「あの予約したレストラン、ワインの持ち込みOKだから、1本ずつ持ち寄ろうよ」
あなたならどんなワインを持参しますか?
基本はあなたと相手の好きなものをもっていけばいいのですが、選び方によっては失敗することもあります。
今回は予算1万円前後を想定し、BYOに向いたワインをご紹介します。
BYO、ワインの持ち込みのメリットとマナー
BYOとはBring Your Own (Bottle)の略。レストランなどにあなたご自身がお酒を持ち込んで楽しむことを言います。お酒といったものの、ほとんどの場合はワインです。
ワインを持ち込む場合は、お店の定める持ち込み料・抜栓料を支払う必要があります。1本1000~3000円くらいが相場で、もちろんお店の単価によりけりです。
まずはワインを持ち込む目的・メリットと、その際に気を付けるべきマナーをご紹介します。
扱いに不安な高級ワインはレストランで楽しむ
ワイン初心者の方が、普段は飲まないような高級なワインをプレゼントでもらったとします。
特に20年以上前のような古いワインの場合。どう扱っていいか不安になるんじゃありませんか?
温度はどれくらいで、グラスはどんなものを使えばいいの?
古いワインは抜栓が難しいって聞くけど、私にできるかな?
一番おいしく飲みたいけど、料理はどんなものを合わせればいいのかな?
そういう不安があるなら、きちんとソムリエさんのいるレストランに持ち込んで味わうことをおすすめします。
ワイン初心者が高級ワインを完璧な状態で味わう。BYOはその手段の一つです。
自分の好きなワインがプロの料理と楽しめる
これがBYOをする一番の目的。
ワインの種類は膨大です。自分が飲みたい銘柄のワインが、レストランのワインリストにある可能性は低い。
飲みたいものがあるなら、自分で入手してもっていけばいい。
家で開けて飲むこととの違いは、家庭じゃ作れないプロの料理と一緒に楽しめることと、非日常感です。
ワイン愛好家というのは、今週末飲むワインはたくさん在庫しているのに、今しか手に入らないレアワインやお買い得なセールワインを見つけると買っちゃうもの。
普段飲みするにはもったいないワインは、レストランで誰かと飲む、という楽しみ方をしている愛好家も多いです。
飲食店でボトルで注文するより安い
通常飲食店は、ワインの値段を原価からパーセンテージで決めます。原価率〇%になるようにと設定するのです。
それに対してワインの持ち込み料は定額です。1本●●円、のように。だから高いワインを持ち込むほど、レストランでのワインをお得に楽しむことができます。
ただし、このメリットを突き詰めすぎると、お店の方からは嫌われます。
飲食店側のメリットは少ないと認識する
お酒は多くの飲食店にとって稼ぎ頭です。
お客様に望むことは、料理をたらふく食べて、お店のお酒をしこたま飲んでくれること。
それでも、席が空くくらいならワインを持ち込んで飲んでくれた方が、お店としてはメリットが大きい。
だからワインの持ち込みOKにしているのです。
もしくは自分のレストランでは手に入れることのできないような珍しいワインを、自店の料理と楽しんでもらいたいという好意。
ゆえに頼めばBYOを快く受けてくれるけど、メニューなどには記載していないというお店も多いです。
私はそういうお店にBYOするときは、お腹いっぱいガツガツ食べることを心がけています。
BYOする際のマナー
好きなワインを持ち込んでレストランの料理と楽しむ際、次のような点に気を付けると、より楽しい時間を過ごせることでしょう。
- 予約の時に持ち込みを伝える
- お店のリストにはないとっておきのワインを
- レストランスタッフの手に余るものはNG
- ワインはできれば事前に預ける
- ドリンクメニューからも注文する
- ボトルワインは1杯残して
この理由については、BYOとは何かについて解説した下記の記事で詳しく解説しております。
BYOするワインはどう選ぶ?
では冒頭のように知人からワインを持ち込んでの食事を誘われたとします。
どんなワインを持っていけばいいのでしょうか?また逆に、どんなワインは持ち込み注意なのでしょうか。
避けるべきワインの代表は、そのお店にあるワインですが、そんなのわからないこともあります。また、無作為に選んでたまたまお店にある確率は、ほぼ無視できるレベルです。
向いているものよりも、適さないワインの失敗例を見ていく方がわかりやすいでしょう。
ワイン持ち込みの失敗例
せっかくいいワインをレストランに持ち込んだのに、美味しくなかった。一緒に行った人も笑顔じゃなかった。
いくつか原因が考えられます。
ボトル差のためか、ワインそのものがイマイチだった。これは避けられない。運次第なので。
では避けられる失敗といえるものは何があるのでしょうか。
澱のある古酒をハンドキャリーでザラザラ
ハンドキャリーとは手で持ち込むということ。
歩いて運ぶ限り、ワインボトルは揺れます。たいていのワインはそれでも大きな問題はないのですが、10年以上熟成したような古酒の場合は別。澱(おり)が舞ってしまい、ワインが濁って口当たりザラザラ。
ボトル1/3は飲めない、なんてこともあり得ます。
古い赤ワインには澱がたまります。澱とはワインに含まれている酒石酸などの成分が、時間経過で析出したもの。飲んで害のあるものではないですが、口当たりが悪くて美味しくないです。
ではどうすればいいかというと、1週間以上前からお店にワインを預けておくこと。
お店が近くでない場合は、宅配便を利用する手もあります。
立てた状態で静止させていたワインなら、かなり底の方までワインを楽しむことができます。
ワインがホカホカでアルコール臭い
これもハンドキャリーのデメリットで、夏場などは持ち歩きの間に温度が上がってしまいます。
飲み頃より温度が高いワインは、ダレてしまりがなく、アルコール臭が鼻を突きます。
これもあらかじめお店に預けておくことで回避できるほか、ワインを冷やすグッズを使いながら運ぶことで避けられます。
ワインが閉じていて、渋くて酸っぱい
これが一番ありがち。飲み頃に対して若いワインを持って行ったために、ワインが閉じたまま食事が終わってしまうという失敗です。
これは高級で若いボルドーやブルゴーニュワインにありがちです。特に寒いヴィンテージの場合や、収量が低く凝縮度の高いヴィンテージのものは、リリース仕立ては閉じていることが多いです。
ワインが閉じている/開いているとは
ワインが閉じている/開いているという表現は、私自身最初は非常に分かりにくいものでした。
ワインが潜在的に持つ魅力的な香りや風味。それに対して実際に感じる香りのボリュームが少なく、果実の特徴があまり感じられず、タンニンや酸味が強くてバランスの悪い状態を「閉じている」と表現します。
つまり「このワインはこれくらい美味しいはずだ」という予測があって初めて、「閉じている/開いている」の判断ができるということ。これは経験者と一緒に飲んで覚えることが、この表現を理解する近道です。
抜栓後に数十分たつとワインの香りが変化して、時によりよくなるのは、多くの方が経験されているでしょう。熟成して飲み頃を迎えたワインは、短い時間でも開いてくれます。
なのでワインが閉じている場合は、デキャンタに移し替えたり、時間をかけることで美味しく飲むことができます。しかしそれが食事の終盤、メインの肉料理に合わせて開けたとなれば、開くのが間に合わないかもしれません。もしくは飲むのが7人くらいなら1杯ずつです。グラス1杯飲む時間では開かないかもしれません。
これもソムリエに相談すれば避けられることです。ワインを預けておいて、食事の数時間前や前日に抜栓してもらうことで、自分の食事時間になるべく開いているよう調整もできるのです。
料理とあまりにも相性が悪い
料理とワインの方向性があまりにも違うと、どちらかを全く楽しめない場合もあり得ます。
例えば繊細な和食の料亭に持ち込むワインが、ナパ・ヴァレーのとりわけパワフルなカベルネ・ソーヴィニヨンの赤ワインだったとか。オーク樽の風味が強い赤ワインはお刺身を生臭くする可能性が高いですし、ワインの味が強すぎて料理を覆い隠してしまいます。
四川料理やタイ料理など唐辛子を大量に使った料理に合わせて、上品なピノ・ノワールを持って行ったところで、香りを全く楽しめないでしょう。
とはいえあなたもお店のジャンルからなんとなくでも相性のよさそうなワインをチョイスするはず。
フレンチやイタリアン系のお店ならそんな致命的なミスマッチはそう起こりません。
だからワインと料理の相性で大失敗というのは、めったに起こりません。
急に持ち寄りの食事に誘われた時には?
最初の3例は、あらかじめその食事会が決まっていたなら対策がとれます。信頼できるソムリエさんがいるお店なら、早くからワインを預けておけばいいのです。
でもそれができない場合もあります。「今晩行こうよ」と誘われたときなど。
上記のような失敗は、ワイン選びとワイングッズで回避することもできます。
ワインを持ち込んで楽しむテクニックをご紹介します。
ハンドキャリーに活躍するスリーブクーラー
特に夏場はワインの温度に最大限注意する必要があります。
ワインの飲み頃温度は、赤ワインなら12~18度、白ワインやスパークリングワインなら7~12度くらいで、そのワインによります。
外気温や室温よりは低めなので、冷やした状態で長くキープできることが重要。
そのために便利なのが、ボトルスリーブ状の保冷剤です。
これを冷凍庫で冷やしておいて、ワインに巻いて持っていきます。
特に夏場は結露しますので、直接かばんの中に入れると、周りが濡れてしまいます。
これをワインにかぶせたうえで、エアーパッキンの袋などに入れると、より保冷効果も上がっておすすめです。
実際に使用した感覚ですと、真夏に炎天下ではない場所をかばんの中に入れて移動するとして、2~3時間くらいは冷たいままです。
逆に冬場は冷たくしすぎるかもしれません。ボトルスリーブを"冷蔵庫で"冷やして使用するとちょうどいいでしょう。
持ち込んですぐ美味しいワイン5選
上記の失敗例を踏まえるなら、レストランへの持ち込みワインは次のような条件を満たすと使いやすいということ。
○赤ワインの場合、澱がないか、あってもごくわずか
○開けたてから開いている、飲み頃のワイン
○初めて飲むものだとしても、味わいの想像がつくもの
これらの条件を満たす持ち込みにおすすめなワインを、予算1万円でご紹介します。
※バックヴィンテージのワインは基本的に全てスポット入荷です。現在の在庫がなくなれば完売ですのでご了承ください。
フレンチやイタリアンのコースにあわせて
しっかり噛み応えのあるステーキが出てくる予定なら、「肉料理に赤ワイン」が定番であることを再確認できるこのボルドーワインは鉄板です。
10年熟成したものと侮るなかれ。まだまだタンニンが多く、開けたては硬い印象です。
前菜のあとくらいに開けて一度様子を見て、そこからメインディッシュの間に調整するのがいいでしょう。
フランスの、とりわけボルドーのワインは気難しい印象があるかもしれませんが、その気難しさをちゃんと(?)備えたワインです。しかし飲み頃に気を使っただけの風味の広がりをちゃんと感じさせてくれるワインです。
10年熟成したワインですが、蔵出しで2022年入港のものですので、澱はほぼありません。
スクリューキャップだからこその意外性で
「スクリューキャップのワインは安物」という間違った考えをもっておられませんか?
確かに、低価格帯のワインはスクリューキャップの物が多いです。そして高価格帯のワインでスクリューキャップはほとんど見かけません。
しかしだからと言って、その逆は言えないのです。
実際、コルクとスクリューキャップは性質の違いはあれど、優劣がつけられるものではありません。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
スクリューキャップでなかなか高価なワインがある。しかも熟成している。そしてうまい!
様々な驚きをご一緒した方に与えられるはず。
味筋としては、高級シャルドネの正統派な味わいとしてブルゴーニュとカリフォルニアの間。その中でややカリフォルニア寄りのイメージです。樽熟成の風味がしっかり効いて、かつそれが熟成でフルーツ感と一体になっています。ただし、コルクの2012年のワインよりも若い印象です。
ナパカベの中では押し出しが強すぎない
ナパ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨンといえば、先ほど「和食みたいな繊細な料理は難しい」と紹介したところ。
でも天才醸造家トーマス・リヴァース・ブラウンのワインは一味違います。「おれは高級ワインだぜ!」みたいな味わいの迫りくる感じが少ないのです。
決して「和食にピッタリ」とは申しませんが、「フレンチ、イタリアン、、鉄板焼きなどはもちろんOKで、和食だったとしてもギリ大丈夫」といえるような繊細さがあります。
まだ若いワインですが、その点ニューワールドのワインはボルドーとは違います。リリース仕立てで飲んでも十分おいしさが伝わるようにつくられています。
知人との被りを回避するリースリング
2人で持ち寄り飲むなら「私赤持っていくから、白もってきて~」みたいに調整がしやすく、ワインのキャラクターが重複することはありません。
しかし4人で持ち寄るなら、ピノ・ノワール、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンといった人気品種はかぶる可能性があります。
その点、辛口リースリングの高級なものは、そうそうどこにでも売っているものではありません。どこも高級白ワインならシャルドネが売りやすいですから。
でも辛口リースリングって懐が深いんですよね。苦手とする料理がシャルドネ以上に少ない。
今から十分美味しいのですが、熟成能力が高いので向こう10年20年単位で急いで飲む必要はありません。
持ち寄りの際にパッとセラーから取り出して持参できるワインとして、実はかなり優秀です。
(※ただしボトルの高さが35cmありますので、ワインセラーに寝かせて入るかは要確認です)
ちょい熟ピノの複雑さ
ピノ・ノワールの最大の魅力は香りのボリュームです。ワイン1本分以上の容量があるブルゴーニュグラスをいっぱいにするだけの香りが広がること。
たいていは若いうちは果実や樽由来の香りが主体で、それが熟成によって複雑さを増してきます。
これまたスクリューキャップですが、今度はニュージーランドのセントラル・オタゴ。
まるで誘い込まれるかのような引力を感じる土の香りは、私はフェルトン・ロードの特徴だと感じています。
ブルゴーニュワイン、本当に見つからない
本当はブルゴーニュの赤ワイン・白ワイン提案したいところでした。
ヴォーヌ・ロマネやピュリニー・モンラッシェなど人気の村は予算オーバーでも、一段マイナーな村名格のワインなら、飲み頃のものが見つかりそう。
ヴォルネイやサン・トーバンなどの2012、2015、2014くらいが1万円くらいであると買いだな~と。
全然見つからないんです。もっと昔の冗談みたいな高級ワインか、3,4年は寝かせないともったいないと感じてしまうワインか。
改めて輸入元のワインリストをあたっても、そういった値ごろ感のあるものが見つかるかどうか。
ブルゴーニュ好きが考える、「手ごろな飲み頃ブルゴーニュ」が、白いカラスになりつつあるのは覚悟しておいた方がいいでしょう。
シチュエーションでそのワインが心に刻まれる
ワインはそれぞれ違っても、飲むシチュエーションが同じだと、やっぱり忘れやすい。経験値として蓄積されにくいんですよね。
私は自宅で最も多くワインを消費しています。飲んだワインを振り返ってみると、ボトル価格が安いこと以上に、やっぱり印象に残っていないことが多いんですよね。
「このレストランであの人といっしょに○○という料理と合わせて飲んだ」
その記憶は強く心に刻まれます。
ワインとの付き合い方をより豊かにするために。
自分で扱いきれない高級ワインを最大限楽しむために。
いいワインを手に入れたら、レストラン持ち込みを積極的に活用してはいかがでしょうか。