ワインの楽しみ方ガイド

意外と多い!?スペシャルティーコーヒーとワインの共通点

2021年5月20日

 
「このワイン、〇〇みたいな風味があって面白いし美味しい!さあ次はどんなワインを買おうかな♪」
そうやって日々様々なワインを楽しんでおられる愛好家の方は、スペシャルティーコーヒーにハマる素養があると考えます
今回は意外と多いコーヒーとワインの共通点をご紹介します。
ワインに慣れた方からすると、コーヒーの沼はハマっても金銭負担は随分軽いものですよ?
 
 

この記事を書くにあたっての経緯

 
Twitter上で仲良くさせて頂いている、南アフリカマスターにしてブロガーのKOZEさん(@kozewine)さんが投稿されていた記事がきっかけでした。
 
KOZEさんが「ベリーの香りが本当にする!」と興奮気味に(文面から伝わってきた)語っておられるのを見て、少し興味が沸きました。
とはいえ件の「アシッドコーヒー」があるのは東京・渋谷。
さすがにコーヒー飲みに大阪からふらっと行くわけにはいきません。このご時世ならなおさら。
 
ところが「アシッドコーヒー」はコーヒースタンドで、そこで使用されるコーヒー豆は「グリッチコーヒー」から仕入れているもの。
そしてグリッチコーヒーは通販も行っているというではないですか!
COCOSの事務所で仕事のお供に飲むコーヒーとして、ポチっとしたわけです。
 
 

飲んでみた

 
KOZEさんイチオシのコーヒーの銘柄は「エル・パライソ」。
コロンビア産で、生産者はDiego Samuel Bermúdez(読み方はわかりません)。
特徴は「ダブル・アナロビック発酵」という水洗式の一種である処理方法を施していること。
 
 
150gパックで¥3,300なり。きっと日常的にコーヒーを飲んでおられる方からすると、「高っ!」と驚く値段でしょう。しかしワインによって適度に金銭感覚が破壊されている片山からすると「ブルゴーニュ・ルージュ1本分か。普段飲みクラスだな」という認識。
 
当店は事務所にデロンギの全自動式エスプレッソマシーンがありますので、そこに投入していざ抽出!
まずエスプレッソで飲むと、私はベリーというよりもっと大きさのあるみずみずしいフルーツ洋ナシのような風味を感じました。
もっと言うなら、ステンレスタンク醸造のグリューナー・フェルトリーナー。少しマスカットに似たふわっと甘い風味。
アイスアメリカ―ノにすると甘さ爆発。シロップのようなとろっとしたマウスフィールに、発酵を感じさせるフレーバーが鼻を抜けていきます。
何ならコーヒーというより、ルピシアで売っていそうなマスカット烏龍のようなフレーバーティーみたい。
 
人生で2番目か3番目くらいに美味しいコーヒーでした。
 
 

片山、実は・・・

 
ブログ担当の私片山は、実は元コーヒーのガチ勢です。数年間仕事にしていました。
結局大したバリスタにはなれませんでしたが、「美味しいコーヒーとはなんだろう?」と考え、感じたものを言葉にする経験は今でも活かされています。
久しぶりに度肝を抜かれるコーヒーに出会えて、懐かしい記憶が呼び覚まされました。
KOZEさんに感謝しつつ、「コーヒーとワイン」を私なりの視点でつなげてみたいと思います。
 
 

スペシャルティーコーヒーとは

 
15年ほど前から聞かれるようになったこの言葉、耳にされたことはありますか?
大量生産・大量消費される「コマーシャルコーヒー」「コモディティーコーヒー」に対する言葉として、高品質なコーヒーを区別しようと使用される用語です。
 
その啓蒙活動は日本スペシャルティーコーヒー協会(SCAJ)というところが行っており、そこは「スペシャルティーコーヒー」をこう定義します。
 

スペシャルティーコーヒーの定義

 

消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
 
風味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。
 
カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である。(From seed to cup)
 
具体的には、生産国においての栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること。
そして、適切な輸送と保管により、劣化のない状態で焙煎されて、欠点豆の混入が見られない焙煎豆であること。
さらに、適切な抽出がなされ、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現されることが求められる。
 
日本スペシャルティコーヒー協会は、生産国から消費国にいたるコーヒー産業全体の永続的発展に寄与するものとし、スペシャルティコーヒーの要件として、サステナビリティとトレイサビリティの観念は重要なものと考える。
 
 

ワインと共通する「美味しい」の定義

 
上記の定義の中で、味わいに関して重要なところは、
 
際立つ印象的な風味特性があり」=香りや風味がハッキリ感じられること(さらにそれが複雑であること)
爽やかな明るい酸味特性があり」=質の高い酸味があること
持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと」=余韻が長く、甘味を感じること

 
上記の3つです。
「甘味」が評価される点を除けば、みなさまが思う「美味しいワイン」と変わらないのではないでしょうか。
(ワインに甘味を持たせることは容易なので、評価されません)
 
 
目指している液体の方向性が同じなら、ワイン好きがスペシャルティーコーヒーを好きになるのも頷けるでしょう。
しかし、コーヒーとワインの共通点は、これだけではありません。
 
 

味わいを決める重要要素

 
ワインの味わいを最も左右するのは、産地とブドウ品種です。
実は産地はコーヒーにとっても重要な要素
しかしコーヒーは栽培品種で大して味は変わりません。(ゲイシャ種といった例外もあります)
コーヒーで重要になるもう一つの要素は加工法です。
 
 

加工法とは

 
「コーヒー豆」と言いますが、正確には豆ではありません。赤い木の実、コーヒーチェリーに含まれる種子です。
肉付きの薄いサクランボに、種が2つ1組で入っていると想像してください。
 
 
チェリーの状態からいかにして種を取り出して乾燥させるか。
大きく数種類に分けられるその方法を「加工法」と呼びます。
 
 

代表的な加工法

 
10年ちょっと前の知識で言うなら、加工法は大きく3つでした。
  • 乾燥式(Natural)
  • 水洗式(Washed)
  • 半水洗式(Semi-washed)
 
10年前くらいから盛んになりだした加工法が、パルプドナチュラル、別名「ハニー・プロセス」と呼ばれる方法です。
 
「当ブログはあくまでワインブログである」という言い訳の元、各加工法の詳細や主な地域は省かせていただきます。
 
そして今回の「エル・パライソ」に用いられている「ダブル・アナロビック」という方式は、かなり最近のもののはずです。
グリッチコーヒーの商品ページには「DOUBLE ANAEROBIC WASHED」と記載されているので、水洗式の一種と考えていいでしょう。
 
 

DOUBLE ANAEROBIC WASHEDとは

 
コーヒーの種子の周りには、「ミュシレージ」と呼ばれるねばねばした粘液がついています。
なので果肉除去機にかけてゴリゴリしたコーヒー豆も、ねばねばしていてそのままだとしっかり乾燥せず腐ってしまいます。
そこで水洗式と呼ばれる方式では、水槽内で発酵させることによってミュシレージを分解して、その後水洗いすることによってねばねばを取り除きます。
 
「嫌気性発酵」と訳されるアナロビック方式では、その発酵の工程を密閉できる容器の中で酸素を断って行われます
「ダブル・アナロビック」なら、その工程が2回行われるということです。
 
この工程がどうしてコーヒーの風味にプラスに働くのかは、正直分かりません。
ただ、ミュシレージの発酵によって生じた風味がコーヒー豆に浸透しやすくなるのだろうと、エル・パライソを飲んだ感じから推測します。
 
Diego Samuel Bermúdezはこのダブル・アナロビックの第一人者だそうです。
 
 

COEで最高落札額

 
世界最高クラスのコーヒーは、Alliance of Coffee Excellence(ACE)という団体が主催するカップオブエクセレンス(COE)という品評会を通して取引されます。
ワイン通の方は、ボルドープリムールを想像していただいたら結構です。
 
生産地ごとに行われるCOE、コロンビアで2018年に行われた品評会。
エル・パライソは審査員の採点では10位ながら、唯一のダブル・アナロビック方式にみながほれ込んだのか、取引金額では1位を記録しました。
 
 

100点方式の採点法

 
コーヒーとワインの共通点。
どちらも100点満点の採点法が存在します。
 
ボルドーワインの先物取引を、パーカーポイントなどの評論家の採点を参考に行う「ボルドープリムール」。
COEでは資格のある国際審査員の平均点をもとに、インターネットでオークションが行われます。
 
この採点方式に関して、私はコーヒーの方がワインよりずっと信頼性が高いと考えます。
なぜなら複数の出身国の異なる訓練された審査員が、キャリブレーション(得点の基準合わせ)を行ったうえで、公開された採点基準を用いて点数をつけるからです。
 
 

COEの採点基準

 
クリーンカップ、スウィートネス、アシディティ、マウスフィール、フレーバー、アフターテイスト、バランス、オーバーオール。
8項目×8点満点+持ち点36点の100点満点で、カッピングという方法を用いてコーヒーが採点されます。
この点数で85点を超えたものが、「COE受賞コーヒー」として紹介され、高値で取引されます。
 
 
COEでの取引は、品評会の出品料など手数料は引かれるものの、基本的には生産者と買い付け業者のダイレクトトレード。
この背景には、「美味しい、この採点基準で高い点を取れるコーヒーをつくってくれれば、高い価格で購入するよ」という生産者に対するメッセージが込められています。
 
 

点数の基準

 
ワインの評価において、特にグッドヴィンテージなら専門家の評価『100点』が続出します。
しかしCOEの品評会では、点数は平均点である以上、そう高い点数はつかず、100点なんてありません。
その年の品評会で最高得点でも、92点を超えるかどうか。
90点を越えればかなり高得点です。
 
 
こういった品評会ももとを正せば、消費国にてより美味しいものを提供するため、飲むためです。
 
 

アロマホイールがあります

 
どんなに美味しいコーヒーやワインも、その美味しさを言葉にして表現しなければ、美味しさは伝わりません
また、飲んだ人も自分なりの言葉にすることで、記憶に残すことができます。
 
感じた香りや風味を何かに例える助けとなるのがアロマホイールです。
 
リンク先はアメリカの有名なスペシャルティーコーヒーのお店、「カウンターカルチャー」が公開しているアロマホイールの一例です。
 
 
 

アロマホイールは何に使うもの?

 
ワインの香りを嗅いだ時、「あ!この香り記憶にあるんだけど、あとちょっとで思い出せない!」という経験はないですか?
アロマホイールは、感じ取った香りを言葉にする手助けをしてくれます。
 
アロマホイールは中心に行くほど大きな分類、端には特定の食べ物などが記載されています。
たとえば、その香りを「ナッツ系ではない、花というよりはフルーツが近いかな。フルーツの中ではそれほど甘い印象はないから、シトラス系かな。苦味を感じさせるニュアンスはないから、うん、レモンのような香り!」と絞り込んでいくのです。
 
コーヒー用とワイン用の外に、ウイスキー用などもあるみたいです。
風味を言葉にするということに注力している」というのは、コーヒーとワインの共通点です。
 
 

スペシャルティーコーヒーは浅煎り?

 
優良なワインの生産者ほど、「畑仕事でワインはほぼ決まる」と言います。
コーヒーも同じ。
焙煎や抽出方法など、美味しく飲むために大切なポイントはいくつもありますが、結局は「素材以上のものはつくれない」。
 
美味しいコーヒーを飲む、淹れるためには、何より質の高いコーヒー豆を生産してもらい、それを買い付ける必要があります
 
 

違いを明確にするために

 
コーヒー専門店の売り場に行けば、コーヒー豆の茶色と言っても様々な色の濃さがあることに気づくでしょう。
ローストの深さは様々。明確な定義はありませんが、浅煎りから極深煎りまであります。
 
 
コーヒーは深く焙煎するほど、酸味は弱くなり苦味が増します。
同時にコーヒー豆の個体差は感じにくくなります
 
ワインで、濃く抽出してオーク樽熟成をしっかりかけたものならブドウの質が多少ごまかせても、テロワールを大事にした淡い抽出ではごまかしが効かないのと似ています。
 
深煎りと浅煎り、どちらが優れているというものではありません
そのコーヒー豆に適した焙煎度合いと、個人個人の好みというものがあります。
 
ただし、コーヒー豆の特徴を際立たせたいなら、浅煎りが有利です。
それゆえ「際立つ印象的な風味特性」を売りにするスペシャルティーコーヒーのお店では、必然的に浅煎りが中心になる傾向にあります。
 
 

コーヒーのイメージが覆るかも

 
「コーヒーは苦い」
それは当たり前のことと思われていますが、実は例外もあるのです。
 
質の高くないコーヒー豆なら、極端に浅煎りにすれば酸っぱいばかりで何も感じません。
しかし本当に質の高いコーヒーは、溢れんばかりのフルーツの風味を感じます。苦味がほとんどないのに、物足りなさがありません。
 
今回ご紹介した「エル・パライソ」
日常の習慣としてコーヒーを飲む方にとっては、ひょっとすると「こんなのコーヒーじゃない!」と感じられるかもしれません。
 
しかし普段から様々なワインを飲み、生産者が目指したものを想像しながら、様々な風味を楽しむ愛好家のみなさまなら。
きっとこの個性的なコーヒーを口にすれば、「他にはどんなのがあるのかな?」と気になりだすことでしょう。
 
 

コーヒーにはヴィンテージがない

 
ワインには生産年というものがあり、「〇〇年がよかった」だの、「これはあと▲年ほど熟成させて飲みたい」などの議論があります。
しかしコーヒーにはそれがありません。
 
 
収穫されて加工されたあと乾燥させ、消費国に輸入された後は、なるべく早く焙煎し飲むのが、より風味特性を際立たせることに繋がります。
 
 

コーヒーを味わうには抽出が必要

 
ワインとコーヒーで一番違うのは、コーヒーは「淹れる」作業が必要で、それが味わいに大きく影響を与えるということです。
 
ワインなら、極論言えば栓を抜いてグラスに注いで飲むためです。
もちろん、一流ソムリエなら温度管理やグラス選び、エアレーションなどさまざまな工夫で、最大限美味しく提供できるようにするでしょう。
しかしそのワインを素人が家で飲んだとて、「めちゃ美味しい」が「なんか不味い」まで落ちたりはしません。
 
 

抽出が阻む高級化

 
一方でコーヒーの抽出では、美味しくすることはできませんが、いかようにでも不味くすることはできてしまいます
 
売り手側の想定する、お客様に楽しんでもらいたい味わい。
その再現性がコーヒーはワインに比べてずっと低いのです。
 
せっかくいつもの5倍の値段のコーヒー豆を買ったのに、淹れ方が極端に悪くて、「なんだ、いつものと大して変わらないじゃん」となってしまう可能性がある。
 
 
ワインは「安いものから高級なものまであるのが当たり前」なのに、コーヒーでは¥3,300/150gというのはなかなかの高級品扱い。
コーヒースタンドで1杯1000円のコーヒーを注文するのに勇気がいる。
その状況がなかなか打破できない理由のひとつは、抽出がネックになっていると私は考えています。
 
 

ワイン好きの日中の趣味として

 
朝からワインを嗜むことは、ここ日本ではなかなか市民権を得ることはできないでしょう。
ワインの沼にどっぷりとハマってしまった方々が、明るい時間に楽しむ嗜好品として、スペシャルティーコーヒーの世界を覗いてみてはいかがでしょうか?
 
 
いつも習慣のようにコンビニの100円コーヒーを飲んでいたなら、試しに10倍のお金を流行ってそうなコーヒースタンドで使ってみましょう。
大丈夫、普段のワイン代からすると誤差の範囲です。
 
ワインの世界最高峰を楽しみたいと思っても、そのヒエラルキーが確立されているがゆえに、一般庶民では手が出ません。
しかしコーヒーの世界最高峰は、その美味しさに気付いている人が少ないが故に、十分手を伸ばせる価格にいます
 
探究する面白さは、非常に近いところがありますよ!
 
 

おすすめのコーヒー豆通販

 
ついでと言ってはなんですが、コーヒー豆のオンラインショップをいくつかご紹介します。
 
美味しいコーヒーを販売するにはいい原料を仕入れること。
先述のCOE受賞豆を競り落としているコーヒー屋さん、共同購入グループなどがおすすめの候補になります。
中でも、そのお店の代表や重役の方が、国際審査員としてCOEに参加しているところが確かです。
 
 
 
 
 
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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