パーカーポイントとは、アメリカのワイン評価誌『ワインアドヴォケイト』において、評論家がつける点数のことです。
この評価誌の創刊者、ロバート・パーカーJrの名前にちなんで、「パーカーポイント」と呼ばれます。
パーカーポイントはどのように採点されているのか、高得点ワインは本当に美味しいのか。
ワイン業界に多大な影響を及ぼしたパーカーポイントについて、その成り立ちからご紹介します。
ワインの価格を決めるパーカーポイント
例えばシャトー・ポンテ・カネというボルドーワイン。
楽天の最安値を調べると、2011年は約17,000円強なのに対し、2009年は約40,000円です。
(2023年3月25日現在)
どうして同じ銘柄のワインが、ヴィンテージが2年異なるだけで倍以上の価格差があるのか。
それは2009年が高評価、パーカーポイント100点をとっているからです。
ボルドープリムール
ボルドーワインは独自のオークションシステムを持っています。
「ボルドープリムール」と呼ばれ、毎年の春ごろ通常ならボルドーにてその前年に醸造され熟成中のワインが試飲されます。
およそ2年後にリリースされるその熟成中のワインの一部を、先物取引としてオークションにかけるのです。
場合によっては正式なリリース時に買うよりもワインを手ごろに手に入れることができます。
そのワインは多くの人に飲まれますが、だれでも試飲できるわけではありません。
しかし輸入業者などを通すことで、自国にいながら誰でも購入することができます。
そこでみなが参考にするのが、ヴィンテージのレポートであり、ワイン評論家の評価です。
素人は飲めないの?
実は株式会社徳岡さんなどは、プリムールのサンプルを日本に取り寄せて、一般愛好家も参加できる形の試飲会を行っています。
(※現在はコロナウイルス感染症の影響もあり、目途はたっていません)
私は一度だけ参加したことがあります。
ハッキリ申し上げると、私には何もわかりませんでした。
ボルドーの赤ワインは、通常18か月程度の樽熟成をしてから瓶詰されます。その必要がある、長期間樽熟成した方が美味しいからするのです。
それを途中で抜き取って飲むわけですから、当然完璧な状態ではありません。
飛行機で旅をしてくるので振動で暴れていますし、タンニンも荒々しいものが多いです。
確か50種類くらい試飲して、素直に「美味しいな」と思えるのが1本だけでした。それは決していいワインが無かったのではなく、私に判別するための経験が足りなかったのです。
ワイン評論家は、自身の経験をもってその不完全な姿から熟成後の味わいを推測し、採点をします。
著名な評論家はほとんどみな招待されていますので、他の評論家と比べられるわけです。
プリムールの試飲に素人が参加できる可能性もありますが、経験豊富でないと判断が非常に難しいと言えます。
プリムールで名を挙げたパーカー
ワイン・アドヴォケイト誌が評価されるようになったのは、ロバート・パーカーJr.のテイスティング能力故です。
ボルドーの1982年ヴィンテージ。今でこそ1980年代を代表するグレートヴィンテージと認識されていますが、プリムールの時点でそれを見抜いたのは、ロバート・パーカーJr.ただ一人だったと言われます。
多くの評論家が「ブドウが熟しすぎており、熟成能力はないだろう」と判断する中、パーカーは素晴らしいヴィンテージになると発表。
他の評論家と反対の評価を下すのは非常に難しいことだったでしょうが、パーカーは自分の味覚を信じぬき、やがてそれは世界に認められたのです。
これが、ロバート・パーカーJr.が『神の舌を持つ男』として評価されるようなったきっかけでした。
このロバート・パーカーJr.とは、どのような人物なのでしょうか。
パーカーポイントの成り立ち
ロバート・パーカーJr.は1943年、アメリカ合衆国のメリーランド州ボルチモア生まれ。
大学で歴史と美術史を学んだあと、家族の意向もあり法科大学院に進み、弁護士になります。
ボルチモアの農業信用金庫に勤め、弁護士として11年間働きました
ワインとの出会いと評論誌
パーカーがワインに目覚めたきっかけは1967年、現在の妻とフランスを旅した時だと言います。
弁護士として働く傍ら、彼はワインに関する記事を書き始め、1978年ついに自らのワイン評価誌を出版します。
ザ・ボルチモア-ワシントン ワイン・アドヴォケイト誌、後のワイン・アドヴォケイト誌です。
その成功故、1984年には弁護士を辞めて、ワインアドヴォケイト誌に専念するようになりました。
広告に頼らないワインアドヴォケイト誌
ロバート・パーカー氏が自身で評価誌を出版した理由。
そこには、「既存の評価誌では消費者の信頼は勝ち取れない、消費者のためにならない」という不満がありました。
1970年代、パーカーはラルフネイダーという政治活動家の影響を強く受けていました。
それにより、彼は当時のワイン評論が、ワイナリーや販売店の影響を受けていると考えていました。
広告主のことは悪く書けない、公正で自由な評価ができない、などということです。
彼は広告収入に頼らず、ワインについて公平な意見を述べることができる評価誌こそが、消費者の利益になると考えました。
創刊から現在に至るまで、ワイン・アドヴォケイトの運営は、購読者の支払う資金によってのみ賄われています。
この姿勢が評価され、数ある評価誌のなかでも最も信頼される地位を築く大きな要因となりました。
近代ワイン評論の父
ワインアドヴォケイト誌の広告に頼らないスタンスと、100点満点によるわかりやすい評価ゆえに、一時期は絶大な信頼を得るようになりました。
(それまでのイギリス方式は、20点満点による評価が中心でした)
ワインアドヴォケイト誌が手元にないと、今飲んでいるワインの味がわからない
そんな冗談が言われるほどになったのです。
当初はレビューを一人で担っていたロバート・パーカー氏ですが、世界中で高品質なワインがつくられるようになり、一人でカバーすることは不可能になりました。数名のレビュアーとともに分担して評価するようになったのです。
その「パーカーの弟子」といえる立場の評論家には、パーカー氏と共に働いたのち独立した人物もいます。主要な評価誌「Vinos」のアントニオ・ガッローニ氏及びニール・マーティン氏や、「若い頃の自分を見るようだ」とほれ込んで迎えたジェブ・ダナック氏など。
ワイン評論の先駆けであった点、そして後進を育てた点から、「近代ワイン評論の父」と呼ばれています。
パーカーポイントがワイン業界に与えた影響
ワインアドヴォケイト誌に掲載されるワインは、何も1万円を超えるような高級ワインばかりではありません。
当時は「美味しいワインが飲みたければ、ワインアドヴォケイト誌を読め」というような状態。
そこで1万円2万円するようなワインと同じ点数を、2000円のワインが獲得していたら、飲んでみたくなるものでしょう。
シンデレラワイン
「シンデレラワイン」という言葉を耳にしたことはありますでしょうか?
パーカーを始めとした評論家が高得点を付けたため、流通価格が一気に高騰し、無名のワイナリーがまるで一晩にしてトップワイナリーの仲間入りをすることがあります。
そんな無名だが素晴らしいワインをつくる生産者を数多く見出したとして、彼の功績は多方面から評価されています。
実際、ロバート・パーカーは、フランス大統領から2度、イタリア大統領から1度勲章を授けられています。
パーカリゼーション
「パーカーポイント90点以上をとればワインが売れる」
特にその影響の強かった1990~2015年くらいまでの間、ワインの生産者がパーカーポイントの高得点が狙いやすいスタイルのワインをつくるようになっていきました。
収穫量を抑えた栽培で果実が完熟したから収穫することで、凝縮感が高いワインをつくる。そしてそれを新樽をふんだんに用いて醸造する。
パワフルでアルコール度数の高い「ビッグなワイン」をつくる生産者が増えたのです。
実際、そういったワインは一口飲んだ時のインパクトが強いため、今も人気です。
ただしこのスタイルは「どのワインを飲んでも同じような味がする」「飲み疲れてしまう」という恐れがあります。
近年はそれらを「パーカー的なワイン」と呼び、それとは対照的なワインをつくる動きが盛んです。
醸造技術の向上
パーカリゼーションのスタイルが否定されつつあると言って、彼の功績が無くなるものではありません。
パーカー氏が主張した収量制限、収穫時期の見極め、ワインの選別、醸造所の衛生管理など。それらによりパーカーポイントで高得点を取る、純粋に質の高いワインが増えたのは事実です。
もちろんそれは個々の生産者の努力であり、全てパーカー氏の功績ではありません。
しかし、「高得点をとれるワインをつくれば高く売れて儲かる」という仕組みは、大いに生産者を後押ししたことでしょう。
ロバート・パーカーJr.引退
ロバート・パーカーJr.は2019年の5月、引退を表明しました。
以前からパーカー自身のワインコメントは減ってきており、ワイン・アドヴォケイトのテイスターチームが運営を担っていましたので、そろそろだろうという話はでていました。
現在はグルメガイドで有名なミシュランガイドが筆頭株主であり、リサ・ペロッティ・ブラウン氏が後任の編集長となりました。
パーカーポイントの採点基準
パーカーポイント100点満点の内訳は以下の通りです。
(Robert Parker.com参照)
ワインの持ち点・基本点
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50点
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ワインの色と外観
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5点
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アロマとブーケ
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15点
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風味と後味
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20点
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総合評価と熟成ポテンシャル
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10点
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《ワインの色と外観》
ワインの見た目から判断できるワインの健全さなど。近年の醸造技術の向上により、たいていのワインに4-5点がつくそうです。
《アロマとブーケ》
アロマ(ブドウ由来の香りと醸造由来の香り)とブーケ(熟成由来の香り)の強さ、豊かさや複雑さに加え、醸造の欠陥に由来する香りがないか、健全な香りかも評価されます。
《風味と後味》
風味の強さやバランス、味わいのきれいさ、後味の深みや長さももちろん重要です。
《総合評価と熟成ポテンシャル》
ワイン・アドヴォケイト誌に掲載されるのは、リリース直後のワインが大半です。それらは、テイスターの経験に基づきその熟成のピークを予想して、ポテンシャルとしても加点されます。
パーカーポイントの評価には、「90-93点」や「95+点」のような点数も見られます。
これについてRobert Parker.comに問い合わせたところ、次のような回答をもらいました。
(90-93)点のような評価は、主にバレルテイスティングをした際の評価で、まだ確定していないものに用いられる。
95+点のような評価は、ボトルの中での熟成により、将来的に評価が上がる可能性がある。
また試飲したボトルのコンディションが悪かったと考えらるときなどで、”?”がつく場合もある
この点数がどれくらいのワインを表すかについて、次のように定義されています。
◆ 100~96点 Extraordinary【格別】
◆ 95~90点 Outstanding【傑出】
◆ 89~80点 Above Avarage to Excellent【かろうじて並以上から優良】
◆ 79~70点 Average【並】
◆ 69~60点 Below Average【並以下】
パーカー高得点ワインって美味しいの?
一番気になるのはここでしょう。
「パーカーポイントを、自分のワイン選びの基準にしていいの?」
結論から申し上げると、「自身の好みや選ぶワインのジャンルによっては有用だが、盲目的に信用するのは危険」です。
パーカー高得点を取りやすいワイン
パーカーポイントで高得点を取りやすいワインは、一言で言うなら「濃いワイン」です。
凝縮感があればそれだけワインに熟成ポテンシャルがあることも多く、点数を稼げるからです。
(※必ずしもではありません。特にピノ・ノワールは違います)
手頃ながらパーカーポイント90点以上を獲得するワインは、スペインの濃厚な赤ワインや、極甘口のデザートワインが多いです。
つまり大雑把に言えば濃厚な赤ワインがお好きな方は、パーカーポイント参考にすると好みのものが見つかりやすいでしょう。
ただし、パーカー氏だけでレビューしていたころならともかく、今は10人ほどのレビュアーが分担しているので、この傾向も絶対ではなくなってきています。
ボルドーの古酒を選ぶなら
ボルドーワインは古酒の流通も非常に多いです。
それゆえ、ボルドーの高級ワインに関しては、プリムールで販売前に評価するだけでなく、3回4回と同じワインがレビューされていることがあります。
そして飲み頃予想などもコメントされています。
古いワインを選ぶ場合は、特に評論家の評価を参考にしたいところでしょう。
ヴィンテージチャートだけでは、そのワイナリーが何らかの理由でいいワインをつくれなかったり、逆に難しい年でも素晴らしいできだったりといった個々の事情まではわかりません。同一ヴィンテージ、同一地域のワインを何十種類と飲み比べてのレビューは、信頼に値するでしょう。
他の評価誌と比べてもレビュー数の多いワインアドヴォケイト誌は、古酒を選ぶ際には大変参考になります。
飲み頃に注意
気を付けるべき点を挙げるとすれば飲み頃でしょう。
若いヴィンテージのワインでパーカーポイント90点台後半がついているようなものは、かなり寝かせないと真価を発揮しないことが多いです。
一概には言えませんが、赤ワインなら強すぎるタンニンと酸味、白ワインなら苦味となって現れがちです。
例えばこちらのリースリング。
飲み頃予想は2024-2040年となっています。
ワインアドヴォケイト誌の飲み頃予想は、日本人の味覚にはやや早めに感じられることが多いので、なるべくならもう少し待ちたいところです。
グラスだけに価値を求めるか否か
広告を拒否し、ワインの味わいのみに点数をつけるパーカーポイント。
それはワイングラスに注がれたその液体のみに価値を求めると言ってもいいでしょう。
ワインについてずっと昔からある議論。
「ワインにうんちくは必要か否か」
あなたがもし「どこのワインだとかどんな賞をとったなんて、ごちゃごちゃした情報はいらない。おれはこのグラスのみに集中したいんだ」という主義の方なら、ワインの価格や産地や品種などに関わらず100点法で採点されるのは、わかりやすくていいでしょう。ワインが選びやすくなるかもしれません。
一方で「どんな人がどんな思いでこのワインをつくっているか。どうしてこんな味わいになるのかといったストーリーまで含めて、この一杯を楽しみたい。舌だけじゃなくて脳で味わうんだ」という方には、ひょっとしたらワインに点数をつけること自体に違和感を覚え始めるかもしれません。
そういう方にはジャンシス・ロビンソンMWが運営する通称「パープルページ」の方がしっくりくるかもしれません。
ワインアドヴォケイトを利用するには?
ワインアドヴォケイト誌は以前の雑誌形態から、今はWeb上の情報ポータルがメインとなりつつあります。
購読料、利用料によって運営されているのですから、無料で手に入る情報は限られます。
個人利用なら月間13ドルから始めることができます。
当店のようにワインアドヴォケイト誌のレビューを掲載するには、企業向けの契約をする必要があります。
30万をこえるワインのテイスティングレポートの他、ヴィンテージチャートやワイン関連ニュースなどを閲覧することができます。
パーカーポイントの点数だけでなく、そのコメントや飲み頃予想などの膨大な情報へアクセスできるのが魅力です。
あなたにとってのパーカーポイントを
ある程度自分の好みが分かった方が、ワイン選びの参考にするなら、ワイン選びの決め手としてパーカーポイントは参考になるでしょう。
一方、ワイン初心者の方が点数だけを目安に選ぶとすれば、「なんか思ってたのと違う」となってしまうかもしれません。
少なくとも「このワインは94点もとっているんだから美味しいはず!やっぱり自分はワインの味わからんなぁ」なんて思う必要はありません。
手頃でもパーカーポイントが高いワインを飲んでみて、逆にそこそこの価格なのに評価が低いワインを飲んでみて、自分なりの「パーカーポイント評」と決めればいいのです。
因みに私の個人的な好みの話をするなら、パーカーポイントの趣向とはかなり違うと感じているので、プライベートのワインを買う時は全く見ません。そのくせ、古いワインを買う時はしっかり参考にします。
ワイン評論誌はワインアドヴォケイト誌だけではありません。
昔からライバル誌であるワインスペクテーター誌をはじめ、先述のVinosやジャンシス・ロビンソン.com、南アフリカに強いティム・アトキン、ジェームズ・サックリング、ワインエンスージアスト、イギリスのデキャンタ、イタリアのガンベロ・ロッソ、ドイツワインで信頼できるゴー・ミヨなどなど。
日本のリアルワインガイド誌も忘れてはなりません。
自分の好みにあったワインに高い点数をつける評価誌が見つかれば、それに越したことはありません。
『ワイン評価誌ソムリエ』が現れてくれるのを、私は心待ちにしています。
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