南アフリカで最も早いスピードで一流生産者の仲間入りを果たした「マリヌー」。
決して奇抜ではない手法で卓越したワインをつくるための、綿密な計画性がうかがえます。
オンリーワンの高級ワインでワールドクラスになるため、全く無駄ないアプローチなのです。
「言うは易いし行うは難し」を見事に実践する、隙のないワインづくりをご紹介します。
今、世界のソムリエに愛される味筋
一流レストランが提供するのは、上質な料理とお酒ではなく、そこで食事をするという『体験』である。
同じ食材・ワインを用意しようとも自宅ではできない『体験』。その一つがワインと料理のペアリングです。
それを設計するソムリエにとって、マリヌーがつくるワインの味わいは「使いたくなる」ものであろうと考えます。
想像力を掻き立てる看板ワイン2本
マリヌーには赤白それぞれに看板ワインがあります。
KATAYAMA
ローヌやバロッサ・ヴァレーのシラーのような「力強さ」は顕著ではなく、荒々しさは一切なし。むしろ一口目のアタックは柔らかく、上品でスムースな口当たりです。全房発酵によるフレッシュな風味とタンニンの量がありながら、渋味が非常にきめ細かくしなやか。ガツンと強いワインを苦手とする方にも受け入れられ、なおかつ上品な酸味により熟成ポテンシャルもありそうです。
KATAYAMA
2024年の3月と6月に試飲しましたが、ボトル開けたてのころは還元の臭いが強く出ました。ただ頑固な還元ではなく3分ほど強くスワリングしていたら消え、上品な白桃や色とりどりの花束のような香りが広がります。シュナン・ブラン単一のワインに比べ風味の複雑さと塩味のような余韻が魅力的です。
自宅で飲むなら、開けて2日目以降により魅力を発揮しそうです。変化が面白い白ワインです。
モダンな料理とあわせたくなるバランス
先の2本はどちらも、「パワフルでフルボディー、一口目から美味しさが主張する!」というタイプでは全くありません。おそらく、試飲販売には弱いです。
代わりに高級なレストランのソムリエさんは、料理に合わせて提供するグラスワインとして使いたがるでしょう。
近年の傾向として、一皿の中で様々な変化を味わえる料理が好まれます。また健康指向で油脂を控えたものの方が喜ばれるでしょう。
「オールド・ヴァインズ・ホワイト」は、多品種のブレンドとやや細身なボディ感によりペアリングの懐が広く、塩味のある余韻が旨味をひきたてます。
脂したたる牛肉に濃厚なソースがかかっているなら、もっとパワフルなシラーを選ぶべきでしょう。しかし一口ごとに調味料を変えて食べるようなあっさりとした肉料理なら、この「シラー」の控えめな濃厚さの方がいい。料理の印象が後まで残ります。
現代のレストランに求められるバランスをきっちり狙って仕上げてきている。そう感じるのです。
小さなワイナリーが世界で勝負するには
想像してください。あなたは醸造大学を出てワインづくりの理論を学び、数か国で経験を積んでいるワインメーカーで、独立を目指しています。ワイナリーの家系というわけではなく、受け継ぐ畑や醸造所はありません。醸造スキルには自信があり、一流のワインをつくれると自負しています。
どんな戦略を持って、どこでどんなワインをつくりますか?
その『勝ち筋』を最短で選んできた。マリヌーから私はそのような印象を受けます。
大規模生産者の方が安くて美味しい
設立して間もない小さなワイナリーと比べ、大規模なワイナリーが持っていることの多いものは何でしょうか。大規模だからこそ可能なことは何でしょうか。
- 契約農家 様々な地域に多くの信頼できる農家
- 高価な醸造設備 光学式選別機のような品質向上につながるもの、あるいは大量生産を可能にするもの
- 醸造家・コンサルタント 実績のある人を雇うことができる
- 資金調達力 より多くのお金を集めて大きな改革ができる
- マーケティング ワイナリー主導のプロモーションが行える
広範囲に多くの契約農家があれば、調達するブドウの地域を年に応じて変えることで、ヴィンテージによる味わいの差を小さくできます。「毎年美味しい」というイメージを保つのにつながります。
小規模でもオーナー醸造家が凄腕なら、別に外部コンサルタントがいなくてもいいでしょう。でもやってみて上手くワインをつくれなかったとき、「醸造家をクビにする」という選択肢はありません。大規模なワイナリーなら醸造家が交代することはよくあります。
上記のように大規模ワイナリーには様々なメリットがあります。平均的な話をするなら、大規模な生産者がつくるワインの方が同じ価格で比べたとき美味しいです。美味しいから大規模になれたとも言えます。
比較・検討が容易な現代
情報化社会では、極端な話、No.1以外不要です。
「今晩焼き鳥屋さんで飲んで帰ろう」と考えたとき、行くのは最もいいと考えた1店舗のみです。
その人の現在地、予算、味、評判、雰囲気、メニューの豊富さ、行ったことのあるお店かどうか・・・・・。評価基準はそれぞれでも、今日選ばれるのは1つのお店だけです。2番目にいいお店に入ってくるお金はゼロです。
これは別に今も昔も変わりません。ただし情報技術の発達により、10年前に比べても格段に比較検討がしやすくなっています。より多くの情報をもとに、自分にとって最も良い物を選びやすくなってきたのです。
この傾向は今後より強まります。
ワインもそうです。
ごく一部のワインはヴィンテージが進む度に極端なときは5割も値上がりする。美味しさは別に変っていないのに。それでも完売して転売すら有り得る一方で、売れずに余って困っているワインが山のようにある。
実績と人気のあるワインに、より人気とお金が集中する傾向があります。
小規模ワイナリーの勝ち筋は
そんな現代で、新設の小規模ワイナリーが世界に勝負する方法は何か。
専門誌の高評価をアテにして待つのはなかなかできません。
「うちのワインはこんな魅力的な個性がありますよ」
そうオンリーワンになるしかないのです。
大規模ワイナリーの主力ワインは、その生産量ゆえに味の方向性に制約があります。年間生産量300万本のワインを、一部のコアなワイン好きをターゲットにした味にはつくれないのです。
逆に10樽3000本しかつくれないワインなら、それを1000円で売っていてはとうてい採算が取れません。5000円で売っても納得してもらえる品質。そして他ではなくその1本を選ぶ理由がある個性が必要です。そのためにはある程度とがった味である方が有利です。
プレミアムワインをこれからつくるには
強力なバックボーンを持たない人が、これから小さなワイナリーで素晴らしいワインをつくるにはどうすべきか。
現在は勢いのない既存のワイナリーを買い取る。少しマイナーで質のいいブドウを購入しやすい産地で始める。
このパターンが多いのではないでしょうか。
既に出来上がったマーケットに参入するのは大きな財力が必要です。
他の事業で巨万の富を築いて、かねてからやりたかったワインづくりに乗り出す例はあります。ナパ・ヴァレーなら、ハンドレッド・エーカーやダリオッシュなどがその例。でも普通はそう簡単に土地を取得できませんし、実績もないのにブドウを売ってもらえません。
成功した生産者はたくさんいます。日本にワインが輸入され、我々が知ることとなったのは成功の証です。
でも上手くいかずに廃業した例はもっとたくさんあるでしょう。その名前を我々が知ることはありません。
成功と失敗を分けるカギは何か。マリヌーの選択からそれが見て取れるように感じます。
「現代的な」視点を感じるマリヌーの選択
マリヌーはクリス&アンドレア夫妻が2007年に設立しました。
クリスは南アフリカ出身ですが、アンドレアはアメリカ出身。二人は研修先のフランスで出会ったそうです。
二人が「マリヌー」のスタイルを確立するにあたっての選択には、「魅力的な個性を持った少量生産ワイン」のためのアプローチがあるように感じます。
二人が選んだ「スワートランド」という地域
スワートランドはケープタウンの北方に大きく広がる産地です。地域区分としての面積は広いのですが、ブドウ畑自体はそう多くはありません。
というのもかなり乾燥しているからです。
この写真でステレンボッシュの風景と比べてください。左がマリヌーの畑。右がステレンボッシュのラステンバーグから見た山の風景です。山の植生が大きく違うのが分かるでしょう。直線距離でおよそ50kmほどです。水分が少ないため、緑が生い茂る範囲が狭いのです。それでも日本の山とは大きく違うのですが。
南側の海からは遠いですが、西は大西洋に比較的近いです。なので日中の気温はかなり高くなりますが、朝晩は非常に涼しい。空気が乾燥しているので、真夏でも屋内は冷房要らずです。
このような気候ですので大量生産には向いていません。
ブドウを密集させて植えるならば灌漑(水やり)が必須ですが、その灌漑用水もそう簡単には手に入らないのでしょう。写真のように間隔を広くとって植えます。一般的な垣根仕立てに比べ、この「ブッシュヴァイン」という仕立ては樹高が低いので、水分が少なくても枯れにくく適しています。
ただし収穫量は少なくなり、作業性が非常に悪いので人件費がかかります。
オールド・ヴァインのワインを最初から
生産性が低いからこそ、植え替えずにおかれたのでしょう。スワートランド地区は南アフリカでも得に樹齢の高いブドウが残っています。それもカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネのような人気品種ではありません。グルナッシュやサンソー、セミヨンやシュナン・ブランなどです。
自分で土地を買いブドウを植えれば、樹齢は0歳からスタートです。一般的に樹齢が高いほどブドウは高品質と言われますので、ワインの質は20年以上かけて徐々にゆっくり上がっていきます。仮にピノ・ノワールで有名なヘメル・アン・アード地区に進出していたなら、ブドウを植えるところからのスタートだったでしょう。
先述の高樹齢のブドウを購入できたので、いきなり高品質なワインをつくれたのです。
二人がワイナリーを拓いたのは、南アフリカのスーパースター「サディ」が有名になってきたころ。まだスワートランドに注目が集まっていなかったからこそ、特にいい畑と契約できたのでしょう。
自然酵母で「不介入主義」に近いアプローチ
海外で研修し広くワインを学んできたからこそでしょう。彼らが選んだのは徒に醸造テクニックを用いないワインづくりです。
自然酵母での発酵、捕酸をせず亜硫酸の他には添加物を用いない、無濾過・無清澄で瓶詰め。
オーク樽による熟成も、果実に対して樽香は控えめです。
多くのワインを知っておられる方にとっては、なんら目新しさのない情報だと思います。つまり上質なワインをつくる現代的なワイナリーがとっているアプローチを、マリヌーも選んでいるということです。
ただ「全く同じように醸造する」というわけでもありませんし、いわゆる「自然派ワイン」のつくり手のように、「何もしないのが良いこと」とも思ってはいないそうで、ブドウが健全にワインになるための手助けはしているといいます。
上級シラーの熟成にはしっかり新樽も使いますし、全房発酵の比率などはワインによって調整しています。
オンリーワンの個性的なワインをつくるには
その1本を飲めば迫るように訴えかける美味しさを持ったワインもあります。一方でその1本では特徴はあれど完璧さからは遠くピンと来ない。けれどシリーズの他のワインと飲み比べることで、違いを感じて好きになるようなワインもあります。
例えばブルゴーニュの村名格のワイン。「どの村のワインが好みか」というより、「村ごとに特徴があって飲み比べれば違いを感じる」ことに魅力を感じる。だからこそブルゴーニュワインが好きという方も多いのでは?
オンリーワンの魅力的なワインをつくろうとする生産者が目指すのは、まさにそれです。製法に由来するオンリーワンは真似できますが、畑に由来するオンリーワンは真似できないからです。
ブルゴーニュ以外でも高級ワインに単一畑からつくるものが増えているのは、それが理由です。
マリヌーのラインナップもこれに近い形です。ただしそこに『通好み』の特徴があります。
重視し実践するサスティナビリティー
一流のワイナリーが「全て」と言っていいほど行っているサスティナビリティーへの取り組み。マリヌーでも当然のように行っています。
農薬や殺虫剤、除草剤を使わない有機農法。さらに畑に南アフリカの花である「フィンボス」を植え、土壌の保水性向上にも取り組んでいるといいます。
ワインの醸造で使用される水の浄化や、果皮や澱を回収しての再利用。ガラスや紙などのリサイクルにも余念がありません。
カバークロップを植えているのもサスティナブルな取り組みの一つです。
ブドウ畑の畝の間に下草を生やす。日本では雑草は勝手にニョキニョキ生えてくるものですが、スワートランドでは種をまいて生やすものなのでしょう。カバークロップを生やすことで保水力を上げ、土壌から水分が蒸発するのを減らします。それにより水の使用を減らすのです。
それらの取り組みのガイドラインとして、IPW(Integrated Production of Wine)の認証を得ています。
設立間もないワイナリーながら、今後もスワートランドで健全なワインづくりが続いていくために投資をする。その『当たり前』はこれまでの研修先で学んできたことでしょう。
通好み!?ターゲットが明確なマリヌーのラインナップ
マリヌーのラインナップは3つのレンジ+甘口という構成です。
それぞれしっかりとターゲットから考えられた構成・価格設定であるように感じます。
すごく評価が高いと聞いた「マリヌー」を飲んでみよう
まず生産者に興味を持ってからワインを飲むなら、何から飲むべきか迷うもの。いくつものグレードでワインをつくっているケースが多いからです。
そういう場合は、生産者がワインに付ける名前から、一番に飲んでほしいワインを察するのがおすすめ。
「生産者名 + 品種名」
このシンプルな名前のワインが看板商品であることが多いです。
マリヌーであればミドルレンジ。5000円くらいの価格はちょっと高く感じるかもしれませんが、既に評価が高い生産者であることと、為替で円がこれほど弱ければ仕方ありません。
この2本の味わいは冒頭でご紹介した通りです。
いくつもの畑のブドウを組み合わせてつくる分だけ、「マリヌーのワインはこういう味」という生産者の意図が最も現れるワインです。まず飲むならこの2本で間違いないでしょう。
より多くの人に「マリヌー」を知ってもらうために
日本に限らず先ほどのクラスを「高い」と感じる方は多いでしょう。
大規模な生産者ではないとはいえ、それでも多くの人にマリヌーのことを知ってもらいたい。そのためにつくっているのが「クルーフ・ストリート」のエントリーレンジです。
どちらもレストラン料理というよりは、普段自宅でつくる料理を引き立てる味。
特にシュナン・ブランが持つ余韻のほのかな苦みは、油を使って炒めシンプルに味付けした野菜などと相性が良さそうです。赤ワインもどっしり力強いわけではなく、控えめで上品なスタイル。それでいて温度で風味を結構変えるので、ゆっくり飲んで違いを感じる楽しみがあります。
マニア心をくすぐる「土」シリーズ
ブルゴーニュに倣ったラインナップ展開をする生産者は、トップレンジのワインを単一畑の名前でリリースすることが多いです。
マリヌーがその名前としたのは、土の種類。「グラニット」「アイアン」「シスト」の3種類で、それぞれシラーとシュナン・ブランで展開されます。
例えばシラーで比較したとき
- グラニット(花崗岩):コショウの香りがよりハッキリ感じられフレッシュな味わい
- シスト(片岩質):味わいの骨格がよりしっかりとしたものになる
- アイアン(鉄分が多い):他に比べボディの豊かさが際立つ
という特徴を持つといいます。
同じ生産者が同じような気候の畑でとれたブドウを同じようにワインにする。それで風味に明確な違いがヴィンテージに寄らず現れる。おそらく原因は土壌の性質だろうということ。
比べて感じる面白さです。ただしその面白さを感じるには、1本定価17,700円+税のワインを複数本同時に開ける必要があります。なかなかディープなワイン好きでないとチャレンジできないですよね。
このテロワールシリーズについては、他のワインの売れ行きを見て仕入れを検討します。
土壌を名前にした意図
ブルゴーニュなら一つの畑を複数の生産者が分割所有しています。同じ生産者でも畑が違えば風味が違うし、違う生産者でも畑が同じなら共通点がある。愛好家を引き付ける要因の大きなものです。
しかしスワートランドは、優良生産者がひしめき合っているわけではありません。同じ単一畑のワインが複数の生産者からリリースされる例はほとんどないのです。だからそのワインが美味しくても、テロワールが良いのか単に生産者の腕がいいのか誰にもわからない。その畑の名前はほとんど誰もしらない。
だからこそワイン通にとっては共通言語である土壌の名前をワインにつけたのでしょう。
希少価値の高いストローワイン
ストローワインとはアパッシメントでつくる甘口デザートワインの製法、およびそれでつくられるワインのことです。
収穫したブドウを数週間~数か月、日陰で乾燥させます。その際に金網の上にわら(ストロー)を敷いて、そこにブドウを並べます。金網に直接置くのに比べ、網の接触面が乾燥しにくくなることを防げて、水分が均等に蒸発していくといいます。
マリヌーの場合は、遅摘みではなく通常のタイミングで収穫したシュナン・ブランを4週間乾燥。通常のワインに比べつくれる量が80%も減ってしまうといいます。その結果、残糖が200g/Lもありソーテルヌの貴腐ワインに勝る芳醇な甘みのデザートワインが出来上がります。
マリヌーのストローワインは非常に評価が高いです。ワインアドヴォケイトによる2008-2022ヴィンテージの評価は92-97点の間。その最高点は3度も受賞しています。
この収穫量の少なさと評価の高さを考えると、この価格は決して高くありません。
前代未聞!最速で南アフリカの最高評価を獲得中
マリヌーには綿密な戦略があったのではないかと筆者が推測するのは、その狙い通りだろう結果がついてきているからです。
世界的に非常に高い評価を得ています。とりわけ南アフリカ国内では圧倒的です。
「南アフリカNo.1評価」とは申しません。しかし設立から評価を多く獲得するスピードでは前代未聞です。
マリヌーの評価一覧
南アフリカのワインガイド「プラッターズ」
5つ星評価(※1)を獲得 述べ30回
プラッターズ ワイナリー・オブ・ザ・イヤー 計4回受賞(2014,2016,2019,2020年)
※1 2020年まで ワイン単位の評価であり5つ星が最高評価
ワイン・エンスージアスト誌 ※2
ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー 2016年、アンドレア・マリヌーが選ばれる
※2 アメリカのワイン・蒸留酒の評価誌で第3位の知名度。100点満点での評価をつける
ティム・アトキン ※3
ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー 2017年、クリスとアンドレアが二人で受賞
※3 ティム・アトキン・マスターオブワインが発行する評価誌。スペイン、アルゼンチンなど地域ごとに取り挙げる。
この中でも特にプラッターズの評価が素晴らしいものです。
ワインアドヴォケイトの評価もなかなか高く、ワインごとの得点は次の表のとおり。
抜群に評価の高い別ブランド「リーウ・パッサン」
マリヌーは別ブランドも持っています。
2013年、アナルジット・シン氏の協力のもと、「リーウ・パッサン」ブランドを設立します。
リーウ・パッサンも主に樹齢の高いブドウが植わる畑から購入しワインをつくります。主な地域はフランシュック。「ブーケンハーツクルーフ」が本拠地を置く、ステレンボッシュから山を越えて東に位置する山に囲まれた産地です。
よりプレミアムワインに特化
リーウ・パッサンがラインナップする品種はマリヌーと異なります。特に評価が高いのがステレンボッシュのシャルドネ。
執筆時に当店に入荷した2022年は実評価ですが、ワインアドヴォケイトで2021年は96+点、2017年は97点という高評価です。
現在日本に入荷しているのは、シャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨン。どちらもなじみのある人気の品種だけあり、価格は高級路線。それでも「高いワインを買うなら、嫌いな味ではないだろう慣れ親しんだ品種で」という選び方もありでしょう。
なお日本未入荷ながら、サンソーやカベルネ・ソーヴィニヨンとサンソーのブレンドなどもつくっているようです。
成功するべくしての成功なのかもしれない
筆者はクリスとアンドレア夫妻に会ったことはありません。また直接話をする機会があったとて、そこまで踏み入って聞くのは難しいでしょう。
なので「マリヌーの選択には明確な戦略があった」というのは完全なる推論です。
しかし彼らのとったアプローチが、現代のワインの潮流において非常に理にかなったものであるように思えるのは事実。
小さなワイナリーを始めて、世界で愛されるワインをつくるには。
マリヌーのたどった道筋は、そのための最適解のように思えるのです。
彼らが最初からシャルドネとカベルネ・ソーヴィニヨンに集中していては、これほど特別な存在になっただろうか。
もしもスワートランドではなくナパ・ヴァレーを選んだなら、果たして成功しただろうか。
時に「自分がもし生産者になるとしたら・・・」という想像をしながらワインを飲んでみるのも、一味違った楽しみ方なのかもしれません。