ワインの種類ほど多種多様ではありませんが、ワインボトルの形もたくさんの種類があります。
その多くは「ワイン売り場で目立つように」という、マーケティング上の理由です。
しかし中には「へぇ~」と唸る理由をもつものもあります。
今回はワインボトルの基本の形から特殊なものまで、当店にあるものをご紹介します。
ボトルの見た目の重要性
何かワイン買いたいんだけど、特にほしい銘柄ないんだよな。何にしようかな~
そう悩んでいるとき、どうやって美味しそうなワインを探しますか?
私はワインショップの売り場で並んでるワインを眺めながら、目についたものにすることが多いです。
そんなとき、目につきやすいのはどんなワインでしょうか。
エチケットがおしゃれだったり派手だったりするのも大事でしょう。
しかし瓶の形そのものが他と違うのも、並んでいるワインの中では目を引きます。
つまりワインボトルの形は、「ワイン売り場で手に取ってもらうため」に重要です。
しかし、実際に流通しているワインボトルのほとんどは、数種類に分類できます。
長い年月その形が変られず使用され続けるには、ワインボトルの機能性面での理由があります。
まずはガラス瓶のワインボトルが使用されるようになった歴史から見ていきましょう。
ワインボトルの歴史
そもそもワインボトルは何のためにあるのでしょうか。
一つは小分けにするため。巨大な容器で醸造したワインを、消費者が購入してそれぞれの場所で消費するためです。
もう一つは保管のため。15%弱のアルコールを含むワインは、そう簡単には腐りませんが、やはり酸素との接触で劣化します。
それを防ぐためのガラス瓶とコルク栓なのです。
酸につよいガラス瓶
ところでなぜワインは重くて割れやすいガラス瓶に入れられるのでしょうか。
それはワインが強い酸性の飲み物だからです。
酸性が強いと金属をサビさせてしまいます。
サビに強いステンレスやアルミニウムといった金属容器の開発以前、金属容器でワインを保管・運搬するのは危険でした。
そこで空気を通さず化学反応を起こさない、ガラスが重宝されたのです。
最古の容器 アンフォラ
もちろんワインの歴史の最初からガラス瓶が使われたわけではありません。その歴史は18世紀ごろからだと言われています。
ワインの醸造は8000年前のジョージアで始まったと言われます。その証拠として挙げられるのが、アンフォラ(土器のかめ)に入った状態で見つかったブドウの種でした。
まずは土からつくる容器が、ワインの醸造と保管に使われたのです。
オーク樽の登場
アンフォラは製造が容易だったのは間違いないでしょうが、なにせ土器なので重くて脆い。
運搬中の破損が多かったことは、想像に難くありません。
そこで登場したのが、現在もワインの醸造に使われるオーク樽。
Von Stefan Kühn, CC BY-SA 3.0, Link
ドイツのトリアーで見つかった彫刻から、遅くとも3世紀ごろにはワインの容器として使われていたことがわかっています。
柔軟性に富む木材は、土器に比べて軽くて丈夫な入れ物だったのです。
一方で、酸素を断つという意味の密閉性で言えば、アンフォラもオーク樽も完全には程遠いものでした。
現在使われているオーク樽も、保管しているうちに木目を通してワインが蒸発し、目減りしてしまいます。
量もそうですが、酸化してしまうという点でも、保管容器としては適していませんでした。
ガラス瓶とコルク栓
18世紀に入って、ガラスの加工技術が上がり、ワインの容器として使えるようになりました。
その栓として、伸縮作用のあるコルクの利用も始まります。
ワインの酸化防止剤として、硫黄を燃やして得る亜硫酸を利用するようになったのもそのころのようです。
これらの保存技術があってはじめて、「何十年も熟成させてヴィンテージワインを楽しむ」ということが可能となったのです。
現在ではワイン瓶は工業製品です。
ならば単一の規格のものを大量生産する方がコスト面では優位です。
にもかかわらず、ワインボトルに多くのバリエーションがある理由を見ていきましょう。
基本の形その1 ボルドーボトル
市場で最も多くみられる形がこのボルドー型。
その名の通りフランスのボルドー地方で主に使われている形状です。
ボルドーでこの形のボトルが多く使われるのには理由があります。
熟成を念頭に置いたボルドーワイン
ボルドーで主に栽培されているブドウは、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フランなど。
これらのブドウは酸もタンニンも高く、長期熟成に耐えうるワインができます。
瓶詰後の保管によって味わいが向上するのです。(すべてのワインが、というわけではありません)
熟成させると、ワインの中に澱(おり)が析出します。
これはワイン中のタンニンが互いに結びついて、溶けていられなくなって結晶化するのです。
澱は食べても毒にはなりませんが、ざらざらして口当たりが悪いです。
なのでワインを注ぐときにグラスに入らない方がいい。
ボルドー型のボトルは、瓶を傾けたときに方の部分に澱が留まるようになっています。
もちろん、ボトルを揺らしすぎると澱が舞うので、「入りにくくなる」程度ですが。
これがソムリエ教本をはじめ書籍などで教わるボルドーボトルのメリットです。
コストの低さ
ボルドーボトルは12本1ケースとして段ボールに入れた時、箱が最もコンパクトです。
後述するブルゴーニュボトルよりもわずかに背が高いのですが、それよりも瓶の細さが勝ります。
コンパクトということは、輸送コストの低下につながるということ。
スーパーのワイン棚をワインショップのワイン棚と見比べると、圧倒的にボルドーボトルが多いことに気づきます。
ワインの小売チャネルとして最も多いスーパーマーケットは、最も低価格のワインが売れるところ。
おそらくボルドーボトルが最もコスト面で強いのでしょう。
保管のしやすさ
ボルドーの生産者の中には、瓶詰されたボトルの一部を数年から数十年ワイナリーで保管し、価格を上乗せして販売する生産者も多くいます。
その場合、ワインボトルは写真のように裸の状態で保管されます。
その際、形が直線的なボルドーボトルは、重ねたときの安定性が高いのです。
この保管のしやすさも、ボルドーでこの形が大部分を占める理由でしょう。
高級ワインに多いヘビーボトル
最近はボルドーの生産者でもヘビーボトルを用いるところが増えてきました。
ヘビーボトルは、一般的なボルドーボトルより肉厚で、肩の部分が少し太くなっているのが特徴。
ヘビーボトルはそれだけ頑丈。
何十年もしっかりワインを守ってくれるようにとの期待が込められているのでしょう。
なのでワイナリーもすべてのワインにヘビーボトルを使うのではなく、そこの一番高級なワインに用いるようです。
また、ヘビーボトルは非常に瓶底が深い。
ワインの瓶の底はへこんでいるものがほとんど。これは、底のみぞに澱が溜まるように。
とはいえ、一番の理由は見た目かも!?
大きいボトルの方が、存在感があって高級なワインに見えるからでしょうか。
基本の形その2 ブルゴーニュボトル
ボルドー型の次によく見かけるのが、ブルゴーニュ型ボトルです。
ボルドー型に比べて少し太く、肩の部分がなだらかなのが特徴です。
必ずしもというわけではありませんが、ピノ・ノワールやシャルドネといった品種は世界中でブルゴーニュボトルに入れられることが多いです。
ブルゴーニュボトルのメリット
ボルドー型ボトルの瓶を傾けてワインを注ぐと、「コポッコポッ」と音を立てつつ、泡をたてながらワインが注がれます。
それに対してブルゴーニュ型ボトルは、比較的静かにワインが注がれます。
前者は注ぐ際により空気がワインに含まれることとなり、後者はそれが少なくなります。
ボルドー、ブルゴーニュのワインの典型的な味わいを見ると、その性質が理にかなっていることがわかります。
それぞれのワインの味わいから
先述の通り、ボルドーの赤ワインは多くのタンニンを含みます。特に若いうちは渋いのです。
渋味は空気に触れることで和らぎます。なのでボルドーワインは注ぐ際に多少泡立つくらいがちょうどいいことが多いです。
一方でブルゴーニュワインのタンニンは比較的控えめです。
繊細な味わいのピノ・ノワールは、多くの場合静かに注がれた方が持ち味を発揮します。
これがそれぞれの産地の代表的なワインから見た、ボトル形状のメリットでしょう。
ブルゴーニュボトルにもヘビーボトルがあります
ブルゴーニュ型ボトルにもヘビーボトルは存在します。
代表的なのは世界一高価なワインである「ロマネ・コンティ」をはじめとしたDRCのワインボトル。
同じ750mlなのに、非常に重量感があります。
それほど高価ではないワインとしては、オー・ボン・クリマなど。
同じオー・ボン・クリマのツバキ・ピノ・ノワールが約1330gなのに対して、イザベル・ピノ・ノワールはなんと1990g!
入ってるワインの量は同じで、重さが1.5倍とはどういことでしょう?スパークリングワインよりも重たいボトルです。
ガス圧に耐えるスパークリングボトル
最大で6気圧程度の圧力を閉じ込める必要があるスパークリングワイン用のボトルは、一般的なワインのボトルより分厚く作られています。
概ね形状としてはブルゴーニュボトルと似ていますが、全体的に一回り大きく、また瓶口の形状が違います。
コルクを固定する金具(ミュズレ)をしっかりつけるための溝があるのです。
変わった形のスパークリングボトル
スパークリングワインでもちょっと変わった形状のボトルはいくつかあります。
どちらかというと、瓶が太くなる方に特殊な形状が多いです。
「変わった形のボトルで手に取ってもらいやすいように」といった理由もあるかもしれません。
とはいえ、太いボトルは陳列棚の並べられる本数が変ってしまうことがあるので、スーパーや量販店からは嫌われる傾向にあるんじゃないかと推測します。
平たい瓶底のその意味は
スパークリングワインのボトルも、ボルドーやブルゴーニュ型と同様、瓶底の凹んだ形が主流です。
その中で瓶底が平らなことで有名なシャンパンがあります。
ルイ・ロデレール社がつくる『クリスタル』です。
これは18世紀当時、ロシア皇帝に献上されていたから。
底のくぼみに危険物が隠されないように、また毒物を入れられた際に分かりやすいようにとの要請があったのです。
ボトルが透明なのもその理由から。
今もその名残のボトルをトレードマークとしています。
スッキリとしたワインを入れるフルートボトル
リースリングなどのアロマティック品種は、フルートボトルに詰められることが非常に多いです。
フランスのアルザスの外、ドイツ、オーストリアなどで特によく見かけます。
これはそこで多く栽培される品種の飲み頃温度が影響しています。
良く冷やして飲まれることが多いので、ボトルが細いと氷水に漬けたときに素早く冷やすことができるのです。
ボトルの背丈にご注意を
フルートボトルの一般的なものの背丈は、32~33cmほどです。これでもスパークリングワインなどに比べても少し高いですが、なんとか汎用の箱にも入りますし、ワインセラーでの保管にも困りません。
ところがボルドーボトルに対するヘビーボトルのようなもので、高級なリースリングなどはさらに背丈の高いボトルを使う傾向にあります。
750mlのボトルで、最大35cmあるのです。
これくらい長いと、それほど大きくない家庭用ワインセラーでは、奥行きが足らず寝かせて保管できません。
また、ワインショップによってはギフトボックスの高さが足らず、包装できないことがあります。
COCOSは少し前にギフトボックスを刷新してロングボトルにも対応しましたが、それ以前は断っていました。
取り回しに困ることがあるので、長いボトルには注意が必要です。
フランケンの伝統 ボックスボイテル
Bocksbeutelとつづるドイツ、フランケン地方の伝統的なワインボトルで、雫のような形をしています。
現在はこの形はフランケンとポルトガルの一部地域の伝統と認められており、他の地域でまねをすることはできません。
語源は「ヤギの睾丸袋」というのが有力ですが、「祈祷書を入れる袋」という説もあります。
陳列も配送も2本分のスペースをとるので、ワインショップにはやや嫌われがち。
しかし購入して冷蔵庫で保管してみると、どこに寝かせてもゴロゴロ転がらないし、薄い形状はドアポケットの隙間にもおさまりがいい。
実は冷蔵庫に保管するうえで最も便利な形状なのです。
ロゼワインボトル
特徴としては、形状というより色。
普通は赤ワイン・白ワインのボトルは緑や茶色などの濃い色がついているものです。
これはワインを紫外線による劣化から守るため。濃い色ほど遮る高価が高いと言えます。
一方でワインそのものの色は分かりづらい。
鮮やかなピンクの色合いが魅力のロゼワインは、透明なボトルを使う傾向が非常に高いです。
ぶっといボトルが特徴的なミラヴァルのロゼもそのなかの1本。
ロゼワインは熟成させずに若いヴィンテージのうちに消費されることがほとんどです。
透明ボトルが紫外線の影響を受けやすいのは確かですが、それが顕著に表れるより前に消費されるなら問題ないという考えなのでしょう。
その他の個性豊かなボトル
代表的なワインボトルの形状は上記のとおり。
特殊なボトルより一般的なボトルの方が安く軽いため、運搬に必要となる化石燃料も少なくて済みます。
なので私は「ワインボトルにこだわるのは必要最小限で、中身で勝負してほしい」というのが持論です。
とはいえ「思い入れのあるワインは、特別なボトルに入れて消費者のもとへ届けたい」という考えも理解できます。
なかなか他に見かけない、特殊な形状のボトルに入ったワインとしては、これはセンスあると感じました。
手で握ったあとがついたような特殊なボトルのこのワイン、目を引きます。
こんなに違う!ワインボトルのサイズ測定
見た目からして大きさが結構違うワインボトル。実際のサイズはどうなのか計測してみました!
例えばワインセラーを購入する際、ボトルが収まるかどうかの参考にしてください。
■ボトルの種類 | 高さ | 直径 |
ボルドーボトル | 300mm | 75mm |
ボルドー ヘビーボトル | 308mm | 78mm |
ブルゴーニュボトル | 297mm | 80mm |
ブルゴーニュ ヘビーボトル | 305mm | 86mm |
フルートボトル | 325mm | 73mm |
ロング フルートボトル | 350mm | 77mm |
スパークリングボトル | 318mm | 85mm |
マグナム ブルゴーニュボトル | 355mm | 105mm |
ボックスボイテル | 220mm | 145×72mm |
ミラヴァル・ロゼ | 250mm | 100mm |
※注意!
ボトルの形状ごとに一般的と思われるサイズのボトルを計測しました。
しかしきちんとした計測法ではなく、ものさしを当てただけです。若干の測定誤差、ボトルの個体差があることはご承知ください。
ワインボトルに込められたメッセージを
特殊な形状のワインボトルを使用することも生産者のこだわりなら、あえて通常のボトルを使用するのも生産者のこだわりなのかもしれません。
主要なワインボトルの形とその適性を知れば、「このワイン、こんな感じの味わいかな。こういう風にして飲んでほしいのかな」というのが推測できるようになります。
ボトルの形状にも注意してワインを味わっていけば、「私はこの形のボトルがだいたい好き」なんて風に、ワイン選びの助けとなることでしょう。