ワインに合わせることが難しいとされる食材、シシャモ。
シンプルにグリルしたシシャモに合わせるワインを、何通りか候補を挙げて検証しました。
互いに変化を与えず不味くならないだけでは、「このワインにはシシャモがあう」とは言えません。
最も相性の良かったワインは、シシャモによってワイン単独では感じられない風味を表現してくれました。
シシャモのペアリングに挑んだきっかけ
なんでわざわざワインとあわせる必要性を感じないシシャモのペアリングに挑んだの?
ごもっとも。
理由は困難といわれると挑みたくなるドM根性です。
きっかけはワインSNS界の重鎮ヒマワイン先生がNumeroに寄稿された記事。
その中でワインマーケットパーティーの沼田店長がシシャモについて「いまだに合うワインが見つけられていないんです」と語っています。
ワインが苦手としがちな魚とのペアリング。しかもかなり高い確率で悪い組み合わせとなる"卵”。魚卵はワインの鬼門です。
だからこそブログネタとして挑んでみよう。もし検証の結果、全部美味しくなかったらそっとお蔵入りさせようと挑んでみた次第です。
魚卵がワインの鬼門であるわけ
シシャモのみならず、タラコやイクラ、カラスミ、カズノコなど、魚の卵を原料とする料理・食材をワインとあわせるのは難しいです。
魚の多くは大なり小なり生臭い風味を持ちます。それがワインによって強調されてしまい不快に感じるならば、ミスペアリングです。
さらに卵であることもワインとの相性を難しくします。
ワインと相性の悪い卵
「ゆで卵の臭い」と聞いてピンとくるでしょうか?
アツアツのゆで卵を半分に割って黄身から立ち上る臭いを嗅ぐと、確かにあまりいい香りとは言えません。
この臭いの成分は、硫黄を含む化合物がメインです。
ワインの醸造にも硫黄を使います。たいていは亜硫酸塩という形で用いられ、醸造プロセスのうちいくつかの段階でワインに加えることで、醸造の失敗により品質を損なうリスクを軽減できます。酸化防止剤として、美味しさを長く保ってくれる効果も期待できます。
しかし亜硫酸の加えすぎや醸造法のオプションなどによって、ワインが硫黄の臭いを持ってしまう場合があります。時に硫化水素のようなひどく深いな臭いが発生します。
弱いものなら「還元気味」として酸素接触と時間で解決できます。でもひどいものだとワインの果実香を感じる邪魔をてしまうこともあります。
硫黄の臭いを含む食品をあわせることで、ワインに劣化した印象を与えてしまうのではないか。
どうして卵とワインの相性が悪いことが多いのか。きちんと理由を説明している記事は見つけられませんでしたが、定説ではあるようです。
キャビアはワインとあわせるイメージだが・・・
世界三大珍味のひとつと言われるキャビアは、チョウザメの卵、魚卵です。フランス料理のコースの中で提供され、ワインと一緒に楽しまれるイメージでしょう。決してそれは間違いではありません。
しかしキャビアが提供されるのは、アミューズや前菜としての場合がほとんど。その時に飲むワインはシャンパンや白ワインです。赤ワインを飲むことの多いメインディッシュとして使われることはあまりありません。
キャビアとてどんなワインにもあうわけじゃない。他の魚卵ほどではありませんが、あわせるワインに気を遣う食材ではあります。
魚卵はワインの鬼門
以上のとおり「魚卵はワインとあわない」とは言い切れませんが、相手を選ぶ食材であることは確かです。
しかもシシャモの場合は魚本体と一緒に食べるため、他の魚卵よりも魚の風味が強め。相性がよくないワインとあわせたら、絶望的に不味くなることが予想されます。
「ワインと料理の相性なんて、感じ方は人それぞれでしょ?」
そう考える方はシシャモを買ってきて、噛みしめているうちに適当なワインを流し込んでみてください。「相性の悪い組み合わせというものがある」というのは、心から実感していただけるでしょう。
シシャモ?それともシャペリン?
ここまでシシャモといってきましたが、実際にあわせたものはシシャモの代用魚である「カペリン」です。別名「カラフトシシャモ」。
スーパーなどで販売されているシシャモのほとんどは、実はカペリンです。
PREZOさんの記事によると、その違いは卵がプチプチしているかいなかと、うろこの見え方。値段は3倍ほど違うそうです。
スーパーで購入したシシャモは、2パックで680円(税別)でした。はい、間違いなくカペリンですね。
でもみなさまが認識しているシシャモもほぼカペリンであるはずなので、この記事ではカペリンをシシャモと言い張ります。
シシャモにあいそうなワインを選ぶ
総当たり式でシシャモとワインの相性を試すことなどできません。なのである程度「相性のよさそうなワイン」を選ぶ必要があります。
ヒントとなるのは、ワインマーケットパーティーの沼田店長様が苦戦しておられたという事実。それはつまり、メジャーどころのワインはある程度試されたのだろうと予想します。
よって有名品種のワインは最初から除外して考えます。
食文化として魚をよく食べる地域の伝統ワインなら、シシャモにも対応できるのではないか。その方向性で考えてみました。
まずはワインだけで飲んで、その風味を紹介します。
大外れはしないだろうスッキリ白ワイン
「魚には白ワイン」なんて単純なことを言うつもりはありませんが、オーク樽熟成しておらず、酸味が高めのスッキリ系の白ワインは魚に無難。ピッタリあうというほどではなくとも、大崩れはしないという感覚です。
この「クレピィ」は湖のすぐそばでつくられるワインであり、そこの魚とあわせて飲んでほしいということを表したようなエチケット。少なくとも"まあまあ"な相性はみせてくれると信じて選びました。
KATAYAMA
和梨やかんきつ、白い花、青りんごのような透明感のあるアロマ。記憶にある別ヴィンテージよりも果実味に厚みがありなめらか。酸味は全体からしてやや高め程度で、例年よりは控えめ。塩味に近いミネラル感と、例年よりハッキリした苦みを感じる。(2020VT試飲)
もっと骨太な白ワイン
ビアンケッロはマルケの土着品種。メタウロ川の流域で紀元前から栽培されていたと考えられています。ゆえに川魚と楽しまれてきた白ワインであろうと考えて選びました。
これも魚と合わせて大外しはしないであろう、樽熟成しないスッキリ系ワインですが、先ほどのクレピィと比べると骨格のしっかりとした味わいです。
KATAYAMA
パイナップルのように熟したフルーツとレモンのような爽やかなフルーツのアロマ。バジルやクレソンのような緑色のハーブのグリーンノートもあります。香りのボリューム自体はそう大きくりませんが、なかなか珍しい構成。 果実の凝縮感がしっかりとあり、値段の割に驚くほど余韻が伸びるこのワイン。
「フルボディ」とまでは言わないまでも、適度な重量感がありながら、酸味は高め。骨格のしっかりとした飲みごたえのある白ワインです。(2020VT試飲)
「フルボディ」とまでは言わないまでも、適度な重量感がありながら、酸味は高め。骨格のしっかりとした飲みごたえのある白ワインです。(2020VT試飲)
魚との相性を狙ってポルトガルのロゼ
日本以外に魚をよく食べる国として、みなさまはどこが思い浮かびますか?
実はポルトガルの食文化には魚料理が豊富。なのでポルトガルワインに目を付けました。
加えて「どんな料理にもあう」なんていわれるロゼ。完全に同意はしかねますが、確かに赤ワインの要素も白ワインの要素も持つので、懐の広さはあります。
酸味が高くキュっとしまるものよりは、果実の凝縮感があるタイプの方が、シシャモの味の濃さに負けないかと考えチョイスしました。
※個人的に購入した当店と取引のない輸入元のワインですので、銘柄は伏せさせていただきます。
KATAYAMA
グラスにわずかに泡がついた。香りは控えめで甘く熟したベリーやクランベリー、バラのようなアロマ。温暖な環境を思わせる凝縮感と落ち着きのある味わいで、バランス感が完璧。余韻は眺め。(2021VT、トゥリガ・ナショナル主体、約3700円)
大穴狙い!?魚卵を食べる地域の赤ワイン
食材にどんなワインをあわせるか迷ったとき、その食材か似た食材をよく食べる地域のワインを考えてみるのは一つの手です。
イタリアのシチリア島はカラスミ、ボッタルガで有名です。ボッタルガはボラやマグロの卵巣を塩漬けにし乾燥させたもの。魚卵の一種です。
現地の人がボッタルガといっしょに、シチリア伝統の「チェラスオーロ・ディ・ヴィットリア」を飲んでいるかは知りません。もしかしたら「グリッロ」や「インツォリア」などでつくる白ワインなのかもしれませんが、ここは大穴狙い。
「ものすごく組み合わせとして不味かったら、それはそれで記事として面白いか」という気持ちで入れてみました。
実際、ネロ・ダーヴォラの風味は魚の風味とも矛盾しませんし、やわらかいタンニンがうまく包んでくれそうな期待もあります。
KATAYAMA
イチジクやイチゴなどのみずみずしく熟したフルーツのアロマ。健全に熟した果実の風味は、シチリアの太陽のように(イメージ)明るく朗らかで、タンニンは穏やかながら舌の上でしっかりとグリップする味わい。余韻は少しローストのような香りが残る。
意外?それとも安パイ?半甘口のマデイラ
シシャモと相性が悪いとしたら、生臭さが目立つか、もしくは硫黄の臭いが強調される場合だろう。
そうならないワインとして確信があったのが、ポルトガルの酒精強化ワインであるマデイラです。
酸化熟成のニュアンスがいいのか、生魚なども問題ない万能食中酒だと教わったことがあります。
シシャモの味の濃さにあわせて、今回は半辛口の「ヴェルデーリョ」をチョイス。品種=甘さではないようですが、ヴェルデーリョはほのかな甘みを感じる程度に仕上げられることが多いです。
1本4000円程度と安いワインではありません。しかしマデイラの魅力は劣化しないこと。製造過程で加熱酸化熟成をしているため、これ以上劣化のしようがないというのが作り手の主張です。
だから飲みたいだけ飲んで常温でほうったらかしにしておいても、次も美味しく飲めるのが気楽でいい。ちょっとずつ飲むことを考えれば、4000円という価格も普段のみに無理ではないはずです。
KATAYAMA
濃密に甘い、べっこう飴を思わせるようなアロマ。紅茶やドライフラワーのようなニュアンスも感じます。19%のアルコールだけあり、口当たりはとろみがあり、甘さが広がります。しかし同時にピリッとした酸味があるため、べったり甘みが続くことはありません。余韻にはアルコールの熱さがあります。
シシャモとの相性を検証する
今回はスーパーで買ってきたシシャモをシンプルに魚焼きグリルで焼きました。
基本はそのまま食べるのですが、この季節が旬であるためか、1パックに割とたくさん入っています。手軽にもっと検証を深めようと、味変にレモン果汁を採用。
そのままで食べる/レモン汁をつけて食べるの2通りにおいて、ワインを飲んだ時にどう感じたかを紹介します
シャスラとあわせてみる
相性は致命的でないまでも、良くない。
しっぽの焦げの風味が強調され、ワインの良さもシシャモの良さも感じられない。
ただし生臭さやとげとげしい感じもほぼないので、同じ食卓にあったとしても十分許容範囲であるとは言えます。
レモン汁で味変した場合は、ワインの味わいはよりハッキリしました。というより、レモン汁をつければシシャモにワインが邪魔されない感じ。悪くはないですが、決して良くなるわけではありません。
ビアンケッロとあわせてみる
「抜群!」とまでは言えませんが、なかなかいい相性です。ただしシシャモがちょっと負けています。
生臭さは出ません。シシャモのあとにワインを飲むことで、その余韻がグレープフルーツのように変化します。
それはレモン汁で味変した場合も同じで、ワインがよりかんきつ系の風味で爽やかに感じます。
もう少しシシャモのグレードが高ければ、ぴったりの相性であった可能性を感じます。
ポルトガルのロゼとあわせてみる
これは相性悪い!
焦げの苦みが強調されるうえに、魚卵がもったり重たいような感触になり、ワインの味が感じられません。
これはレモン汁を付けた方が悪化します。口の中で魚卵とレモンの酸とワインの不協和音です。
ワイン自体は美味しいのに、これはもったいない!
決してワインが悪いわけではありません。シシャモが悪いわけでもありません。ただこの2つを出会わせてしまった片山が悪いのです。
チェラスオーロ・ディ・ヴィットリアとあわせてみる
うえぇ~~~~不味い!
見事に生臭さが強調されます。シシャモ単体で食べるより、ワインとあわせた方が魚の臭いがあとあとまで続きます。
これは完全なるミスペアリング!
レモン汁で味変すると、より悪化します。
レモンが苦みにかわって、震えるほどの不味さに。
舌をリセットしないと次に進めないくらいです。
繰り返しますがワインもシシャモも悪くない。組み合わせが不幸なだけです。
マデイラ・ヴェルデーリョとあわせてみる
シシャモのあとにマデイラを飲んでみても、まったく悪い要素は出てきません。
特別良くなるということはありませんが、シシャモの風味をしっかりリセットしてくれます。マデイラの甘みは控えめに感じますので、次の一口が自然と進むでしょう。
ただしマデイラを口に含む量については注意が必要です。グビっとたくさん飲んでしまうと、マデイラの味が勝ちすぎて、「シシャモの触感・マデイラ味」になっていしまいます。
レモン汁による味変も、マデイラの風味が強いのでさほど違いは感じません。少しだけ爽やかになるかな、くらいです。
最もシシャモにあうワインは・・・
今回の検証による結論。
シシャモにあわせたときに面白いワインのNo.1は、ビアンケッロ・デル・メタウロ。
シシャモの風味とあわさったときに悪い要素は出ず、ワインの違う表情を見せてくれます。
悪くないのはマデイラ・ヴェルデーリョ。
口に含むワインの量を間違えなければ、どちらの風味もちゃんと味わえます。
お酒に弱い方にとって、「いつまでも劣化しないから、飲みたいだけ飲める」というのは魅力でしょう。
今回の検証により、シシャモにあうワインのベストを見つけられたかというと、あまり自信はありません。
上記の2本、一緒に飲んで後悔することはないと誓えますが、「このワインがなきゃ価値が下がる」ってほどではない。
もしもっとあうワインをご存知でしたら、教えていただけるとうれしいです。