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ナパ・ヴァレーで異質!?古くて新しい魅力 クロ・デュ・ヴァル

2022年11月25日

 
1972年に創業。ロバート・パーカー全盛期にも一貫してスタイルを変えなかったクロ・デュ・ヴァル。
「ナパのカベルネ」と安易に括ると、捉えそこなう魅力があります。
創業者が50年前に目指したテロワールの表現。現代に求められる繊細さ。
クロ・デュ・ヴァルのワインを紐解けば、実はそれが同じであることが見えてきます。
 
 

こんな方に読んでほしい記事です

○重たく力強いワインが苦手でピノ・ノワールが好き
○常識にとらわれないフードペアリングを知りたい
○手ごろなクラスじゃないクロ・デュ・ヴァルのワインにも興味がある

 
 

クロ・デュ・ヴァルが目指すボルドーワインの魅力とは

 
クロ・デュ・ヴァルの創業者は二人。ジョン・ゴレ氏とベルナール・ポーテ氏。ともにアメリカ人ではなくフランス人です。
 
 
世界中を旅しながらワインづくりにおいて理想的な土地を探し求め、たどり着いたのがナパ・ヴァレーの南。今のスタッグス・リープ・ディストリクトでした。
そこで彼らが目指したのはボルドースタイルのカベルネ・ソーヴィニヨンをつくること。そしてそのワインにテロワールを表現することです。
 
 

ボルドーワインに感じる魅力

 
みなさまは上質なボルドーワインにどんな魅力を感じられるでしょうか。
 
  • 高めの酸味に伴うエレガンス
  • フレッシュで複雑な風味、それが熟成で変化していくこと
  • 細かくなったタンニンによるシルキーな口当たり
  • 何十年と熟成していくポテンシャル
 
この4点が大きいのではないでしょうか。
 
 
ボルドーはよくブルゴーニュと比較されます。ブルゴーニュの方がより酸が高くエレガントです。その対比としてついボルドーは「力強く果実味豊か」のように考えられがち。確かに2015年や2018年の暑かった年はその傾向もあります。
しかし気候が「温和」に分類されるボルドーは、実際にはカベルネ・ソーヴィニヨンが熟す北限であり、全体から見ればエレガントなワインの産地なのです。
 
 

ボルドーの問題と理想的なカリフォルニア

 
冷涼でエレガントなワインをつくれることは、現代では大きなメリットです。でもクロ・デュ・ヴァルが設立されたような1970年前後なら、むしろそれは「ブドウが熟しにくい」という悪い面が強調されたことでしょう。
 
その理由は気温ももちろんですが、雨の量とタイミングです。
大西洋に面して偏西風を受けるボルドーは、ワイン産地としては比較的雨の多い地域です。さらに雨季と乾季があまりハッキリしていません。そのため、収穫期に雨が降ってしまうことがあります。
 
 
雨が降ると樹は水分を蓄えます。その結果、ブドウの巣部が水分で膨らみます。相対的に糖度が下がって、凝縮感の低いワインになってしまいます。
それならまだいい方で、悪いときは雨による湿気でカビ病が蔓延し、ブドウをダメにしてしまうこともあるのです。
 
 
それに対してカリフォルニアは、収穫期に雨がほぼ降りません。むしろ近年は降らな過ぎて山火事が問題になるほど。
ゆえに「悪いヴィンテージが圧倒的に少ない
ボルドーでワインに関わる人には、まずこれが魅力的に映ったことでしょう。
 
 

ナパ・ヴァレーの中でも涼しいスタッグ・スリープ・ディストリクト

 
ナパ・ヴァレー = 温暖産地
それは間違い。正確には「温暖産地もある」です。
ナパ・ヴァレーの地区による気候を決める大きな要因は、サン・パブロ湾からの距離です。
 

ナパ・ヴァレー・ヴィントナーズ資料より

 
基本的にナパ・ヴァレーの昼間の日差しはどこも強いです。だから日中の気温は高くなり、ブドウはよく熟します。
しかし朝夕にはサン・パブロ湾から霧とともに冷たい空気が入ってきて、畑の温度を一気に下げます。昼夜の寒暖差があると、ブドウに酸味が保たれます。
その霧の影響は、湾に近いほど大きい。だから基本ナパ・ヴァレーは南にいくほど涼しいのです。
 
 
クロ・デュ・ヴァル創業当時は、ナパに細かな地区分けはありませんでした。
しかし現在、クロ・デュ・ヴァルの本拠地があるところは「スタッグス・リープ・ディストリクト」として、エレガントなカベルネ・ソーヴィニヨンの産地と考えられています。
 

ナパ・ヴァレー・ヴィントナーズ資料より

 
 

ロバート・パーカーから驚くほど低い評価

 
実はワインアドヴォケイト誌におけるクロ・デュ・ヴァルの評価は別に高くありません
もっと言うなら、ロバート・パーカー自身がつけたレビューのうち、90点を上回っているのは6/46と非常に低い割合です。
これはクロ・デュ・ヴァルが、いわゆる「パーカー的な」ワインではない証拠と言えます。
 
 

パーカー高得点ワインの傾向

 
カベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたワインにおいて、パーカーポイント高得点がつくようなワインには傾向があります。
ブドウの熟度が非常に高く、アルコールが15%に達するようなパワフルなワインで、新樽熟成の甘い香りを強く感じる「ビッグなワイン」
 
 
これが「市場に似通ったワインばかりあふれるようになった」という批判を生みましたが、ワインづくりの近代化とも言えます。
 
ブドウの熟度を高めるためには、遅摘みだけでなく、グリーンハーベストでしっかり収量を絞る必要があります。さらに選果台で腐敗果を除くことを勧めました。アルコール度数が上がったのはその結果です。
新樽の使用を勧めたことで、使いまわしの樽が洗浄不足だった故の不潔な香りを感じる機会は少なくなりました。
 
 
結果として、凝縮感があり健全で風味が複雑なワイン、一口飲んでおいしさの伝わりやすいワインがたくさん作られるようになったのです。
 
そのパーカー的なワインと、クロ・デュ・ヴァルの一貫したスタイルは、全く違うものでした。
 
 

クロ・デュ・ヴァルの大切にする6つの要素

 
バランス フレッシュ エレガンス 複雑性 長い余韻 熟成ポテンシャル
 
これがクロ・デュ・ヴァルの目指すボルドースタイルのワインです。
「力強さ」「凝縮感」「インパクト」
こういった要素は求めていません。
 
 
このスタイルを貫いたのが素晴らしい。
1990年代から2000年初頭くらいまでのロバート・パーカー全盛期。
ビッグなワインをつくれば高い点数がついて簡単に売れました。
クロ・デュ・ヴァルをビッグに仕上げることもできたはずです。
 
それでも、創業当初の哲学を守って、2022年で設立50周年です。
 
 

クロ・デュ・ヴァルとパリスの審判

 
カリフォルニアでは西暦1800年前後からワインづくりの歴史があります。しかしそれは、あくまで田舎の産地。地元・自国消費用につくっているんだろうという認識で、フランスワインと品質で比べるものじゃないと考えられていました。
その"常識"を覆したのが、パリテイスティング事件、別名パリスの審判です。
 
 

パリテイスティング事件

 
1976年、イギリス人のスティーブン・スパリエ氏がカリフォルニアワインVSフランスワインのブラインドテイスティング対決を企画します。
ワインは赤白10本ずつ。それぞれ4本がフランスワインでした。
 
 
赤ワインはボルドーばかり。ムートン・ロートシルト、オー・ブリオン、モンローズ、レオヴィル・ラスカーズという、現在もボルドーでトップクラスと言えるシャトーです。
白ワインはブルゴーニュの特急畑と著名な1級畑。生産者もルフレーヴ、ルーロ、ラモネ、ジョセフ・ドルーアン。文句のつけようがありません。
 
にもかかわらず、ブラインドテイスティングで優勝したのは、赤白ともにカリフォルニアワインでした。
 
 

10年後のリベンジマッチ

 
「いやいや、ボルドーワインは熟成させてこそ価値がある。若すぎて実力が発揮できなかったんだ」
確かに1976年に1970年、71年の著名ボルドーを飲んで、素直に美味しいとは言えないかもしれません。
 
ならばと10年後に企画されたリベンジマッチ。今回は赤ワインのみで、10年前と同じヴィンテージが用意されました。
その結果優勝したのが、クロ・デュ・ヴァルの1972年なのです。
 
 
偉大なワインはフランスだけじゃない
カリフォルニアワインも熟成する
その事実が世界に知れ渡ったのです。
 
1972年はファーストヴィンテージでまだ樹齢も若かったはず。
にも関わらず収穫から14年後に飲んで専門家が1番に選んだのは、熟成を念頭に置いたボルドースタイルでワインをつくっていた証拠と言えるでしょう。
 
 

4層構造のラインナップ

 
それから50年。クロ・デュ・ヴァルのラインナップは増えました。
 
ワインは高品質なものを大量に作ることが非常に難しいお酒です。それは高品質なワインは高品質なブドウからしかつくれず、ブドウは栽培環境の影響を強く受けるからです。
また生産量を増やし規模を拡大していくうえで、廉価品をつくり多くの人に飲んでもらう必要が出てきます。
 
 
現在クロ・デュ・ヴァルのワインは、4グレードで展開されています。
 
 

入口となるレッドブレンド

 
クロ・デュ・ヴァルのワインをカリフォルニアでつくったらこうなりますよ
そんなメッセージが込められた、最もリーズナブルで入口として位置づけられるワインが、レッドブレンドです。
 
 
レッドブレンドはカリフォルニアではジンファンデルやプティ・シラーも使われることが多いです。果実味主体でシンプルながら、価格の割に凝縮感がしっかりしていて、酸味低めのフレンドリーなワインです。
しかしクロ・デュ・ヴァルのレッドブレンドは、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルロー、プティ・ヴェルドの構成。「ボルドーブレンド」と言っても差し支えないでしょうが、「カリフォルニアスタイル」としてつくるというメッセージを込めて「レッドブレンド」を名乗るのでしょう。
 
赤系果実の風味に杉のような香り。シルキーな口当たりで一般的なレッドブレンドより酸味が高く、上品な余韻です。生産者はこのクラスでも「30年は楽しめる」と語ります
 
 

ブドウ品種名で訴求するスタンダードクラス

 
クロ・デュ・ヴァルのコアと位置付けられるのが、「ナパ・ヴァレー カベルネ・ソーヴィニヨン」。そしてメルローとジンファンデルの品種名クラスです。
 
ボルドーワインに倣い、「カベルネ・ソーヴィニヨン」には必ずメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、マルベックの4品種がブレンドされるといいます。メルローの豊潤さ、フランの香り、マルベック、プティ・ヴェルドでタンニンと濃さ。どれが欠けてもこのエレガントなパワーは表現できません。丸みがあって緻密な口当たりながら、あまり重さを感じさせないのは、ほかのナパ・カベと違うところです。
 
 
カベルネに関しては購入したブドウも使っていますが、自社畑の割合が50%以上だとか。
 
 
楽しみ方として肉料理に合うのは当たり前。とある凄腕ソムリエさん曰く「ポン酢をつかって食べる鍋料理に合う」「肉料理の時も五香紛をかければさらに相性が良くなる」とのこと。
カベルネ・ソーヴィニヨンのフードペアリングとしては意外でした。
 
同じクラスのメルローはカベルネ・ソーヴィニヨンより2割以上お手頃。にもかかわらずメルローに関しては自社畑100%でつくられます。
バランスやエレガンスといったクロ・デュ・ヴァルにとって大事な要素はしっかりと備えており、お買い得感の高い赤ワインです。
 
 
意外や当店で扱うクロ・デュ・ヴァルのワインの中でベストセラーはこのジンファンデル
 
 
近年ナパ・ヴァレー産だけではジンファンデルの供給が難しくなったのか、「ノースコースト」表記になりお買い得感は下がりましたが、それでもよく売れています。
カリフォルニアのジンファンデルの中で、かなり上品系に分類される1本です。
 
 

単一畑からつくる上級クラス

 
クロ・デュ・ヴァルの自社畑は2か所。スタッグス・リープ・ディストリクトにあるヒロンデール・エステートと、その南ヨントヴィルに位置するリバーベンド・エステートです。
そのうちヒロンデール・エステートからは、単一畑で上級に位置付けられるカベルネ・ソーヴィニヨンがつくられています。
 
 
このカベルネもボルドーブレンドが基本。しかし2016年においては、カベルネ・ソーヴィニヨンの出来がとびぬけてよかったため、単一品種で瓶詰しているといいます。
 
 
スタンダードのナパ・ヴァレー・カベルネ・ソーヴィニヨンと比べて、一口目ではひょっとすると3倍の価格差が感じられないかもしれません。その違いが「味わいの濃さ」ではないからです。
その代わり、フレッシュなタンニンが驚くほど緻密です。荒々しさのないきわめてシルキーな口当たりが、時にワインを「軽く」感じさせるのです。
 
高級ナパ・カベならではのしなやかさは、上質なピノ・ノワールにも通じるものがあります
 
 

2019年がファーストヴィンテージのトップキュヴェ

 
スタンダードクラス、単一畑クラスともにボルドーブレンドですが、法律上「カベルネ・ソーヴィニヨン」と表記できる割合です。
それに対してもっとメルローなどの割合が高い、忠実なボルドーブレンドのワインとして、2022年にリリースされたのが「イエッタリリル」。
ボルドースタイルのワインをカリフォルニアでつくったらこうなる」という表現だといいます。
 
驚くほど多くの要素が溶け込んだ、複雑性に富んだワインです。若いワインなだけあり、現時点ではやや閉じた印象は拭えませんが、それでも見事にしなやか。
「シルクのような」というより、「ベルベットのような」と言いたくなる口当たりの厚みがありますが、これは熟成でシルキーになっていくのでしょう。
 
 
「ヒロンデール・エステート」と比べても一回り、二回りスケール感の大きなワインです。
これがこれから先の50年。クロ・デュ・ヴァルを代表するワインとなっていくことが期待されています。
 
 

クロ・デュ・ヴァルのワインの特徴6つ

 
バランス フレッシュ エレガンス 複雑性 長い余韻 熟成ポテンシャル
 
クロ・デュ・ヴァルはこの6つの要素を大事にしている。クロ・デュ・ヴァルのワインからはこれら6つを感じるはずだ。
生産者はそう語ります。
そして確かに、比べて飲んだクロ・デュ・ヴァルのワイン全てに一貫してこの6つのポイントを感じました。
 
 
「凝縮感」や「力強さ」といった、多くのナパ・ヴァレーのワインを表すキーワードは入っていません。
手ごろな価格でナパワインを量産している生産者とは、目指す方向性が違うことが見て取れます。
ロバート・パーカーの影響力が高まる前から、その影響力が小さくなった現代に至るまで、クロ・デュ・ヴァルを担う人たちはこのスタイルを貫いてきました
 
 

クロ・デュ・ヴァルのキーパーソン

 
創業者の一人であるベルナール・ポーテ氏はまだ存命。写真の右手の方です。
クロ・デュ・ヴァルを形作った者として、その信念・哲学を守る役割を担っています。一方でワインづくりの実務の方は、若い世代へと順調に引き継がれています。
 
 

会長として指揮を執るオラフ・ゴレ氏

 
写真左のオラフ氏はもう一人の創業者であるジョン・ゴレ氏の孫。
以前は貝の養殖のビジネスに携わっていたといいますが、ワイナリーを継ぐべくもどってきました。
ワイナリーの戦略的ヴィジョンを管理しています。
 
 

最重要なワインメーカーは元ドミナス!

 
ワインメーカーはそのワイナリーの心臓部となる重要なポジション。これからの50年を見据えてその役割を任せられているのは、カーメル・グリーンバーグ氏。彼女はカリフォルニア大学のUCデイビス校で栽培と醸造を学んだ後、ケークブレッドセラーズ、ブチェラ、とキャリアを積み、直前はあのドミナス・エステートで経験を積んだそうです。
 
 
彼女がクロ・デュ・ヴァルに加わったのは2021年から。現在流通しているワインにはまだ彼女の手によるものではありません。現在ベルナール氏とともにワインをつくりながら、哲学を継承している段階だとか。今後のクロ・デュ・ヴァルがどう進化していくのかが楽しみです。
 
 

「力強く甘濃いビッグなワイン」とは違うナパカベを

 
ナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンは非常に人気です。
ドル高による値上げ傾向があるとはいえ、およそ4000円前後からいろいろな銘柄を楽しむことができます。
 
ただ、その味わいはよくも悪くも画一です。
プルーンやブラックベリーの凝縮した果実香に、ヴァニラやココナッツ、タバコやコーヒーのような甘く香ばしいアロマ。
口に含めば熟度の高い果実の風味が広がり、落ち着いた酸味と樽熟成によって丸くなったタンニンを感じる。厚みのあるどっしり力強い口当たり。
 
 
だいたいどのナパ・カベにもこの表現が当てはまるでしょう。
だからこそ安心して注文できるという安心感は理解できます。
そんなワインを求めている方が多いから、多くの生産者がそんなワインをつくり、よく売れていきます。
 
 
一方であえてそのイメージにそぐわないのが、クロ・デュ・ヴァルのカベルネ・ソーヴィニヨンです。
ビッグなナパカベにはないエレガンスがある。上品でしなやかなタンニンがある。熟成によって美味しくなるポテンシャルがある。
 
普段からナパ・カベを好きで飲んでいる方にも、気分転換的なワインとして、もちろんおすすめできます。
でもそれだけじゃない。意図的にナパ・カベを避けているような、ピノ・ノワール好きな方。そんな方にも一度試してもらいたい
あなたのイメージとは一味違うナパ・カベを味わうことができるでしょう。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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