ワインの楽しみ方ガイド

人に伝えたくなるワインの魅力とは、多様性

2022年8月5日

 
私がワインを魅力に感じ、職業にしている一番の理由は、その多様性です。
端的に言えば、ワインはいろいろだからこそ面白いし飲んでいて楽しいんだということです。
そしてワインの飲み手も様々。飲み手の数だけ「好き」があると考えます。
共感できるところ・できないところあるでしょうが、それを含めて筆者片山の考えを知って頂けたらとこの記事をつづりました。
 
 

コーヒーからワインに転職した理由

 
筆者片山は元バリスタでした。
そこからワインの業界に転職した理由。いくつかありますが、一番はお金です。
現実問題として雇われのバリスタの給料は安く、現状はともかく未来を思い描くことができなかったからです。
 
 
淹れたてのコーヒーを提供することは、数分の時間がかかります。ゆえに時間当たりに提供できる杯数には限度がある。なので給料を上げるにはコーヒー1杯に付加価値をつけて、単価を上げるしかない。その道筋がなかなか見えてこなかったのです。
 
コーヒーの業界からワインを見た時に魅力的に思えたこと。それは販売価格の多様性でした。
 
 

1杯の値段の感覚

 
コーヒー1杯3000円
この値段を見て、皆様ならどう感じますか?
 
 
「高い!」と感じられた方が大半ではないでしょうか。
 
では「グラスワイン1杯5000円」ならどうでしょう?
 
 
もちろん「お財布に痛い」と感じられる方も多いし、機会があっても飲まない方が多いでしょう。
しかしこのブログを続けて読んでおられるような方なら、こう考えるでしょう。
 
高いかどうかはもの(ワイン)による
 
 

ワインの価格の多様性

 
ワインの価格は本当に青天井。
ルロワがつくるミュジニー(ブルゴーニュのトップ生産者がつくる特級ワイン)の取引価格は300万円を超えて、さらに上昇中。
一方でスーパーに行けば1本500円以下でもワインが手に入ります。
 
 
どちらもブドウの果汁を発酵させた750mlのお酒であることには変わりありません。
 
正直、ワインを飲まない人から見ると、価格を理解できないでしょう。
私はウイスキーに明るくありません。だから正直、サントリーの「山崎」の取引価格が理解できませんが、きっと同じような気持ちです。
 
 

価値観は文化となる

 
300万円の例は極端にせよ、「いいワインは高い」ことはワイン好きなら誰もが認めています。
それは「良いもの・美味しいものをつくるには相応の費用がかかり、希少価値も価格に反映される」と認識しているということ。
美味しいワインが飲みたければ、相応の対価を支払う必要がある」という価値観です。
 
別にみなが最高のワインを求めているわけではありません。自分の予算に応じてワインを楽しんでいます。
 
 
同じ価値観が多くの人に共有されれば、それは文化といえるでしょう。
「いいワインにはお金を払う」「身の丈にあったワインの楽しみ方」
ワインが一般的なお酒となって半世紀にも満たない日本でも、こういった文化はあると私は感じています。
 
 

「コーヒーは安いもの」というイメージ

 
ノンアルコールであるコーヒーの市場規模は、おそらくワインよりもずっと上。(※市場規模の具体的な数字は調べきれませんでした)
多くの方にとって身近な飲み物である一番の理由は、手ごろに手軽に手に入る点でしょう。
 
自販機では1本120円でいろいろな種類のコーヒーが販売されています。自宅でインスタントのコーヒーを飲むなら、それ以下の価格で済みます。価格と味のバランスを考えて、コンビニで淹れたてのコーヒーをよく買うという人もいるでしょう。
 
 
そんな方にとって、喫茶店やカフェなどで飲む1杯500円のコーヒーとの違いは、場所代や人件費といったものでしょう。
だから、名のある外資系ホテルの高級感のあるロビーで飲むコーヒーに2000円とられるのは、まあわかる。
 
 
でもコーヒースタンドやカフェで、1杯700円のコーヒーと並べて販売される1杯3000円のコーヒーは理解できない
「コーヒー1杯の価格も原料価格次第」という文化はまだまだ根付いていないと考えます。
 
人々の価値観を変え、価格の多様性をコーヒーに持ち込むためのヒントが、ワインから得られるのではないか
それが転職を考えたもう一つの理由でした。
 
 

お酒としてのワインの多様性

 
他のお酒のプロから見ても、ワインを提供するのは難しいといいます。
何しろ種類が膨大で、覚えることがとんでもなく多いからです。
 
 

ワインの味わいは何で決める/変わる?

 
ワインの味わいを大きく左右するのは、まず品種と産地です。
しかし細かいことを言うなら、もっともっと味わいを左右する要素はたくさんあります
 
ブドウ品種ごとのクローン、ブドウの樹の樹齢、仕立て方やビオディナミなどの栽培方法、産地の気温や日照量・気温の日較差、雨の量やタイミング、畑の標高や斜面/平地といった地形、向きや周辺環境、土壌の種類、手摘み収穫か機械収穫か、除梗の有無、果帽管理や発酵温度、圧搾方法やプレスワインの使い方、熟成の方法、ブレンド、濾過・清澄の方法に栓の種類、熟成の長さ、収穫年の特徴、保管方法、グラスの形やグレード、飲む温度、合わせる料理・・・・、もちろん誰がつくったかによっても。
 
 
挙げればきりがありません。
ワインを好きじゃない人からすると「めんどくさっ」となっても不思議じゃない。
我ながらよくこんな小難しいものを好きになったものです。
 
 

ワインは種類が多い

 
味わいを左右する要素が多いからこそ、ワインは膨大な種類があります
 
楽天市場に流通しているだけで、おそらく何十万種類という桁でしょう。
さらに輸入元の在庫表を当たれば、楽天で流通していないワインなどすぐに見つかります。
レストラン卸に力を入れている輸入元の中には、取り扱いワインはネット販売不可にしているものもあるからです。レストランワインの小売価格が簡単には分からないようにするためです。
 
 
当然、日本に入ってきていないワインも膨大な数あります。
誰もが販売用に小ぎれいなワインをつくっているわけじゃない。「〇〇さんの自宅用ワイン」なんて名もなきワインも数えるなら、世界に何種類のワインがあるかはバッカス(お酒の神様)のみぞ知る、です。
 
 

ワインはなぜ種類が多い?

 
どうして他のお酒と違い、ワインはこれほど種類が多いのでしょうか。
 
その理由はワインはブドウのみからつくられるからです。
 
他のお酒の原料、例えば麦や米や芋、どれも一年性植物です。それに対してブドウの樹は何十年も同じ樹が果実を実らせます
だからこそ同じ「ブドウ」の中でも味わいの差が大きい。土地の味わいを反映するのです。
 
 
それゆえにワインは単一銘柄の大量生産にあまり向いていません。同じような気候・土壌条件の畑から、同じような品質のブドウが何十万トンと取れることはほとんどありません。
もちろん様々な産地のブドウを一緒くたにして一つのワインを大量につくることはできます。しかしそれよりも、特徴のあるワインをいろいろ作った方が価値があるとされ、儲かるのです。
 
 

高級なワインは希少

 
皆が美味しいと認めるものは、やがてそれがブランドとなり、高額に取引されるようになる。
ボルドーの有名ワインがいい例です。5万円10万円のワインが年間10万本以上つくられています。
 
しかし流通量が10万本単位で、なおかつ価格が高いワインは他にほとんどありません
たいていは数千本単位の年産量です。
 
それは高級なワインの多くが、条件が理想的な単一の畑からつくられるから。
「ロマネ・コンティ」がいい例。1.814haの畑で育つブドウからしか決してつくることができないのですから、必然つくれる量は限られます。
 
小さな畑からそれぞれ個性に富んだ上質なワインがつくられる。だからこそ希少で高級なワインが膨大な種類存在するのです。
 
 

高級ワインをたくさんつくろうとして・・・失敗!?

 
ワインの味わいは畑が大事。だから人気のある畑の面積をもっと広げられないか。
それをやったのがドイツです。
 
 
1971年の農地改正。このとき、当時有名で高く取引されたワインを生む畑に、周りの畑をくっつけてしまったのです。それまで3万ほどあった畑が、現在の2660か所まで数が減り、その分1つあたりは大きくなったのです。著名畑のワインが10倍つくれるんです!
 
それでどうなったか。現在ドイツワインを畑で探し求めるワイン愛好家がどれだけいるか。
もちろん原因はこの畑統合だけではありませんが、玉石混合となった有名畑のワインは、そのブランド価値を大きく損なうこととなったと言えるでしょう。
 
 

味わいの多様性と理論がつながる快感

 
味わいの多様性の根拠として、いろいろな理由を挙げられるのは、そのメカニズムがある程度解明されているからです。
科学的にわかっているもの、経験的に共通認識を持たれているもの、様々です。
 
AとBのワインは似ているけれど風味が違う。それはなぜだろう?
きちんと調べれば、それを納得できる理由がたいてい見つかる。その時体験と理論がリンクする
その楽しさも、私を虜にしている理由の一つです。
 
 
だから飲んだことのないワインでも、周辺情報から味わいを8割がた予想できる
それでいて、最後の2割は私の想像を超えていく
 
分かった気になればスルっと手を抜けていく、そんな不思議さもまた魅力です。
 
 

ワインの楽しみ方の多様性

 
ここまで語ったワインの魅力は、「ワインが私に様々な味わいを体験させてくれる」ということ。
一生かかっても飲みつくせない幅広さは、大きな魅力です。
 
それと同時に、ワインを楽しむ人々もまた多様
飲み手の数だけワインとの向き合い方がある、というのも魅力に感じています。
 
 

価格に応じた消費者がいる

 
先述のとおりワインの価格はとてつもなく広いです。
だからといってワインを飲んでいるのは決してお金持ちばかりではありません。
 
アメリカでは「20ドル以下のワインを飲まない層」というものがあるそうです。
一方で1本500円のワインを嬉しそうに知人に勧める人もいます。純粋に美味しいと満足している証拠です。
 
 
ワインは安いものから高いものまで、それぞれの価格レンジに応じた消費者がいる
だから大量の廉価品からごく少数の高級品まで、ピラミッド構造が成り立っているのです。
だから「高級品がいい」というものではありません。すべての階層が大事。それぞれ生産・消費のつり合いが、ワイン産業を支えています
 
 

ワインを飲む量も人それぞれ

 
日本人の一人当たりのワイン消費量は、年間で約3L。ワインボトル4本です。
このブログをお読みの方の中には、「私の1週間の消費量より少ない」なんてこともあるんじゃないでしょうか。
 
たくさん飲む人は毎日のように飲む。
普段はビールやチューハイで、何かいいことがあったときにワインを飲む。
家ではお酒をあまり飲まず、外食するときくらいだけど、レストランに入ればボトルで注文する。
殆ど飲まなくて、年に1度ボジョレー・ヌーヴォーのときくらい。
 
 
中には「ワインは仕事であって、家では日本酒や焼酎」なんてソムリエも知っています。
 
ワインをよく飲む人とあまり飲まない人の間には、とんでもない数の開きがあります。それだけワインの飲み方が多様だということです。
 
 

ワインを選ぶ理由も人それぞれ

 
ワインを単にアルコールとして、酔えればいいと飲んでいる人もいるでしょうが、きっと少数派。もっと安く酔えるお酒はたくさんあるので。
 
純粋にワインの味が好きだという人も多いでしょう。私もこのタイプです。
ワインの感想をこまめにSNSに投稿している方。もっとワインが知りたくて、高額な授業料を払ってワインスクールに通っている方。好きが高じてワインをつくるようになっちゃった方。
それぞれ感じ入るポイントは違うのでしょうが、ワインの奥深さに魅入られたのでしょう。
 
 
また、「ワインを飲む」その時間が好きという方も多いでしょう。
ワインボトル1本は、一人で飲むには多い。だから人とシェアする。同じボトルのお酒を飲んで「美味しい」を共有するというのは、あまり他のお酒にない点です。
ワインがあるから食卓に会話が生まれるという人もいます。ワインを飲んでいるような人とつながりたいという人もいるでしょう。
 
同じお酒を飲んでいるのに、その目的は飲み手の数だけある
それもまたワインの多様性であり魅力。だからこそ、ワインへの向き合い方が自分とは違う人たちの考え方も受け入れていきたいと考えます。
(ただし偽物のワインをつくる輩と投機目的で買い占めるヤツら。テメーらはダメだ)
 
 

愛好家として楽しむか、プロとして向き合うか

 
ここまでに挙げたワインの魅力を味わうだけなら、ワインを仕事としない一般愛好家としての方が楽しめます
 
私のようなワインショップのスタッフは、多くのワインに触れることはできますが、だからといって全部飲めるわけではありません。試飲会へ参加できるかどうかも、社内の立場や立地によります。また、一般的にショップ店員は給料が安く、高級ワインは眺めているだけです。
 
レストランでのソムリエは、ワインの職業としては花形です。接客次第でお客様からワインをご馳走になることもあるでしょう。しかし飲食業の宿命として労働時間が長く給料が安い。働く時間帯から、「知人とワイン会をする」というのは案外難しい職業です。
 
インポーターで働くのが待遇は一番いいかもしれません。それゆえか、元ソムリエ・元ショップ店員の営業さんも多いです。しかし専門性のあるインポーターなら、取り扱い外のワインに触れる機会は結構少ないです。
 
 
稼げる仕事についている一般愛好家の方が、特定の分野についてはプロより詳しいこともよくあります。特に高級ワインについては殊更です。
ではなぜ私がワインを仕事として続けているのか。それは「ワインの魅力を多くの人に伝える」ということについては、プロとしてでないとないし得ないことがあると考えるからです。
 
 

多様性を守るために私にできること

 
お!このワイン、なんかよくわからないけど、美味しそう!
 
そう思ってもらえるワインを紹介すること。それがワイン販売のプロとしての私の使命・存在意義だと考えています。
 
 

ブルゴーニュワインに集中する人気

 
近年のブルゴーニュワインの高騰は常軌を逸しています。
2022年に入ってからは、資材の高騰からくる蔵出し価格の上昇、輸送費用の上昇、円安のトリプルパンチ。
「昔はワインが安かった・・・」はオジサン愛好家の口癖ですが、もはや「3か月前はワインが安かった・・・」のレベルです。
 
もちろん値上がりしているのはブルゴーニュワインだけではありませんが、値上がり幅の大きさは群を抜いています。
とりわけコート・ドールの人気生産者がつくる特級畑のワインは、それだけ値上がりしても売れていきます
 
 
人気のある商品が高額で取引されるのは、市場主義経済において当然のこと。
しかし一部のワインにあまりに多くのマネーが集中する状態は、決して好ましくありません
ワインの魅力は多様性だと私は考えるのに、みんながブルゴーニュを求める。望ましい状態ではありません。
 
 

生産者にとっても好ましくない状況に

 
一部のワインがあまりに高騰を続けるので、投機マネーが流れ込んでさらに高騰が続きます。
「これだけ高額で取引されるのなら、ワイナリーや畑のオーナーとなればさらに儲けられるはずだ」そう考えてもおかしくありません。
でも実はそうでもないんです。
 
 
ブルゴーニュの特級畑が取引されることはそう頻繁にあることではありません。しかし一度売りに出されるととてつもない金額がつきます。
 
その取引により、周りの土地の評価価格も上昇します。取引価格の指標が更新されるからです。土地の価格が上がれば、固定資産税や相続税が上がります
ドメーヌを父から息子・娘に引き継ぐ際に、あまりに高額な相続税のためにいくつかの畑を手放す。そういう話も聞きます。
そうでなくとも、来たるべき相続に備えてワインの価格に転嫁する必要があります。
 
価格高騰でブルゴーニュの生産者がウハウハかというと、決してそんなことはないのです。
 
 

高騰の陰で売れ残るワインも

 
年に何割も価格が上がるようなブルゴーニュワインは、実はそれでも売れていきます。
特にここ1年は、2021年ヴィンテージの不作に備えてでしょう。買い込む動きが強く、「2年かけて売ればいいや」と仕入れた高級品が2、3か月で売れていく事態。どう仕入れをしていいのかさっぱり分かりません。
 
こういった高額品の陰で、売れ行きの悪いワインというのも当然ながらたくさんあります
品質が低い・美味しくなくて売れ残るなら、ある意味正常。でもそうじゃない、美味しいのに知名度がないから売れないワインもあるんです
 
購入者のお財布も有限。ワインショップが持てる在庫金額も限りがあります。少数の高額ブルゴーニュにその予算が押さえられてしまうと、ゆっくり育てていきたいワインの流通が阻害されるかもしれません。
 
 

「美味しいのに売れない」なんていくらでもある

 
例えばこのワイン。ニュージーランド、セントラル・オタゴのピノ・ノワールです。
色がとても淡いのに、香りや風味の広がりは十分にある、いわゆる「薄旨系」の赤ワイン。
 
 
ピノ・ノワールは言わずもがな大人気の品種。
セントラル・オタゴは、ピノ・ノワールの銘醸地としてベスト5には入ります。
 
それでもこのワイン、月に3本売れれば万歳。0という月すら珍しくありません。
輸入元がまだ小さな会社で、販路も狭く、「飲んだことがあって美味しいのを知っている」という方がともかく少ないからです。
 
私のおすすめ不足と言われればそれまでではあるのですが、消費者心理に立てば売れない理由もわかります。
 
 

高いお金を出すのだから・・・

 
上記のワイン、約6400円。近頃のブルゴーニュワインなら、ほどほどに有名な生産者のフィサンやサヴィニー・レ・ボーヌといったちょいマイナーな村のワインくらいの価格でしょうか。むしろ一流生産者の広域ブルゴーニュの値段かもしれません。
 
そう考えると味に期待しすぎはよくないとなるのですが、実際1本6400円ってまあまあな金額です。
飲んだことのないワインに、安くない金額を使うとき、まず考えるのが「失敗したくない」でしょう。
そうなると産地や生産者のブランドがものを言います。「ここのワインなら間違いないだろう」という安心感が重要なのです。
 
結果として有名生産者指向が加速されてしまいます。人気ワインは定価ですら手に入らず転売される一方で、品質の高いマイナーワインには見向きもされない。これじゃあせっかくのワインの多様性が味わってもらえない。
 
 

ワインのプロとしての理想は

 
ブルゴーニュのピノ・ノワールが美味しいのは知っているけど、他にも飲みたいものがたくさんある
ワインのプロとして、愛好家の理想の姿はこのようなものです。
 
好みを変える必要はない。でも、ワインの好みは浮気したっていいじゃないですか。
 
 
使ってもなくならない財布をお持ちの方は、存分に好きなブルゴーニュを楽しめばいい。でもそうでない方は、自分のお財布に応じてブルゴーニュとは別方向の美味しさを求めた方が、よりワインを楽しめるはず
決して「安物でがまんせよ」というんじゃありません。それが自分のためになるかもしれないからです。
 
 

お金が回ればワインは美味しくなる

 
少なくとも1万円で売れるであろうワインのための畑仕事と、せいぜい1000円のワインをつくる作業では、できることが違って当然です
 
例えば収量。ある程度の量までは単位面積あたりに実るブドウの量を減らせば、品質は上がります。しかし同時に生産量は減ってしまいます。
その減少分をワインの価格に反映させられるのであれば、収量を減らす決断ができる。
しかし「ワインを高くして売れ残ったらどうしよう」という不安があれば、売れ行きの見込める低価格ワインの生産に注力するのは当然です。
 
 
美味しいものにはプレミアム価値を支払う。その信頼があってこそ、生産者は最高品質のワインを追い求めることができるのです。
お金の回りがワインを美味しくすることだってあるのです。
 
 

まだ見ぬグラン・ヴァンをつくるには

 
高く売れることが約束されたワインの産地なんて数えるほどしかありません。
マイナーな産地でワインをつくるなら、まずは手に取りやすい価格でつくる。
「グラン・ヴァン = 偉大な高級ワイン」をつくろうとするのは、売れ残りリスクがあまりにも高い。
 
「トルコで徹底的に品質にこだわりつくりました。3万円です!」
そういわれて手を出せる人はかなり限られます。
 
でも、今はマイナーな産地でとてつもなく美味しいワインはつくれないと、誰が証明できますか
まだ誰も「ロマネ・コンティを超えるワインをつくろう」としていないんです。
 
ピノ・ノワールの最高の産地はブルゴーニュのコート・ドールかもしれません。
でも他の品種がその土地のテロワールとピッタリ噛み合って、もっと素晴らしいワインがつくられるかもしれない
 
 
でもそれは偶然には生まれない。生産者が「高級ワインをつくろう」とコストを掛けて試行錯誤しなければ。
それには「マイナー産地・土着品種でもいいワインをつくれば買ってくれる」の信頼感が必要です。
 
それにはワインの多様性を楽しみ、好みのワイン以外にもチャレンジする消費者の好奇心と財力が必要
その消費者と生産者をつなぐのが、輸入元であり我々ワインショップです。そこに私の存在意義があると考えます。
 
 

ワインを仕事にする理由は・・・食欲!?

 
以上のようにさも崇高な目的があるように書きましたが・・・・
 
私がワインを仕事にする根本の理由は、「美味しいワインが飲みたいから」です。
私は貪欲なので、今誰も飲んだことのないグラン・ヴァンが飲みたいんです。
 
それにはワインの経済を回さないといけない
「ブランドネームがなくたって、いいものをつくれば買ってくれる」そう生産者に思ってもらう。
「好きなワインばかり飲んでるのはつまらない。他の美味しそうなワインも飲んでみよう」と消費者に購入してもらう。
 
 
この循環を加速させる。
それには「美味しいには理由がある。上質なものを飲みたければ、相応の価格を払う必要がある」という文化を広めることが必要だと考えます。
 
世界中を巡り、美味しいワインを日本に紹介する仕事は、たくさんの方が志をもってされています。
だからこそ、私はなるべく消費者に寄り添う形で、ニーズにワインをマッチングさせることに注力したい。
それにはいち消費者として自分の周りに広めるだけじゃ足りない。職業として多くの人に関わりたい
 
それが私なりの「最高のワインを飲むための方法」です。
 
 

オープンマインド 伝える者からのお願い

 
ワインはいろいろあって色んな目的で飲むから、いろいろ美味しいし楽しいし面白い。
私はワインの魅力は多様性だと考えます。
 
同じように考える人が増えれば、まだ見ぬ素晴らしいワインが現れる可能性が高まります。
自分の好みだけじゃなく、いいワインならどんなものでも飲んでみたい
そんなお客様が増えれば、もっといろいろなワインが仕入れられます。
 
 
だからこれを読んでおられる皆様にお願いです。ワインに関してオープンマインドでいてください
美味しいことが分かっているワインを飲むだけじゃなく、時に冒険してみてください
たまにはいろいろな人のおすすめに目を通してあげてください。それで「この美味しさを知ってもらいたい」という強い気持ちが伝わったなら、失敗を恐れながら試してみましょう。それでハズレたら、その人のおすすめをもう見なければいいんです。
 
好みに合わなかった1本は、そのあなたの消費は無駄ではありません。ワインの多様性を守ることに繋がっています
 
好奇心をもって臨めば、ワインの世界はもっと楽しいものとなることでしょう。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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