあうワインの条件
サントモール・ド・トゥーレーヌにはなぜのロワールのソーヴィニヨン・ブランがあうのか。
他にどんなワインがあるのか考察してみます。
ロワールのソーヴィニヨン・ブランとあう理由
サントモール・ド・トゥーレーヌはなぜサンセールのソーヴィニヨン・ブランと相性がいいのか。もちろんトゥーレーヌのソーヴィニヨン・ブランで適当なものがあれば、同等以上に相性がいいことでしょう。
そして同じ辛口白ワインのサヴァニャンはなぜあれほど相性が悪いのか。
正直、確信を持って理由を述べることはできません。
ポイントの一つは酸味の高さと繊細さでしょう。
チーズとワインの酸味バランスが、ワインの方がより高い方がいい。かといって強すぎるのも違う予感があります。ニュージーランドのマールボロ産ソーヴィニヨン・ブランの方が、キュっとしまるメリハリのある酸味を持つように感じます。きっとマールボロ産だと、「惜しいけどちょっと違う」になりそうです。
あまり凝縮した果実感を持たないことも大切でしょう。一歩引いた控えめなフルーツ感を持つワインだからこそ、チーズとあわせて熟した果実感になったのだと考えます。
ソーヴィニヨン・ブランはだいたいOK
実は全く別の機会に、チリのソーヴィニヨン・ブランをサントモール・ド・トゥーレーヌにあわせたことがあります。1000円ちょっとくらいの安いものだったと記憶しています。
今回のものほどピッタリではありませんでしたが、それでも十分美味しいといえるものでした。
ただしワインをもっと美味しいもの、例えば同じアンリ・ブルジョワの8000円クラスにすればもっと美味しくなるか。それは微妙でしょう。
「レ・バロンヌ」と比べたときに「ジャディス」は圧倒的に複雑な風味を持ちます。
サントモールとあわせてももちろん美味しいでしょうが、その複雑な風味はあまり感じ取りづらくなるものと予想します。
ロワールのソーヴィニヨン・ブランは2000円くらいからいろいろ手に入ります。チーズとあわせるなら4000円くらいまでで十分かと思います。
高価なチーズだからこそできる食体験
どれも代表的な原産地呼称認定がされているチーズは高価です。チーズを1パックとワイン1本買えば、すぐ5000円を超えます。
「チーズとワイン」と聞いて、スーパーで売っているようなプロセスチーズを思い浮かべた方には、値段のギャップがあるでしょう。
チーズもワインも、同じ系統のもっと安い銘柄を探して買えば、ある程度の美味しさは体感できるでしょう。しかし半額にはできないと思ってください。
チーズもワインも、しっかりと個性が現れたものを選ぼうと思えば、ある程度の金額は必要だからです。
チーズにピッタリとあうワインを楽しむ。
それは好きだから消費するもので贅沢品だと、私は考えます。日常のものではなく特別なもの。
だからこそ心の活力になるのです。
生きていくうえで"必要"ではないからこそ、それをまた楽しむために前向きに頑張れる。
チーズとワイン、一人で食べて飲んでも美味しい。でも親しい誰かとその組み合わせを試すなら、美味しいし楽しい。
そう思わせられるだけのインパクトが、ぴったりのチーズとワインにはあると考えます。