ワインを飲んでて「同じ赤ワイン、同じ品種なのに、どうしてこんなに味が違うんだろう?」と不思議に思ったことはありませんか?
それを知る手掛かりは、「テクニカル」つまりワインの栽培・醸造に関する情報として記載されています。
「ワインオタクだけが知っているような専門用語がわからなくたって、ワインを飲めるじゃん」という考えを否定するつもりはありません。
しかし「この2つのワインは栽培方法のここが/醸造がこう違うので、味わいがこう変化するはずだ」という知識をもとに、実際にワインを飲んで感じる。
それを積み重ねればもっと「ワインがわかる」ようになってきます。
高価なワインがなぜ高価なのかを知って期待して飲めば、その期待に応える・超える出来だったときの満足感はより大きくなります。
ワインがもっと楽しくなります。もっと知りたくなります。
だからこそ、このブログでは難しい専門用語をできる限り細かくかみ砕いて、実例を提示しながらご紹介していこうと考えているのです。
当ブログはワインの通販ショップである葡萄畑ココスが運営しています。説明した味の違いについて、具体的なワインで実例を提示できるのが、ワインの専門書にはない強みだと考えます。
今回ご紹介する専門用語は『除梗』と『全房発酵』。この2つは対義語で、「除梗しない」のが「全房発酵」です。
実はボジョレー・ヌーボーは「部分的な」全房発酵なのです。だからこの時期にご紹介ようと考えた次第です。それでは『除梗』『全房発酵』とは何か。知って感じてみてください。
『除梗』とは?
『除梗(じょこう)』とはその名の通り『梗』をとること。『梗』とは果梗、つまりブドウの茎、粒がついている軸の部分のことです。
原語ではegrappageエグッラパージュと言ったり、destemming(英語)、eraflage(フランス語)と表記されることもあります。
『全房発酵(ぜんぼうはっこう)』とは除梗を行わずに、この茎がついたままワインを醸造することを言います。
Whole Bunch Fermentationと表記されることもあります。
除梗はブドウを収穫し、破砕の前に行われます。
基本的な醸造の流れは、醸造工程について簡単にご紹介した記事をご覧ください。
ブドウの粒が抜ける穴のあいたドラムが回転することで、茎からブドウを外します。
除梗のあとすぐに破砕、つまり粒をつぶすこともあります。
一方で除梗したあともう一度選果を行うところも多くあります。
一方、房のまま選果をするのは、粒の裏まではよく見えないので完全ではありません。
白ワインは破砕後すぐに果汁を絞るので、果梗の影響はほとんどでません。
赤ワインは全房発酵の場合、果皮や種と一緒に果梗を果汁に漬けるので、味わいに影響します。
例えば「全体の20%は全房発酵」というような醸造方法をとることがあります。
なお、ブドウを機械収穫する場合は、収穫機械でブドウの粒を叩き落とすようにします。
つまり収穫の時点で除梗されているので、全房発酵という選択肢はありません。
『全房発酵』で味わいはどう変わる?
では除梗する・しないでどのような味わいの違いがあるのでしょうか。
「果梗なんかいれて美味しいの?」というのが素朴な疑問ではないでしょうか。
日本の食ブドウで見かけるような青い茎を入れる生産者はいません。
全房発酵に用いるには「成熟していない」からです。
ブドウには2種類の成熟があると言います。
「分析的成熟」と「生理的成熟」です。そして「生理的成熟」の方が後に訪れます。
ブドウは主に開花からの積算温度によって、糖度があがり酸度が下がっていきます。それらが数値で表せる「分析的成熟」です。
通常はこの分析的成熟を指標に、「糖度21度になったら収穫しよう」などと決めるのです。
しかしその段階ではブドウの茎は青いまま。それが次第に茶褐色になり、ブドウに十分なフェノール成分が蓄積されると、「生理的成熟」を迎えます。
タンニンの質が高くなり、量自体は少し減ります。香りにも深みが出ます。
なので生理的成熟を「風味の成熟」と呼ぶこともあります。
全房発酵にはこの「生理的成熟」を迎えたブドウのみを用いる必要があります。
でないと茎に由来してメトキシピラジンという青臭い風味をもつ物質が、ワインに移ってしまうからです。
メトキシピラジンは適量なら清涼感を感じる成分で、ソーヴィニヨン・ブランの重要な香りです。
詳しくはソーヴィニヨン・ブランの紹介で。
適度なら品種の個性として魅力的ですが、過剰であれば明らかな欠点です。なのでカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランではまず全房発酵は行いません。100%除梗してしまいます。
主に全房発酵を用いるブドウは、シラーやガメイ、そしてピノ・ノワール。特に醸造家の哲学やテクニック、ヴィンテージの影響が大きく表れるのはピノ・ノワールなので、今回はピノ・ノワールに絞ってご紹介します。
ブルゴーニュのスター生産者で、高い全房発酵率が特徴のドメーヌ・デュジャック。そのジェレミー・セイスは
「全房発酵の方が風味の複雑さとタンニンのシルキーさが増す。ブドウの強い酸味をまろやかにし、強すぎる果実感をフレッシュにしてくれる。」と語ります。
しかし「茎を入れればいい」という単純なものではなく、ジュヴレ・シャンヴェルタンの畑では少な目にするなど、状態を見ながら工夫しているようです。
また、アントシアニンが他のブドウに比べて少ないのがピノ・ノワール。果梗からでるタンニンはそれを支えて、味わいのストラクチャーを補強してくれるとも言われます。
醸造に積極的に果梗を使う生産者は、先のデュジャックのほか、ルロワやドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)などが有名です。そのDRCで修業したリッポン・ヴィンヤードのニック・ミルズもまた、積極的に梗を使う生産者です。
またエリック・エキシエは「全房発酵をすると少しアルコール度数が下がる」と言いますが、これに関しては「そんなことはない」という専門家もいるので真偽は定かではありません。
しかし、果梗が果汁のなかにあることで、酸素が通りやすくなり発酵中の温度を1~2℃下げる効果があるのは確かです。
除梗をするワインの特徴は?
逆に果梗を全く、もしくはほとんど使わないという生産者も多くいます。
完全除梗をするタイプの生産者のなかにもトップドメーヌはたくさんいて、どちらが上ということはありません。どちらの生産者も、「テロワール、その土地の味わいを忠実に表現してるだけだ」と言います。
そのワインに関する哲学が、それぞれ異なるだけなのです。完全に除梗をする生産者の最重要人物だったのが、ブルゴーニュの神様といわれるアンリ・ジャイエ氏です。
1970年代以前の田舎臭いブルゴーニュをいかに洗練された、時を超えて楽しめるものにするか。その結果行きついたのが、完全除梗と新樽による醸造でした。「茎を忌み嫌っていた」と言われるほど。
2006年に永眠されたアンリ・ジャイエ氏。いずれしっかりとご紹介したいと思います。
氏はその醸造技術を広めることにも注力しました。現在のトップ生産者の多くが、彼の指導を受けたり相談に乗ってもらった経験を持ちます。
それからドメーヌ・メオ・カミュゼやドメーヌ・フィリップ・シャルロパン・パリゾもまた、完全除梗を基本としたスタイルです。
というのも、アンリ・ジャイエ氏の時代から地球温暖化が進んでいます。
それによって果梗が容易に完熟するようになってきているのです。
他にはジャック・フレデリック・ミュニエやトロ・ボーも完全除梗するスタイルの人気生産者です。
アンリ・ジャイエ氏が嫌った青い風味・未熟なタンニンは、過剰に恐れる必要のないものとなってきたのかもしれません。
ただ、それはブルゴーニュの恵まれた畑の話や、温暖地域の話。
例えばフェルトン・ロードでは、毎年試験的に1樽は100%全房発酵していたのを、近年もうやめたといいます。
「ワインが青臭くなりすぎて、ジュートのような香りがつく」のだそうです。
『全房発酵』と『マセラシオン・カルボニック』
『マセラシオン・カルボニック』という醸造方法があります。
収穫したブドウを除梗も破砕もせず房のままタンクに入れ、そこを二酸化炭素で満たします。
それに伴ってさまざまなワインの香り成分が生まれます。
アルコールが2度ほどになるとブドウの細胞が死滅し始め、果汁が染み出てきて通常の発酵がおこります。
(マロラクティック発酵についてはこちらでより詳しく)
それと同時に桂皮酸エステル(イチゴやラズベリーの香り)やベンズアルデヒド(サクランボやキルシュの香り)が特徴的な香りとして生成されます。
無酸素状態の影響で赤い色合いはしっかり抽出されますが、タンニンはあまり含まれません。
新酒として販売するにはとても大切なことです。
皮が破れれば、酵母が入り込んで発酵がおこります。
逆に全房発酵の中にも、破砕されず無事なままタンクに入り、マセラシオン・カルボニック状態になるブドウもあります。
全房発酵ゆえの複雑な香りは、このマセラシオン・カルボニックによる香りが少量混ざることも影響しているのでしょう。
除梗する・しないの現在
もうちょっと書いてほしいんだけどなぁ。
ではネガティブなら、それが生産者のスタイルなのか、それともたまたま寒いヴィンテージであったのか。
寒いヴィンテージだったというなら、他の生産者のワインはどうだろう?
「わけわからん」と投げ出すか、「面白そう!」と興味をもつか。あなたはどっち?