ワインのつくり方

"樽スマート"な白ワイン特集|ほのかな樽香が上品な白ワインの魅力とは

2025年5月30日

"樽スマート"な白ワイン特集|ほのかな樽香が上品な白ワインの魅力とは
 
樽熟成した濃厚な白ワインが人気な一方で、樽香控えめな味わいを好む人も増えています。あえて濃くないワインを選ぶ魅力は、土地の個性を感じやすいこととフードペアリングです。トレンドが変化している背景には、新興産地の台頭と健康ブームがあるのでしょう。生産者が樽を控える理由を知れば、白ワインの新たな一面が見えてくるかもしれません。
 

樽リッチワインにこんな不満はありませんか?

△いろいろな銘柄のシャルドネを飲んでも、どれも似た味わいに感じる
△樽シャルドネは好きだが、たまに料理によっては不味く感じることがある
△年齢のせいか、近頃濃い味わいがしんどくなってきた

 

”樽スマート"な白ワインの魅力 概要

 
「樽スマートな白ワイン」という言葉は本記事で筆者が勝手につくった言葉です。なのでまずはその定義と魅力をご説明します。
この言葉は「樽リッチ」と対比するもので、樽香があるものの控えめで、濃厚すぎない白ワインを指します
 
 

"樽リッチ"と"樽スマート"の違いとは

 
ワインをオーク樽熟成すると、ヴァニラやココナッツのような甘い風味が添加されます。特に新品のオーク樽を使って熟成するとき顕著です。
樽香が強ければいいというものではありません。バランスをとるためブドウの熟度を高め、フルーツの香りもしっかり感じてこそ高品質なワインとなります。
結果として樽香をしっかり感じるワインは、アルコール度数も高めでボリューム感のある味わいであることが多いです。こういったワインは当店において大人気です。
 

 

 
それに対して『樽スマートワイン』は、アルコール度数やボリューム感を抑え、軽快な印象に仕上げたタイプ。その味わいに合わせて、古い樽や大きい樽で熟成することで樽香を抑えバランスを取ります。出来上がったワインはボディ感が軽い分だけ酸味が強調され、スマートな印象に仕上がります
ステンレスタンク醸造のものに比べて、少しだけ樽熟成することでより複雑な風味を持つ傾向があります
 
 

"樽スマート"なワインの魅力とは

 
同価格帯で比べたとき、香り豊かで飲みごたえもありコスパ良く感じるのは"樽リッチ"ワインの方です。だから人気があります。
しかし"樽スマート"なワインにはまた違った魅力があります。
 
まずは土地の個性を感じやすいこと
樽香という共通の強い風味がないため、ブドウ品種やその土地ならではの風味が現れやすい。ゆえにそれぞれのワインに違いを感じやすいのです。これは飲み比べる楽しみが増します。
 
 
さらに幅広い料理に対しての相性の良さ
「樽スマートならなんにでも合う」とは申しませんが、樽リッチワインに比べると大崩れすることが少ないです。またその味わいの濃さから、油脂を控えたヘルシーな料理とバランスをとりやすいのも魅力です。
 
これらの魅力がいま注目されている背景には、ワイン業界のトレンドの変化も関係しています。そのあたりは後半で詳しくご紹介します。
それではまず、当店が自信を持っておすすめする“樽スマート”な白ワインをご紹介しましょう。
 
 

"樽スマート"なおすすめ白ワイン7選

 
樽熟成してつくる白ワインはシャルドネが多いので、必然的に樽スマートなワインもシャルドネがメインです。
一方で他の品種でも、控えめに樽香利かせることで、品種個性に上手にアクセントを効かせたワインもあります。
今回は普段の晩酌シーンで活躍することを想定し、手頃な価格帯から選びました。
 
 

「樽ちょっと」の需要にまっすぐに!

品種:シャルドネ
樽香:
★☆☆☆☆
 
「ウディッド」というのはオーク樽に由来する香りがあるということ。「ライトリー」なので、ワインのネーミングから「樽ちょっと」を狙っていることを示します。つまりそういう需要があると生産者が捉えていることの証。
詳しい醸造の情報はないのですが、「ヴァニラの甘い樽香」というのは全く感じません。言われなければ分からないくらいですが、ヘーゼルナッツのような香ばしさは樽をつかっているからこそでしょう。アルコール度数は割と高めで、2022VTで13.5%(2021VTは14%)ですが、フルーツの香りはリンゴや白桃などの爽やかなもの。味わいの厚みはありつつもフレッシュでスマートな印象です
 
 

フレッシュさだけでない"落ち着き"がいい!

品種:ソーヴィニヨン・ブラン他
樽香:
★★☆☆☆
 
樽熟成の目的は風味添加だけではありません。樽を通した酸素接触で口当たりを変化させる狙いもあります。ワインのフレッシュな風味は抑えられ、適度に"落ち着いた"印象になるのが、このワインには良い方向に働いています。
フレッシュな香りを求めるなら、同じ品種でもニュージーランド産の方が派手で分かりやすいでしょう。その代わり様々な料理にそっと寄り添うことにかけては、この樽スマートさに分があります。
ボルドーでも高価格帯のものは「樽リッチ」な傾向ですが、このワインは手頃なゆえの適度な濃さが晩酌にちょうどいいです。
 
 

"カリフォルニアにしては"樽香ほどほど

品種:シャルドネ
樽香:
★★★☆☆
 
「樽リッチ」な白ワインを探すなら、カリフォルニアの低価格帯シャルドネはその第一候補です。アメリカの市場自体がそういう味を求めているのです。
ただし生産者自身もそればかりでは疲れてしまう・飽きてしまうのでしょう。ちょっと控えめなシャルドネも増えてきたように感じます。
このステル・マーもエチケットの淡い雰囲気の通り、「濃すぎないのがいいところ」といった印象。絶妙な「ちょうどいい」を目指したような味です
樽香を抑えるからと言って酸味が目立たないのも、親しみやすく気軽に飲める理由でしょう。
 
 

樽スマートだからこそ畑の違いがわかる

品種:甲州
樽香:
★★☆☆☆
 
甲州は糖度が上がりにくいブドウ品種であり、ボリューム豊かな味わいにはなりません。それを補強する手段として樽熟成は昔から用いられてきました。
一方で甲州で畑の違いを表現するのはこの10年程度のトレンドと言えるでしょう。樽香を効かせすぎては違いがわかりにくくなってしまう。かすかに樽の風味があり口当たりを補強する程度だからこそ、同じ価格帯でいくつもの樽熟成甲州をつくる価値がある。この「Tao」と「Nishino」などを比べて楽しめるのです。
 
 

ラインナップで違いを明確化するためにも

品種:シャルドネ
樽香:
★★☆☆☆
 
ポール・クルーバーのラインナップにおいて、もう一つ上位の「エステート・シャルドネ」が人気。樽リッチな味わいの中にしっかり冷涼産地の上品な酸味があります。
ラインナップの中で差別化する意図もあるのでしょう。下位のこのワインは、新樽は使わず大樽・古樽・ステンレスタンクを併用し、ピュアなフルーツ感をフレッシュに感じるスタイルに仕上がっています
ワインだけで2本を飲み比べたら、きっとエステートの方がはるかに人気。でも晩ごはんのシチュエーションなら、「ヴィレッジ」の良さも感じてもらえるはずです。
 
 

主張が穏やか、だから飽きない

品種:シャルドネ
樽香:
★☆☆☆☆
 
クメウ・リヴァーはニュージーランド産のシャルドネとして、特に高い評価を受ける生産者。幅広いラインナップを揃える中で、この「ビレッジ」のような生産量の多いエントリークラスに求められるのは、飲み飽きせずリピートしてもれる味わいです。そのためにはボディ感が軽く飲みごたえは控えめな樽スマートワインが有利です。
同時に初めてクメウ・リヴァーを飲む人にとっては名刺代わりのワイン。だから決して手は抜けません。コンパクトにまとまったバランス感は、「これ美味しかったから、もっと高いのも飲んでみたい!」と思わせてくれます。
 
 

"樽リッチ"なワインの魅力と比較する

 
月に10本20本と消費する家飲みワインこそ予算がシビアなものです。限られた予算の中でいかに満足度の高いワインを選ぶか。
そう考えたときに客観的に見て有利なのは、樽スマートワインよりも樽リッチワイン。売上本数で比べるなら樽リッチワインが圧倒的なのには理由があります。
その上で筆者は「両方楽しむ」ことをおすすめします
 
 

樽リッチワインが人気である必然

 
リッチなワインかスマートなワイン、どちらが良いというものではありません。味わいのタイプは好みの問題です。
しかし客観的にワインの品質を評価しようとしたとき、同じ価格帯で比較すれば樽リッチワインの方が高品質になりやすい理由があります。
「品質が高い = 美味しい」とは言い切れませんが、そう感じる確率は上がります。なので樽リッチワインの方が人気なのは必然なのです。
 
ここでいうワインの『品質』を、世界的なワインの教育機関であるWSETに倣って紹介します。すなわち風味が複雑であり、凝縮感が高く、余韻が長く、バランスがとれていて突出した味がないことです。確かにこんなワインなら文句なく歓迎です。
 
 
リッチな味わいにするために遅く収穫すれば、凝縮度が上がります。樽の風味を添加すれば、それだけ香りは複雑になります。
樽熟成はステンレスタンクに比べコストがかかりますが、ブドウ自体のクオリティーを明確に上げるのに比べたら安価。
ゆえに品質にもとづいてコスパのいいワインをつくりたいなら、樽リッチな味わいにした方が簡単なのです
 
 

樽リッチワインの方が一口目の印象が強い

 
ワインにとって1口目の第一印象は非常に大事です。香り豊かで味が濃く、1口目から美味しさを主張してくるような樽リッチワイン。そのワイン1本の味わいで比べたとき、樽リッチワインの方が「ちょっと高い金額を払うに値する」と感じやすいのは間違いないでしょう。
 
一方で樽リッチワインにも弱点があります。そうでなければ世の中樽リッチワインばかりになっているはずです。
樽リッチワインでは物足りない理由と紐づけて『樽スマートワイン』の魅力をご紹介します。
 
 

樽スマートワインの2つの魅力

 
先述のとおり樽スマートワインには大きく2つの魅力があります。
 
味の好みではありません。どっしり飲みごたえのある味わいが好きな方もいれば、軽快な口当たりで飲み疲れないタイプが好きな方もいます。これは嗜好の問題であり、どっちが魅力的かは人によります。
好みに寄らない、理由に裏付けられた魅力があるのです。
 
 

「パーカリゼーション」とは

 
かつて「パーカリゼーション」という言葉がワイン業界にありました。1990年代から2000年代初頭くらいにかけてでしょうか。
 
 
その時代はワイン評論家であるロバート・パーカー全盛期。彼が高得点をつけたワインが売れていた時代です。そして彼が好んだワインがまさに樽リッチ。収量制限をして風味の凝縮度が高い過熟気味のブドウをきっちり選果し、新樽をふんだんに使った樽熟成をする。そうしてできる濃厚で樽の風味豊かなワインが、高得点を獲得していました。そしてそれがよく売れました。
それが生産者のトレンドをつくり、「パーカーで高得点が狙えるようなスタイル」のワインをみながこぞってつくったのです。
 
「消費者に求められるものをつくる」「売れるタイプのものをつくる」
これは商売の基本であり、非難されることではありません。しかし問題も発生しました。
 
 

樽リッチワインはどれも同じ?

 
「パーカーポイント」という100点満点の数字。それがあたかもワインの美味しさに画一的な基準があるような印象を、消費者に与えました。それが市場に同じようなワインがあふれることにつながりました。
 
 
オーク樽熟成というのは醸造技術です。オーク樽をフランスないしアメリカから買い付ければ、世界中どこでも同じような樽熟成ができます。強い樽香自体は、人気のワインをマネようとすればできるのです。
もちろんワインは樽香だけではありません。ブドウ由来の風味もあります。しかし樽香が強いとブドウの風味は相対的に感じにくくなる。加えて低価格帯のワインなら、ブドウの香りも強くありません。
 
結果として「強い樽香と完熟フルーツの風味」というワインばかりになってしまったのです。いろいろなワインを飲み比べてもだいたい同じ味。
ワインの多様性が損なわれてしまい、つまらないものになりつつあったのです。
 
 

マーケティングで強いのは「そこでしかつくれない」

 
同じような味のワインばかりになるなら、価格競争が激化します。品質が高くて安いごく一部のワインだけ生き残り、そのほかは売れなくなってしまいます。
 
一方で「飲み比べて違いを感じる」こと自体を楽しむ人もいます。市場の成熟に従ってそういう違いを楽しむ人が増えてきます。
そういう人が望むのは、きちんと違いが現れるワイン。
 
中でも違いが奇抜な醸造法由来ではなく、土地の個性の現れであるものが、マーケティング上強い。なにせ世界中でその土地でしか表現できない味なのです。他ではつくれません。希少価値の裏付けとなり、高い単価で売れていきます。
 
 

樽スマートワインで飲み比べる楽しみを

 
樽リッチワインと比較するなら、樽スマートワインの方が土地による違いを感じやすいです。それは樽香の強い風味がないからです
 
これが1つ目の魅力。ワイン単体で比べる楽しさが、樽リッチワインに勝るのです。
地区の違い、畑の違いでも、風味に差を感じる。どちらも美味しいのは前提として、並べて比べる価値がある。違いが明白だから、飲み比べる楽しさがある。
 
これがワインだけで考えたときの、樽スマートワインの魅力です。
 
 

土地の個性を表すために樽を減らす?

 
「樽香を控えめにしたら土地の個性が現われる」かというと、それは間違いです。そもそも土地の個性を反映した上質なブドウでないと、ワインからその特徴を感じることはできません。
一方で「樽の強い香りが支配的であるなら、畑の違いのような繊細な差は感じにくい」というのは間違いないです。
 
パーカリゼーションの反動で、ここ数年は樽をあえて使わないワインも増えました。しかし全てのワインが飲み比べる楽しさを持っているわけではありません。質がそれほど高くないブドウで樽を控えれば、スマートなだけの寂しいワインになってしまいます。
 
土地の個性を感じるためにはブドウの質が重要であり、今回のような低価格帯で畑の個性を感じられるワインはめったにありません
 
 

樽リッチワインが苦手な料理

 
樽リッチワインが料理に合わない、なんてことはありません。例えばバターやクリームを使ったシチューやパスタなどは、樽リッチワインがベストでしょう。
 
一方で強い樽香ゆえに合わせない方がいい料理もたくさんあります
一例として生魚。料理の余韻と一緒にワインを飲めば、生臭さが際立つことが多いです。(例外あり)
 
 
加えて繊細な味付けの野菜料理などに合わせるなら、「凝縮感のあるリッチな味わい」というだけで、料理とワインの濃さがバランスとれません。ワインの印象が覆い隠してしまうでしょう。
 
「樽リッチワインは苦手とする食材・料理が多い」
これは弱点の一つです。
 
 

苦手の少ない樽スマートワイン

 
樽香が強くなければ、明確なNGの食材は少ないでしょう。適度な複雑性ゆえに、ステンレスタンク醸造の白ワインより、幅広い料理に対応します。
 
「互いの美味しさをひきたてる」という本来の定義というより、「大崩れのしない便利に使える味わい」といったもの。「あう/あわない」の差が穏やかなのです。
 
 
栄養バランスを考えて夕食を組み立てるなら、1品だけってことはないでしょう。その1品1品のために相性のいいワインを開けるというのは、晩酌では現実的ではありません。
だから適度に酸味があって食欲増進効果があり、夕食のメニューに関わらず開けられる樽スマートワインが便利です。
 
 

健康ブームに後押しされて

 
ワインと食事の相性においてはバランスが大事。簡単に言うなら濃い味の料理には濃いワイン。軽い味の料理には軽快なワインが適しています
濃い味の料理は、油脂が塩分・スパイスが多い傾向です。特に油脂や塩分の多い食事の継続的な摂取は、生活習慣病につながると言われます。
  
20年前に比べ世界は健康ブームです。『和食』がユネスコの世界文化遺産に登録されたのも、それが理由の一つでしょう。
ある程度の豊かさを手に入れたら、健康に長く生きたいと思うのは誰しも同じ。「健康ブーム」と言いつつ、一過性のものではありません。
 
 
その上で世界の食生活も変化してきました。
油脂を多用したこってり濃厚な料理から、素材を活かしたヘルシーな料理へと。ワインと楽しまれるような上品なレストラン料理においてもそうでしょう。
 
その料理のトレンド変化にあわせて、求められるワインのトレンドも変わります。よりヘルシーな料理にあわせて、レストランシーンで樽スマートなワインが求められるようになってきているのです
 
 

樽リッチ/樽スマートを使い分けよう

 
あえてオーク樽の香りを抑えてつくった『樽スマートな白ワイン』には、樽リッチワインとは異なる魅力があります。それは1つに土地の個性を感じやすくなり、飲み比べがより面白いこと。もう1つには自宅で食べるようなヘルシーな料理との相性がいいことです。
 
これを持って樽リッチワインより優れているとは申しません。例えばワインにあまり詳しくない人も集まる5~8人くらいの場なら、樽リッチワインの方がより喜ばれるでしょう。
 
 
ゆえに筆者が提案したいのは、どちらのタイプのワインも良さを知った上で使い分けること。「あなたの好みはどっち?」ではなく、シチュエーションで使い分けることです。
 
濃厚なワインだけが良いワインではありません。樽リッチワインが好きな方も、たまには好みとは違ったタイプのワインを試してみませんか?
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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