冬の風物詩である「おでん」。お酒は日本酒を思い浮かべがちでしょうが、ワインもまた面白い。
なんでもいいわけではありません。カツオ出汁のうま味とみりんの甘味が相性のカギを握ります。
さらに手頃な料理であるおでんの相手。普段飲み価格であることは必須です。
寒い季節の夕食をちょっと華やかにする、ワインとおでんの相性について実験と考察をご紹介します。
なんでもいいわけではありません。カツオ出汁のうま味とみりんの甘味が相性のカギを握ります。
さらに手頃な料理であるおでんの相手。普段飲み価格であることは必須です。
寒い季節の夕食をちょっと華やかにする、ワインとおでんの相性について実験と考察をご紹介します。
おでんの歴史と地域性
おでんは地域性や家庭ごとにダシや具材に違いが表れる食べ物です。
味付けが違えばワインとの相性の良し悪しも変わります。この記事を書くにあたり、おでんの歴史と地域性について調べてみました。
ただし具材については「全てにある程度以上あう」ことを求めます。
具材によって相性に違いは出るでしょうが、「おでんの大根にはこのワイン」なんて使い分けは現実的ではありません。おでんは一通りの具材を食べるもの。だから全部にあわないとダメ!
おでんのルーツとは
練り物で有名な「紀文」さまのHPによると、おでんの語源は「田楽」の女房言葉。
田楽とは串に刺した豆腐の料理です。
その歴史は室町時代に始まり、江戸時代には屋台で楽しむ料理となっていたようです。
しかし現在のような煮込みおでんのスタイルであったかは、諸説あるのだとか。
大正時代には関西に伝わり、現在の煮込みスタイルである「関東炊き」として広まったといいます。
戦後は1980年代からのコンビニエンスストアの広がりに合わせて、おでんは我々の日常に溶け込んでいったのでした。
※Wikipediaの情報をもとにしております。
おでんダシの地域性
ダシの材料は、関東ではかつお節と昆布、関西北陸では昆布、中国四国では煮干しや焼きあごを用いるそうです。
ダシの旨味がおでんのカギであることは、言うまでもないでしょう。
また、関東では濃口醤油が使われることが多く、関西では薄口醤油の方が多いのだとか。
これはうどんのつゆと同じですね。
さて、これからが問題。みりんを加えるか否か。
調べた限りでは、「関東風おでん」「関東炊き」のレシピでは入れているものが多く、「関西風おでん」で検索すると入れないものが多くみられます。
今回つくったおでんは関東風?
今回検証に用いたおでんは、私が好きな味に関東・関西折衷でつくりました。
出汁は昆布とかつおの合わせ出汁。
味付けはみりんと薄口しょうゆと塩。
全て目分量。
どちらかと言えば関東風に近いものですが、薄口しょうゆを使い塩も併用しているので、ダシの色は薄目です。
おでんの具材と地域性
今回入れた具材は次の9種
大根、たまご、牛すじ、こんにゃく、ちくわ、がんもどき、厚揚げ、豆腐、昆布。
牛すじや豆腐は少し珍しいものでしょうか。
調べてみると地域によっては非常に多様な食材でおでんをつくるのだとか。
北海道のカニやホタテ、静岡県の鰹のへそ(心臓)、京都の生麩や湯葉、北陸のくるま麩、熊本の馬すじ肉、沖縄の豚足など。
おでんを鍋料理と捉えるなら、このバリエーションの豊かさにも納得です。
おでんにあいそうなワインを類推する
今回は4種類のワインで検証を行いました。選んだポイントは2つ。
〇おでんの出汁との相性が良さそうなもの
〇冬に自宅で気軽に開けたいもの
おでんをつくる日に飲みたいワインの価格レンジ
『おでん』を高級料理だと考えている方は少ないでしょう。きちんとつくれば手間はかかるけれど、材料費はそう高くありません。
「特別な日」の料理というよりは、「日常の晩御飯」のなかの1品ですよね。
だからあわせるワインも特別な日のとっておきじゃなく、いつでも気軽に開けれる普段飲み。
具体的に3000円以下に絞って選びました。
熟成ブルピノにあいます
以前「サヴィニー レ ボーヌ 2007 ドメーヌ テール ジュレス」というワインで検証したところ、おでんダシのうま味感を増幅してくれて、非常に満足のいく結果となりました。
ピノ・ノワールは旨味感が表れやすいブドウ品種です。ブルゴーニュやドイツといった冷涼産地の果実味が強くないものの方が良く、なおかつ熟成して酸味のフレッシュさがなくなっていた方がいいでしょう。
3、4年前こそ4000円台半ばで飲めましたが、今やそんな値段で熟成した村名ブルゴーニュは出てきません。なので今回は候補から外しています。
続いて味わいの面からおでんにあいそうなワインを選びます。
1種類目 フランケン産ジルヴァーナー
以前の経験則から、ジルヴァーナーがよくあうことはわかっていました。
ジルヴァーナーはドイツの土着品種で、あまり派手な風味はない多産品種です。フランケン地方のものが評価が高く、濡れた石を思わせるようなミネラル感を持ちます。これがカツオ出汁の旨味をひきたててくれます。
ミネラル感ならリースリングという選択肢もあります。比べるとジルヴァーナーの方が酸味が穏やか。おでんは油脂はあまり含まないのと、寒い季節に楽しむという前提から、酸味がおだやかな方を選びました。
ワインのみでジルヴァーナーをテイスティング
ジルヴァーナーの中からこの1本を選んだのは、当店に在庫があるもののうち3000円以下であるという点から。正直このシュタインマンにした理由は薄いです。
KATAYAMA
オレンジや黄色の花のような控えめなアロマ。ごくわずかな発泡あり。フレッシュで引き締まった酸味。余韻にほのかな苦みとチョークのようなミネラル感が続く。ブラインドテイスティングでもまず迷わないだろう、典型的なジルヴァーナー。
2種類目 南アフリカのピノタージュ
2つ目は頂いた情報。Zara🍷ワインエキスパート 様から教えていただきました。
クラインザルゼ ヴィンヤードセレクションでした。ワインの甘みと出汁の甘み、練り物とワインのコッテリ感があった気がしますが不安になってきました。
— Zara🍷ワインエキスパート (@zarathustra1972) October 24, 2023
クライン・ザルゼがつくるこのランクのピノタージュは、しっかりと果実の凝縮感がありますが、樽香は抑えて作っているタイプ。アルコールは高めですが渋味は控えめ。
Zara様がどのようなおでんとあわせたのかは分かりませんが、出汁の甘味に触れておられることからそれほど違いはないかと予想します。
同じ価格帯のものとして、カノンコップがつくる「カデット・ピノタージュ」もあります。こちらはもう少し上品につくられている印象ですが、相性の点では同様の結果が期待できるでしょう。
ワインのみでピノタージュをテイスティング
KATAYAMA
若干のスモーキーさに包まれた、よく調和したベリー香。甘いヴァニラ香はほとんど感じません。2020VTはアルコール15%表記ながらそれほどの強さは感じず、スムースで心地よい口当たり。タンニンは飲みこんだ後にわずかに残る程度。重層的な余韻が長く続きます。
3種類目 イタリアのプリミティーヴォ
おでんは味付けとしてはあっさりとした料理の部類でしょう。油脂はすくなめで「こってり」ではありません。
しかしみりんを使うなら糖分が味わいの厚みとなります。
味付けが繊細な和食にはアルコール度数の低い繊細な白ワインと考えがち。しかし料理に砂糖を使う和食には、実は高いアルコールのものがバランスをとり、より良い相性をみせることもあるのだとか。実際日本酒のアルコール度数は15%以上のものがほとんどです。
それに寒い時期は酸味が高くスッキリしたものよりも、酸味が低くまったりしていてちょっと甘味を感じさせるようなものの方が美味しく感じがち。
リーズナブルなものが多い、イタリアのプリミティーヴォを選びました。タンニンが穏やかな点でも、油脂が少ないおでんに期待できます。
もしこの相性がいいとしたら、同じイタリアの赤ワインとしてネグロアマーロやモンテプルチアーノなども可能性があるでしょう。もちろんカリフォルニアのジンファンデルも、タンニンが少ない手頃なものはあうはずです。
ワインのみでプリミティーヴォをテイスティング
プリミティーヴォは低価格帯ではそれほどワインごとの差は感じにくいワインだと考えます。なので何種類もあるなかからこの1本をチョイスした理由はとくになし。他のプリミティーヴォで代わりはできるでしょう。
KATAYAMA
凝縮感のあるよく熟したベリーの香りは甘やかで、この品種らしさを感じます。ほどよく重量感のある口当たりで酸味はほぼ感じず、なめらかに舌を包む印象。プルーンのジャムとダークチョコレートのようなビター感を伴って余韻に滑らかにつづきます。
4種類目 ローヌ・ブラン
アルコールが高く酸味がまろやかなワインというくくりで考えて、ローヌ・ブランも選んでみました。
ローヌの白品種としてはヴィオニエが有名ですが、アロマティック品種であるヴィオニエ単一では繊細な香りのおでんには強すぎるでしょう。
グルナッシュ・ブランやマルサンヌ、ルーサンヌといった他のローヌ白品種が主体のブレンドであれば問題ないはず。
まったり滑らかな質感を期待します。
こういったタイプはあまり冷やさない方が美味しく楽しめます。
冬場に白ワインをあまり飲まない方は、冷やして飲むワインは体が冷えるというのもあるのでは?先ほどのジルヴァーナーは冷やして飲むものですが、もう1本の白は高めの温度で飲むものを選びました。
酸味がひくくボディしっかりという点では、スペインの白ワイン、ビウラやベルデホも候補にできるかと思います。しかしカツオ出汁の風味と樽香がミスマッチになりそうな予感から避けました。
ワインのみでローヌ・ブランをテイスティング
こちらのローヌ・ブランはステンレスタンク発酵・熟成。樽香の効いたものに比べると、魚介との相性が悪くないことが多いです。(いろいろ例外あり)
輸入元さんのおすすめによると、ブイヤベースのような魚介のスープにあうとのこと。おでんは昆布とカツオの出汁で具材を煮込んだスープだと言えなくもない(暴論)なので期待できます。
KATAYAMA
13℃でテイスティングスタート。コンポートにした黄桃やよく熟した洋ナシのアロマ。思ったよりヴィオニエが効いていて豊かなアロマ。期待通りなめらかな質感で、酸味の刺激は感じない。飲みこむときに喉でアルコールを感じる。
※ラベル表記によると2022VTもアルコール13%。冷涼だった2021VTと同じとはあまり考えられません。バックラベルのヴィンテージ表記もないことから疑ってしまいます。実際は14%寄りだと予想します。
日本の法律でアルコール度数の表記は±1%の誤差が許されています。
実食!おでんとワインの相性を確かめる
それではおでんとワインの相性を確かめていきます。
基本的にはなにもつけず、おでんのみとの相性。まだ口におでんが残っている段階でワインを口に含み、その味わいがどうだったか、余韻としておでん・ワイン双方の風味が心地よく残るかを検証します。
ジルヴァーナーとおでんの相性は〇
おでんとワイン。自然と往復できる調和感はあれど、特筆すべきほどの相性じゃない。
1日目だったのもあってか、おでんの具材にダシがあまり染み込んでいません。
それもあってか、大根などは特に美味しく感じるけど、他は悪くないけど普通。「あう」というほどじゃありません。
しかしダシ自体はあう!ダシとワインを口の中で混ぜると美味しい!こうなるとおでんとの相性うんぬんじゃなくなってしまいます。
ピノタージュとおでんの相性は〇~◎
頂いた情報どおり、ピノタージュはなかなか優秀な相性を感じさせてくれました。
特によかったのが大根と昆布!ワインをより甘やかに滑らかに感じさせてくれます。
難しかったのは玉子。少しワインの酸味が尖って感じます。これはどのワインも共通することで、玉子の硫黄分が影響するものと考えます。
プリミティーヴォとおでんの相性は〇~◎
プリミティーヴォ強い!
悪いところは不思議なほど全く出てきません。
どの具材を食べても、そのあとにプリミティーヴォを飲めば、余韻はワインの甘やかさで終わります。
特に厚揚げなどは、すごく自然な質感でワインと一緒に消えていきます。
相乗効果というほどではありません。おでんがワインによって美味しくなっている印象はなし。ひたすらプリミティーヴォの存在感が強い。
一方でプリミティーヴォ好きの方がアテをおでんにする。全く問題ありません。満足度の高い晩酌となるでしょう。
ローヌ・ブランとおでんの相性は△~〇⇒◎
どの具材ともあまり調和感がなく、おでんを食べてワインを飲むと酸味が少し強く感じるか苦みが強調されて残ります。
特にちくわやがんもどきといった加工食品との相性が厳しく感じました。
ただ致命的に不味いというほどではないので、樽リッチなシャルドネを選ぶよりはベターな選択のはずです。
しかしこれが練がらしで化けた!
からしの後を引くピリッと感がワインでいい感じにリセットされ、ワインも果実の甘味が強調されて感じます。これは具材を問わず良くなりました。
ヴィオニエとからしにひょっとすると可能性が潜んでいます。
結論:おでんには甘やかで渋みの少ない赤ワイン
今回の検証では、昆布とカツオ出汁にみりんを使った甘辛いおでんに、甘やかで渋みの少ない赤ワインがよく合いました。具体的にはピノタージュとプリミティーヴォです。
ピノタージュの方がバランス感はよく、おでんとワイン双方の味を感じます。対してプリミティーヴォはおでんによって風味をほとんど変えない強さを持つので、単純にこのワインを好きな方には良いアテになるはず。
どちらのワインも地域・品種でスタンダードな風味なので、別のワインで代替もきくでしょう。
一方で練がらしをつけて食べる場合は、ヴィオニエの風味が効いたローヌ・ブランが好相性。からしとワインの風味がまろやかになります。この変化はおどろき!ただし「おでん」という要素が要らない可能性もあります。
今回はあくまで関東風(?)な出汁からつくったおでんでの検証結果です。
みりんを使わない関西風のおでんだと、ジルヴァーナーがもっと活躍したと考えられます。味噌をつけて食べる場合も相性が変わるでしょう。
コンビニやレトルトパックのおでんとの相性は保証しかねます。
「おでんはワインにあう!」なんてことはいえません。でもたくさんの種類の中には、おでんにあうワインも確かにあります。寒い季節、おでんとワインであったまりましょう。