ワインのつくり方

ブショネとは?コルクに由来するワインの欠陥臭 原因とその対処法

ブショネとは?コルクに由来するワインの欠陥臭 原因とその対処法 
「ブショネ」とは、コルクに含まれる成分が原因でワインの風味を損なってしまう「事故」です。主に天然コルクのワインに確率で発生するもので、誰にも責任はありません。本記事では大まかな判断基準と、ブショネに出会ってしまったときの対処法をご紹介します。ブショネに関する知識があれば、ワインに異常を感じたときも慌てず対応できるでしょう。
 

ワインのコルク臭「ブショネ」とは

 
「コルク臭」「カビ臭」などと言われる「bouchonne ブショネ」は、TCA(2,4,6トリクロロアニソール)という化学物質が原因です。この物質は非常に微量でもワインの風味を大きく損ないます
ブショネになってしまったワインは正常な状態ではなく、本来持つ魅力的な風味を全く味わえません。
 
 

ブショネの臭いとは

 
その臭いは「濡れた段ボール」「腐った雑巾」などと表現されるひどいものです
 
近年の研究によると、TCAは鼻に入ると嗅細胞線毛にある匂い情報を変換するチャネルの一つである、サイクリックヌクレオチド感受性チャネル(CNGチャネル)の活性を極低濃度で抑制するそうです。(Wilipediaによる
これはTCAが鼻に入ると他の香りを感じにくくなってしまうということ。なのでTCAに汚染されたワインは、フルーツの香りを全くと言っていいほど感じません。同じ銘柄のワインを何度も飲んでいる場合は、「あれ?このワインおかしいぞ」と気づきやすいでしょう。
 
ただしブショネといっても程度はあります。
「少し香りはおかしいけれども、ちゃんとワインの味はする」という程度のものもあります。
 
 

ワインがブショネになる原因

 
ブショネの原因物質であるTCAが発生するのはコルクです
コルクの漂白に用いる塩素を、微生物が代謝してTCAが生まれるのが主な経路です。これは製造技術次第である程度防げるので、10年前20年前と比べたらブショネにあたる確率は減っていると言われます。
 
 
ただしTCAはコルクそのものからも見つかることがあるとわかりました。コルクの原材料そのものが汚染されている場合もあり、取り除くのは困難でしょう。
(ジェイミー・グット 『新しいワインの科学』より)
 
天然コルクを使っている限り、ブショネを完全に予防するのは困難です。最近になって「TCAフリー」をうたう天然コルクも発売されましたが、全量検査を行っている高級品であり、採用例はごくわずかです。
 
 

程度の差は保管状態にあり?

 
上記のとおりブショネの起こる/起こらないは、コルクの個体差が原因です。保管状態に関係はありません。
一方でブショネの臭いの程度には、保管方法が少し関係するのではと考えています。
 
TCAはワインとコルクの接触面からワインに影響を与えます。つまり立てた状態で輸送され、出荷後すぐに消費される場合は、ブショネの程度が軽微である場合もあります。
逆にある程度瓶熟成をしているワインで、軽いブショネにあたった経験はありません。問題なしか飲めない程度かの2択です。きっと時間によって完全にワインを汚染してしまうのでしょう。
 
 

ブショネのワインは健康面で問題はない?

 
「TCAが毒になる」という話は寡聞にして聞いたことがありません。きっとそれはワインに含まれる量が微量すぎるからでしょう。
 
TCAの閾値(いきち)は極めて低いです。10ppt(1兆分の1)という濃度で多くの人が感知できると言われます。
これは例えるなら、これはおよそ小学校のプール15000個分(長さ25m×幅10m×深さ1.3mとして)の水の中に5g(小さじ1杯)のTCAを垂らしたら、皆が「臭い」と感じるという計算。こんな濃度で毒になるような物質なんで、そうめったにあるものではありません。
 
 
それゆえブショネに健康被害は考えなくていいでしょう。「ブショネなんてものがあったんだ。これまで知らずに飲んじゃってたかも?大丈夫かな」と心配する必要はありません。
 
 

簡単ではないブショネの判別法

 
いつも飲んでいるワインが、この1本だけ風味が異常で美味しくない。
そういうときにはブショネを疑うべきですが、同時に他の原因があることは知っておくべきです。
 
 

ブショネの判別法とは

 
ブショネを判別するのは人間の鼻です。「これがブショネの臭い」というのを覚えて、それを感じ取るという非常に原始的で属人的な方法です。見た目では判断できません。
 
その最初の手掛かりがコルクです。ソムリエがワインを抜栓したときに必ず香りをチェックするのは、ブショネによる汚染がないかを確認するため。状態の悪いワインをお客様に提供しないようにするためです。
 
  
もちろん注いだワインからも確認します。
軽度のブショネの場合はコルクのみからは判断しづらく、ワインの香りも嗅いで判定します。
 
 

ブショネはどんな臭い?

 
TCAの臭いは「濡れた段ボール」や「腐った雑巾」に例えられます。しかしそれを聞いて「あ~こないだの美味しくなかったワイン、きっとブショネだったんだ」となる人はまずいないでしょう。経験が浅いうちはピンとこない、判別できないのが普通です。
 
私自身「これがブショネだよ」と先輩ソムリエさんから教えられ、それを何度も繰り返して判別できるようになりました。その習得スピードには個人差があります。
経験上、ワインをほとんど飲んだことのない人にブショネのコルクの臭いを嗅いでもらい、「カビ臭いような臭いがするでしょ?」と聞いたときの反応は半々くらい。「確かに変な臭いがする」という人と「正常なコルクとの違いがわからない」という人がいます。
 
これは私の認識ですが、「カビとホコリの混ざった臭い」というのが近いように感じています。
 
 

ブショネだけじゃないワインの状態異常

 
勘違いしないようお願いしたいのは、「ワインの臭いがおかしい = ブショネ」ではないということです欠陥臭の原因は他にもいろいろあります
 
 
私は最初、赤ワインの還元臭とブレタノマイセス由来の臭いなどと混同しやすかったと記憶しています。
ワインが低酸素状態にあると、硫黄や硫化水素由来のネガティブな香りが、フルーツや花の香りを覆い隠してしまうことがあります。ただしその臭いは時間を置くと飛びます。ブショネの臭いは時間がたっても変わらないので、そこで違いが分かります。
ブレタノマイセスというのは、醸造の際に過度に働くと好ましくない酵母。「馬小屋臭」と呼ばれる欠陥臭の原因となります。
 
そのほか様々な原因でワイン本来の香りを感じられないことが、残念ながらございます。これが「ワインは農作物であり工業製品ではない」と言われる所以ですが、改めて考えると言い訳がましいですよね。
 
 

ブショネは判別できるようになるべき?

 
あなたがもしソムリエの立場にあるなら、早急にブショネの判別ができるようになるべきです
 
 
一般のワイン好きの中にも、ブショネがきちんと判別できる人はたくさんいらっしゃいます。あなたがチェックした上でブショネのワインを提供してしまったなら、そんなお客様からの信頼を一気に失ってしまいます。
ワインの試飲会などたくさんのボトルが開く場では、たいていブショネの1本や2本出るものです。そういう機会を積極的に使って、その臭いを覚えていくべきでしょう。
 
一方で一般消費者が焦って分かるようになる必要はありません。長年ワインを飲んでいても、判別ができない人もいます。そうだとしてもワインを楽しむ上でそれほど問題はありません。
むしろブショネの判別ができるようになったなら、もうブショネのワインは飲み込めないです。「こんな味のワインなんだ」と気づかずに飲む方が幸せな場合もあると考えます。
 
とはいえ判別できるのではれば、ブショネのワインにあたってしまったときの対処法も異なります。何より「お店の紹介で選んだのに、全然説明と違うじゃん!」とがっかりせずに済みます。
 
 

「これブショネかも?」と思ったときの対処法

 
冒頭でブショネを「事故」と表現したのは、誰に責任があるわけでもない、防ぎようのないことだからです
それもあってブショネのワインは、輸入元責任で交換してもらえる場合があります一方で「運が悪かった」と諦めるしかない場合もあります
適切な対処法を知っておきましょう。
 
 

ブショネを発見したら購入店に相談を

 
ワインを開けたらブショネの臭いがした!
そんなときは飲まずにワインとコルクを保管して、翌朝購入店に相談してみましょう。場合によっては新しいものと交換してもらえます。代品がない場合は返金してもらえるでしょう。
ワインショップなどの場合は、それを輸入元に保障してもらいます。販売店の負担にはならないので、遠慮なく相談すべきです。
 
購入したお店に持ち込んでブショネである事を確認してもらい、その上で交換・返品などの対応となります。購入証明となるレシートは保管しておくに越したことはないでしょう。
 
 
ただしこれはワイン業界の暗黙の了解のようなもの。対応してもらえなかったからといって、クレームをつけることはできません。「ブショネの場合は交換します」と明記しているところは少ないでしょうから。
 
 

ブショネでも交換してもらえないケース

 
販売店に「これはブショネである」と判別できる人がいない場合は、まず交換は難しいでしょう。一般的なスーパーでは、おそらく話が通じません。
 
さらに熟成ワインも保障対象外な場合が多いです。特にインポーターが正規代理店として契約を結んでいないワイナリーのもの、つまり並行輸入品に関しても、交換・返品できないかもしれません。そういった古いものこそブショネのリスクが高いからこそでしょう。
 
あとはもちろんですが飲んだり捨ててしまっていては、交換・返品はできません。「半分は飲んだけどやっぱり味おかしいから交換して」は道理が通らないでしょう。
 
 

送料がネックとなる通販

 
ECの場合はブショネの場合も返品できないことを明記している店舗も多いです。恐れながら当店もそう。というのもブショネ判別の信頼度と、返品の時間と送料が問題になるからです。
 
最悪のケースを想定しましょう。
お客様が「なんかこのワインの臭いが変。きっとブショネだ」と相談されたとします。それで交換に応じるとすれば、往復分の送料がかかります。
どちらにも非がないのに、どちらかが送料を負担しないといけません。
 
 
さらに返品してもらって確認したら、ブショネではなかったというケースも考えられます。ではそのままお客様に送り返せるかというと、抜栓して数日経過し劣化したものが戻ってくるわけです。とうてい楽しむことはできないでしょう。
無駄に送料だけがかかって、誰も得をしません。
 
それもあって最初から「ブショネの場合も返品・交換不可」を基本とし、対応できるときだけ個別に応じるというスタンスにしております。
ご相談いただくこと自体は問題ありませんので、お気づきの際はお店にご連絡ください。
 
 

サランラップでブショネがマシになる?

 
ウソのような本当の話。
ブショネの原因であるTCAは、サランラップなどのポリエチレンに吸着されます。TCAは脂溶性であり、水やアルコールよりも有機化合物と親和性が高いからです。
 
 
ワインの中にラップを浸し、ワインをかき混ぜます。数分置いて飲むと、ブショネの臭いが多少は軽減されます。
ただしワインの香り成分も吸着されますし、完全に取り除くこともできません。「マシになる」程度です。
 
交換ができないケースでそのワインを諦めきれないとき、最後の手段として試してみるといいでしょう
 
 
 

ブショネのワインを避ける方法

 
ブショネが起こる確率が限りなくゼロに近いワインを選ぶこと
これがブショネによってガッカリするのを避ける方法です。
具体的には天然コルクのワインを避けることです。
 
 

ワインの栓にはどんな種類がある?

 
ブショネは基本的に天然コルクで起こります
 
天然コルク 圧搾コルク 合成コルク
 
コルク栓にもいくつかの種類があります。大きくは天然コルク、圧搾コルク、合成コルクの3つです。
そのほかにもスクリューキャップのワインはよく見かけるでしょう。抜栓が簡単でコストも安いので、手頃なワインには多く使われます。
たまにガラス栓のワインも見かけます。
 
圧搾コルクや合成コルク、スクリューキャップにガラス栓。これらが使われているワインは、基本的にブショネはないと思って構いません。
コルクの種類を外見から判断することは難しいです。当店ではなるべくの範囲にはなりますが、栓の種類を記載するようにしています。
 
 
20年以上前にはワインのほとんどが天然コルクで栓をされていました。かつてはブショネの確率が「5%」なんて言われていたころもあります。
生産者の立場からすると、自分が一生懸命つくったワインが、栓の不良品によって台無しにされるのです。たまったものではありません。
 
天然コルクのブショネを減らす研究とともに、ブショネの起こらない栓の使用も広まっていったのでした。
 
ワインの栓についてはこちらの記事で詳しく▼
 
 

実は天然コルクだけではないブショネ

 
「基本的にブショネはない」と申したのは、わずかな例外もあるからです
 
プラスチック素材の合成コルクにTCAが混入することはありません。
 
一方でコルク片を接着剤で成型する圧搾コルクには、基本的に「ブショネはない」と言われますが、極まれにTCA汚染された圧搾コルク栓のワインが見つかります。私はこれまで3本経験しました。
いずれも圧搾コルクとして有名なDIAM社のものではなく、見た目からして安物っぽいもの。この場合は同じロットのコルクを使ったものの多くがTCA汚染されているリスクが高いです。ヴィンテージが変わるまであまり手を出すことをおすすめしません。
 
 

スクリューキャップでも起こり得る

 
更にはスクリューキャップのワインにもブショネが見つかることがあります。醸造設備のどこかで塩素と原因となる微生物が出会ってしまったことが考えられます。つまり瓶詰前のワインが既に汚染されていたのです。私は一度だけ経験があります。
この場合もロット丸ごとが汚染されている可能性があります。
 
これと同じ原因なら、合成コルクやガラス栓でもブショネが起こる可能性はあります。しかしそれは本来、出荷前・瓶詰前で気づくべきこと。
一般消費者の手に届くまでに何段階ものチェックがあるので、無視できるくらい低い確率です。
 
 

信頼できるレストランで飲めば0%

 
さらに確実な方法があります。確実にブショネの判別ができるソムリエに、ブショネのワインを除外してもらうのです
きちんと経験を積んだソムリエのいるレストランでワインを飲めば、ブショネのものが出てくることはありません。
 
 
レストランで飲むのは小売店で買って飲むより割高ですが、そこには安心のための料金も含まれているということです。
 
 

最後は神頼み?

 
「この時はどうしてもブショネにあたってほしくないから、スクリューキャップのワインを選ぶ」
シチュエーションによってはそういう場合もあるでしょう。
 
一方で自分が飲みたいワインが天然コルク栓である場合も多いです。その場合は我々に避ける手段はありません。
 
最後は普段の行いを良くして神頼みするしかないのかもしれません。あなたに酒の神バッカスの加護がありますように。
 
 

ワインの欠陥に対して正しい認識を

 
ワインの風味が期待していたものとあまりに違ったとき、原因の一つとしてブショネを疑うべきですが、決めつけてはいけません。
 
ワインの欠陥を知らなければ、「このワイン全然美味しくない。二度と買うものか!」となるでしょう。
一方でその原因が分かるなら「今回はついてなかった。気が向いたらまた買ってみよう」と見方が変わるはず。
 
 
どうしてもブショネに当たりたくなければ、スクリューキャップなどのワインだけから選ぶほかありません。
しかしこれだけ様々な味わいのあるワインを、栓の種類で制限してしまうなんてもったいない。
 
たとえブショネにあたってしまっても、「これは運の問題だから仕方ないね」と流せる余裕をもってワインを楽しみたいものです。
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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