ワインのつくり方

用語解説 『除梗』と『全房発酵』 知ってるとワイン通ぶれるかも!?

2019年10月3日

ワインを飲んでて「同じ赤ワイン、同じ品種なのに、どうしてこんなに味が違うんだろう?」と不思議に思ったことはありませんか?

それを知る手掛かりは、「テクニカル」つまりワインの栽培・醸造に関する情報として記載されています。

「ワインオタクだけが知っているような専門用語がわからなくたって、ワインを飲めるじゃん」という考えを否定するつもりはありません。
しかし「この2つのワインは栽培方法のここが/醸造がこう違うので、味わいがこう変化するはずだ」という知識をもとに、実際にワインを飲んで感じる。

 

それを積み重ねればもっと「ワインがわかる」ようになってきます。
高価なワインがなぜ高価なのかを知って期待して飲めば、その期待に応える・超える出来だったときの満足感はより大きくなります

ワインがもっと楽しくなります。もっと知りたくなります

だからこそ、このブログでは難しい専門用語をできる限り細かくかみ砕いて、実例を提示しながらご紹介していこうと考えているのです。
当ブログはワインの通販ショップである葡萄畑ココスが運営しています。説明した味の違いについて、具体的なワインで実例を提示できるのが、ワインの専門書にはない強みだと考えます。

今回ご紹介する専門用語は『除梗』『全房発酵』。この2つは対義語で、「除梗しない」のが「全房発酵」です。

 
話は変わりますが、全国のワインショップや酒屋で、そろそろボジョレー・ヌーボーの予約が始まっていることでしょう。11月の第3木曜日が解禁日です。
実はボジョレー・ヌーボーは「部分的な」全房発酵なのです。だからこの時期にご紹介ようと考えた次第です。それでは『除梗』『全房発酵』とは何か。知って感じてみてください。
 

『除梗』とは?

 

『除梗(じょこう)』とはその名の通り『梗』をとること。『梗』とは果梗、つまりブドウの茎、粒がついている軸の部分のことです。
原語ではegrappageエグッラパージュと言ったり、destemming(英語)、eraflage(フランス語)と表記されることもあります。

『全房発酵(ぜんぼうはっこう)』とは除梗を行わずに、この茎がついたままワインを醸造することを言います。
Whole Bunch Fermentationと表記されることもあります。

除梗はブドウを収穫し、破砕の前に行われます。
基本的な醸造の流れは、醸造工程について簡単にご紹介した記事をご覧ください

除梗した後のシャルドネの果梗

 
ワイナリーには除梗を行う機会があります。

Wine Chic Travelより引用

仕組みは上のイラストのとおり。
ブドウの粒が抜ける穴のあいたドラムが回転することで、茎からブドウを外します。

除梗のあとすぐに破砕、つまり粒をつぶすこともあります。
一方で除梗したあともう一度選果を行うところも多くあります。

除梗後に選果をする場合は、粒だけなのでより正確な選果ができます。
一方、房のまま選果をするのは、粒の裏まではよく見えないので完全ではありません。

選果のしやすさが除梗のメリットの一つです

白ワインは破砕後すぐに果汁を絞るので、果梗の影響はほとんどでません。
赤ワインは全房発酵の場合、果皮や種と一緒に果梗を果汁に漬けるので、味わいに影響します。

除梗するかしないかは、赤ワインの醸造の際に選択する醸造方法です。手で収穫する場合、除梗するかどうかは1か100かではありません。
例えば「全体の20%は全房発酵」というような醸造方法をとることがあります。
これは畑のある部分のものは除梗せず、他の部分は除梗して別々に醸造し、それらを最後に1:4になるようにブレンドして仕上げているということです。
 

なお、ブドウを機械収穫する場合は、収穫機械でブドウの粒を叩き落とすようにします。

つまり収穫の時点で除梗されているので、全房発酵という選択肢はありません。

『全房発酵』で味わいはどう変わる?

 

では除梗する・しないでどのような味わいの違いがあるのでしょうか。

そもそも、ブドウを食べる際に軸も食べる人はまずいないでしょう
「果梗なんかいれて美味しいの?」というのが素朴な疑問ではないでしょうか。

日本の食ブドウで見かけるような青い茎を入れる生産者はいません

全房発酵に用いるには「成熟していない」からです。

ブドウには2種類の成熟があると言います。
分析的成熟」と「生理的成熟」です。そして「生理的成熟」の方が後に訪れます。

ブドウは主に開花からの積算温度によって、糖度があがり酸度が下がっていきます。それらが数値で表せる「分析的成熟」です。
通常はこの分析的成熟を指標に、「糖度21度になったら収穫しよう」などと決めるのです。

しかしその段階ではブドウの茎は青いまま。それが次第に茶褐色になり、ブドウに十分なフェノール成分が蓄積されると、「生理的成熟」を迎えます。
タンニンの質が高くなり、量自体は少し減ります。香りにも深みが出ます。

なので生理的成熟を「風味の成熟」と呼ぶこともあります。

全房発酵にはこの「生理的成熟」を迎えたブドウのみを用いる必要があります。
でないと茎に由来してメトキシピラジンという青臭い風味をもつ物質が、ワインに移ってしまうからです。

 
 

メトキシピラジンは適量なら清涼感を感じる成分で、ソーヴィニヨン・ブランの重要な香りです。
詳しくはソーヴィニヨン・ブランの紹介で。

 
カベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランという品種はこのメトキシピラジン由来の青い風味を感じやすいのが特徴です。
適度なら品種の個性として魅力的ですが、過剰であれば明らかな欠点です。なのでカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランではまず全房発酵は行いません。100%除梗してしまいます。

主に全房発酵を用いるブドウは、シラーやガメイ、そしてピノ・ノワール。特に醸造家の哲学やテクニック、ヴィンテージの影響が大きく表れるのはピノ・ノワールなので、今回はピノ・ノワールに絞ってご紹介します。

ブルゴーニュのスター生産者で、高い全房発酵率が特徴のドメーヌ・デュジャック。そのジェレミー・セイスは
全房発酵の方が風味の複雑さとタンニンのシルキーさが増す。ブドウの強い酸味をまろやかにし、強すぎる果実感をフレッシュにしてくれる。」と語ります。

しかし「茎を入れればいい」という単純なものではなく、ジュヴレ・シャンヴェルタンの畑では少な目にするなど、状態を見ながら工夫しているようです。

 
スパイスのような風味を感じる」という生産者もいます。
また、アントシアニンが他のブドウに比べて少ないのがピノ・ノワール。果梗からでるタンニンはそれを支えて、味わいのストラクチャーを補強してくれるとも言われます。
 

醸造に積極的に果梗を使う生産者は、先のデュジャックのほか、ルロワやドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)などが有名です。そのDRCで修業したリッポン・ヴィンヤードのニック・ミルズもまた、積極的に梗を使う生産者です。

またエリック・エキシエは「全房発酵をすると少しアルコール度数が下がる」と言いますが、これに関しては「そんなことはない」という専門家もいるので真偽は定かではありません。
しかし、果梗が果汁のなかにあることで、酸素が通りやすくなり発酵中の温度を1~2℃下げる効果があるのは確かです。

除梗をするワインの特徴は?

逆に果梗を全く、もしくはほとんど使わないという生産者も多くいます。

完全除梗をするタイプの生産者のなかにもトップドメーヌはたくさんいて、どちらが上ということはありません。どちらの生産者も、「テロワール、その土地の味わいを忠実に表現してるだけだ」と言います。

そのワインに関する哲学が、それぞれ異なるだけなのです。完全に除梗をする生産者の最重要人物だったのが、ブルゴーニュの神様といわれるアンリ・ジャイエ氏です。

彼とて最初からトップ生産者だったわけではありません。持ち前のチャレンジ精神とひらめきで様々な方法を試す人でした。
1970年代以前の田舎臭いブルゴーニュをいかに洗練された、時を超えて楽しめるものにするか。その結果行きついたのが、完全除梗と新樽による醸造でした。「茎を忌み嫌っていた」と言われるほど。
 
他にも低温マセラシオン選果台の使用など、近代的なブルゴーニュワインのために彼がなした功績ははかりしれません。
2006年に永眠されたアンリ・ジャイエ氏。いずれしっかりとご紹介したいと思います。

氏はその醸造技術を広めることにも注力しました。現在のトップ生産者の多くが、彼の指導を受けたり相談に乗ってもらった経験を持ちます。

その中でも一番弟子と言われているのが、アンリ・ジャイエの甥にあたるエマニュエル・ルジェ氏。
それからドメーヌ・メオ・カミュゼドメーヌ・フィリップ・シャルロパン・パリゾもまた、完全除梗を基本としたスタイルです。
しかし彼らも近年は、少量の茎を入れる醸造を試験的に始めています
というのも、アンリ・ジャイエ氏の時代から地球温暖化が進んでいます
それによって果梗が容易に完熟するようになってきているのです。
 

他にはジャック・フレデリック・ミュニエトロ・ボーも完全除梗するスタイルの人気生産者です。

 

アンリ・ジャイエ氏が嫌った青い風味・未熟なタンニンは、過剰に恐れる必要のないものとなってきたのかもしれません。

ただ、それはブルゴーニュの恵まれた畑の話や、温暖地域の話。

例えばフェルトン・ロードでは、毎年試験的に1樽は100%全房発酵していたのを、近年もうやめたといいます。
「ワインが青臭くなりすぎて、ジュートのような香りがつく」のだそうです。

 
 

『全房発酵』と『マセラシオン・カルボニック』

 

マセラシオン・カルボニック』という醸造方法があります。

 
その名の通り二酸化炭素をもちいた発酵方法です。

収穫したブドウを除梗も破砕もせず房のままタンクに入れ、そこを二酸化炭素で満たします

 
無酸素状態になることで、ブドウのなかで勝手に発酵が始まり、少量のアルコールが生成されます。

それに伴ってさまざまなワインの香り成分が生まれます。

アルコールが2度ほどになるとブドウの細胞が死滅し始め、果汁が染み出てきて通常の発酵がおこります。

それによりアルコールが生成されるとともに、リンゴ酸が分解されます。
 
これは酸素のない状態で糖分が分解されるから。さらにマロラクティック発酵も起こるので、ワインの中のリンゴ酸は減少し、酸味が弱くなります。
マロラクティック発酵についてはこちらでより詳しく
それと同時に桂皮酸エステル(イチゴやラズベリーの香り)やベンズアルデヒド(サクランボやキルシュの香り)が特徴的な香りとして生成されます。
通常の赤ワインの発酵と比べ、トータルの発酵期間は短くなります

無酸素状態の影響で赤い色合いはしっかり抽出されますが、タンニンはあまり含まれません。

酸味の弱さと合わせて、ワインができあがってすぐ楽しめる味わいとなります。

新酒として販売するにはとても大切なことです。

 
実はこのマセラシオン・カルボニックの最中、同時に全房発酵が起きています
房のままタンクで醸造するといっても、底の方は上からの重みで大部分がつぶれてしまいます。

皮が破れれば、酵母が入り込んで発酵がおこります。

 
なのでこのタンク内では、徐々にブドウがつぶれていき、絶えず糖分を供給されながらの断続的な発酵が起きているということです。

逆に全房発酵の中にも、破砕されず無事なままタンクに入り、マセラシオン・カルボニック状態になるブドウもあります。

 

全房発酵ゆえの複雑な香りは、このマセラシオン・カルボニックによる香りが少量混ざることも影響しているのでしょう。

 
 

除梗する・しないの現在

 
ことピノ・ノワールにおいて、近年は積極的に、かつ程よい割合で全房発酵を利用する傾向にあります。
全房発酵のものと除梗したものをブレンドして仕上げる。
除梗したブドウのタンクの中に、しっかり熟した果梗を少量加える。
 
そう工夫することで、ワインにフレッシュで複雑な風味を加える
よりシルキーな口当たりを目指す。
 
除梗の比率はワインメーカーのセンスと哲学が問われる、ピノ・ノワール好きの関心事になりつつあります。
 
とはいえ除梗にようる味の違いを理解している一般消費者は、まだまだごく一部。
インポーターのワインの情報を当たっても、記載がないものの方が多いです。

もうちょっと書いてほしいんだけどなぁ。

 
 
ワインを飲んで青草や緑のハーブのような風味を感じたら、ひょっとしたら全房発酵の影響かもしれません。
それを「清涼感」とポジティブに判断するか、「青臭くて未熟」とネガティブにとらえるかはあなた次第。

ではネガティブなら、それが生産者のスタイルなのか、それともたまたま寒いヴィンテージであったのか。

寒いヴィンテージだったというなら、他の生産者のワインはどうだろう?

ワインの味わいからは、奥の深いさまざまな事柄が見えてきます。

そこを探究するのは、終わりがありません。

「わけわからん」と投げ出すか、「面白そう!」と興味をもつか。あなたはどっち?

 
 
 
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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