「味が濃い」と感じるのは、「美味しい」と感じるための重要な要素です。
しかしその「濃い」にも種類があることを意識したことはあるでしょうか。
美味しさにつながる「濃厚さ」を表すべく、独自の評価基準をつくってしまった生産者がいます。
そのパワフルな味わいは一口飲めばノックアウトされてしますかも?モリードゥーカーとそのワインをご紹介します。
「濃厚なワイン」とは?
「このワイン、濃くて美味しい!」そう感じるとき、あなたは何を持って「濃い」と感じておられますか?
1つの要素ではないはずです。いくつかの刺激を総合して「濃い」と判断しているはず。次のどれかに当てはまるのでは?
濃いと感じるポイント
・グラスから立ち上る香りのボリューム
・口に含んだ瞬間の味の広がり方
・舌の上で味を感じる際の重量感
・舌を包むような味わいの持続性
・渋みや酸味などによる口内への刺激
・余韻の長さと強さ
・飲み込んだ後に鼻を抜けていく香りの強さ
全ての濃厚さを備えたワインとは?
上記のような濃厚さを全て備えたワインを飲みたければ、1~3万円クラスのナパ・ヴァレー産カベルネ・ソーヴィニヨンか、1万円クラスのスペインの赤ワイン、リオハやプリオラート産のものを選ぶといいでしょう。
きっとそういうワインを飲めば、「このワインが高品質だ」「高い価格で取引されるに相応しい」ということには、みな同意してもらえるはず。
けどそれは「好き」「買って飲みたい」というあなたの主観的な感情とは別であることもあるでしょう。
「濃厚さ」を避ける人が嫌うもの
濃厚ワインの特集を組めば、多くの方が見てくださることから、「濃いワイン」を求める方が多いのは間違いない。
でも「濃いワイン」をむしろ敬遠される方も一定数おられるのも事実。ワインをよくご存知の方にこそ多い印象です。
おそらくそういった方が苦手とされるものは次の3つ。
「口に含んだ瞬間の味の広がり方(アタック)」
「舌の上で味を感じる際の重量感(≒コク)」
「渋みや酸味などによる口内への刺激」
この3つの要素は好みがわかれるところ。おそらく飲み方も関係しているでしょう。
1本のワインをグラス1、2杯ずつ数日に分けて飲むような方は、この濃厚さがあった方が少量でも満足できる。
逆に1本空けてしまうような方には、「飲み疲れ」の原因になりえます。
熟成ピノ・ノワールが好まれる訳
上質なピノ・ノワール、特にブルゴーニュワインには、上記の嫌われやすい3つの要素がなく、他の濃厚さを備えています。
部屋を支配するほどの香りのボリュームがあり、口に含んだ時の味わいはやさしくゆっくり広がる。
味わいに重量感はなくむしろ軽やかなのに、風味は緻密でみずっぽさはない。
舌全体を包み込むような味わいが、余韻にかけて長く続く。
若いころは尖っていたり強すぎる場合もある酸味・渋みも穏やか。
飲み込んだ後に鼻を抜けていく熟成香。
ごく稀にこういう最高のワインに出会ってしまうから、ブルゴーニュワインにのめり込んでしまうのでは?
大金をかけたにも関わらず期待外れに終わった、数多のボトルのことなど忘れて。
ブルゴーニュワインで「濃厚さ」がウリにされることはほぼありません。でも分析してみると濃厚なワインの要素をいくつも持っているんです。
そのコストパフォーマンスはすこぶる悪いんですが。
熟成辛口リースリングの「濃厚さ」
上質な辛口リースリングが10年20年と熟成していくと、香りのボリュームとともに、「舌を包み込むような味わいの持続性」が増していきます。だから辛口リースリングは熟成すると、簡単に言うと「濃く」なっていきます。
特にドイツのモーゼルやラインガウといった産地の粘板岩土壌からつくられるものが、その傾向が強いです。
ただし飲み頃を過ぎたり十分な熟成ポテンシャルがないと、味わいの中心部分が欠けたようなバランスの悪い味わいになることも。むしろ「薄く」感じるような場合もあるので、見極めには経験が必要です。
濃厚さに独自基準をつくっちゃった!
この「舌を包み込むような味わいの持続性」に着目して、「上質なワインとは舌全体がその感覚に包まれているものだ」と定義した生産者がいます。
リリース直後からロバート・パーカーJr.に愛されて世界に名が広がった生産者。
輸入元の社長さんが、主要取扱生産国ではないにも関わらず、「どうしても取り扱いたい!」と輸入を始めた生産者。
彼・彼女はその独自基準を「マルキス・フルーツ・ウェイト」と名付けました。
マルキス・フルーツ・ウエイトとは?
「ワインのタンニン、アルコール、酸味のバランスが完ぺきに保たれている上で、果実のビロードのような感覚に覆われている舌の割合。そのパーセンテージ」
これがモリードゥーカーの品質基準です。この割合が高いほど高品質。ワインのクラスごとに基準パーセンテージが決められており、ヴィンテージによるブレはあってもその基準内のものがリリースされます。
ブドウの熟度、収穫のタイミングが大切
モリードゥーカーによると、マルキス・フルーツ・ウエイトが高いワインをつくるには、ブドウの収穫のタイミングが非常に重要です。
ブドウは収穫期になると、実の糖度を上げていきます。それに伴って風味も成熟していきます。
ただしそれと並行して酸味が下がっていきます。
モリードゥーカーでは独自の灌漑システムにより、糖度の上昇を遅らせます。それによって風味の成熟が追いつき、とびきり風味豊かなワインが出来上がります。
それゆえモリードゥーカーの収穫時期は、同地域の他の生産者と比べて4週間も遅いそうです。
ただしこの方法だと酸味が低くなりすぎてしまいます。酸味のバランスはどうやってとっているのか。簡単です。加えています。(補酸)
フルーツ・ウエイトでクラス分けするラインナップ
モリードゥーカーのラインナップは「ファンワイン」「レフティー」「ファミリーワイン」「ラブワイン」「ヴェルヴェット・グローヴ」この5つのランクでつくられています。
その中で「レフティー」シリーズと「ラブワイン」シリーズを当店で扱っています。
ラインナップ
ヴェルヴェット・グローヴ 95%以上
ラブワイン 85-95%
ファミリーワイン 75-85%
レフティー 65-75%
ファンワイン 55-65%
55%以下はリリースしない
KATAYAMA
このマーキス・フルーツ・ウエイトは8人のテイスターによってジャッジされます。最終的にそのワインのスコアとなるのは、その8人の"最低点"なんです。平均点じゃないんです。 モリードゥーカーの畑にはヴィンテージ差がもちろんあるんですが、モリードゥーカーのワインにおいてはヴィンテージの良し悪しでガッカリすることはありません。それはこのフルーツ・ウエイトが品質を保証しているからです。
レフティー 65-75%
この「レフティー」シリーズがモリードゥーカーの売れ筋ワインです。
シラーズ
標準:65-70% 2020VT実績:68%
カベルネ・ソーヴィニヨン
標準:65-75% 2020VT実績:67%
メルロー
標準:65-70% 2020VT実績:66%
シラーズ主体のブレンド
標準:65-70% 2020VT実績:68%
ラブワイン 85-95%
最新ヴィンテージで「ヴェルヴェット・グローヴ」が輸入されなかったこともあり、実質的にモリードゥーカーのトップキュヴェにあたるのがこの「エンチャンティッド・パス」と「カーニバル・オブ・ラブ」です。
決して安いとは言えず、これを買う予算があればそこそこのナパ・ヴァレー産カベルネ・ソーヴィニヨンも飲めます。それでも特にカーニバル・オブ・ラブの人気はなかなかで、年間50本近く購入いただいています。このワインをリピートされる方も少なくありません。
シラーズとカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンド
標準:85-90% 2021VT実績:86%
シラーズ
標準:85-90% 2021VT実績:88%:68%
モリー・ドゥーカーはどんな生産者?
ポップなイラストのラベルとあわせて、モリードゥーカーのワインからは濃厚であると同時に明るい印象を受けます。
しかしモリードゥーカーのワイナリー経営は、スタート当時から順風満帆だったわけでは決してありませんでした。
モリードゥーカーのスタートまで
モリードゥーカーの歴史は、サラとスパーキー・マルキス夫妻が大学で出会ったことから始まります。
妻であるサラの両親は「フォックス・クリーク」というワイナリーを経営していました。そこのワインメーカーとしてキャリアをスタートした2人。
1994~1998年までは、ワインメーカーとして賞を受け、バルクワインの供給でも成功していました。バルクワインとは別のワイン製造者に樽単位で売るワインのことで、彼らの名前がボトルに表記されることはありませんが、安定した収入になります。
しかし1998年、バルクワインの価格が暴落。1リットルあたり7ドルで取引されていたワインが、わずか25セントになってしまったといいます。
それじゃあ商売あがったり。夫妻は突如として全てを失ってしまいました。
しかしそこから夫妻は方向転換。プレミアムワインにシフトします。
1999年にはオーストラリアのワインメーカー・オブ・ザ・イヤーを受賞するのですから、夫妻の腕は本物なのでしょう。
ロバート・パーカーJr.のこれ以上ない評価
ロバート・パーカーJr.は「Marquis Philips • Shiraz Integrity 2001」に99点をつけ、「この価格のワインとしては、おそらく世界で最も価値あるものだ」(当時の価格不明)と最大限の賛辞を送っています。さらに「Marquis Philips • Shiraz 9 2001」(当時のリリース価格$30)については「走れ!歩いてちゃだめだ!できる限りこのワインを確保するんだ!」とさえ述べています。
パーカーはこのような煽り文句の上手な人ですが、決してなんでもかんでも賞賛するわけではありませんし、ベタ褒めするのは高級ワインに限らないのが信頼された所以でしょう。
マルキス・フィリップスのブランドはわずか4年間で年産8000ケースから12万ケースまで急成長しました。
その規模的な成長にも関わらず、サラとスパーキーは悩みをかかえていました。
「こんなのは私たちが送りたい生活じゃない」「量産のために品質に妥協することは嫌だ」「ただブドウ畑でワインをつくり、友人とわかちあいたい」
予期せぬ事態が重なり、一時期彼らの銀行口座残高はわずか17ドルだったといいいます。
そこから心機一転。スタッフや友人、ブドウ生産者に助けられながら「モリードゥーカー」を設立。2006年のことでした。
「モリードゥーカー」とは
オーストラリアのスラングで、左利きのことを「モリードゥーカー」というそうです。
サラとスパーキー夫妻はともに左利きであったことから、この名前を採用したそうです。
19日、5日でワイン完売!
2006年の再スタート。
2005年ヴィンテージが最初のワインとなりました。
そのファーストヴィンテージにて、「ザ・ボクサー」(リリース価格はわずか20ドル)は95点の評価。わずか19日で完売することとなりました。
さらに上級キュヴェである「カーニバル・オブ・ラブ」は、リリース価格60ドルにして99点という素晴らしい評価。わずか5日で完売したそうです。
その売り上げをもって2007年に現在のワイナリーを購入しました。
ロバート・パーカーの評価が助けになったのは間違いありません。しかしその評価は、ワインの品質あってこそのもの。
彼らのモットーである「細部へのこだわりと卓越性へのコミットメントにより、人々を驚かせるワインをつくる」が実践されたゆえの成功です。
モリードゥーカーのワインの特徴
モリードゥーカーがつくるワインは、マクラーレン・ヴェイルの特徴を表現しているかと問われれば、自信をもっては肯定できないでしょう。
むしろモリードゥーカーのワインの味わいは、オンリーワン。替えの利かないものです。
まずは味わいの凝縮感。これが価格の割に優れてはいますが、これ自体は他にも並ぶ生産者はいます。
アメリカンオークでの熟成の割合が高く、ヴェルベットのようなしっとりと厚みのある口当たり。その質感が素晴らしく、一口目からもインパクトがあり、舌全体を包み込むようなパワーがある。こんなワインともなると、そうそうありません。
あなたの舌を捕まえに来るようなワイン。それがマクラーレン・ヴェイルでも異彩を放つモリードゥーカーのワインです。
モリードゥーカーのワインは振って飲め!?
ワインはやさしく扱うのが基本です。
しかしモリードゥーカーの赤ワインは「振って飲む」ことがおすすめされています。
美味しく飲む5ステップ
https://mollydookerwines.com.au/about/
この図解で、どれくらいのシェイクを想像されましたか?
先日、サラとスパーキーの息子、ルーク・マーキスが来日。セミナーを受けてきました。そのときに披露した『モリードゥーカーシェイク』がこちら。
ワインが泡立って、ふたを開けるとパチパチいう音が聞こえる。それくらい激しくシェイクするんです。私の想像の10倍振っていました。
どうしてこれで美味しくなる?
この方法は生産者のオフィシャルHPで紹介されている方法です。どうしてこうすれば美味しくなるのでしょうか?
モリードゥーカーではワインの醸造時に最小限の亜硫酸しか使っていないといいます。そのゆえワインの酸化をなるべく防ぐべく、空気を窒素ガスで置換して瓶詰しています。
だからこそワインの中により窒素ガスが溶け込んでいます。その窒素ガスを追い出すためにシェイクを勧めているのです。
それでどうして美味しくなるのか。
ワインの風味がゴムボールのようなものだとすると、窒素ガスはそれを平たく押しつぶしてしまうといいます。シェイクすることで窒素ガスを追い出して、ゴムボールが元の状態に戻るのだとか。
モリードゥーカーはそうイメージで語ります。
これが他のワインに適用されるかはわかりません。
モリードゥーカーも白ワイン・ロゼワイン・スパークリングワインにはシェイクを勧めていません。赤ワインだけです。さらにリリースしてから5年程度以上経過したワインは、シェイクしても風味に違いが感じられないそうです。
経験的に間違いないから、オフィシャルサイトでおすすめしているのでしょう。
何も道具は要りません。最初に量を減らすために注いだものとぜひ比べてみましょう。
モリー・ドゥーカーのワインをどう楽しむ?
モリードゥーカーのワインは、舌で感じる味わいの持続性だけでなく、一口目からのインパクトも十分あります。
しかし気軽に飲むワインとしてはちょっとお値段高め。サラとスパーキー夫妻の方針を考えれば仕方ありません。
どんな時に楽しむのに向いていて、どんな時には向いていないのでしょうか。
《Excellent!》友人を招いてのワイン会
モリードゥーカーのワインは1口目からインパクトがあります。
その分んというべきか、最初の一口と最後の一口でそう大きく印象が変わるものではありません。
だから一人分の量が少なくても十分満足が得られます。となれば数人で分かち合うのがおすすめ。
そこでマルキス・フルーツ・ウエイトを思い出してください。舌がどれだけワインの味で覆われるか。その差を感じるか、試してみたくありませんか?
となると「レフティー」シリーズの70%前後と「ラヴワイン」シリーズの90%前後。この違いを比べてみたい。
「ザ・ボクサー」と「カーニバル・オブ・ラブ」
品種をなるべくそろえたこの組み合わせで比べてみてはいかがでしょうか。
モリードゥーカーのワインは濃厚赤ワインです。4人くらい集めるとすれば、モリードゥーカーのワインを上記のペア2本に、スパークリングワインと白ワインを1本ずつ。「ワインってこんなに違うんだ」「高いだけのことはあるね!」といった風に、友人をもっとワイン好きにさせられることでしょう。
《Good!》レフティーシリーズを数日に分けて普段飲み
「ラヴワイン」シリーズはともかく、「レフティー」シリーズは普段飲みに使える価格ではないでしょうか。
どちらかというと、お酒にあまり強くない方におすすめです。「少量でも十分な満足感が得られる」という特徴から、1本を数日に分けてちという飲み方に向いています。
1本4000円でも、4日に分けて飲むなら1日1000円です。グラス2杯弱で満足できる方にはピッタリかもしれません。
《Bad》繊細な味わいの和食とあわせる晩酌
モリードゥーカーのワインに、フードペアリングを期待しすぎない方がいいでしょう。むしろ食後にワインだけで楽しむことを推奨します。
経験的に濃厚で樽の強いワインは、食べ物とあわせたときにマイナスに振れる場合が多いです。
魚料理は避けた方がいいでしょう。生臭く感じる可能性が非常に高いです。
野菜料理も多くの場合でイマイチ。味わいの強さが料理とワインでとれません。
生魚と野菜の煮物などがならぶ和食。きっとワインと料理双方にとって不幸な出会いとなるでしょう。
最初の1本なら「ボクサー」ノックアウトされてください!
最初の一口目から味わいのインパクトがある。そしてあなたの舌をつかんで離さない。
それがモリードゥーカーのワインです。
濃厚なワインは数あれど、その味わいは異質でありオンリーワン。
一度口にしたら、他では満足できなくなって、ついついリピートしてしまう。
それが生産者の意図です。
もしあなたが濃厚ワイン好きで、モリードゥーカーのワインに興味を持っておられるなら。
個人的に最初の1本として勧めるのは、この「ザ・ボクサー」です。
このイラストのとおり、卓越したモリードゥーカーのワインにノックアウトされちゃってください!