ワインの法律

ワインの資格 ソムリエとは

2019年5月6日

みなさまは「ソムリエ」という資格・職種についてどれほどご存知でしょうか。
ワインに詳しい人?
レストランやワインバーのスタッフ?
 
間違いではありませんが、十分でもない。
 
 
よく目にし耳にして言葉は知っているけど詳しくは説明できない。
そんな「ソムリエ」についてご紹介します。
 
 

「ソムリエ」は認定される資格

 
ワインを嗜む方の中には、「ソムリエになる試験がある」ということをご存知の方も多いでしょう。
 
その通り。ソムリエを名乗るためには試験をパスする必要があります。
一般的にソムリエを認定しているのは、「一般社団法人 日本ソムリエ協会(JSA)」というところです。
そこが年に1度の試験を開催しております。
 
 
そのソムリエ協会は「ソムリエ」を次のように定義しています。
 
「 ソムリエとは飲食、酒類・飲料の仕入れ、管理、輸出入、流通、販売、教育機関、酒類製造のいずれかの分類に属し、酒類、飲料、食全般の専門的知識・テイスティング能力を有するプロフェッショナルを言う。(後略、日本ソムリエ協会HPより引用)」
 
簡潔にまとめるなら、ソムリエとはワインに関する仕事をしている、ワインをはじめとしたお酒と食のプロ、ということになります。
ソムリエ協会の試験に合格したなら、その証として金色のブドウバッジが授与されます。
 

ソムリエバッジ。ちょっと金色がはがれかかっているところはご愛敬ということで。

 
これは調べて私も驚いたのですが、ソムリエは厚生労働省かられっきとした職業として認められています。
厚生労働省 職業分類(大分類E サービスの職業、中分類40 接客・給仕の職業、小分類403 飲食物給仕係、細分類403-03 ソムリエ)
 
 
上記の通り、ソムリエはそれを仕事にしている人を指します。
いくらワインに詳しくても、別の仕事についていてはソムリエになることはできません。
試験の際に就業証明書を提出する必要があるのです。
 
アルバイトスタッフでもソムリエになることはできますが、月当たりの最低労働時間の規定があり、ワインに関わる仕事で生計を立てている必要があります。
 
 
なお、ソムリエは国家資格ではありません。
しかし国がソムリエの仕事を定義していますので、資格の有無に関わらず、その仕事をしているのなら「ソムリエ」を名乗っても問題ありません
 
 
なお、先ほど「一般的にソムリエを認定しているのは・・・」と述べました。
実はソムリエを認定している団体はもう一つあるのです。
 
料飲専門家団体連合会という団体の下部組織である「全日本ソムリエ連盟」という団体が認定しているもの。
こちらは飲食店などの実務経験がなくても受験することができます。
 
ただ、少なくとも私の周りにはソムリエ連盟のソムリエを持っている人は一人もいません。
役員の顔ぶれを見てもワインを専業にしている方はおられないようです。
認定者数も少ないようですし、「取得して仕事の役に立つ」かと問われると、疑問です。
 
 

「ソムリエ」の起源とは

 
ソムリエの語源の一説はラテン語の「sagmarius」「saumarius」。
「荷物運搬用の牛馬を管理する人」から、宮廷の食事やワインを管理する人となり、現在の給仕係に近い職業となったと言われています。
 
 
一方でギリシャの「エノホイ」がもとになったという説もあります。
ギリシャにおいて上流階級の男性は、「シンポジウム」の語源となった「シンポシオン」にてワインを飲んでいました。
当時ワインは水で希釈して飲まれていました。ちょうどいい濃さに調整してワインを提供するのが、「エノホイ=ソムリエ」の重要任務だったのです。
 
19世紀になるとパリのレストランにて、ワインを専門にする職種、今のソムリエに近い仕事が生まれてきました。
オーク樽で貯蔵されているワインを瓶詰するのが大切な仕事であったと言います。
(Wikipediaより)
 
時代が下り、ワインはワイナリーで瓶詰されて出荷されるようになりました。
同時に消費者が口にできる種類が爆発的に増えます。
その中で顧客のニーズに応じてワインを提案する、というのがソムリエの重要な役割になっていったのです。
 
 

実際、ソムリエってすごいの?

 
結論から述べると、JSAのソムリエを取得しているだけでは大したことありません
 
2019年までの累計合格者数は33000人あまり
ざっくりと、日本人の4000人に一人はソムリエです。
飲食の現場には、ソムリエは掃いて捨てるほどいます。
 
調理師免許を持っている人のレストランに行きたいか、というのと同じレベルです。
確かに一般の人よりは料理は出来るのでしょう。だからといって数あるレストランのなかから選んで行きたいかというとそれは別の話。
結局、資格を取った後にどれだけ勉強し技術を身に着けて、それでお客様を喜ばせることができるかが重要なのです。
 
そう、ソムリエの資格はゴールではなくスタートです。
 
 
確かに試験は簡単ではありません。
試験は1次試験のペーパーテスト(現在はPCで受験になりました)、2次試験のブラインドテイスティングと論述問題、3次試験のサービス実技に分かれます。
 
ワインが好きで週に数回、20年以上飲んできたというだけの素人の方が、受けたら通るかというとまず通りません。
フランスやイタリアといった主要な国だけでなく、スイスやルーマニアのような馴染みの薄い国も含めて、広い知識が求められるからです。
また、感覚的な表現ではない、分析的なテイスティングができる必要もあります。
 
しかし、試験の範囲は決まっています。
受験を申し込むと贈られてくる600pくらいの重たいテキスト。
極端な話、それを丸暗記すれば筆記試験はパスできます。
 

 

 
 
 
 
 
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ブラインドテイスティングをきっちり当てるのは難しいです。
しかし、出題される品種はせいぜい10種類あまりなので、対策できます。
 
3次試験のサービス実技は、パニエ抜栓からのデキャンタージュしてサービスと決まっています。
Youtubeで手本を見て練習すればいい話です。
 
 
 
確かに一般の方からすると難しく感じるでしょう。
それに飲食業の方の中には、「座って勉強すること自体がイヤ」という方も少なくないです。
 
しかしそれでも、ソムリエ資格を取って証明されるのは、「この人はワインを勉強する準備ができましたよ」程度のこと。
 
資格をとってから、いかに多くのワインを飲んで頭に叩き込み、自分の引き出しを増やせるか。
そしてお客様の要望に応じて、その引き出しから最適なものをご提案できるか。
その後のソムリエの行動にかかっているのです。
 
というのも、ソムリエ教本に具体的なワインの名前は出てきません。
ワイン法の都合上、知っておかないといけないボルドーの格付けシャトーや、その地域の歴史に欠かせない生産者の名前は目にします。
しかしそのワインがいくらくらいなのか。どの輸入元から入手できるのか、といったことは一切学びません。
 
それらは日々の実務の中で、時間をかけて学んでいくことだからです。
 
だからこそ、私は考えます。
ソムリエバッジで、そのソムリエの価値は測れない
ソムリエであるだけではすごくない、と。
 
 
あえて貶めるようなことを述べるのは、全然ワインを知らないソムリエが多いからです。
ソムリエの資格には、更新がありません。取得したら一生ソムリエです。
その資格に胡坐をかいて、知識をアップデートしないソムリエも少なくない。
 
ワインの世界は日々変わっていきます。
人々の嗜好の変化により、味わいのトレンドが変わる。
地球温暖化により銘醸地の興衰が移動する。
新たな醸造技術が導入される。
才気あふれるワインメーカーやコンサルタントが現れる。
 
 
ソムリエは一生勉強し続けることを求められる職業です。
いや、これは世の中の大半の仕事がそうですね。
 
とはいえ資格取得だけでなく技能の維持にかかる時間・費用を考えると、レストランなどで働くソムリエの待遇はもう少し良くなっていいんじゃないかと考えます。
 
 

ソムリエにもいろいろある?

 
日本ソムリエ協会(JSA)が認定するワインの資格はソムリエだけではありません。
 
まずソムリエの上位資格として、『ソムリエエクセレンス』というものがあります。
2018年までは『シニアソムリエ』という呼称でした。
 
これが相当に難しい。
まず受験資格も割と厳しめです。
 
ソムリエは飲食や販売などでワインに関わる仕事を3年以上続けていたら受験できます。(転職していても構いません)
それに対しソムリエエクセレンスは、就業期間10年以上、ソムリエ取得後3年以上が要求されます。
 
そして試験がそもそもかなり難しい。
私のまわりのよく勉強されているソムリエさんも、普通に落ちています。
 
現在の累計ソムリエエクセレンス(シニアソムリエ含む)は2900人弱。
ソムリエの10分の1もいません。
 
ソムリエエクセレンスは、ソムリエとは別格と捉えて間違いありません。
 
 
さらにその上、『マスターソムリエ』なる資格がありますが、2018年の時点で56名。
これは試験に受かったらなれるようなものではなく、関係者の推薦によります。
ここ5年増えておりません。
 
 
補足として以前は『ワインアドバイザー』『シニアワインアドバイザー』という資格がありました。
これは主にレストランでワインを開けてサービスする『ソムリエ』『シニアソムリエ』に対して、小売店などでボトル販売を主に行う人のための資格でした。
しかしその認知度が期待通りに上がらなかったり、境界があいまいになったりという理由で、現在はソムリエに統合されています。
 
 

一般愛好家はソムリエにはなれない?

 
なれません。
ワインに関わる仕事についている必要があるからです。
 
しかしソムリエと同じ金色のブドウバッジを取得することはできます。(ヤフオクやメルカリで購入する以外で
 
JSAは『ワインエキスパート』という資格を認定しています。
このように定義しています。
 
「ワインエキスパートとは酒類、飲料、食全般の専門的知識・テイスティング能力を有する者を言う。 プロフェッショナルな資格ではないので職業は問わず、むしろ愛好家が主な対象となる。我が国においてはJ.S.A.が、ここで 言う定義・役割・求められる能力に適うと認められた者に対してワインエキスパートの資格を認定している。」
 
一般の方向けということで、「ソムリエより下なんじゃないの?」と思われるかもしれません。
ところが試験内容はほとんど同じで、3次試験実技がないだけ。難易度は変わらないのです。
 
少なくともソムリエ資格保持者は、みな同等資格だと認識しているでしょう。
 
「持っていたら役に立つ」というものでは決してありません。
ワインバーに入るのにエキスパートのバッジを着ける人がいたら、店側からしたらイヤです。
資格を取得するために勉強する過程にこそ意味があります
 
 
普通はワインを飲むとき好きなものを選ぶので、どうしても口にするものは偏りが生じます。
試験勉強の過程で様々な国の情報を覚えるので、飲んだことのない国に興味を持つかもしれません。
「スイスのワイン飲んでみたい!」のように。
 
また、ある程度の醸造工程や専門用語を勉強します。
それは自分の好きなワインについての情報を、より深く読み解けることに繋がります。
そうすれば「自分はどうしてこのワインが好きと感じるのか」を詳細に分析でき、ワイン選びの助けになります。
 
 
自分一人での勉強が難しければ、スクールに通うのもいいでしょう。
アカデミー・デュ・ヴァンレコール・デュ・ヴァン井上塾など、ソムリエ、ワインエキスパートの資格取得に向けた対策講座を開催しているカルチャースクールがあります。
 
私は金銭的・時間的事情から独学でしたので詳しいことはお話できませんが、知人からの評判はいいです。
特に一般の方は、飲み仲間が見つかるかもしれません。
 
 

あなたにとってのソムリエとは?

 
今回は「ソムリエの資格とはどのようなものか」について述べました。
「ソムリエってすごいだろ!ドヤっ」というつもりは微塵もありません。
ソムリエという資格と役割を知って、みなさまに活用していただきたいからです。
 
司法試験に合格するのは、誰にでもできることではありません。難関です。
しかし皆様は、ただ「すごい」と称賛するだけではありません。
必要なときに資格保有者にお世話になる、活用すると思います。
 
ソムリエも同じ。
ワイン選びの際などにソムリエを活用し、「ソムリエがいてよかった、もっとワインが楽しめた」と思って頂くことこそ、ソムリエの地位を高めることになり望みです。
 
 
 
みなさまのワインのある生活が、ソムリエによってもっと素敵なものになりますように。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
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