ロバート・パーカーのワイン・バイヤーズ・ガイド(アメリカ)。
ワインレポート(ヨーロッパ)
世界的に著名な2誌において、2008年南アフリカNo.1ワイナリーに選ばれた。
プレミアムレンジのみならず、エントリークラスから一貫した質の高さとコストパフォーマンス。
それがブーケンハーツクルーフのウリです。
ブーケンハーツクルーフの本拠地であり、プレミアムレンジをつくるフランシュックのセラーを見学してきました。
ブーケンハーツクルーフの歴史とマーク・ケント
ブーケンハーツクルーフの設立は1776年と、フランシュックで最も古く、南アフリカでもトップクラスです。
フランシュックとはステレンボッシュの東に位置する街・生産地域。
以前はステレンボッシュの一部と扱われてきましたが、そのワインの特徴が確立されていると判断され、独立しました。
ワイナリーの名前の意味は「ブーケンハーツの渓谷」
ブーケンハーツとはケープブナの木のことで、家具に使われる木材です。
エチケットに描かれている7つの椅子は、ケープ・オランダ様式でこのブナの木を使って作られる椅子です。
現在の体制になったのは1993年。
ブーケンハーツクルーフが現在の地位を築いた理由の一つに、ニューワールド的でありながらオールドワールドのニュアンスも感じる、広い客層に好まれる味というものがあります。
そのドンピシャの味わいを醸し出すのが、才能豊かな醸造家マーク・ケント氏。
ケント氏はレストラン出身。
若いときに働いていたとこのオーナーから様々ないいワインを飲ませてもらったことがきっかけでした。
次第に自分でワインをつくることに興味を持ち、20代のときにブーケンハーツクルーフに参加。
瞬く間にその名声を南アフリカトップクラスのものとし、プラッター誌にて5つ星評価を獲得。
『天才』『カリスマ』と称賛される醸造家です。
それではブーケンハーツクルーフのワインを紹介していきましょう。
まずはそのフラッグシップ、「7つの椅子」シリーズから。
カベルネ・ソーヴィニヨン 2つの生産地のテロワール
ブーケンハーツクルーフは2つの産地でカベルネ・ソーヴィニヨンを作っています。
私たちはともに2017年を試飲しました。日本には未入荷です。
エチケット表面に「Cabernet Sauvignon」とのみ書いてあるのは、フランシュックの方。
ワイナリーを構える本拠地なので、こちらがメインだという思いでしょう。
もう一つは「Stellenbosch」ステレンボッシュのカベルネ・ソーヴィニヨン。
こちらの方が少しだけ手ごろです。
※試飲したものとはヴィンテージが違います。
このステレンボッシュの畑は、その中でも海に近いヘルダーバーグ地区。
詳しい場所はわかりませんが、ロングリッジの近くでしょう。
私の印象は、2005年や2009年など当たり年と言われるヴィンテージのボルドー、メドック地区。
それもポイヤック地区の優良生産者を感じさせました。
というのも、クレーム・ド・カシスのような熟度のある艶やかな果実味がハッキリ表れていたから。
他にもスパイスや黒鉛、フルーツのコンポートのような風味が幾重にも折り重なります。
南アフリカはニューワールドではあるのですが、カリフォルニアやチリよりは、暖かい年のボルドーの方が近いんじゃないかと感じました。
世の中には1万円出してもしょーもないボルドーワインはたくさんあります。
それならもう、私はこれでいい!
とはいったものの、すぐにこちらに浮気することとなりました。
試飲したものとはヴィンテージが大きく違います。
ブーケンハーツクルーフのあるフランシュックは、「クルーフ=渓谷」の名の通り山に囲まれた地形。
そのため朝日が昇るのが遅く、夕日が沈むのが早い。つまり日照時間が短くなります。
内陸部で日中は温暖なのですが、朝晩は冷え込むのです。
この寒暖差によりブドウがゆっくりと熟します。
その結果、ワインのタンニンがよりドライな感じになり、リコリスのような風味も感じられます。
果実味もステレンボッシュと比べて控えめ。
より洗練されたスタイルです。
きっと一般人100人に飲み比べてもらえば、70:30くらいでステレンボッシュの方が人気でしょう。
それでも私は、スマートで媚びない印象のフランシュックの方が好きでした。
そのカベルネ・ソーヴィニヨンを熟成している地下セラー。
今回の南アフリカツアーで多くのワイナリーを見て回りながら、ここにしかなかったものが2つ。
一つはこの珍しいオーク樽。
オーク樽の天板に補強材のようなものがあります。
これは天板が通常より薄いから。
それはワインの熟成中に天板を通してより多くの酸素を供給するためです。
ブーケンハーツクルーフのカベルネ・ソーヴィニヨンが、ボルドーのものと比べて早くから開く。
芳醇な果実味と複雑な風味を、若めのヴィンテージでも楽しめるのは、このオーク樽の効果でしょう。
もう一つはオーク樽を支えるこのローラー付きの台。
このローラーがあることで、ワインの入った重いオーク樽でも人力で回転させることができます。
何のためにというのは詳しく触れられませんでしたが、熟成中に底に沈んだ澱が適度に攪拌されるようにだと推測します。
後から気になったのですが、このオーク樽ってどこからワインを注ぐの?
通常の樽は上部に直径7cmほどの穴があって、ゴム栓がされています。
しかしブーケンハーツクルーフの樽は、回転させるとしたらそこに注ぎ口はつけられない。
どうしてるんだろう?
でもブーケンハーツクルーフといえばシラー
カベルネ・ソーヴィニヨンの方が高価ではあるのですが、「ブーケンハーツクルーフといえば」と言われる品種はシラーなのです。
シラーが一番入手困難で、また評価誌のポイントも多くの年で一番高いようです。
私たちが試飲した2017年のパーカーポイントは91+点。
ヴィンテージ違いを販売しております。
このシラーの畑はフランシュックではなくスワートランドにあります。
ステレンボッシュから北へ車で1時間ほどの場所。
非常に暑く乾燥しているのが特徴です。
Porseleinbergポルセレインバーグという地区とGoldmineゴールドマインという地区にある自社畑。
岩の多い岩盤の上にシスト土壌が広がります。
ブーケンハーツクルーフのシラーは、以前からこの畑が中心ではありましたが、スワートランドのブドウ100%となってからまだ3年目のヴィンテージです。
そのブドウをチューリップ型のコンクリートタンクで全房発酵。
2500Lの大樽と600Lの樽で18か月熟成します。
ブラックベリーやブラックオリーブなどの黒くて甘さは控えめなフルーツの香りに、スミレやスパイスの香りが混ざります。
オーク樽の風味を効かせすぎないよう大樽を使うことから分かる通り、目指しているのはオーストラリア的な「シラーズ」ではなく、フランス・ローヌの「シラー」
ジューシーでありながらも、しっかりとエレガンスが感じられます。
そのエレガンスには、このバスケット型プレスも寄与しているようです。
大規模なワイナリーになると、通常は横長の大型プレス機が置いてあるもの。
中で風船が膨らむことで、ブドウをプレスします。
そのプレス機が悪いわけではないのです。
しかしこの縦型のバスケットプレスは、よりピュアなジュースを絞ることができると言われています。
南アフリカの高級食材と言えば「カルーラム」。
「松坂牛」みたいなカルー地方のブランド羊です。
ブラックペッパーが効いたカルーラムのラムラックとの相性は最高でした!
世界でも類を見ないスタイル セミヨン
柑橘類やカモミール、ネクタリンやレモングラスなどのアロマ。
非常に骨格のしっかりとした白ワインで、凝縮感と厚みを感じる口当たり。
過剰ではない酸味は全体をドライな印象にまとめており、ミネラルを感じる余韻。
この他に類を見ないスタイルの素晴らしいセミヨンは、主にコンクリートの卵型タンクで醸造されます。
12000本生産されるこのワインのために、たくさんの卵型タンクが並んでいます。
厚みのある落ち着いた口当たりでありながら、オークの風味はない。
それは適度な酸素接触を促すこのタンクでの醸造ゆえでしょう。
しかしこのワインの秘密は醸造だけではありません。
ワイナリーから遠くない畑に植わるセミヨン。
この白ワインに使われるブドウの樹を植樹したのは、1942年、1936年、そして1902年だといいます!
廉価ワインを大量生産する、南アフリカワインの低迷期をよく生き残ってくれた。
そう思わずにはおれない驚異的に古い樹齢です。
ステレンラストなどでもみられるブッシュヴァイン。
支柱を設けないためとても低い樹高となり、あまり水を吸い上げません。
だからこんな砂地の乾燥した畑でも生きられるのです。
ブドウは樹齢が上がると突然変異を起こしやすくなると言います。
この畑のセミヨンは、白ブドウとピンク色のブドウが混在。
1つの樹に白い房とピンクのグリ化した房がついているのです。
こんな畑は非常に珍しい。
このブドウこそ、世界で類を見ないブーケンハーツクルーフのセミヨンの秘密です。
忘れちゃいけないスタンダードライン
現地で試飲したのは上記のプレミアムクラスだけでした。
しかし、ブーケンハーツクルーフはカジュアルレンジから多くのワインをつくります。
人気の「7つの椅子」シリーズは全世界完全割り当て。
割り当てとは、希望を聞いたうえで出荷量をワイナリー側が決めることです。
その判断基準はバリューレンジの販売量。
つまり「ウルフトラップ」や「ポークパインリッジ」をたくさん買ってくれた国へは、「7つの椅子」シリーズもたくさん出荷しますよ、ということ。
日本では近年、以前のように入荷即完売ということにはなりません。
それは入荷量が当初の何十倍にも増えているからです。
つまりそれだけ、ブーケンハーツクルーフのバリューレンジがみなに愛され飲まれているということ。
特にフランスやイタリアのワインが好きな方は、南アフリカのワインに7000円、8000円出すことに抵抗があるでしょう。
ましてセミヨンなどは特に。
よくわかります。私でも「ほかにブルゴーニュで飲みたいものあるし」と考えてしまいます。
ならばこそ、リーズナブルなレンジから試していただきたい。
買いブドウから大量生産しているバリューレンジですらこのクオリティーで仕上げてくる。
ならばこそ、自社ブドウのプレミアムレンジは・・・・
ブーケンハーツクルーフの魅力。
それは南アフリカを代表するプレミアムワイン「7つの椅子」シリーズだけではありません。
バリューレンジから一貫して、すべてコストパフォーマンスに優れることです。
価格以上の価値を安定して提供していることなのです。
南アフリカNo.1ワイナリーの実力を感じてください。