ワインの楽しみ方ガイド

コンテチーズにあうワインはなに?ハードチーズとワインの相性をソムリエが解説

2023年3月25日

コンテチーズにあうワインはなに?ハードチーズとワインの相性をソムリエが解説 
 
フランス・ジュラ地方のチーズ「コンテ」にあうのは、ジュラ地方の白ワインだけではありません。
しかしなんでもあうわけではない。コンテにあわないワインの方が、実は圧倒的に多いんです。
ハードチーズとはどんなものか。どうして「コンテにあう」と言えるのか。
あわないワインと比較してじっくりとご紹介します。
 
 

YouTubeでも紹介しております。

 
 

実は難しいチーズとワインの関係

 
「ワインのアテといえばチーズ」そう考えている方は少なくないかもしれませんが、実は誤りです。
チーズとワインは基本あわない。でもなかにはピッタリの組み合わせもある
その認識のほうが現実に即しています。
 
 
 

まず「チーズ」とは

 
まず副材料を用いない純粋なチーズの種類だけでも1000種類ほどあると言われています。
 
「パスタはワインにあう」なんて言おうものならどうでしょうか。
一口に「パスタ」といってもいろいろなソースがあります。麺の形状も様々です。プロがつくるものをレストランで食べるのか、レトルトのソースなのかでも全く違います。
だから相性がいいかどうかは「パスタの種類による」なんて当たり前じゃないですか。
 
 
チーズもそれだけ種類があるんです。あう/あわないの前に分類や味わいの傾向を知る必要があるのは間違いありません。
 
 
チーズの概論はこちらの記事でご紹介しています。
 
 
 

基本として相性は悪い

 
チーズは1000種類あるとは申しましたが、基本として持っている味わいもあります。塩味と乳脂肪・乳たんぱくの味です。
ほとんどこの3つのみの味に近いのがプロセスチーズです。そしてプロセスチーズはほぼ全てのワインの味わいを邪魔します。
 
 
劇的に不味くなるわけではないので、ピンとこない方もおられるでしょう。
でも想像してください。
あなたの前に2000円と5000円の赤ワインがあったとします。ワインだけで飲み比べたら、結構違いを感じてそりゃ高い方が美味しい。しかし6Pチーズなどを食べながらだとその差はどうでしょうか?大きな違いは感じにくいのが想像できるでしょう。
 
これはチーズの乳脂肪が舌の味蕾をマスクしてしまうから乳たんぱくが赤ワインの渋みを捕まえてしまうからです。
 
 

ワインをおすすめする立場としての「あう」

 
ワインを販売する側の人間として願うのは、皆さまにより美味しくワインを飲んでもらうこと。それぞれのワインの風味が違うのを感じて楽しんでもらうことです。
そういう点で「違いが分かりにくくなる」というのは、「ワインの邪魔をしている」ことに他ならないと考えます。
 
だから立場が違えば「あう/あわない」の言葉の意味が違うこともありえるでしょう。
 
 

中には驚くほどの組み合わせも!

 
ところが中にはこんな理屈は飛び超えて、本能に訴えかけるような「あう」組み合わせもあります。特に強い風味を持つ熟成したナチュラルチーズの方が、素晴らしい相性を感じさせてくれます。
 
チーズとワインの相性シリーズにて、チーズのタイプごとに代表銘柄を一つ、数本のワインと実際に食して検証しています。
青カビチーズ白カビチーズウォッシュチーズときて、今回はハードチーズとワインの相性を検証します。
 
 

ハードチーズとは

 
ハードチーズとはその名の通り固いチーズです。
結構固いセミハードチーズと分けて紹介している文献もありますが、その境界はあいまいなので、今回まとめて扱います。
 
ハードチーズが固いのは、他のチーズに比べて水分量が少ないからです。
 
 

ハードチーズの製法

 
温めたミルクに乳酸菌や酵素を加えて乳たんぱくを凝固させ、ホエイ(乳清)と分けてカードにする。ここまでは他のナチュラルチーズと同じです。
そのカードをさらに破砕・攪拌・加熱してホエイを除去し、プレスして水分を抜きます。高濃度の食塩水に漬けることで、浸透圧によりさらに水分を抜きます。
 
その後乾燥させて熟成を行いますが、他のチーズに比べて熟成期間が長いのが特徴です。
8か月程度なら短い方。長いものだと2年、3年というものもあります。
 
最終的にセミハードチーズは水分が38~46%、ハードチーズは38%以下になります。
 
 

ハードチーズの食べ方と味わい

 
ハードチーズは熟成させるときの一塊が大きいです。中には130kgになるものもあるそうです。
だから販売されるときは小さな塊に小分けしてパッケージされています。日持ちすることからも、比較的扱いやすく入手しやすいチーズです。
 
チーズだけで食べるときは薄く切って食べたり、塊をあえて手で砕いて食べます。砕いた方が断面がざらざらで、旨味感は強いでしょう。
風味や味わいはもちろんそのチーズの種類によりますが、総じて塩味が強くねっとり感は控えめです。
削って粉チーズにして料理に使うことも多いです。
 
 
熟成が進むとものによってはアミノ酸が結晶化してきます。食感がジャリジャリとしたものなり、より美味しいです。
 
クセは青カビチーズやウォッシュチーズに比べると控えめ。チーズ初心者も親しみやすいチーズと言えるでしょう。
 
 

代表的なハードチーズ

 
 
ハードチーズで最も有名なのは、「パルミジャーノ・レッジャーノDOP」でしょう。
イタリアのエミーリア・ロマーニャ州。パルマやレッジョの街を中心につくられます。
最低12か月熟成させるので作るのに時間がかかりますが、比較的手ごろに手に入ります。
旨味やコクが強く、そのまま食べても料理に使っても美味しいチーズです。
 
パルミジャーノ・レッジャーノの弟分的な存在なのが「グラナ・パダーノDOP」です。
イタリアのポー川流域に広く生産地が分布しており、価格も風味もパルミジャーノ・レッジャーノに比べて穏やかです。
イタリアンレストランで粉チーズとして使われるのは、グラナ・パダーノであることが多いでしょう。
 
 
ペコリーノ・ロマーノDOP」は、「ペコリーノ = 羊」の名の通り羊のミルクをつかったチーズです。
マイルドな口当たりが特徴の白色チーズで、クセがなく嫌われにくいでしょう。
「~ロマーノ」の部分は産地により変わります。「~トスカーノ」などもよく見かけます。
 
 
ラクレット」も多くの方がご存知でしょう。スイスのチーズです。断面を温めて溶かし、芋や野菜などにかけて食べるチーズです。
ナッツのような香りがあると言われます。
 
 
チーズの料理として思い浮かべる「チーズフォンデュ」に使われるのは、「エメンタールチーズ」と「グリュイエールチーズ」です。
どちらもクセがなくミルキーでありながらしっかり旨味を持っています。以前試しに安いモッツァレラチーズで代用してチーズフォンデュソースをつくってみたこともありましたが、やっぱり味わいで劣りました。
 
 
コンテAOP」はフランスのジュラ山脈一帯でつくられるチーズで、今回の検証に使用します。
熟成が進むと茶色っぽくなってくるのが特徴で、口当たりはミルキー。非常に硬いチーズで旨味がぎゅっと詰まっています。
 
 
特徴的なオレンジ色が食卓に彩りを添える「ミモレット」。このオレンジ色はアナトー色素によるもので、オランダの「エダムチーズ」と製法が同じです。
直訳すると「半分柔らかい」だそうで、セミハードチーズに分類されることもあります。
チーズダニが住み着いていて、ダニの力で熟成するチーズだそうです。このダニは人体に害はないのだとか。
24か月を超えるような長い熟成を経ると、カラスミのような食感と風味になっていくと言われます。
 
 

「パルメザンチーズ」とは

「Parmesan Cheese」という言葉は英語で、意味としては「パルミジャーノ・レッジャーノ風チーズ」というものです。
「パルミジャーノ・レッジャーノ」は先述の通りイタリアのパルマ、レッジョという地名に由来するブランドチーズです。だからここでしか作ることができません。
しかしその名称が保護される前にアメリカに「パルメザンチーズという名の粉チーズ」が広まってしまいました。日本も同様です。
故にパルミジャーノ・レッジャーノではないハードチーズを粉にしたものが、「パルメザンチーズ」として販売されています。
比べるならやっぱり本物のパルミジャーノ・レッジャーノを削った方が美味しいです。でも保存料が入っているため常温保管できて安価なパルメザンチーズは、カジュアルなイタリアンレストランにはなくてはならないものでしょう。
 
比べるならやっぱり本物のパルミジャーノ・レッジャーノを削った方が美味しいです。でも保存料が入っているため常温保管できて安価なパルメザンチーズは、カジュアルなイタリアンレストランにはなくてはならないものでしょう。
 
 

代表的なセミハードチーズ

 
オランダが原産の「ゴーダチーズ」はよく見かけることでしょう。ブランドチーズというわけではなくチーズの製法であり、世界中で生産されています。
オランダではいたるところで販売されているそうで、表面にワックスが塗ってあるため、塊のままだと年単位で日持ちします。
 
 
チェダーチーズ」もよく目にすることでしょう。こちらはイングランドのセミハードチーズ。ミモレットのようにアナトー色素でオレンジ色に着色されることもよくあります。
ゴーダチーズやチェダーチーズが、様々なプロセスチーズの原料になることが多いそうです。
この2つが特に有名で、他のセミハードチーズはあまり見かけません。

コンテとワインの相性を検証する

 
今回もまずは「チーズとワインの故郷をあわせる」の原則から、ジュラの白ワインを最初に検証しました。
また「コンテチーズは樽熟成したシャルドネと相性がいい」という情報があったので、中でもなるべくコンテに近いナッツのような風味を感じそうなものを選びました。
 
ハードチーズの一つ、コンテとの相性を検証する
 
半面あわなさそうなワインとして、フルーティーな赤ワインを1本。オレゴンのブレンドワインで検証しております。
 
コンテチーズは阪急百貨店のチーズ売り場で買ってきたもの。今回は16か月熟成のものを用意しました。少しアミノ酸の結晶が見られるチーズを薄く短冊状に切って検証しております。
 
 

【Excellent】コンテにあうサヴァニャン

 
今回用意したジュラのワインはこちら。
 

 
「サヴァニャン」はジュラ地方でメジャーな白ブドウ。
オーク樽の中で「産膜酵母」を繁殖させて酸化熟成させるという独特の製法でつくる「ヴァン・ジョーヌ」の品種です。
 
このワインは酸化熟成はさせずに「ヴァン・ジョーヌ」の個性を穏やかにした白ワイン。ブドウのグレードもヴァン・ジョーヌ用よりは低いのでしょう。ジュラのワインとしてはやや手ごろな価格です。
(ヴァン・ジョーヌは平気で8000円以上します)
 
香りからそれほど明確な果実感は感じず、しいて言うなら柑橘や花。酸味が高いわけではないのですが、スマートでややストイックな風味のワイン。いわゆる「ミネラル感」をしっかり感じます。
 
このワインがコンテチーズの味わいを素晴らしくアシストします。
 
 
コンテチーズだけ食べたとき、その旨味は乳脂肪分に覆われて感じます。それでもしっかり旨味を感じるのですが、ワインによってそのベールを取られるイメージ。よりストレートにコンテの美味しさを感じます。
塩味もよりふくらむように感じます。果実味に似た「甘じょっぱい」美味しさに変わるのです。
 
無限に食べてしまいそうになる美味しさです。
 
 

【Excellent】コンテにあう樽シャルドネ

 
やはり故郷のマリアージュは素晴らしいのですが、いかんせんジュラのワインは流通が少ない。到底「どこでも手に入ります」とは言えません。
その点、樽熟成したシャルドネにあうなら、今回ご紹介するワインに限らず代わりのものはいくらでもあります。
 
ただ、この1本を選んだ理由はちゃんとあります。
熟成したコンテにはナッツのような風味とクリーミーな食感を感じます。そんな風味を感じるワインをあわせたい。
 
これは私見ですが、樽熟成したシャルドネの中でもある程度酸味があるものが2,3年瓶熟成したとき、ナッツのような風味を感じやすい傾向にあると考えています。だからカリフォルニアよりは南アフリカやオーストラリア産を選びました。
  

 
上品なヴァニラの甘いニュアンスがある、親しみやすい味わいの白ワインです。パイナップルやメロンなどの熟れた果実の風味は感じますが、残念ながら狙い通りのナッツの風味はあまり感じませんでした。
 
 
それでもコンテチーズとの相性はバッチリ!フォーカル・ポイントの口当たりのクリーミーさが、しっかりコンテの食感を受け止めて、シームレスにつながります
そしてあわせた方が「ナッツ感」を感じます。例えるならローストしたマカダミアナッツ、その余韻に感じるクリーミーさを、このペアリングから感じるのです。
 
 

【Bad】コンテにあわないフルーティーな赤ワイン

 
あわないことも検証するため、赤ワインも一つ用意しました。
果実味主体で渋みをほとんど感じない、チャーミングな風味を持った赤ワインです。
  

 
エヴォリューション・レッドは、オレゴンでサンジョヴェーゼ主体でつくるというちょっと変わったワイン。それだけ聞くと変わった味を想像するでしょうが、難しいこと考えず飲みたいカジュアルな赤ワインとして割とど真ん中の味わいです。
 
これがあわない。チーズに負けてしまっています
ワインを酸っぱく感じてしまう上に、コンテの美味しさも続きません。
 
一緒に食べる・飲むくらいなら、ゴックンして一呼吸以上置いてからワインを飲みたいものです。
 
 

コンテにあうワインを考察する

 
結果としてコンテチーズはジュラ地方のサヴァニャン、樽熟成したクリーミーなシャルドネの両方にあいました。
しかしその「あう」の内容。どのように美味しくなるのかはそれぞれ違います。
 
 

サヴァニャンとなぜ相性がいい?

 
サヴァニャンとあった理由は、乳脂肪の中和と塩味の同調でしょう。
ハードチーズは他のチーズと比べて、水分がすくないだけ脂肪分の割合は高めです。その脂肪分をワインの酸が中和することで、よりはっきりと旨味を感じるようになったのでしょう。強い塩味を美味しく感じさせるのは、ワインのミネラル感が仕事をしたんじゃないでしょうか。
 
その理屈でいえば、スッキリ系白ワインの多くがコンテにあいそうですが、実際はそんなに簡単ではありません。
私が気づけなかった「サヴァニャンがコンテにあう理由」が他にありそうです。
 
 

樽シャルドネとなぜ相性がいい?

 
樽熟成したクリーミーなシャルドネとコンテが相性がいいのは、「似たもの同士は相性がいい」の理屈でしょう。
 
コンテのねっとりクリーミーな食感と樽熟成とマロラクティック発酵(※)によるシャルドネのなめらかな質感。
熟成したコンテのナッツのような風味と、あまり表には出てなかったがシャルドネも持っていたナッツの風味。
 
チーズとワインに共通項があることで、その要素を強調して感じる
「チーズとワインがあうって、こういうことか!」と納得せざるをえない。そんな組み合わせです。
 

※マロラクティック発酵

ワインの醸造工程において、アルコール発酵のあとに起こる・起こす反応。
乳酸菌の働きによりワイン中のリンゴ酸が乳酸に変わります。酸味がまろやかになり、微生物的にワインが安定します。同時にバターやバラのような複雑な風味が生まれます。樽熟成とあわせて、口当たりがクリーミーになります。
赤ワインはほぼ100%マロラクティック発酵が行われます。白ワインはブドウ品種によりけりで、シャルドネは用いられることが比較的多い品種です。

 
 

冷蔵庫にストックするならハードチーズを

 
ハードチーズのいいところは、他のナチュラルチーズに比べて保存性が高いところです。
だから冷蔵庫で何週間と保管できます。
 
 
保管法としては、クッキングシートか、なければアルミホイルで包んでから、ラップやジップロックで密閉するといいでしょう。
保管中、チーズは水分を放出します。それがあまりにこもると良くないカビがはえてくることがあります。かといって乾燥しすぎもよくありません。
 
きっちり保管すれば、割と長期間美味しく食べることができます。
ワインを飲むとき、一切れだけハードチーズをカットしてあわせてみる。美味しかったらもっと切ればいいし、美味しくなかったらまた別のワインを飲むときにする
 
 
そんな都合のいい楽しみ方ができるのは、コンテをはじめとしたハードチーズならではです。
きっと今回ご紹介したワイン以外にも、コンテにあうワインはいくつかあるでしょう。
いつもの晩酌に「チーズとの相性を探求する」という楽しみを加えてみては?





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




YouTubeバナー

-ワインの楽しみ方ガイド
-,