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マールボロの歴史と革新の融合 アンツフィールド

2024年9月10日

 
 
マールボロ始まりの地で正統派かつオンリーワンのワインをつくるアンツフィールド。
多くの人に楽しんでもらえる味ながら、ワイン通を楽しませる要素も併せ持ちます。
特に3つのソーヴィニヨン・ブランは、スタイルの違いが明白で飲み比べが興味深い!
兄弟がつくる隠れた逸品は、飲み仲間との時間をより笑顔溢れるものにしてくれるでしょう。
 

3ランクでスタイルの違うソーヴィニヨン・ブラン

 
アンツフィールドは上質なワインをつくりますが、上質なワインというだけならマールボロに、世界中にごまんとあります。
その中でこの生産者を選ぶべき理由の一つ。生産者自身に尋ねたところ、その一つは『ソーヴィニヨン・ブランにおける畑の違い』だといいます。
 
アンツフィールドのワインを始めて飲むのなら、まずはソーヴィニヨン・ブランから。個人的には「シングルヴィンヤード」から飲んでいただくと、価格に対しての品質の高さを感じていただけるはず。他のワインも試してみたくなることでしょう。
 
 

3つのクラスで畑違い

 
アンツフィールドはこの3つのソーヴィニヨン・ブランをつくります。
 
 
 
 
違いは単なるグレードの差ではありません。
それぞれ畑が違い、土壌や環境条件でブドウの質が違う。それに応じて醸造法も変えているので、全く違ったスタイルのソーヴィニヨン・ブランが出来上がります
 
明確な違いを表現できているので、飲み比べて非常に面白い。生産者が来日した際に当店でお客様向けセミナーを行いました。お好みがそれぞれに分かれたのはもちろんのこと、まずは「同じソーヴィニヨン・ブランでもこんなに違うんだ!」ということに驚いておられました。
 
 

3つのワイン、3つの畑

 
エントリークラスにあたる「スライディング・ヒル」。これも単一畑からつくられます。
この畑は平坦であり粘土質土壌です。保水性が高く栄養も豊かな粘土質土壌では、樹勢が強くなりやすく単位面積当たりの収穫量が増える傾向。平地なので機械も入れやすく作業コストが低い。それゆえのこの価格でしょう。
 

スライディングヒルの畑

 
それに対する「シングル・ヴィンヤード」。これがいわば「アンツフィールド・ヴィンヤード」で主力商品、スタンダードクラスに当たります。
この畑はなだらかな斜面にあります。そして粘土質の母岩の上に「硬砂岩 = グレイワッケ」と呼ばれる土壌が重なっています。
土壌の質と斜面による水はけの良さ。それがワインの風味の違いを生むのでしょう。
 

シングルヴィンヤードの畑

 
「サウス・オークス」がつくられるのは、シングル・ヴィンヤードの中の特別な区画です。そこは斜面が非常に急であり、大きな石がゴロゴロしているといいます。おまけに非常に強い風が吹く。
そのため1haあたりのブドウの樹をかなり少なくしています。1200~1500本。それくらい少なくしないと、水分をとりあって樹が枯れてしまうのです。
そのような厳しい環境なので、粒が小さく風味が凝縮した実をつけます。
 

サウス・オークスの区画

 
 

醸造法と風味の違い

 
「スライディング・ヒル」はステンレスタンクで発酵・熟成を行います。
「そうそう、これこれ」そういいたくなるような、マールボロ産ソーヴィニヨン・ブランらしい香り。青草やグレープフルーツのようなグリーンノートをともなうフレッシュな香りを持ちます。そして舌先がピリっとくるような、シャープさのある酸味。
お好きな方も多いのですが、「万人受け」とは言わないでしょう。
 
それに対して「シングル・ヴィンヤード」は、まずブドウの熟度がより高いと感じます。青い印象の香りをほとんど感じないのです。より熟したパッションフルーツのような香りがメイン。そして酸味は高いながらも丸みのある心地よいもの。これは部分的にオーク樽で発酵・熟成を行っているからでしょう。
 
 
名前のとおり全てオーク樽で発酵・熟成を行っているのが「サウス・オークス」です。でも樽シャルドネのようなまったりとした味を想像していたら完全に裏切られます。
マンダリンオレンジやメロンのような、さらに熟したフルーツの香り。一方でライムのような強い酸味を予感させる香りもあります。口に含めばほのかなタンニンの刺激と、塩味に似たミネラル感。「緊張感」という言葉を使いたくなる、硬い印象です。これこそ熟成ポテンシャルの証であり、数年後に飲めば深みのある風味を期待していいでしょう。
 
 
  • 青さを感じる香りとシャープな酸味。
  • 熟したフルーツ感と上品なのに丸い酸味。
  • より熟したフルーツと同時に硬さを感じる、ポテンシャルのある長熟スタイル。
 
同じ品種・同じ生産者でこうも異なるのか。とってもワクワクする飲み比べです。
 
 

プレミアム価格に相応しい「サウス・オークス」

 
マールボロ産のソーヴィニヨン・ブランは非常に人気。2000円台に多種多様な銘柄があります。
一方で1本5000円を超えるソーヴィニヨン・ブランは極わずか。楽天市場で調べたところ、10銘柄未満。日本で5銘柄程度しか流通していないものと考えられます。
 
きっとその理由は違いを表現しづらいから。
「2000円台で十分美味しい。倍以上の値段をだせば、どう美味しくなるの?」
その期待に応えられるワインを表現できる生産者が少ないのでしょう。
 
アンツフィールドは、数少ないその実力派。手頃なクラスでも十分に美味しく、さらに上級のものはきちんと違いを表現できる生産者というわけです。これがマールボロにたくさんワイナリーがある中で、アンツフィールドを選んで飲むべき1つ目の理由です。
 
 

マールボロワイン史のはじまり

 
もうひとつ。アンツフィールドの特徴であり、生産者が誇りを持つのはその『歴史』です
アンツフィールドの畑はマールボロで最初にブドウが植えられた地なのです。
 
 

ワイナリーの祖 デイビッド・ハード氏

 
1854年にこの地へ移り住んだデイヴィッド・ハード氏。
周りが羊の飼育に力を入れていくなかで、この地がワインにとって祝福された環境であることを見抜きます。
 
 
1873年に最初のブドウの樹を植えて以来50年間、彼の設立した「アンツフィールド」はこの地で高い評価を受ける生産者でした。
マールボロで最も古い畑、元祖の畑なのです。
その功績を称え、マールボロの空港には彼の銅像が立っているそうです。
 
 
 

ワイナリーとこの地の歴史に誇り

 
「マールボロはじまりの地であること」
生産者はそれに大変な誇りと敬意を持っています。
その表れが彼らの主力ワインである「シングル・ヴィンヤード」シリーズのラベルです。
 
 
このイラストはデイビッド・ハード氏の時代から残っていたワインの醸造および保管庫です。
ワイナリーを取得当初は荒廃しており、近代的な醸造に適したものではありませんでした。しかしこの「アンツフィールド」の地の象徴として復元したそうです。
 
 

かつてのブドウ、マスカットをつかって

 
デイビッド氏がこの地に最初に植えたブドウは、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランだと言われています。いわゆる「マスカット系」の品種で、「麝香(じゃこう)」と言われる甘く魅力的な香りを持ちます。
 
彼が植えたブドウの樹というわけではありませんが、デイビッド氏に敬意を表して栽培しているマスカットでつくるのがこのワイン。
 
 
発酵中の果汁を瓶に詰めてから発酵を継続させ、発生した二酸化炭素を閉じ込める「アンセストラル方式」と呼ばれるスパークリングワインの製法。通常のスパークリングワインよりはガス圧の弱い「微発泡ワイン ペティアン」ですが、少なくとも開けたては泡の弱さは気になりません。
 
澱引きはしていないそうですが、そこに沈んでいる澱は少な目。ただボトル差はあるかもしれません。
マスカットやリンゴ、白桃のようなフルーツの香りが豊かに広がり、思わず笑顔になってしまいます。パーティーの始まりにはこれ以上ない1本でしょう。
 
 

ワイナリーを復興させさらに高めたカウリー家

 
アンツフィールドは1873年からずっと続いてきたわけではありません。デイビッド氏の息子の代で途絶えてしまいました。
長い時を経て2000年。荒廃したアンツフィールドの土地と建物を取得し、それを復興させたのがカウリー家です。
 
現在ワイナリーの舵をとるのは、ベンとルーク・カウリー兄弟。
2人が目指すところはこの土地の歴史とその特徴をワインに表現すること。つまり世界中でここでしかつくれない、オンリーワンのワインをつくることです。
 
2人はその想いをこう語ります。
 
 
 
ベンさんには先日COCOSにお越しいただき、お客様向けのミニセミナーを開催しました。
中には当日のワインをフルラインナップで購入される方もいるほど。皆様に気に入っていただけたようです。
 
 

アンツフィールドを他のワイナリーと比べて

 
マールボロはニュージーランドワイン生産の中心地。アンツフィールドは間違いなく優良生産者ですが、他にも美味しいワインをつくるところはたくさんあります。
 
その中で比較するなら、アンツフィールドは明確に飛びぬけた特徴を持つわけではありません
サスティナブルの意図からオーガニック栽培を実践していますが、いわゆる「自然派」と呼ばれるような味わいとは全く違います。発酵の際は自然酵母だけでなく培養酵母も併用しており、明記はありませんがろ過・清澄もしているのでしょう。ことさら「手を加えないことが良い」とする雰囲気は感じません。
 
 
むしろ味づくりやラインナップは極めて王道よく言えば「マールボロらしい味わい」。欠点は「他と比べてどう美味しいのかを言葉にしづらい」ということでしょう。
畑の面積が60haほどとそれなりにはあるので、コストパフォーマンスは高め。ただ購入するブドウでつくる大規模生産者ほどではありません。
その点で「スライディングヒル」のクラスから、量もありつつ品質志向と言えるでしょう。
 
さきほどのマスカットでつくるペティアンは珍しいタイプですが、そのほかのラインナップは標準的なもの。少し珍しい点を挙げるなら、ピノ・ノワールの栽培比率の高さでしょう。
 
 

期待に応える堅実なラインナップ

 
アンツフィールドが栽培するブドウ品種は、ソーヴィニヨン・ブランの他に主に3つ。
赤ワイン用のピノ・ノワールと、白ワイン用のシャルドネ、リースリングです。(リースリングは現在未輸入)
特に注力しているのがピノ・ノワール。畑の半分はピノ・ノワールを植えているそうです。ソーヴィニヨン・ブランがメジャーなこの地域では珍しいことです。
 
 

ピノ・ノワールの4グレード

 
ピノ・ノワールは4つのグレードでつくられています。
ただしピノ・ノワールはソーヴィニヨン・ブランと比べると、1本の樹になる房の数が少ないです。少なくしないと十分な品質にならないのです。これはシャルドネにも同じことが言え、それが価格差に表れています。
 
 
ソーヴィニヨン・ブランはグレードによって、味わいの方向性が結構違いました。それに比べるとピノ・ノワールのラインナップは、同じ方向性で順当にスケールアップする印象です。
 
 
3000円前後でしっかり飲みごたえがありつつバランス感のいいピノ・ノワールというのは、世界的にも希少です。その中で「スライディング・ヒル」は、3年程度は熟成させられそうなほどの凝縮感があります。好みによっては「硬い」と感じる方もいるでしょう。
黒系のベリーの香りに加えて茶色のスパイスのニュアンス。果実の熟度は感じつつも甘い印象はほとんどありません。やや高い酸味と適度なタンニンが全体を引き締めています。
 
 
ソーヴィニヨン・ブランの比較と同じく、ピノ・ノワールでもやはり「シングル・ヴィンヤード」の方がブドウが上質です。その分だけシングル・ヴィンヤードは果皮からの風味抽出を穏やかに行っているそうです。
それゆえ比較するなら、タンニンはシングル・ヴィンヤードの方がソフト。樽熟成の効果もあるかもしれませんが、口当たりのスムースさが違います。
それ以上に違うのが香りのボリュームと複雑さ。プラムやブラックベリーなどの豊かな香りに、樽熟成由来であろうチョコレートのような香ばしさも感じます。
 
 
単一区画の「ホーク・ヒル」となると、これまた順当にスケールアップします
畑は4.0haの広さがあるのですが、本当に良い部分のみを使い残りは「シングル・ヴィンヤード」に回してしまいます。ゆえに年間生産量は2000本程度で、シリアルナンバーが入っています。この区画のピノ・ノワールは単一クローン、DRCに起源を持つエイベル・クローンだという点でも特別です。
執筆時の2021VTでアルコール度数14%と、ピノ・ノワールとしては高め。この高めのアルコール度数が飲みごたえにつながっています。同じニュージーランドでもセントラル・オタゴのものより一段階パワフルです。
香りの質は「シングル・ヴィンヤード」と共通するものが多いですが、タイムのようなハーブ感やタバコのような複雑味が増します。現時点でも飲み頃に入っていますが、開いてくるのに少し時間はかかる傾向。2~3人くらいでゆっくりと楽しむのがおすすめです。
 
 
なお、実はさらに上級クラスとして「ヘリテージ ピノ・ノワール」というワインもつくっています。
 
 
間違いなく素晴らしいワインなのですが、そのつくりはかなり長熟型。前回日本に入ってきた2013年を2022年ごろ飲んで、まだ結構硬さを感じました。
現在仕入れるとなると執筆時で2020VT。まだかなり硬いことが予想されるので、現在取り扱いを保留しています。
 
 

樽リッチでありながらソフトなシャルドネ

 
アンツフィールドがつくるシャルドネは、優しくソフトな味わいのイメージ。よく言えば嫌われることの少ない万人受けするタイプ。悪く言えば「美味しいけれども似たようなワインは他所にもありそう」でしょうか。
 
 
非常に上品な樽香が、桃や洋ナシのようなフルーツの香りを包んでいます。適度に香りに甘さは感じますが、わざとらしさは皆無でよく調和しています。口当たりに過剰なパワフルさはなくソフト。
濃厚さを求めるならカリフォルニアにもっとあり、酸のキレを求めるなら南アフリカを探す方がいい。あまり主張をしないからこそ心地よく飲めるバランス感が素晴らしいワインです。
 
 
シャルドネの最上位である「コブ・コテージ」も、風味の方向性は同じです。上品な樽香がフルーツやナッツの香りに調和し、スムースでソフトな口当たり。ドカンと高級感を訴えるタイプではありませんし、ミネラル感が硬いタイプでもないです。開けてすぐに美味しい、ボリューム豊かながらフレンドリーな味わい。
ちなみに「コブ・コテージ」の区画も単一クローンで、アルゼンチンのメンドーサに由来する高級クローンなのだとか。
このクラスはちょっと「普段の晩酌に」という価格ではありません。だからこそワインは好きだけれども詳しいってほどではない友人との宅飲み。その手土産などに選ぶと良さが発揮されるでしょう。
 
 

無名で美味しいワインを知っている優越感

 
アンツフィールドは誰もが知っている生産者ではありません。むしろ「知る人ぞ知る」という、知名度の低いワインです。
カウリー家が購入してスタートしてから20年余りとそう古いわけではなく、また積極的にプロモーションを展開するワイナリーではないこと。輸入元さんが小さなところであるため、販路が広くないためです。
 
そしてワインの味わいも派手なタイプではありません。だからパーティーに持参して説明せずとも盛り上がるタイプではないでしょう。
 
 
だからこそある程度ワインに詳しい方に紹介してあげると喜ばれるはずです。
例えばソーヴィニョン・ブランの飲み比べ。
 
「マールボロのソーヴィニヨン・ブラン」というスタイルは、よくも悪くも確立しています。イメージ通り、期待通りという良さもあれば、代り映えせずつまらないという悪さも。
そんな方にこそ、「同じ生産者でもこんなに違う表現ができる」というのは、美味しさ以上に面白さをお届けできるでしょう
 
 
よほどのニュージーランドワイン好きでもないかぎり、アンツフィールドを目にする機会はあまりありません。
  
見たことのないワインだけれども、うまいな!これ
 
そういってもらえるなら、あえて知名度の低いワインをチョイスした甲斐があるというものです。
 
 

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