「まるでシャンパン」という売り文句はよく見かけますが、本当でしょうか?
ブラインドテイスティングでプロをもだませるなら、決して過剰広告ではないでしょう。
高級スパークリングワインとシャンパン8本を、銘柄を伏せて検証しました。
「まるでシャンパン」なスパークリングワインは、ありました!
「まるでシャンパンなスパークリングワイン」は・・・
きっかけはTwitterで相互フォローしている方のこの一言でした。
この指摘には反省。自身が安易にこの表現をつかっていないかと。
一方でこう思ったのです。
「このスパークリングワインなら、残りの5%に入るんじゃない?」
そうしてこのブラインドテイスティングのワイン会が開催されたのです。
シャンパンとスパークリングワインの違いは?
シャンパンはスパークリングワインの一種で、フランスのシャンパーニュ地方にて既定の品種・製法でつくられたもののみを言う。
ここまではワインにある程度親しみのある方ならだれもがご存知でしょう。
では実際のワインに違いはどう表れるのか。
10万円するシャンパンはあっても、10万円するシャンパン以外のスパークリングワインは(おそらく)ありません。だから超高級ワインは無視するとします。1万円以下の価格帯で比べた場合、どこが違いに現れるのでしょうか?
伝統的方式だから?シャンパンをまねて伝統的方式でつくるスパークリングワインは各地にあります。
ブドウ品種が違う?シャルドネとピノ・ノワールのスパークリングワインは世界中で作られています。
瓶内2次発酵の期間がシャンパンが長い?5年以上の熟成期間を経た細かい泡のスパークリングワインだってあります。
気候が違う?積算温度で考えるなら、シャンパーニュ地方並みに冷涼な産地もなくはないです。
「この点で異なるから、こういう味に違いを感じます」というのは、実はかなり難しいです。
そこで今回のワイン会では、インポーターで働くワインのプロにもお声かけして、検証に参加していただきました。
今回のレビュアー
メンバー紹介をします。
ワイン会の参加者
Aさん:【プロ】ヨーロッパ中心にワインを扱うインポーターの営業さん
Jさん:【プロ】世界中のワインを扱うインポーターの営業さん
Tさん:【プロ】世界中のワインを扱うインポーターの内勤、元営業さん
Iさん:【プロ】世界中のワインを扱うインポーターの営業さん
EXさん:【一般人?】ワインエキスパートエクセレンス所持の他業種営業さん
WEさん:【一般人?】ワインエキスパートに昨年合格した会社員さん
Bさん:【一般人?】資格はないものの、ワインに関するブログを長年運営
片山
ハイ、なかなかガチのメンバーで検証していきます。
検証方法
食べ物による影響をなくすため、まずはパンだけかじりながら8種類のスパークリングワインをブラインドで試飲します。
ラインナップは私が考えたものです。提供順を考えて決めると読まれそうだったので、あえてランダムにしました。
レビュアーに答えてもらう質問項目は次の通り。
①ワインの好感度 1~10点
②主要なブドウ品種の予想 シャルドネ、ピノ・ノワール、その他
③ワインの産地
④ワインの価格
⑤このワインを購入したいかどうか
⑥このワインはシャンパンですか? Yes/No
私の回答は中途半端に銘柄に引っ張られてそうな感じがしたので、今回掲載の集計データからは省きました。7人分のデータとして掲載しております。
余談:集計方法
もし同様のワイン会を企画しようと考えておられたら、GoogleフォームとGoogleスプレッドシートを組み合わせて使うことを提案します。
あらかじめ質問項目に応じた集計フォーマットをスプレッドシートで作成。各自のスマートフォンで質問に回答してもらえば、数秒で結果発表の形式にできます。紙に回答して集計するより圧倒的に速くて結果も見やすいです。
各個人の手元に回答結果も残るので、メモ代わりに使えます。
8本の検証結果
それでは順番にレビュアーのジャッジを発表後、銘柄を公開していきます。
1本目 好感度6.7点
1本目は多くの人がピノ・ノワール主体と予想。
シャンパンであると答えた方がやや多かったです。
ワインの価格予想は2000円前後から8000円前後まで。大きく差がでました。
4名の方が「シャンパンである」と予想したこの銘柄は・・・・・
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シャンパンでした!
当店の取り扱い銘柄ではなく、「タカムラワインショップ」さんで購入してきたものです。なんとその価格2380円!
2本目 好感度4.9点
実はこの2本目、片山が「レコルタン・マニピュランがつくるシャンパンっぽいから、みんな騙せるんじゃない?」と期待して入れた1本。みなさんの反応がイマイチで悲しみ。。。
ブドウ品種はピノ・ノワール予想
産地予想はいろいろ割れて、WEさんのみ正解。
価格は手ごろな予想で、あまり購入意欲は湧かなかったという結果。
みなさんシャンパンではないと回答・・・・正解です。
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2本目のスパークリングワインはこちら。ドイツのゼクトキングがつくる泡です。
【ココス価格 6,160】
言い訳をするならば、ワインを開けてすぐ提供したので冷たすぎて閉じていた可能性もありますね。
酸度はドイツだけあって高めなので、それで痩せて感じてしまったのかも。
3本目 好感度7.4点
好感度7.4点!結構高いです。
ブドウ品種予想はシャルドネやや優勢。
産地はシャンパーニュが最も多いですが、ばらけてます。
価格はそれほど高価な予想ではなく、それゆえか「買いたい」との回答が大半でした。
シャンパンじゃないとの予想がやや優勢なこのワインは・・・・・
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【ココス価格 ¥5,500 完売】
ハイ、ミレジメのシャンパンでした。
これが一番なじみのある、嗅ぎなれている香りがした
ブリオッシュなどに例えられる、酵母の自己分解に由来する香りが一番はっきり表れていたように感じます。
2012年というヴィンテージの良さもあったのでしょう。5500円という価格は特価で仕入れたからで、もう同じヴィンテージは入ってきません。
4本目 好感度6.1点
今回最も「シャルドネでもピノ・ノワールでもない!」という予想が多かったのがこのワイン。
色もかすかにピンクがかっていました。
産地予想はバラバラ。シャンパーニュ予想していた方は値段も高めに予想していました。
たしかにこの個性的な風味が仮にシャンパンだとしたら、こだわってつくっている小規模生産者のはず。必然、価格も高くなるはずです。
多くの方が「シャンパンではない」と予想したこのワインは・・・・・
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近日入荷予定です。
ラヴェントス・イ・ブランのテクスチャード・ペドラ。
スペインで「カヴァ」を名乗れる産地・品種ながらあえてカヴァではないとする生産者です。
5本目 好感度7.6点
実はこのワインも片山が「これはシャンパンだと言ってくれるだろう」と期待していた1本。
そこそこの高得点が得られて一安心。
品種予想はシャルドネが優勢ですが、他の品種と予想した人も多数。
シャンパーニュ以外では、ドイツを予想する人もいました。
価格幅は大きいものの、9000円予想する人も。
シャンパンと予想する人もしない人も「買いたい!」と答えたこのワインは・・・・・
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ニュージーランドのスパークリングワイン、「エミー ブリュット メソッド トラディショネル 2011」でした。
創業者の一人はドイツ人で、「ヨハネショフ・セラーズ」という名前もドイツっぽいため、いい線いってたのかも。
ニュージーランドと予想した人はゼロでした。
お買い上げありがとうございまーす。
6本目 好感度6.3点
まずまずの好感度ながら、過半数の方がシャルドネ、ピノ・ノワール以外であると予想。
2本目につづいて、誰もシャンパーニュとは予想しない・・・
みなが高いワインではないと予想するこの1本は・・・・・
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なんと!
モエ・エ・シャンドン ブリュット・アンペリアル!
ザ・シャンパンのはずっ!これはブログ的にはオイシイ!
いいのか!?こんなにディスってしまって・・・
とはいえあくまでブラインドテイスティングの結果ですので。
7本目 好感度7.9点
実は僅かな差ながら今回最高額のワインがこの7本目。
品種予想はピノ・ノワール主体が優勢。
確かにワインの味わいにボリューム感がありました。
そして今回唯一、5人も「シャンパンである」との予想。
ワインの価格は9000円まであり得ると。
みなが「購入したい!」と感じたこのワインは・・・・・
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ロデレール・エステートの「エルミタージュ・ブリュット2015」でした!
カリフォルニアのスパークリングワインです!
(ある種のツンツンした辛口を連想させる刺激香とのこと)
8本目 好感度7点
最後の1本は多くの方が「シャルドネだけどシャンパンじゃない」と予想したもの。
銘柄を知っての私の感想ですが、「熟成したブラン・ド・ブランのシャンパンっぽい風味のベースに、シャンパンにはないなんとも言葉にしづらいスパイスっぽいアクセントがある」
クレマンやドイツの予想が多いようです。
これは「片山だったら絶対ドイツワインは入れてくるだろう」との読みも入ってるでしょう。
4000円くらいなら買いたいとの回答が多かったこのワイン。
みながシャンパンとはなにか違うと感じているこのワインは・・・・・
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【ココス価格 ¥5,390】
イタリア、ヴェネト州でジャンニテッサーリがつくる「60 メーズィ」。「ドゥレッラ」という品種を用いた「ドゥレッロ」というマイナーDOCだそうです。
参加者一同、一斉に頭にハテナマークを浮かべていました。
まるでシャンパンなスパークリングワインは・・・ある!
今回の検証の結果、プロをもだまず「まるでシャンパンなスパークリングワイン」は・・・
ロデレール・エステートのエルミタージュ・ブリュットでした。
今回のワインセレクトの意図
今回用意したシャンパン以外のスパークリングワイン5本。意図をもって外した産地があります。
まずはクレマン・ド・ブルゴーニュ。産地として同じフランスで距離もそこまで遠くなく、石灰質土壌という点では一応土壌も似ています。
品種もシャルドネとピノ・ノワールがメインなので、一見近いワインをつくれそうにも感じます。
ただ、産地が近いがゆえに「シャンパンには勝てないから下の価格帯で勝負しよう」という生産者の狙いが感じられるような気がするのです。ひょっとしたら輸入元さんがそういう意図で選んでいるのかもしれません。
要するにシャンパンの下位互換であることを受け入れている節があるのです。
その点でイタリアのフランチャコルタは、シャンパンに挑もうという気概があるように思えます。われらがイタリアのスパークリングワインでNo.1だと。
しかしフランチャコルタは、熟成が長くても酵母の香り・熟成香があんまり表れてこないように感じています。この点で「まるでシャンパン」とは言いにくいと判断しました。
南アフリカも「片山なら出しそう」と予想していた人も多いようです。
まず候補となるのが、グラハムベックがつくるキュヴェ・クライヴ。南アフリカを代表するスパークリングワインとして非常に高品質です。
ただ、私のイメージなのですが、果実味の雰囲気が明るい。
どちらも豊かな日照のもと、健全に育った果実を思わせる風味。そこがブドウ栽培の北限近くであるシャンパーニュとは違うイメージだったのです。
これらが「あれ?このスパークリングワインは選ばなかったんだ」という疑問への回答です。
(たぶん)風味だけでは判別不能
「この香りがしたらシャンパン」「シャンパンには必ずこういう風味がある」
こういったものがあれば、プロならこれほど間違えません。きっと。
でもそんな簡単じゃないんです。
例えば私はワインにブリオッシュのような甘いパンの香りがあると、それがシャンパンであると判断する傾向にあります。それは酵母の自己分解に由来する香りで、シャンパンの典型的な香りとされます。火を通したリンゴやアップルパイにも似ています。
ただし、瓶内2次発酵が4年か5年くらいはしてないと、あまりハッキリは感じられません。さらにおそらく出荷されてから2,3年以上たっている方が顕著に表れます。
これがスパークリングワインにないとは言い切れないのですが、シャンパンよりもさらに長い熟成期間が必要だと感じています。
今回ですと③ニコラ・フィアットと瓶内2次発酵7年の⑤ヨハネショフセラーズでやや感じるくらい。①ヴィシエにもわずかにありました。
ただ、モエにはこの香り、なかったんです。そして経験上、感じないシャンパンは結構あります。
だからこの香りを目印にすると、「まるでシャンパン」に騙される確率は低いですが、「これはシャンパンじゃない」という方向に間違う可能性があります。
「香りや味で判別するポイントはありそうで、ない。」
これが今回の検証における結論です。もし明確に判別できる方がいたら、教えを請いたいものです。
「まるでシャンパン」の文句は慎重に
今回の①ヴェシエは例外として、シャンパンといえば普通は4000円台スタートです。
特に2022年は有名なメーカーのスタンダードクラスが大幅値上がりした年で、モエの相場は8000円くらいです。
だからこそちょっと美味しい3000円前後のスパークリングワインを売る文句として、「まるでシャンパン」は期待値が高い!少なくとも3割ほど高価なワインの味がするってことですから。
しかし「全然シャンパンじゃないじゃん!」とお客様をがっかりさせてしまう可能性は十分にある。だからこそ我々プロは、安易にこのフレーズに頼らないよう、肝に銘じなければなりません。
②ラウムラントの説明文も、泣く泣く変えるとしましょう。骨格のしっかりとしたピノ・ノワールの風味がしっかり出てて、酸味も高くてちょっとだけサヴァールのつくる「ルーヴェルチュール」に似ていると感じたのですが・・・
シャンパン以外にも美味しいスパークリングワインはある!
シャンパンよりも安い価格帯で、シャンパンみたいなスパークリングワインがあるなら、そりゃ買いたくなります。
でもそんなうまい話はない。
今回の検証から、十分シャンパンが買える価格帯のスパークリングワインでも、なかなか簡単には「まるでシャンパン」とは思わせられないことがわかりました。
でもそれでいいんだと思います。世界中のスパークリングワインが、シャンパンとは違うそれぞれの魅力を持つ。その方が楽しいじゃないですか。
5000円のワインを買うなら失敗したくない。だからシャンパンなら間違いないだろう。その気持ちもわかります。
でも同じ価格帯のスパークリングワインには、ブランドがないからこその味の追求があります。
ではその美味しさをどう表現して伝えればいいか。これは我々伝える側の努力が足りていないところです。実際、この価格帯のスパークリングワインは、どれもそんなに売れてません。
それは生産者もわかっていると思うんです。きっと生産者自身がシャンパンが大好き。シャンパンに挑めるようなスパークリングワインを自分の手でつくりたい。だからちょっとだけ作っているんじゃないでしょうか。
生産者の愛とこだわりがつまった高級スパークリングワイン。誰かと集まる機会に思い切って試してみては?