ワインのヴィンテージはただの数字にあらず、その年のブドウ畑のストーリーが詰まっています。毎年異なる天候や気候の違いが、同じ銘柄でも風味に驚くほどの変化を与えるからです。「当たり年」や「はずれ年」に頼るだけでは、その魅力を味わい尽くせないかもしれません。ヴィンテージの背景を知れば、ワイン選びや飲み比べが一層楽しくなるでしょう。
ヴィンテージとは?ワインの年ごとのストーリーを知る
ヴィンテージとはワインの生産年、ブドウが収穫された年を指します。
購入者はその表記をヒントに、今からどれくらい前につくられたワインなのか、どんな特徴の年につくられたワインなのかを判断して購入することができます。
ワインの多くにはヴィンテージが表記されます。一方でワイン以外のお酒にヴィンテージが表記されることは、そう多くありません。
それはワインにとって収穫年が非常に重要だからです。
ワインにとってヴィンテージが重要な理由
なぜ基本はヴィンテージが表記されているのか。それだけ重要な理由は、同じ名前のワインでもヴィンテージで大きく風味が異なることが多いからです。
同じ銘柄でも2つ並べて飲めば、たいてい「こちらが美味しい」という差があります。ゆえに失敗したくない高級ワインほど、いわゆる「当たり年」を気にして購入しようとするのです。
ヴィンテージでワインの風味が変わる理由は大きく2つです。
〇そのワインがつくられてから何年経過しているか
〇その生産年の天候はどのようなものだったのか
これに加えてワイナリーごとの諸事情もあります。父から息子に世代交代した、大きな設備投資をした、醸造家が変わったなどの要因で味筋が変わることはよくあります。それを判別する材料にもなります。
ヴィンテージはどのようにワインに反映されるのか?
ヴィンテージが違うからといって、全く別物のワインになるかというと、それほどの違いはありません。基本的なブドウ品種や産地は同じなのですから、似たような味わいであることは確かです。
その上で大きくは離れていない2つのヴィンテージを並べて飲んだなら、風味の様々な点が異なります。
ヴィンテージで違うポイント
- 香りのボリュームや感じるフルーツ
- 果実味の凝縮感
- 酸味と渋味のバランス
- 余韻の長さ
むしろヴィンテージが変わっても全く同じ味、というワインは基本的にはありません。
ヴィンテージとワインの熟成
ワインは保管することで風味が変わります。適切でない環境では劣化するだけですが、ワインセラーなどできちんと温度管理することで『熟成』していきます。若いころにはなかった風味を獲得し、口当たりまろやかになっていくのです。
この風味変化はウイスキーやブランデーなどの蒸留酒よりもずっと大きなもの。だからこそ他のお酒に比べて生産年が大きな意味を持つのです。
ただし「古いワインの方が美味しい」というのは大きな誤解。そのワインの熟成ポテンシャルに応じて美味しくなっていきますが、飲み頃を過ぎれば劣化していきます。
2020年ヴィンテージのワインと2010年ヴィンテージのワインでは、10年の熟成期間によって風味に差が生まれます。必ずしも古いワインの方が上質とは限らず、味わいの好みもあります。こうしてヴィンテージは自分好みのワインを選ぶ指標になるのです。
ヴィンテージの特徴を決める要因とそのメカニズム
ヴィンテージによって風味が異なるのは、熟成だけではありません。生産者の体制は変わらずとも、天候が違うからです。
- 2024年に飲む2014年のワイン
- 2020年に飲む2010年のワイン
同じ10年熟成でも風味はずいぶん違います。2010年と2014年の天候が、全く同じであるはずがないからです。
ただしこれを比較するには、4年前とワインの嗜好が大きく変わらず、4年前に飲んだワインの味をしっかり覚えていられる記憶力が必要です。
天候がワインに与える影響:雨、日照、気温
ワインの出来、風味に大きく影響を与える要素は次の通りです。
天候の要因
- 雨の日数や量
- 雨が降ったタイミング
- 生育期間の気温
- 熱波の影響
- 霜害や雹害(※)
特に雨の影響は大きいです。
霜害・雹害とは
霜害とはブドウの新芽が凍って壊死することです。
4月前後の春先、ブドウは活動を始め新芽を出します。そこに季節外れの寒波が来て、朝方に氷点下まで下がると、新芽が凍ってしまいます。氷が解けるときに細胞組織を破壊するので、新芽が壊死してしまいます。
霜害にあってもまた芽は出てきますが、収穫量は激減します。
フランスのブルゴーニュやアルゼンチンのメンドーサなどは、夏場に雹(雹)の被害がよく発生します。局所的ではありますが、「雹に見舞われて8割の収穫を失った」という畑の話も耳にします。
どちらもワインの収穫量を大きく下げる要因です。
雨のタイミングとブドウの質・量
地域にもよりますが、北半球においてブドウはおよそ6月ごろ開花し、花粉がめしべに受粉します。そのタイミングで雨が降ると、花粉が流れてしまい受粉が上手くいきません。結果として結実不良が発生し、ブドウの房の数が減って収穫量が減ってしまいます。
天候がワインの「量」に影響する大きな要因の一つです。
収穫期の雨もワインの天敵です。
ブドウが色づきもうすぐ収穫というタイミングで雨が降ると、樹がたくさんの水分を吸い上げてブドウの粒が大きく膨れます。そうすると糖度や風味は薄まってしまい、ワインの凝縮感が下がります。ひどいときは粒が玉割れを起こしてそこから腐敗が進み、房ごと使えなくなってしまいます。
収穫期の雨はワインの「質」に大きく影響しますが、「量」にも関係します。
開花期や収穫期でなくとも、雨が続いて畑の湿度が上がることで、ブドウの病気が蔓延しやすくなる場合もあります。
収穫期に雨が降らないのが理想
ボルドーの有力生産者が、アメリカのカリフォルニア州やチリなどに進出してワイン造りを始める例がいくつもあります。
フランスのボルドー地方は収穫期にも雨が降りやすい海洋性気候です。ゆえに生産者は天気予報を注視して収穫のタイミングを決めます。
新天地を求めるのは気候が安定しているからです。地中海性気候の地域は収穫期にほとんど雨が降りません。生産者は好きなタイミングに収穫日を設定できます。
これだけが理由ではありませんが、ボルドーの生産者にとってこれらの地域は理想郷に思えたことでしょう。
当たり年のワインは高価?ヴィンテージと価格の関係
一般に「当たり年」と呼ばれるのは、先に挙げたブドウにとってのマイナス要素が少なかった年を指します。
およそ1万円以下のワインにおいて、「当たり年」だからといって価格が高くなることはほとんどありません。基本的にはその時の為替レートですとか、流通コストの上昇などが影響します。
一方で当たり年だからワイン評価誌で高い点数を獲得し、それゆえにワインの価格が上がる例もあります。
高評価ヴィンテージが価格に影響する仕組み
フランスのボルドー地方は「プリムール」という先物取引の仕組みが出来上がっています。
ボルドーの高級ワインは豊富なタンニンを持つものが多く、それもあって収穫からおよそ2年後にリリースされます。そのリリース前に世界からワイン評論家などを招待し、試飲のイベントを行います。先物取引の判断材料を提供するのです。
そこで評価された点数をもとに、生産者はワインの販売価格を調整することもあります。高い評価を獲得したならば、販売価格を上げるというわけです。
ボルドーの高級ワインは、必ずしも古い方が高価なのではありません。その要因の一つは、ヴィンテージごとのワインの評価です。
当たり年を知るためのヴィンテージチャート
どのヴィンテージを選べば美味しいワインに出会える確率が高いか。そのための参考にすべく、いくつもの団体がヴィンテージチャートを作成しています。
無料で利用できるものとして、英語が苦でなければワインアドヴォケイトのものがその代表格。世界中の産地を対象に、人気産地は細分化して知ることができます。単に年の評価だけでなく、飲み頃度合いの参考になるのも嬉しいポイント。
日本語のサイトとしては、ファインズ様がヴィンテージチャートを公開しています。5段階評価でわかりやすい資料です。
これらのヴィンテージチャートで評価が高いのが、いわゆる「当たり年」です。
「当たり年」とされるヴィンテージの特徴
では「当たり年」とされるワインの特徴はどのようなものでしょうか。「はずれ年」とは何が違うのでしょうか。
それを知れば「当たり年のワインを選んで買えばいい」というように単純ではないことがわかります。
当たり年とされる年の天候とは?
「当たり年」とされる理想の天候とは次のようなものです。
当たり年の条件
- 冬の間に十分な雨が降る
- 冬がしっかり寒い(病害が減る)
- 春先の霜害がない
- 生育期の中盤にかけて適度な雨が降る
- 昼夜の寒暖差が大きい
- 雹が降らない
- 収穫の1か月前程度からは雨が降らない
- 収穫期は適度に冷え込む
こういった条件が全て揃うことはありませんが、このうち多くが満たされれば健全に熟したブドウが収穫できます。
これが「当たり年」「グレートヴィンテージ」と呼ばれる年の特徴です。
逆にこの条件をあまり満たせない年を「ハズレ年」とは言わずに、一般的には「オフヴィンテージ」と呼びます。
当たり年とされるワインの特徴とは?
当たり年とされるワインの風味を一概に語れるものではありません。
ただしジャンルを限定すればある程度は目安があります。具体的にボルドーの赤ワインを例にとってみましょう。
「当たり年」のボルドーの特徴
- 香りに青く未熟なニュアンスが控えめ・ない
- 舌で感じる風味に凝縮感がある(≒アルコール度数が高い)
- タンニンに未熟なニュアンスがなく豊富
- 果実味・酸味・渋味のバランスが良く、酸っぱくない
一見全てにおいて良さそうに見えます。
当たり年が必ずしも好みに合うわけではない理由
評価が高いワインと今飲んで美味しいワインは、必ずしも一致しません。特に何十年後にも美味しいようにつくられている高級ワインならなおさらです。
特にボルドーワインにおいてはタンニンがカギになります。かつては当たり年のワインこそ、「数年~10数年熟成させて飲むべき」とされてきました。リリース仕立てで飲んでも、渋味が強烈でフルーツの風味も出てこず、本来の美味しさを感じられないと。
むしろ「弱い」とされる点数の低いヴィンテージの方が、若いうちに飲んでも口当たり柔らかく、美味しく感じることすら有り得たのです。
それでもやはり、「購入してから20年熟成させて飲む」というような楽しみ方をするなら、「当たり年」「グレートヴィンテージ」と呼ばれるヴィンテージを選ぶべきでした。概ね天候に恵まれて暖かかった年で、アルコール度数も高めです。
ボルドーに限らずブルゴーニュもそういわれていました。
その事情が気候変動によって変わってきています。
地球温暖化で変わってきた「当たり年」の意味
「美味しい」の定義は様々ですが、「当たり年」の定義としては熟成ポテンシャルが重視されているように感じます。
その評価において、各地の気温が上がりブドウが熟しやすくなった現代では、むしろ涼しい年の方が「ポテンシャルがある」とされるように変わってきました。
例えば比較的涼しかったとされる、ブルゴーニュの2014年や2017年。白ワインの評価はすこぶる高いです。
温暖化がヴィンテージに与える影響
かつては「ブドウがよく熟した年がグッドヴィンテージ」でした。寒く雨が多くて熟しきらず、捕糖をすることで適正アルコールに上げる技術も一般的なものだったのです。
しかしおよそ2010年以降はずっとでしょうか。「ブドウが熟しきらず酸っぱいワインになってしまった」という話は聞きません。むしろブドウの糖度が上がりすぎ、酸味が減りすぎることが問題になっています。
ブドウの酸度が下がると、醸造時に望ましくない酵母や雑菌が繁殖するリスクが高まります。また若いうちから親しみやすい果実味を持つ一方で、熟成ポテンシャルも下がってしまいます。
その対策としてブドウを収穫するタイミングを昔に比べて早くしています。1か月近く早くなったという例も聞きます。
その分ブドウが樹になっている期間は短くなります。ブドウの風味成分の蓄積が十分ではなく、アルコール度数は高くとも風味に乏しいワインになってしまうという点も危惧されています。
気候変動で変わりつつあるヴィンテージ評価の基準
気候変動により、「いかにブドウを完熟させるか」から「いかにブドウの酸を保つか」にこそ生産者は注目しています。ならば晴れの日が多く乾燥した年が良い年とは限りません。
例えばブルゴーニュの2018年は当初、「質・量ともに優れたヴィンテージ」と評価されていました。大きな霜の被害がなく、多くのブドウが健全に熟した年だったと。
しかし当初の期待に反して、ワインアドヴォケイト誌の評価はここ10年の中では低い方です。実際にワインを飲んでも、ブルゴーニュらしさを失って果実感に溢れすぎたワインが多かった印象です。
こういった暖かい年は酸が強くないので、若いうちから分かりやすい美味しさを持つワインが多いです。「渋くて酸っぱくて、今開けるのはもったいなかった」という後悔はあまりありません。
一方で20年後、30年後まで発展していくのかというと、疑問を抱かざるを得ません。
誰にとってのグッドヴィンテージ?
畑のことを一番よく知っているのは生産者です。ただし我々消費者と生産者では、グッドヴィンテージについての考え方が違うかもしれません。
例えば2016年のブルゴーニュ、特に白ワイン。味わいとしては素晴らしいものが多くつくられた年です。
ただし生産量はかなり少なかった年です。春先の霜害で収穫量が激減したためです。「モンラッシェ」という特級畑のワインなどは、各社がオーク樽を満たせるだけのブドウが取れず、6社が共同でワインをつくったほどです。
(限られた販路にしか流通しないと聞きました)
参考記事▼
量が少ないからと言って価格を倍にはできません。生産者にとっては収入が減ってしまったバッドヴィンテージです。
一方でワインの味が一番の消費者にとっては、凝縮感がありつつ美しい酸味を持ったワインを味わえる「当たり年」だったのです。
ヴィンテージの特徴と飲み頃の関係
温暖化の影響が現れた近年において、ヴィンテージの特徴からワインの飲みごろを予想するならどうすればいいか。簡単に整理するなら次の通りです。
暖かい年 | 酸味が穏やか | 早く飲めてあまり熟成しない |
寒い年 | 酸味と渋味が豊か | 若いうちは硬く、熟成ポテンシャルがある |
カリフォルニアなど元から安定してブドウが熟す地域では、以前からこの傾向がありました。例えばナパ・ヴァレーの2011年。当初はナパらしくないワインだとして不人気なヴィンテージでした。しかし現在、美しく熟成した良いカベルネ・ソーヴィニヨンが多く見つかります。今後もさらに発展していくでしょう。しかしワインアドヴォケイトの評価は「82」とかなり低い数字です。
既に熟成した30年前のワインを買うなら、ヴィンテージチャートの評価を大いに参考にすべきです。一方でこれからワインを熟成させることを考えるなら、単純な点数だけでなく冷涼で熟成に適したヴィンテージなのかも考えるべきでしょう。
ヴィンテージ差の少ないワインとは?
「ヴィンテージで風味が異なる」というのは共通ですが、違いの大きさはまちまちです。
「去年の方が美味しかった」というほどの差を感じることもあれば、並べて飲んでも違いが分からないことすらあり得ます。
違いを楽しむ人にとっては差があった方が面白いでしょう。一方で「毎年同じ美味しさの方がいい」という人もいるはず。
ヴィンテージ差が少ないワインはどう選べばいいのでしょうか。
ヴィンテージ差の少ないワインは産地で選ぶ
安定して美味しいワインを飲みたいなら、気候が安定した地域のワインを選ぶことです。具体的には地中海性気候や大陸性気候の乾燥地域。特に灌漑(かんがい:水やり)をして栽培している地域のものがいいでしょう。
例えばアルゼンチンのカファジャテ地区。「エル・エステコ」という生産者の畑は、年間降水量が200mmにも満たないそうです。日本なら台風1つで降る雨の量です。
ブドウ生育期には雨が降らず、アンデス山脈の雪解け水を撒いて栽培しています。なのでブドウの出来に大きく影響する、雨の量とタイミングを人がコントロールできます。それゆえ毎年同じような品質のブドウが収穫できるのです。
逆に海洋性気候の地域はヴィンテージ差が大きいと考えてください。フランスのボルドー、オーストラリアのマーガレット・リヴァー、ニュージーランドのほぼ全域、そして日本など。これらは違いを楽しみたい方に向いています。
大規模生産者のワインは安定性に優れる
もう一つ大きなポイントはそのワインの生産規模です。
100万本つくられるようなワインは、たいてい様々な地域からブドウを買い付けてつくります。単一ブドウ品種のワインでも生産地域はブレンドされているのです。
たとえ1つの地域が雨のタイミングで品質が下がったとしても、他の地域のブドウでカバーできます。暑い年でブドウが過熟気味なら、比較的涼しい地域のブドウの比率を高くすることで酸味を調整できます。
味わいのイメージに対して原料を組み立てていくことができるので、大量生産されるワインの味わいは安定するのです。そういったリーズナブルなワインは、ヴィンテージをあまり気にしなくていいでしょう。
ヴィンテージを比べる面白さ:年ごとの違いを楽しむ
いろいろなワインを飲むのが面白く感じてきたころは、まずはたくさんの銘柄を飲みたいものです。そういう方にとっては、試飲会イベントのような飲み比べできる場が最高でしょう。少量ずつ飲めるサーバーが設置してあるお店も魅力的です。
その興味関心をある程度満たせたあとは、ぜひヴィンテージに注目してください。同じワインをヴィンテージで比較する面白さは、あなたをもっとワインの世界に引き込んでくれます。
ヴィンテージを比べて飲む楽しみ方
「どのヴィンテージを購入しようか」と選べる機会は、実はそう多くありません。
ヴィンテージの選択肢があるほど古いワインが出回っている銘柄は、たいていは高価でありたくさんは買えません。
手頃なワインは現在のヴィンテージのワインを販売しきって次のヴィンテージに移行するので、せいぜい2、3個のヴィンテージしか流通していません。
一番確実なのは、お気に入りの銘柄を購入してワインセラーで保管することです。
同じ銘柄でヴィンテージを楽しむおすすめの方法
「ヴィンテージの違いを楽しむ」といっても2つの方向があります。
1つはヴィンテージの個性を感じ取る面白さ。それには先ほど挙げたヴィンテージ差の大きな地域のワインがおすすめです。加えて酸味や渋味が強めの銘柄を選ぶと、熟成スピードがゆっくりなので、その年の特徴を感じやすいです。
一方でワインが熟成していく変化を楽しむのもまた面白いです。逆にヴィンテージ差の小さな地域のワインを選べば、時間経過による味の変化が浮き彫りとなります。
同じ銘柄で並べて飲むからこそ、「こんなに違うんだ!」の驚きがあって面白いものです。友人を誘ってワイン会を開いてみるのも楽しいでしょう。その際にヴィンテージ情報をなるべく集めてから飲むことをおすすめします。きっと「ヴィンテージ評価といってもなかなかあてにならない」ということを感じるでしょう。
ヴィンテージをヒントにしたワインの選び方
その年の天候がブドウとワインに与える影響を知って、さらに産地ごとのヴィンテージの特徴を把握する。
そうすればどのようにワイン選びに役立てることができるのでしょうか。
家飲みワインを選ぶなら気にしないのもあり
低価格帯のワインを選ぶ際は、それほどヴィンテージの選択肢はありません。2024年11月現在、3000円以下のワインの大半は2020~2023年ヴィンテージで販売されています。
「ワイナリーAの2022年にするか、ワイナリーBの2021年にするか」産地やブドウ品種、価格帯が同じだったとします。
先述のようなヴィンテージ差の出やすい地域のワインを選ぶなら、評価の高いヴィンテージの方を選ぶのがおすすめです。より凝縮感のある味わいである可能性が高いからです。3000円以下では長期熟成型にはつくっていないので、若いうちは飲みづらいことも少ないでしょう。
ただしワイナリーAとBの特徴次第では、その差が逆転することもあり得ます。腕のいい生産者はオフヴィンテージでも素晴らしいワインをつくります。
ましてヴィンテージ差の出にくい地域の場合は、生産者の特徴の方が重要でしょう。
ゆっくり飲みたいなら冷涼ヴィンテージのワインを
その年が温暖だったか冷涼だったか。本来はそう単純に二分できないですし、情報も入りにくいです。
その上でもし判断がついて選べるとき、数日に分けてワインを飲む方は冷涼ヴィンテージを選ぶべきです。
ワインは一般に酸味が高いほど酸化に対して強くなります。これはワインに含まれる亜硫酸が、pHが低いほどよく作用するからです。
抜栓して4,5日かけて飲みたい。なるべく美味しさをキープしたいということであれば、一口目から濃く感じる温暖ヴィンテージより、スッキリとした味わいの冷涼ヴィンテージの方が適しています。
パーティーワインを選ぶ際は人数に応じて
ワイン1本を6~10人くらいでシェアするなら、一人分はグラス1杯のみ。その際に5000~1万円くらいの比較的若いヴィンテージのワインを用意するとしましょう。
そういう想定なら、温暖なヴィンテージのワインがおすすめです。よく熟したフルーツの風味があれば、1口目からのインパクトも強く、少量でも満足できます。若いうちから香りも開きやすいです。酸が高いワインを苦手とする方も多いので、参加者の好みがわからないときは酸味穏やかなものを選ぶのが無難です。
パーティーといっても2~3人と少人数でするとしたら、1本のワインをある程度の時間をかけて飲むことが考えられます。その場合は風味の変化も楽しめるので、冷涼ヴィンテージの線の細い味わいの方が飲み疲れせず面白いかもしれません。
これがちょっと古いボルドーワインを提供するとなると、「当たり年」の意味が逆転しかねないので話は複雑になります。
特別な日に飲む熟成ワインは当たり年で
もし現在、既に熟成したボルドーワインを選んでいるとします。予算は1万~5万円ほど。ある程度銘柄に目星はつけており、どのヴィンテージを選ぶかで迷っているとすれば、私なら素直にヴィンテージチャートを参考にします。
特に2000年以前のような古いものは、オフヴィンテージだと飲み頃が過ぎている可能性もあります。飲み頃を過ぎていると、果実味が減退しすぎて酸っぱさが目立つ場合もあり得ます。
ワインアドヴォケイトの飲み頃予想はアメリカ人の好みに合わせたもの。それを過ぎていても繊細さを好む日本人は割と楽しみやすいと考えていますが、それでも限度はあります。
「グレートヴィンテージ」とされる年の方が、タンニンを多く含む場合が多く長く熟成するので、満足できる確率はやはり高まります。
ワイン仲間が集まって飲む場なら、飲み頃を過ぎたワインもそれはそれで「いい経験になったな」と楽しめるかも。でも特別な記念日に大切な人と飲むのなら、しっかり美味しさを感じさせてほしいですよね。そういう時は冒険しなくてもいいでしょう。
当たり年/ハズレ年で語れない神秘
ここまで読んできて「ヴィンテージのことが余計にわからなくなった」という感想かもしれません。その通りです。
ワインのヴィンテージとは「当たり/ハズレ」で語れるものではありません。「温暖/冷涼」と単純に二分できるものでもないです。
ヴィンテージごとに様々な特徴があり、味わいの傾向に影響します。その上でワインをいつ開けるのか、どんな好みなのか、どんなシチュエーションで飲むかでも、向いている/向いていないが変わります。
「当たり年のワインは美味しい」とも限りませんし、「ハズレ年のワインがイマイチ」なんてことは決して言えません。
それぞれの年の特徴を知って、味わうワインの印象と比較する。さらに自分自身はその年どうしていたのかを思い返す。二つと同じ年はないからこそ、それぞれの多様性を味わうのが、本当のワイン好きだと私は考えます。