ワインのラベルで目にする「Domaine ドメーヌ」の文字。どういう意味だか説明できますか?
「ドメーヌってついたらそれがワイン生産者の名前だよ」という説明では50点。ドメーヌとは自社畑のブドウのみからワインをつくる、比較的小規模な生産者のことです。
ではドメーヌ以外にあるの?「シャトー〇〇」との違いは?フランス以外ではなんていうの?
今回は当たり前のようで意外と知っていない、ワイナリー名、生産者名のルールをご紹介します。
フランスでの生産者名
『ドメーヌ Domaine』のフランス語としての意味は「領域・領分」。だからその生産者が領有する土地があるということです。
『ドメーヌ』という文字を最も多く目にするのは、ブルゴーニュ地方の生産者です。
わざわざ表記するのは、もちろんその必要があるから。『ドメーヌ』の反対は『メゾン』です。
『メゾン』とは
『ドメーヌ』が自社畑のブドウでワインをつくるなら、『メゾン』は購入したブドウでワインをつくる生産者のことを言います。
買いブドウで作るワインのことを『ネゴシアンもの』と呼ぶこともあります。
ネゴシアンは日本語にするなら「ワイン商」のこと。
上記のようにブドウを購入して醸造することもあれば、出来上がったワインを樽で購入し、自分で瓶詰して販売することもあります。
もっとも、『メゾン』も100%購入ブドウというところは少数派で、自社でも畑を持ちつつ契約農家からブドウを買っている、というところがほとんどです。
ただ、『メゾン』というのは表記されていないのころがほとんど。
ココスで人気の日本人生産者、仲田さんのルー・デュモンも『メゾン』です。(最近になってちょっとだけドメーヌものもリリースし始めました)しかし、エチケットに『Maison』の文字はありません。
代わりに小さく「Negociant」の表記はあります。
基本的に、ブルゴーニュではネゴシアンものよりドメーヌものの方が上質とされます。
ドメーヌとメゾンの両ブランド
例えばドメーヌ・ドニ・モルテを継承したアルノー・モルテは、近年自分の名前を冠したメゾンを立ち上げました。
ドニ・モルテのように人気のドメーヌは、常に需要が供給を上回る状態にあります。
かといってそう気軽に畑を購入することはできません。億単位のとんでもない金額になりますし、そうそう売りに出るものではないのです。
そこで購入ブドウでつくるワインでその需要に応えつつ、ブランドを分けることでドメーヌものの価値を保つわけです。
ネゴシアンものとはいえアルノーも栽培に携わっているのですが、やはりドメーヌものと価格差はつけられています。
「Domaine」表記がない場合もある
別に『ドメーヌ』や『メゾン』は表記義務があるわけではありません。
なら「ネゴシアンものと下に見られる可能性があるから、書かない方がいいか」と考えているのかもしれません。
では何も書いてなければメゾンかというとそうでもない。
例えばドメーヌ・エマニュエル・ルジェ
エチケットには単に「Emmanuel ROUGET」とだけ。間違いなくドメーヌなのですが、特に表記無し。
つまり「ドメーヌと表記があるかどうか」を、ワインを選ぶ際の判断材料にするのは難しそうです。
シャトーって?
『Chateau シャトー』とはお城のこと。
これが生産者名に使われるのは、主にフランスのボルドー地方。
ボルドー地方は大規模な生産者が多いことが特徴です。
生産者数はブルゴーニュの1.5倍ほどなのに対し、生産量は2.5倍を超えています。
なので多くのワイナリーの建物がまさにお城。
その周りにドンと広がる大きな畑で、大規模にワインが生産されています。
ボルドーにも買いブドウでワインをつくるネゴシアンはいるものの、それはバリューワインのマーケットだけ。
「メゾン」という言葉はほぼ使いません。
著名生産者はみな自分のところのブドウでそのままワインをつくっています。
それでも「ドメーヌ」と名乗るところはほとんどありません。(ドメーヌ・ド・シュヴァリエなど例外もあります。)
ボルドーの生産者は、「シャトー」と呼ばれる彼らの建物にも誇りを持っているからでしょう。エチケットに建物が描かれているワインは多く、実際の建物も芸術的です。
大規模であるが故、観光客の受け入れ態勢も整っているので、旅行に行くならボルドーがいいかもしれません。
少数ながらブルゴーニュにも「シャトー〇〇」という生産者がいますが、「ドメーヌ」と「シャトー」の違いはまずは地域。そして生産者の規模です。大きいものが「シャトー〇〇」と考えてください。
英語圏でのワイナリー名表記
続いてアメリカをはじめとした英語圏でのワイナリー名表記を見ていきましょう。
そもそも「Winery ワイナリー」はワインの生産者という意味の英語です。ワインをつくる設備がある醸造所を指したり、その会社を指したりします。
アメリカは自由の国と言われていますが、ワイナリー名においても法則性はほとんどありません。
ドメーヌものか否かの優劣
カリフォルニアでは、買いブドウと自社ブドウの優劣がありません。
これはブルゴーニュと大きく違うところ。
これは栽培と醸造の分業体制がうまくいっているというのが一つ。
他には特にナパ・ヴァレーなどの銘醸地は地価が高すぎて、新規に土地を購入してワイナリーを始めることが困難なこと。
環境保護に関する意識が高く、新しく森や山を切り拓いて畑にするための許可をとるのがとても難しいことが挙げられます。
例えばコングスガード
コングスガードのシャルドネの一部は、ハドソン・ヴィンヤードから調達しています。
ハドソン・ヴィンヤードは自社でもワインをつくっていますが、コングスガードの方がはるかに高価!
ハドソン・ヴィンヤードのように「〇〇ヴィンヤード」とつくワインは、それが生産者の名前なのか、それともブドウを調達している畑の表記なのかが、結構ややこしいです。
一方でブルゴーニュのような「ドメーヌ〇〇」という表記をする生産者もあります。
このドメーヌ・ド・ラ・コートのように、ブルゴーニュを意識したワインづくりをしているところが多いようです。
その他の英語表記
アメリカの他、オーストラリアなどの英語圏でよく見かけるのが「Estate エステート」がつく名前。
意味は「地所」「財産」。なので農園に限りませんが、大抵は大きな土地を指します。
ワイナリー名ではなく、「エステート・メルロー」のように使われる場合は、「自社畑のブドウでつくっています」ということを指しています。
「~Wines ワインズ」という名称は、英語圏に限らず多くの国で使われます。
「〇〇セラーズ」という名称もよく使われます。
ドイツでのワイナリー表記
『Weingut ワイングート』とついたら生産者名。
これまた表ラベルには名前だけっていう生産者も多いのが悩ましいところ。ドイツ語ってフランス語やイタリア語以上に読みづらい。
畑の名前と紛らわしい生産者名もけっこうあるので、知っておくとちょっとためになるかも。
イタリア
イタリアではワイナリー名につく言葉はとても多種多様です。
あなたは「イタリアのワイナリー名につく単語」と聞いていくつ思いつきますか?
テヌータ
まずは「Tenuta テヌータ」。このワインの場合は「テヌータ・サン・グイド」というのがワイナリー名。
意味としては「土地」「農場」など。自社畑をもつワイナリーに使われるので、「ドメーヌ」が近い意味でしょう。
ヴィニエティ
次に「Vigneti ヴィニティ」。このワインでは「ヴィニティ・デル・サレント」。
意味は「ブドウ園」。
特にテヌータとの使い分けはないようですが、もともとはブドウ栽培農家だったところがよく用いるのかもしれません。
ポッジョ
続いて「Poggio ポッジョ」。このワインでは「ポッジョ・イル・カステッラーレ」。
意味は「小山」とか「丘」。ワイナリーのある地形を指しているようです。
カステッロ
それから「Castello カステッロ」。
意味はそのまま「Castle 城」で「Chateau」と同じですね。
アジェンダ・アグリコーラ
「 Azienda Agricola アジェンダ アグリコーラ」
このワインでは「Az. Agr.」と略されています。
意味は「農業会社」。
それだけ聞くと大規模なのを想像しますが、家族経営の小さなところも少なくありません。
カーサ
さらに小さな生産者に使われることが多いのが「Casa カーサ」。
意味は「家」。「アジェンダ・アグリコーラ」よりもさらに小さな規模のものを指します。
カンティーネ
「カンティーネ」も時折見かける名称で、意味は「セラー」。
私の印象としては大規模生産者が多いのですが、正確なところはわかりません。
ファットリア
まだ続きます。「Fattoria ファットリア」
意味は「農場」「農園」。
「ヴィニティ」とどう違うのか気になるところですが、「Fattoria」はブドウに限らないようです。
プロデュットーリ
最後に「Produttori del ~ プロデュットーリ デル 」とつけば「農協」「協同組合」。
現在当店の在庫の中にはありませんが、それほどレアというわけでもありません。
さすが多様性の国イタリア。ワイナリーの冠詞も様々です。
スペイン
スペインはもちろんですが、スペイン語圏のチリやアルゼンチンでも同じようなワイナリー名が見られます。
ヴィーニャ
よく見かけるのが「Vina ヴィーニャ」。
意味は「ブドウ園」なので、イタリアの「ヴィニティ」と同じです。
ボデガス、ボデガ
「Bodegas ボデガス」もしくは「Bodega ボデガ」 。
これは「醸造所」という意味。おそらくスペインのワイナリー名で一番多いのは、この「ボデガス〇〇」という形です。
フィンカ
最後に「Finca フィンカ」
「農園」という意味で、「Fattoria」と同じでブドウに限りません。なのでスペイン語圏のコーヒー農園なども「フィンカ〇〇」というところが多くあります。
ワイナリー名につく名称いろいろ
ワイナリーを指す言葉にもいろいろあることに驚かれたのではないでしょうか。
初めて見るワインのエチケットを読み解く際、これを知っていれば「ここに書いてあるのが生産者名だ」とわかります。さらにどんな形態の生産者かを推測することもできます。
となると、他に書かれているのはたいてい「ブドウ品種」と「生産地域」です。
未知のワインを探究する際の手助けになれば幸いです。