ワインの法律

ソムリエとは バッジの取得方法とワインエキスパートとの違い

ソムリエとは バッジの取得方法とワインエキスパートとの違い
「ソムリエ」とはレストランサービスに従事する人の職業分類であり、日本ソムリエ協会が定める称号です。
先達たちのご尽力によりその言葉の認知は広がり、「ソムリエ」という言葉が独り歩きをしはじめています。
ワイン好きの方であれば、一度その実体をきちんと知っておいて損はありません。
ソムリエになる方法とそのよくある誤解、「ワインエキスパート」との違いをご紹介します。

よくある誤解「ソムリエという資格がある」

 
「資格」という言葉の意味は「あることをしていいという身分や地位」と定義されます。
その定義にもとづくなら、「ソムリエ」は資格ではありません
 
「ソムリエを目指して勉強する」「ソムリエ試験を受ける」なんて聞きますから、つい資格のように誤解されがち。分かりやすさを優先してあえて「資格」と書かれることもあるかもしれませんが、実は違います。
 
では「ソムリエ」とはなにかというと、職業であり呼称・称号です。
 
 

職業としての「ソムリエ」

 
まず職業としての「ソムリエ」とは、厚生労働省が定める職業分類です。
ウエイター/ウエイトレスの一分類、つまり飲食店でサービス業務に従事する人のことを指します。
(以前は「ソムリエ」の記載がありましたが、第4回の改定に伴い細分類が削除され、「ウエイター・ウエイトレス、配ぜん人」に含まれます)
 
 
例えば医師や弁護士を名乗るならそのための免許が必要です。しかしソムリエを名乗るのに資格は必要ありません
ワインを扱う飲食店でサービスの仕事に就けば、たとえアルバイト初日でも「ソムリエ」を名乗ってもいいはずです。
 
この定義は次に紹介する称号としての「ソムリエ」と比べ、対象となる職業は狭いものです。
 
 

日本ソムリエ協会が認定する「ソムリエ」

 
もう一つの「ソムリエ」は、一般社団法人日本ソムリエ協会が認定する、呼称としての「ソムリエ」です。協会が定める「ソムリエ」としての能力を持った人であることを試験によって判別します。ソムリエ協会という組織が長年築いてきた信頼が、その称号の担保となるのです。
 
このソムリエの定義を協会はこのように定めています。
 
「 ソムリエとは飲食、酒類・飲料の仕入れ、管理、輸出入、流通、販売、教育機関、酒類製造のいずれかの分類に属し、酒類、飲料、食全般の専門的知識・テイスティング能力を有するプロフェッショナルを言う。(後略、日本ソムリエ協会HPより引用)」
 
ソムリエ試験に合格した人にはこの金バッジが付与されます。
 
 
ちなみに筆者はこの日本ソムリエ協会認定の「ソムリエ」は取得済みです。しかし普段やっている仕事といえばPCに向かったオフィスワーク。職業としてのソムリエではありません。称号もあるしわかりやすさのために「ソムリエ片山」と名乗っていますが、仕事内容は違うのです。
 
 

対象となる職業の違い

 
職業としての「ソムリエ」は、その職種が明確です。レストランやワインバーなどの飲食店で働いていること。「ワインバー併設のワインショップ」などは対象でしょうが、ボトル販売のみのワインショップで働いていても「ソムリエ」ではありません。
 
 
一方で日本ソムリエ協会の「ソムリエ」は、その職種が「ワインを扱う仕事に就くもの」と言って差し支えないほど広範囲です。
なので飛行機の客室乗務員さんの中にもたくさんソムリエがいますし、普段一般顧客と接することないワイン輸入会社で働く人でも「ソムリエ」の称号を取得できます。極端な話、経理職などでもです。
 
 

かつての「ワインアドバイザー」

 
日本ソムリエ協会のソムリエの定義する職業がこれほど広いのには理由があります。
 
かつては「ワインアドバイザー」という呼称がありました。レストランなどで実際にワインを開けてサービスする「ソムリエ」と、ワインの流通に携わりサービスは行わない「ワインアドバイザー」を分離していたのです。
しかし「ワインアドバイザー」の認知が思うように広がりませんでした。試験の難易度はソムリエと同等なのですが、知名度ゆえに軽く見られます。
結果的に2016年から、ワインアドバイザーも「ソムリエ」に統合されたという経緯があります。
 
 

ソムリエとは本来ワインに携わるもの

 
最近は「〇〇ソムリエ」という呼称がたくさんできています。
野菜ソムリエ、温泉ソムリエ、だしソムリエ・・・。基本的に「〇〇に詳しい人」くらいの意味合い。試験があるものも多いですが、たいていは趣味として取得するもので、権威性などありません。
 
しかし「ソムリエ」といえばワインのソムリエです。「最初に言い出したから」とかではなくきちんと起源があるのです。
 
 

ソムリエの起源とは

 
ソムリエの語源の一説はラテン語の「sagmarius」「saumarius」。
「荷物運搬用の牛馬を管理する人」から、宮廷の食事やワインを管理する人となり、現在の給仕係に近い職業となったと言われています。
「語源由来辞典」HPによる。)
 
一方でギリシャの「エノホイ」がもとになったという説もあります。
ギリシャにおいて上流階級の男性は、「シンポジウム」の語源となった「シンポシオン」にてワインを飲んでいました。
当時ワインは水で希釈して飲まれていました。ちょうどいい濃さに調整してワインを提供するのが、「エノホイ=ソムリエ」の重要任務だったのです。
 
 
19世紀になるとパリのレストランにて、ワインを専門にする職種、今のソムリエに近い仕事が生まれてきました。
オーク樽で貯蔵されているワインを瓶詰するのが大切な仕事であったと言います。
 
 

「ソムリエ」になる方法とは

 
「ソムリエ」には上記の2つのものがあるので、ソムリエになる方法もまた違います。
ワインと全く違う仕事をしているワイン好きにとっては、どちらの「ソムリエ」にもなるのは簡単ではないでしょう。
 
 

職業としてのソムリエになるには

 
職業分類としてのソムリエになるには、ワインを扱うお店で働くだけです。転職すればいいのです。飲食業、特にソムリエのような専門職は売り手市場なので、お店や待遇を選ばなければ就職するのは簡単でしょう。
 
「ソムリエになりたい!」ともしあなたが思っているとしたなら、どこかで素敵なソムリエさんから気持ちいいサービスを受けた経験がきっとあるはず。「あんな風になりたい!」と思えたなら、素晴らしい経験でしょう。
 
 
と簡単に言いますが、職業を変えるのはそう簡単ではないですよね。公務員など副業が禁止されている職業でないなら、アルバイトとして働く方法もありますが、気軽にはできないですよね。
とはいえ職業としてのソムリエを名乗るには、別に資格は要りません。あなたの気持ちと職場の許可だけです。
 
 

日本ソムリエ協会の「ソムリエ」になるには

 
年に1回実施されるソムリエ試験にパスすれば、「ソムリエ」の呼称を名乗ることができ、ソムリエバッジがもらえます。(認定料は割と高額です)
 
試験は3次試験まであります。「CBT方式」という、パソコンで選択式の問題に答える1次試験。ブラインドテイスティングと論述問題の2次試験。サービス実技の3次試験です。
1次試験が7月~8月、3次試験が11月なので、なかなか長丁場の試験です。
 
 

ソムリエになるために必要な勉強とは

 
ソムリエ試験の申し込みをすると、このとても分厚い「ソムリエ教本」というテキストが送られてきます。このテキストさえしっかり覚えればほぼ満点はとれるはずですが、まあまあ非現実的な情報量です。
 
 
そしてこのテキスト。情報量もすごいですが、分厚いし重たい!家から持ち出して勉強しようというモチベーションを著しく削ぎます。「ソムリエっていってもワインの納品などで割と力仕事もあるから、この教本で筋トレしろよ!」きっとそんなメッセージだろうと思っています。
 
それは冗談として、産地ごとの情報が体系的かつ網羅的に記載されています。ウルグアイやルクセンブルクのように、日本でほとんど見ることのないワインの産地まで記載されています。細かいところに間違いは指摘されることもありますが、それはどんな本でもある程度同じ。これほどの日本語資料はおそらく他にありません。試験をパスしたあとも度々お世話になります。
 
 
 

効率よく試験をパスするには

 
ワインを仕事にしている人などで、会社としてソムリエの取得を促される場合もあるでしょう。年に1度のチャンスなので失敗したくない。
その場合はワインスクールに通うという手もありますアカデミー・デュ・ヴァンレコール・デュ・ヴァンといったワインスクールでは、ソムリエ試験対策講座を開催しています。毎年需要が高く、スクールにとって大きな収入源です。
 
自分でテキストを読み込むのと、完全に理解した人から要点を強調して教わるのとでは、理解度が違います。またブラインドテイスティングのトレーニングなどは、ワインの用意や回答の添削などの点で一人でやるよりずっと効率的でしょう。
 
受講料はなかなか高額ですが、お住まいの近くにスクールがあるなら検討してみてもいいでしょう。
 
 

一般人でもなれる「ソムリエ」っぽいものとは?

 
日本ソムリエ協会は、一般ワイン愛好家と実務経験が浅いプロのために、「ワインエキスパート」という呼称も認定しています
試験にパスすればソムリエと同様なデザインの、金色のブドウバッジがもらえます。
ワインエキスパートはソムリエと同等難易度の試験であり、その価値も業界内では同等にみなされます。
 
 

ソムリエとワインエキスパートの違いとは

 
一番の違いは実務経験が必要かどうか。ワインエキスパートは20歳になっていれば誰でも受けられます。ワインの仕事をしているかは問われません。
なので愛好家としてワインエキスパートに合格してから、ワイン業界に転職する方もおられます。
 
同じ教本を使って勉強します。CBT方式の1次試験も共通。
2次のテイスティング試験は、ワインの数が異なりますが、出題形式は同じです。論述試験も同様。
ソムリエ試験3次のワインサービスが、ワインエキスパートにはありません。2次試験までです。なのでソムリエより早く合格発表があります。
 
 
同等に難しく、同等に価値がある。だから毎年ワインエキスパートに挑戦する人は、ソムリエに負けないほど多いのです。
 
 

ソムリエってどれほどワインに詳しいの?

 
ワインを仕事にする実務経験3年でソムリエの受験資格を得ます。(※)
試験を最短でパスすることは素晴らしいことです。それでも、受かったばかりのソムリエよりワインに詳しいお客様はいくらでもいるのが現状です。
 
広範囲の知識を詰め込む勉強にはある程度の意義があります。しかし実際のサービスに必要なワインの勉強はその程度では到底足りません。
 
(※)2年で可とする規定あり。詳しくは試験案内にて
 

ソムリエは「ワインを勉強していく準備ができた人」

 
ソムリエの試験をパスするうえで、具体的なワインの名称を知る必要はほとんどありません。ましてそのワインがその産地でどのようなポジションなのか、いくらくらいの価格なのかなど問われないのです。
 
具体的なワインの知識は実際に飲んで経験しないと身についていきません。熟成による味の変化などは特にそうです。
そういった経験には時間と財力が必要です。その点で若手のソムリエは、長年の愛好家にとうてい敵いません。
 
では何を勉強するかというと、具体的なワインを飲んで調べて理解するための基礎知識です。
 
 
微分積分の勉強をする前に、2次方程式の解き方を知る。
フランス語の読解の前に、動詞の活用などの文法を憶える。
例えるならそういったものです。
 
 

試験をパスしたあとは実務に合わせて勉強する

 
実際の業務で世界中のワインの知識が必要になるソムリエはごくわずかです。お店の特色や客層により、必要な知識のウエイトは異なります
 
一等地の高級なワインバーで働くにあたり、東ヨーロッパなどのマイナー産地の知識はほとんど出番がありません。一方でブルゴーニュやボルドーに関する知識は、ソムリエ教本のレベルでは全く足りないでしょう。
イタリアの郷土料理に特化したレストランのソムリエが、アメリカの有名なワインの名前を知っていなくたって、全く不思議でも恥ずかしいことでもありません。
 
 
環境にあわせて継続してワインを学ぶことが求められます。その際に広範囲の知識が全く役に立たないわけではありません。
仕事の中で勉強すると、どうしても知識が偏ります。試験を通して広い視点でいつものワインを捉え、世界中のワインと比べることができます。
 
他のワインも知っている上で、お店で取り扱うワインは変わらないかもしれない。それでも他地域のワインと比べての良さを知ってワインを提供する。その言葉の重さは違ってくるはずです。
 
 

ソムリエバッジではなく個人を見よう

 
あなたがワインを相談する相手として、ソムリエバッジを取っただけの人には期待しすぎない方がいいでしょう。
一方でなかには非常に多くのワインに精通し、あなたのためにピッタリのワインを選び、そのレストランシーンをより素敵なものにしてくれるソムリエさんもいます。
 
一口にソムリエといっても、ワインの知識はピンキリだということです。
 
 
いくらソムリエ歴が長くとも、研鑽を怠っていて話せばすぐにボロが出る人も、中にはいます。でもきっとそういう人は、ワインの知識以外でお客様を喜ばせているのでしょう。
なにせ2023年度の試験が終わり、日本には述べ人数で約4万人もの「ソムリエ」呼称を持つ人がいるのですから。いろいろな人がいます。
 
そのソムリエがすごいかどうかは、その人の言動で測ればいいわけです。中には日本ソムリエ協会の呼称を取得せずとも、たくさんのワインを販売しお客様を幸せにしているソムリエさんもいます。
ソムリエバッジはあくまでひとつの目安。あくまでその人次第と考えてください。
 
 

「ソムリエ」にも種類がある?

 
ソムリエにもいくつかの種類があります。これはワイン以外の「〇〇ソムリエ」ということではなく、上位グレード、上級呼称があるのです。
それを「ソムリエエクセレンス」といいます。ワインエキスパートの上位呼称「ワインエキスパートエクセレンス」もあります。
 
 

「エクセレンス」は非常に狭き門

 
「エクセレンス」を受験するためにはより長い実務経験が必要です。「ソムリエ」「ワインエキスパート」を取得後の必要年数もあります。
 
この「エクセレンス」は、かつて「シニア・ソムリエ」「シニア・ワインエキスパート」と呼ばれていたものに相当します。しかしその呼称の時代よりもかなり試験は難関になっているようです。
 
ソムリエ・エクセレンスの合格率は、ここ5年で8~13%ほど。ソムリエが時に40%を超えることを考えると、いかに難しいかが推測できます。そもそも受験者も多くないのでしょう。現在でも認定者は500人強です。
 
 

もう一つの「ソムリエ」

 
実は日本ソムリエ協会とは別に、「全日本ソムリエ連盟」という組織があり、そこも独自に「ソムリエ」を認定しています。
 
日本酒の「利酒師」を認定しているのと同じ団体です。
通信講座での認定コースなど様々な受験方法があり、受講資格も大人であることだけ。こちらは明確に「資格」とうたっていますが、何ができるようになるのでしょうか。
受講料はまあまあ高額なものの、難易度自体はそう高くないと聞いています。
 
 

さらに上位資格?「マスターソムリエ」

 
さらに上位の称号として「マスターソムリエ」(MS)というものもあります。
これは日本ソムリエ協会が認定するものではありません。イギリスの「The Court of Master Sommeliers」という協会が4段階の試験を経て認定するもの。日本のソムリエと互換性はありません。
 
マスター・オブ・ワイン(MW)と並んでワイン業界最高峰の権威と考えられています。
(レストランサービスに特化したMSと、ワイン生産・流通・販売なども広くカバーするMWとでは方向性が違います)
 
マスター・オブ・ワインについてはこちらの記事で詳しく▼
 
 

ワイン従事者なら目指して損はない「ソムリエ」

 
「ソムリエ、ワインエキスパートって取っていいことあるの?」
 
最近ワインの仕事を始めた方なら、目指して損はありません
ソムリエバッジをつけること自体がお店の売り上げアップとあなたの待遇向上につながるか。これは環境に寄ります。
とはいえワインの仕事をするなら、日々の研鑽、勉強は必要なのです。ソムリエ試験はそのための明確な目標となり、体系的にワインを学べるいい教材です。
 
 
ソムリエ試験を目指さずとも独自に必要な勉強をできる人にとっては不要です。でもそれほどストイックになれる方は少ないでしょう。
仕事に役立つスキルを身に付ける一環として、ソムリエ取得を目指すことはおすすめできます
 
 
一方でワインエキスパートを取る明確なメリットというのは、私にはわかりません。
私は仕事とし始めてからワインを勉強しだした人間です。趣味に対してこれほど時間と労力をかける一般消費者の気持ちを、深くは理解できていません。だから日々「すごいな~」と思って眺めています。
おそらくは「おもしろいから」これに尽きるのではないでしょうか。確かにワインの世界は勉強すればするほど深くて、日々のワインの解像度がどんどん上がっていくのが楽しいです。
 
エキスパートは受かる/落ちるは二の次でいいんです。お金と時間の自由があるならチャレンジしてみてもいいのではないでしょうか。好きなワインをもっと楽しめるようになるでしょう。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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