楽しみ方はイタリアワインと同じ!
そう考えるとオーストリアワインは理解しやすくなります。
つまり地域とそこに根差した代表的なブドウ品種をセットで覚える。そして名産ワインを味わう。
首都ウィーンへと至る4ステップの最初として、ドイツ・アルザス好きならきっと気に入る「ヴァッハウ」という産地をご紹介します。
最初に飲むべき1本はこちら
ヘーグル J&G グリューナーフェルトリーナー フェーダーシュピール 2019
KATAYAMA
グレープフルーツやライムなどの柑橘系のアロマ。元気よく心地よい酸味が、炭酸に近いような刺激をともなって口の中を爽やかにしてくれます。 ただ、この酸味はワインを開けて3,4時間すると角がとれ、ややフラットになります。最初の印象が好きな方が翌日に持ち越すなら、なるべく酸素に触れない保存をするといいでしょう。
オーストリアワインの全体像を知る
オーストリアの面積と人口はそれぞれ、約8.4万㎢と約900万人。
北海道ほどの面積に、大阪府よりも少し多いくらいの人が暮らしています。
数字として知っておくべきなのが、一人当たりのGDP。
2019年の値でおよそ5.2万ドルであり、日本の4万ドルを大きく上回っています。
豊かな国であることの証拠であり、人件費も高い。それはワインの価格にも反映されます。
オーストリアの地理
オーストリアの地形・気候を理解する上でまず最重要なのがアルプス山脈です。
アルプスが国土の62%を占めるため、そこにはあまり人は住めません。実に全土の68%が標高500m以上の山岳地帯であるといいます。
なので人が住んでいるのはオーストリアの中でもおおよそ東側1/3ほど。ワインについても東側のみで考えて大丈夫です。
この東側の気候に大きな影響を与えているのが、南東ハンガリー側からの風です。夏に熱風・冬に寒風が吹くのです。
ゆえにオーストリアのワイン栽培については、南東に行くほど温暖で、そこから離れるほど涼しい気候となります。
行政区分としては、首都ウィーン近郊+8つの州という構成。
この行政区分がそのままワインの産地区分に使われています。
オーストリアワイン
オーストリアのワイン生産量は、2020年のデータで約2.7mhlで世界16位。
(mhl 百万ヘクトリットル 1億リットル)
世界の生産量の1%程度です。
オーストリアの白ブドウと黒ブドウの割合はおよそ2:1。この点ではドイツとほぼ同じく、白ワインの国です。
オーストリアのブドウ品種
オーストリアでは白26種、赤14種の合計40品種が公的に認可されています。
この認可を受けた品種でないと、法律上の高級ワインはつくれません。
白ブドウとして重要なのが、まずはグリューナー・フェルトリーナー。
それにウェルシュリースリング、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリングが続きます。
黒ブドウで最大面積を誇るのが、ツヴァイゲルト。
それにブラウフレンキッシュ、ザンンクト・ローラン、ポルトギーザー、ピノ・ノワールと続きます。
国際品種も取り入れつつ、土着品種を大事にしているのが分かります。
オーストリアワインを理解するには
ここまではオーストリア全体の話をしてきましたが、「オーストリアのワインは・・・」と考えていてはいつまでたっても理解できません。
フランスワインを理解するのに、「最も多い品種はメルローだから・・・」と考えるようなものです。それぞれの地域に特徴があるので、1つ1つ見ていく必要があるのです。
楽しみ方はイタリアワインと同じと考えてください。産地を順に旅するように味わっていくといいでしょう。
まずはオーストリア最大の品種であるグリューナー・フェルトリーナーから入るのが王道。
その聖地と言えるのは、ヴァッハウです。
北西の銘醸地、ヴァッハウ
首都ウィーンを包み込むように広がるニーダーエストライヒ州。ここがオーストリアの最重要産地です。ブドウ畑の実に60%もがこの地域に含まれます。
この地域はさらにいくつもの産地に分けられるのですが、まず覚えるべき産地はヴァッハウです。
グリューナー・フェルトリーナーはヴァッハウ以外でも広くつくられていますが、品質の面で並ぶところはないからです。
なので理解するには「ヴァッハウのグリューナー・フェルトリーナー」をまず知って、それと比べる形で「〇〇のグリューナー・フェルトリーナーはここが違う」と広げていくのが分かりやすいです。
リースリングも忘れてはならない
ヴァッハウにおいてグリューナー・フェルトリーナーは確かに主役ですが、同じくらい重要なのがリースリングです。
高額なものはドイツのラインガウと並ぶ価格で取引される、素晴らしい辛口リースリングを生み出します。
2つの主役がある理由は、土壌と品種の相性です。
グリューナー・フェルトリーナーは渇水、つまり水不足に弱い性質があります。
それゆえに黄土(レス)と呼ばれる保水性のある土壌にはグリューナー・フェルトリーナー。水はけのいいシスト土壌にはリースリングという植え分けがされてきたのです。
あまり違いがわかりやすいサンプルではありませんが、左側が水はけのよくリースリングが植えられている畑です。
ドイツよりもアルザスに似ている
リースリングなら、遠くない産地であるドイツやアルザスでも栽培されています。
この2つを比べるなら、よりアルザスに似ています。その理由は気候です。
ヴァッハウでつくられるリースリングは基本辛口なので、ドイツで比べるとしたらラインガウかモーゼルです。どちらも非常に冷涼な気候です。
ゆえに最高品質のリースリングも、アルコール度数は12%前後です。
それに対して、ヴァッハウのリースリングは14%を超えるものもあります。
これはドイツの中でも温暖なバーデン地方よりさらに南に位置すること。それからパノニア気候の暖かい風が東から入ってくることによって、よりブドウが熟しやすいのです。
ラインガウの高級リースリングが細身なボディの中にすっと伸びていく研ぎ澄まされた酸味を持つのに対し、オーストリアやアルザスのものは熟した豊かかな果実感を力強い酸味が支えているイメージです。
特にドイツワイン好きに勧めたい、ヘーグル
先述の理由から、ヴァッハウは東側に評価の高い生産者が多い傾向にあります。
日本でよく見かけるものを東から挙げると、ニコライホーフ、ピヒラー・クルツラー、FXピヒラー、プラーガー、ブルヒ・・・・。
その中で今回ピックアップする生産者「ヘーグル」は、西の端っこにあります。
つまりオーストリアの中でも冷涼なヴァッハウの、さらに最冷涼なエリアの生産者であるということ。
それ故にキリっと上品な酸味を持つワインであることが期待できます。実際に飲んでみても、ドイツならファルツの上質リースリングを思わせるエレガントなワインに仕上がっています。
ヘーグル醸造所とそのワイン
世界の美しいワイナリー15選に選ばれたことがあるヘーグル醸造所。
父と息子、親子が切り盛りする小さな生産者です。
現当主 ヨゼフ・ヘーグルさん
元々ヘーグル家は農協にブドウを納める栽培農家でしたが、ヨゼフさんが他のワイナリーで修行を始めたときからそれは変わりました。
修行先はあのプラーガーで10年。注後にFXピヒラーで5年。どちらもヴァッハウで特に評価の高い生産者です。
そこで働きながら、実家で少しずつワインをつくっていましたが、1995年からは実家ヘーグル家でのワインづくりに集中。
ブリュックとシューンの2つの畑も買い足して、生産規模を拡大していきます。
息子 ゲオルグ・ヘーグルさん
ワインの学校を出た後、ドイツの産地ヴュルテンベルクのワイナリーで働き、ヘーグル家に戻ってきました。
今では父と対等な立場でワイナリーの意思決定を行い、当主を継ぐ準備に入っているといいます。
彼はワインの多様性に興味を持っているといいます。
自分の、ヴァッハウのリースリングは、ドイツのリースリングと比較したときにどうなのか。
そう考えながら試飲しスタイルを理解するのが楽しいと。
ヘーグルのスタンダードラインは「J&G」シリーズですが、これは「Josef とGeorg」父と息子の名を冠したワインなのです。
フレッシュで生き生きとした味わい。ワイナリー公式のコメントには「コショウとタバコの香りを感じる」とあります。
「最初の1秒からフレッシュ&フルーティーな香りがはじける」とコメントされているリースリング。
ドイツのものよりは少し酸味の数値は低いのですが、糖分もほとんどないため非常にスマートな印象です。
J&Gのシリーズはヴァッハウ全域の数か所の畑からつくられます。
それゆえに「ヴァッハウのグリューナー・フェルトリーナーの特徴」「ヴァッハウのリースリングの特徴」を理解する上で最も適したワインです。
それに対して彼らが大事にする「その土地の味わい」を最大限感じられるのが、単一畑「シューン」「ブリュック」のワインです。
ブリュック
南西に向いた非常に急こう配の段々畑であるブリュック。ここにはリースリングが植えられています。
畑の向きから、夏は午後の遅い時間まで太陽の恩恵を受け、また夜間は石壁が蓄えた熱を放出するので、畑が暖かく保たれます。
ゆえにヴァッハウでも冷涼な地区にありながら、晩熟のリースリングがしっかりと熟すのです。
また、リースリングは「花ぶるい」しやすい性質を持ちます。これはブドウの開花期に雨が降って受粉が妨げられることで起きますが、実は強い風が吹いても受粉しにくいのです。
ブリュックと次のシューンの畑は隣り合っているのですが、ブリュックのほうがやや奥まった場所にあります。なので谷間という地形でありながら、強い風から守られるのです。
クリスタルのように透明感のある酸味が特徴で、アプリコットのようなよく熟した風味も感じます。
厳格でありながら親しみやすさを持つワインだと生産者は語ります。
シューン
シューンという畑の名前は「美しい」を意味します。57段に渡って積み上げられた段々畑は、まさに人の手と自然が融合した美しさ。
石垣と土だけでは、雨が降った時に土壌が流れてしまいます。緑があるから、この畑が保たれているのです。
その高低差ゆえに、畑の中でブドウの収穫日が10日も違うことがあるそうです。
まるでレース生地のように軽快でありながら華やかで上品。
柑橘や緑のハーブのような風味を持ち、J&Gと比べて香りの広がり方と風味の明確さが違います。
ヴァッハウ独自の格付け
ヘーグルのワイン名にもついているように、ヴァッハウには独自の格付けがあります。
3段階、「シュタインフェーダー Steinfeder」「フェーダーシュピール Federspiel」「スマラクト Smaragd」です。
格付けの基準
みなさまにとって気になるのは、この3つの基準を分ける数値より、それがワインの味わいにどう表れるかでしょう。
この違いは果汁糖度です。この順番に、より甘く熟したブドウからワインがつくられます。
基本的に辛口に仕上げられるので、果汁糖度の違いがそのままアルコール度数の違いとして表れます。
シュタインフェーダーならアルコール11.5%以下の軽快な味わい。
フェーダーシュピールならアルコール11.5~12.5%の、スッキリとした中に飲みごたえを感じる味わい。
スマラクトは12.5%以上ですが、時に14%を超えるものもあります。「豊かな果実味と、バランスの良い酸味の調和した、辛口の白ワイン」という味わいの定義があります。
一口飲んで高級品と分かる凝縮感がありますが、価格も間違いなく高級品です。
スイカズラやエルダーフラワーのような花のアロマ。レモンなどの柑橘。それから濡れた石のような香りも感じます。現時点ではやや控えめ。2、3年の熟成できっとより広がっていくのでしょう。
アルコール13%を超えているためほどよいボリューム感があり、余韻も長く続きます。
グリューナー・フェルトリーナーの樽熟成と土壌
グリューナー・フェルトリーナーは土壌と醸造法によってワインのタイプが大きく変化します。
ヘーグルのワインから始めて様々なグリューナーを飲んでいく上での指標を紹介しておきます。
土壌による風味の違い
土壌に関しては、先述したように保水性の良いレス土壌が向いているという点です。
ただ、実はヴァッハウにはそれほど多くレス土壌がなく、あってもレスの層があまり深くありません。
ゆえにシスト土壌にもグリューナー・フェルトリーナーが植えられています。その際には水不足で樹が枯れないように、何かしらの工夫がされています。
ヴァッハウの渓谷を抜けて、カンプタールやクレムスタールに至ると、レスの土壌が多くなります。この土壌は斜面より平地の畑で深くなります。
そういった畑のグリューナー・フェルトリーナーは、よりフルーツ感が際立った親しみやすいものになる傾向があります。
私はその少し甘いアロマを「白ブドウの香り」に感じるのですが、「洋ナシ」などの表現が一般的かもしれません。
こういったやや手頃なグリューナー・フェルトリーナーと比べると、ヘーグルが作るものはより引き締まって大人なイメージ。甘い風味はほぼありません。
樽熟成による風味の違い
グリューナー・フェルトリーナーも高級品は樽熟成が行われます。
とはいっても、シャルドネのようにヴァニラの香りを添加する目的ではありません。
使われるのは古い大樽で、オーク由来の風味は全くといっていいほど感じません。しかし、樽は少量の酸素を通しますので、古樽で熟成することでワインに複雑さが加わるのです。
グリューナー・フェルトリーナーで特徴的なのが、この樽熟成の過程で酸素と触れることで、白ブドウのような甘い香りはほぼ無くなります。
代わりに柑橘やリンゴ、白コショウのようなスパイスのアロマが感じられるようになり、より奥行きが増し熟成能力を持ちます。
樽熟成をしているかステンレスタンク熟成なのかは、文字で表す以上に大きく変わります。同じ生産者のワインでも、上級クラスは別物と感じます。
グリューナー・フェルトリーナーをいろいろ飲む前にこの傾向を知っておくと、混乱を防げるでしょう。
ヴァッハウのワインを知って選ぶには
オーストリアのワインは、イタリアのようにその地域とブドウ品種をセットで知っていくと理解しやすいです。
そしてスッキリ系のワイン好きの方は、北西の銘醸地ヴァッハウから入るのがおすすめ。
ヴァッハウのポイント
〇ブドウ品種はまずグリューナー・フェルトリーナー、次いでリースリング
〇東へ行くほどリッチで力強いワイン。西へ行くほど繊細でエレガントなワイン
〇グリューナー・フェルトリーナーのもつ甘くフルーティーな香りは、樽熟成した上級ワインではあまり感じない
〇シュタインフェーダー → フェーダーシュピール → スマラクトの順でアルコール度数と値段が上がる。全て辛口
今回はヴァッハウの中でも最もスッキリ系のワインをつくる、ヘーグル醸造所を取りあげました。
これをスタートによりリッチなものと比べて、あなたのお気に入りヴァッハウワインを見つけてみませんか?