Pick Up 生産者

Pick Up 生産者 ワインの味は土の味 アタラクシア

2020年3月18日

 
大事なのはまずは土壌。それから醸造。それから品種だ。
ピノ・ノワールやシャルドネという前に、まずは土壌なんだ。
 
オーナー兼醸造家のケヴィン・グラントのアタラクシア・ワインズ。
南アフリカのウォーカーベイ。ヘメル・アン・アード(天国に近い場所)の名の通り、そこには絶景が広がっていました。
大地の風味を余すことなく表現する彼のワインを紹介します。
 
 

今、世界が注目 ヘメル・アン・アード

 
ステレンボッシュの街から南東へ50kmほど。
海沿いのヘルマナスの街から一つ山を越えたところに、「ヘメル・アン・アード」と呼ばれる生産地があります。
 
2つの東西に走る山脈に囲まれて、ヘメル・アン・アードは北向き、南向きの斜面がつくる谷状の地形。
ヘメル・アン・アード・ヴァレー、ヘメル・アン・アード・アッパー・ヴァレー、ヘメル・アン・アード・リッジの3つの地区に分類されます。
 
 
 
アタラクシアワインズのあるのは、その中でも海側から入って一番奥、ヘメル・アン・アード・リッジ。
海からの冷たい風の影響を受けて、夏場でも朝晩は上着が必要です
 
この冷涼気候はこの冷たい風の影響だけではありません。
 
ヘメル・アン・アードの谷は東西に延びているので、そこを挟む山は北向き斜面と南向き斜面が中心となります。
南半球なので北向きの日当たりのいい斜面を畑にするのはもちろんなのですが、アタラクシアは南向きの斜面にあります
 
この南向きの斜面を積極的に利用する、というのがおそらく南アフリカの特徴の一つではないかと考えます。
おそらくと言いますのは、私はそのような産地を現時点で他に知りません。
温暖になりやすい気候だからこそ、いかに冷涼な畑を拓くかに創意工夫を重ねているのです。
 
 
ヘルマナスからアタラクシアのほうへ続く道は、まさにウォーカーベイのグラン・クリュ街道。
道沿いに今注目を集めるワイナリーが並んでいます。
位置口近くのヘメル・アン・アード・ヴァレーに位置する「ハミルトン・ラッセル」がこの地域のパイオニア的な存在。
 
 
冷涼な気候を活かした、素晴らしいシャルドネとピノ・ノワールの生産地
お隣ステレンボッシュが南アのボルドーならば、ウォーカーベイは南アフリカのブルゴーニュと言っていいでしょう。
 
 
その代わりヘメル・アン・アードのワインはどれもちょっと高め。
というのもすべてがまだまだ歴史の浅い、新しいワイナリー
畑や醸造設備の投資が回収できていないので、どうしても価格に反映せざるを得ないのです。
 
 
 

レジェンド ケヴィン・グラント

 
アタラクシアのオーナー醸造家、ケヴィン・グラント氏。
何を隠そうこの地のパイオニアであるハミルトン・ラッセルで醸造責任者をつとめ、その名声を高めた当人なのです。
 
その後、フランス、オレゴン、オーストラリア、ニュージーランドなどで経験を積み、2004年にこのアタラクシアを設立しました。
 
 
私が訪問したのは2月中旬。
夏真っ盛りのはずなのに、見てください。短パンにダウンジャケットですよ!
 
それほど冷涼な気候なのです。
 
 

14もの異なる土壌

 
アタラクシアの畑には、なんと14種類もの土壌があるといいます。
 
全ての区画を回ることはできませんでしたが、ワイナリーの入り口から歩いてテイスティングルームへの道すがら。
 
 
多くのブロックを分けて栽培されていました。
 
 
白っぽい石を含む土壌や
 
 
赤みがかったごろごろとした石の土壌。
 
 
濃い褐色の貢岩と呼ばれる土壌も。
 
これらの土壌は5億年ほど前に形成された、とても古いものだと言います。
 
 
 
アタラクシアでは鳥害対策としてブドウの木をネットで覆っていました。
 
 
ケヴィンは語ります。
まず品種ありきではない
 まず土壌があって、醸造法があって、それからブドウ品種なんだ
 
つまりワインの味を決めるものは土壌だと。
 
 
アタラクシアではいま一部の区画をオーガニック栽培に転換中。
近い将来、オーガニックのキュベをつくるつもりだと言います。
 
 
畑を抜けた先には、まるで協会か美術館のようなテイスティングルームが。
 
 
トイレですらこのおしゃれさ。
 
 
この丘の上に立てば、「ヘメル・アン・アード=天国に近い場所」という名の意味が、理屈抜きで分かります。
 
 
 
それを写真でお伝え出来ないのが悔しい。
 
なんとなくですが、今回南アフリカで回ったワイナリーの中で、アタラクシアのブドウが一番生き生きしていたように感じました。
 
 

アタラクシアのワイン

 
アタラクシアでは8種類のワインを試飲しました。
日本未入荷のワインや、バックヴィンテージ、次に入荷予定のヴィンテージなどもありましたが、葡萄畑ココスで取り扱いのあるもののみご紹介してまいります。
 

小石の音が聞こえる ミネラル豊かなシャルドネ

 
畑でとった褐色の石ころを数個、手で覆って振って音を奏でる。
カラカラカラ。この音がワインから聞こえないかい?
 
ケヴィンにそう言われると、ワインから感じるミネラル感が音を奏でているような気がしてくるから不思議。
 
 
4つの土壌のブロックから取れるブドウのブレンド。
下層に粘土のあるシェール土壌。
鉄分の入った赤い砂岩質。
濃いグレーの花崗岩など。
 
そのブドウをオーク樽で10~11か月熟成。
 
その品種はシャルドネ。
 
 
アタラクシアのワインは、GPSコードがついているかのようだ。
 ワインを飲めば、それがどんな場所でできたものかを感じ取ることが出来る。
 
 
味わいの骨格、立体感が桁外れ。
ブルゴーニュ、コート・ド・ボーヌ以外で、これほどのレベルのシャルドネが、世界中でいったいいくつあるでしょうか。
 
実際、デキャンタ誌上で「ブルゴーニュ以外の世界のシャルドネ11本」に選ばれたそうです。
 
 
南アフリカを代表するシャルドネの一つと言い張っていいでしょう。
 
 
 

鉄分の多い大地の味 ピノ・ノワール

 
シャルドネと同じ土壌、樽で熟成させたワイン、品種はピノ・ノワール。
彼が語るワインは、あくまで品種が最後
 
アタラクシアのピノ・ノワールからは、鉄釘や血を思わせる、鉄分を感じるアロマが立ち上ります。
これもやはり土壌の風味。
 
「鉄分の多い土壌だから鉄っぽいワインになる」というような単純な話では、もちろんありません。
しかしこの香りが土壌と関係しているのは事実。
個人的には村名クラスのジュヴレ・シャンベルタンや、ドイツのアール地方のピノ・ノワールに似ているように感じました。
 
フレッシュでとてもきれい、チャーミングな果実味。
収穫後に10日間のコールドマセラシオンを行い、発酵温度も28℃以下と低温でゆっくりと行うゆえでしょう。
 
シャルドネに負けず劣らず、とんでもないワインです。
 
 
比較で飲んだ2013年のピノ・ノワールもまた素晴らしい。
鉄っぽい香りが溶け込んで、妖艶なブーケを形成していました。
 
 
ピノ・ノワールは南アフリカでも難しいと言われる品種。
長年つくり続けても、答えは出ないと言います。
だが、それが面白いところだと。
 
 
テロワールを自然に、ピュアに表現した素晴らしいピノ・ノワールです。
 
 
更に2021年にはオーガニックの畑でとれたブドウのみを、亜硫酸以外何も使わずつくった特別なピノ・ノワールが紹介できる予定だとか。
楽しみ!
 
 

これぞ南アフリカ! 哲学の詰まったセレニティー

 
これは複数品種のブレンドワインですが、ケヴィンは「このスタイルにこそ注目してほしい」と言います。
 
日本で見かける南アフリカで多い品種はカベルネ・ソーヴィニヨンです。
そしてカベルネ・ソーヴィニヨンを中心としたボルドースタイルのワインが多く作られています。これはもちろん、フランス系の移民がワイナリーオーナーに多いのも影響しているでしょう。
また、シラーを中心に用いたローヌスタイルのワインもよく見かけます。
 
ケヴィンは「そんなのナンセンスだ。ここは南アフリカだ!
そう語ります。
 
 
南アフリカを特徴づけるブドウ品種が『ピノタージュ』という品種。
 
ピノ・ノワールの香味の良さを活かしつつ、栽培をより容易にできないか。
そんな思いで南仏の『サンソー』という品種と交配させて開発されました。
1925年のことでした。場所は南アフリカのステレンボッシュ大学。
 
 
エメル・アン・アードを含むウォーカーベイエリアのピノタージュ。
ステレンボッシュの古い樹齢のサンソー。
そしてアタラクシアのピノ・ノワール。
 
品種の親子をブレンドした、まさに南アフリカを象徴するようなワインなのです。
 
 
そのスタイルはとても淡くチャーミング。
いわゆる「薄旨系」のような、やさしい味わいで酸もタンニンも強くないが、決して薄っぺらいわけではない。味わい深い。
 
まるでささやくかのようなワイン。
そう、「セレニティ」の意味は「静寂」
 
 
現在販売中の2017年も素晴らしくうまい。
しかし私は2018年はもっと好きでした。
わずかに淡い色合いで、もっと重心が軽く、踊りだすかのような味わいです。こうご期待!
 
 
 
南アフリカへ旅行するのは簡単ではありません。
今回のツアーでは、移動にほぼまる1日費やしました。
さらにその南アフリカで、片田舎の山奥みたいなエメル・アン・アード・リッジに行くのは、かなりハードルが高いでしょう。
 
でも、大丈夫。
エメル・アン・アードの魅力は、確かにアタラクシアのシャルドネとピノ・ノワールに詰まっています
彼のワインから、大地の味を感じてください。
 
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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