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「我々はビジネスマンではない!」自然と売れていくワイン カール・ローウェン

2023年10月20日

「我々はビジネスマンではない!」自然と売れていくワイン カール・ローウェン 
 
商業的になることを厭い、ワイン生産者として実直に畑と向かい合う。
それゆえに同等の評価を受ける生産者と比べたとき、ここのワインは割安感があります。
これまで知っている人だけ、モーゼル最古の畑から生み出される銘醸ワインを味わってきました。
その美味しさゆえに"自然と売れていく"といわれるカール・ローウェンのリースリング。知らないのは損失かもしれません。
 
 

カール・ローウェンを味わうならまずこの1本

 
まずは1本買って飲んでみて、口にあうようならリピートしたり、より高いワインを買う。
そうであるなら、カール・ローウェンの価値を判断してもらうに最適な1本は、この「アルテ・レーベン」だと筆者は考えます。
ただ最上級の美味しさを追い求めるだけではない。何度も飲みたくなる価格と合わせて、カール・ローウェンの魅力だからです。
 

 
KATAYAMA
9℃くらい、開けたてから香りにボリュームがあります。レモン、はちみつ、パイナップル、白い花など様々なアロマ。熟したニュアンスが強いのは2022年の特徴でしょうか。口に含んでも香りの印象どおりの凝縮のある果実味を感じ、それが余韻にまで厚みをもって続いていきます。3000円以下のリースリングとしては驚くほど長い余韻です。
 
 

VDPに非加盟 その意図と結果

 
専門誌による評価が高く、高額に取引されるドイツワイン。その多くはVDP(ファウ・デー・ペー、ドイツ高級生産)に加盟しているワイナリーがつくります。加盟しているかどうかはキャップシールに鷲のマークが描かれているかで判別できます。
 
 
カール・ローウェンは確固たる意志を持って、その生産者団体VDPに加盟しないでいます
その理由と哲学をご紹介します。
 
 

VDPによる畑の格付け

 
VDPが担う重要な役割が、畑の格付け認定です。生産者が所有する畑の区画について、特級畑にあたる「グローセ・ラーゲ」と1級畑にあたる「エアステ・ラーゲ」を規定しており、それをラベルに表記することができます。
ワイナリーの申請に対してVDPは、歴史的な畑の評価や栽培条件などをもとに、畑の格付けを定めます。
 
 
 

鷲のマークは確かな品質のワイン

 
VDPに加盟するには、加盟員からの推薦が必要です。そのうえで厳しい審査をクリアしたところだけが鷲のマークをつけることが許されます。その条件がかなり厳しいのか、加盟生産者は200軒前後にとどまり、この数字はここ数年ほとんど増えていません
 
VDP認定のワインを名乗るには、栽培・醸造面での規定に従う必要があります。わかりやすいのは最大収量。VDPのワインのグレードごとに、単位面積の畑からつくることのできるワインの量が制限されているのです。
 
 
これは「鷲のマークがついたワインは美味しい」というブランドイメージを保つため。品質担保に関しては非常に信頼度の高いシンボルであると言えます
 
 

カール・ローウェンがVDP非加盟の理由①

 
この「特級畑をVDPが定める」というのは、度々論争を引き起こします。自慢の畑が特級と認められなかった生産者が不満を持つのです。
 
カール・ローウェンもその一人。畑のことを一番よく知っているのは、その畑を所有して来る日も来る日もブドウと向き合っているワイナリー自身である。その信念があるのです。
これは後に紹介する「マクシミン・ヘレンベルク」の畑に対する誇りもあるのでしょう。
 
カール・ローウェンはVDPに加盟せず、ワイナリー側の意向が通りやすい「ベルンカステラー・リング」という団体に加盟しています。執筆時にHPを確認したところ、加盟しているのは40軒弱のワイナリー。https://www.bernkasteler-ring.de/en/bernkastelerring-winemakers.html
 
当店での取り扱いでは他に、マーカス・モリトール、ケース・キーレン、ケアペン、ザンクト・ニコラウスなどが加盟しています。
 
 

カール・ローウェンがVDP非加盟の理由②

 
さらにカール・ローウェンは加盟しない理由として、「VDPは商業的すぎる」という点を挙げています。
 
VDPのワインは間違いなく品質が高いのですが、同時に同地域のワインと比べて価格が割高であることも多いです
国際競争力があるので、主要な消費国に輸出してプロモーションを行うことで、きちんと売れていきます。一方でマーケティング活動をまるで行っていないのに、地元でワインが完売するVDP加盟員も少ないのではないでしょうか。
 
 
我々はワイナリーであってビジネスマンではない。」カール・ローウェンはそう語ります。適切な価格で販売される良質なワインは自然と売れていく。そう信じているのです。
 
 

カール・ローウェンのワインが割安な理由

 
マーケティングにお金をかけず、その労力を畑仕事に費やしていること。
VDPの商業的な姿勢を批判していること。
 
おそらくこの2つの理由が、カール・ローウェンのワインが品質に対して割安であることにつながっています
 
 
決してVDP加盟ワイナリーがマーケティングばかりやっていると主張しているのではありません。マーケティング担当の人材を雇い、多くの人に知ってもらってワインを買ってもらう。
ワインづくり以外の費用を削って安くリリースし、自然に売れていくのに期待する。
 
どちらが正解というものではありませんが、カール・ローウェンは後者のスタンスというだけです。この姿勢はVDPに加盟していながら割安感があるフリッツ・ハークにも共通しているところです。
 
 

カール・ローウェンというワイナリーについて

 
カール・ローウェンのスタートは1803年。ナポレオンが売却したマクシミナー・クロスターライの畑を購入したことです。
(この畑のワインは現在もつくっているようですが、日本へは輸入されていません。)
 
どうやらカール・ローウェンにとっての転機は2008年。「カール・シュミット・ヴァグナー」というワイナリーを購入、吸収したことです。そのワイナリーが所有していた「マクシミン・ヘレンベルク」の畑を取得。この畑が特別なものであり、彼の名声を押し上げたのです。
 
 

マクシミン・ヘレンベルクの畑

 
モーゼル川中流域、ロンギッヒ村にあるマクシミン・ヘレンベルクの畑。
 
 
 
南西向きの斜面にある畑で、平均勾配は60%となかなかの急斜面。
この13haあまりの畑の中にある0.8haの特別な区画を所有しています。そこはかつて畑の名声によって所有者が納める税金がランク分けされていた時代、最高ランクに位置付けられていたところでした。
 
日当たりのいい南向き急斜面の畑は格好の栽培条件ですが、モーゼルには同様の畑がほかにもあります。
このマクシミン・ヘレンベルクを特別たらしめているもの。それは1896年に植樹された自根のリースリングであることです。
 
 

世界最高樹齢!自根のリースリング

 
カール・ローウェン自慢の「マクシミン・ヘレンベルク」の畑。
ここには1896年に植樹された自根のリースリングが植えられています。なんと樹齢120年以上。
 
自根であること・樹齢が高いことは、どうワインの品質に影響するのでしょうか。
 
 

フィロキセラとは

 
フィロキセラとはブドウの根に住み着くアブラムシのことです。アメリカ原産であるこの虫は、1800年代にヨーロッパに持ち込まれました。
アメリカ系ブドウの一部は、フィロキセラと共存することができます。しかし「ヴィティス・ヴィニフェラ」と呼ばれるヨーロッパ系ブドウはフィロキセラ耐性がなく、根をかじられて木が枯れてしまいます。
 
瞬く間にヨーロッパ中に広がったフィロキセラは、フランスのワイン生産の2/3を壊滅させるほどの被害をもたらしました
リオハなどのスペインワインの質が向上したのは、フィロキセラで職を失ったボルドーなどの醸造家がスペインに流れてきたからだと言われています。
 
 

フィロキセラの対策

 
様々な対策が試みられた中で開発され、現在に至るまで採用されている方法。
それはフィロキセラ耐性のあるアメリカ系のブドウの根に、ヴィニフェラの樹を接ぎ木するというものです。
 
接ぎ木はブドウに限らず一般的な技術。根っこはアメリカ系ブドウでもそこから育つ樹はシャルドネやピノ・ノワールといったヴィニフェラの特徴を示します。
フィロキセラが根絶されたわけではなく、今も世界のブドウ畑にはフィロキセラがいます。でも接ぎ木することで木が枯れてしまうことは防げるのです。
 
ヨーロッパでは基本的に、ブドウを植えるときは必ず接ぎ木しないといけないようです。ただしそれは、今あるブドウの樹を引っこ抜けというものではありません。
一部の土壌にはフィロキセラが住めません。そういうところでは接ぎ木していない、ヴィニフェラの『自根』のブドウが今も植わっています。
 
 

フィロキセラが住めない土壌

 
フィロキセラは水はけが良すぎる砂質土壌では生息できません。
その一例がカリフォルニアの内陸部に「スリー」が持っている畑です。
 
 
このような砂漠のような土でアブラムシが生きられないのはなんとなくわかりますが、こんなところでも生育できるブドウにビックリです。
 
 
そしてモーゼルによくみられる粘板岩土壌(スレート、シーファーと呼ばれる)でも生育できないといいます。
 
 
ただモーゼル全域からすると自根で植えられている畑はごく一部。おそらくスレートの風化度合いなどによって、"生育できないところもある"といった程度なのでしょう。
 
 
では接ぎ木をする/しないでワインにどんな違いが表れるのでしょうか。
 
 

ヴィニフェラとアメリカ系ブドウの根はどう違う?

 
実は『接ぎ木をしないブドウでつくるワインの方が品質が高い』というのは、ハッキリとは言えないようです。リスクの割にメリットが見合っていません。
 
ただ、「品質に違いがあらわれそう」な根拠はご紹介できます。
ブドウの根を比べたとき、ヴィニフェラの根は細くて長く、アメリカ系ブドウの根は太くて短いそうです
 
 
粘板岩土壌は、写真のように平たい石が折り重なるようにして形成されます。こんな土壌では、ブドウは石を回り込むようにして根を伸ばさなければいけません。太くて短い接ぎ木した根は、なかなか地中深くに届かない。自根の方が細い根を長く深く伸ばす。
 
とあるニュージーランドの生産者がセミナーで語っていたことです。そこの土壌も粘板岩に似た性質を持ちます。接ぎ木するのに比べて自根で栽培すれば、ワインに土壌による風味の違いが表れ始める樹齢が低いそうです。
  
粘板岩土壌の深くに根を伸ばしやすい。モーゼルにおいてはそれゆえに自根のブドウの品質が高いのかもしれません。
 
 

なぜ高樹齢は高品質に結び付くのか

 
一般にブドウの樹齢が高いほどワインは高品質になると言われます。これについては反論もあるようですが、樹齢の高さを大切にしている生産者は世界中にたくさんいることで、ある程度確からしいといっていいでしょう。
 
樹齢が上がると自然と実らせる房の数が減って栄養が集中すること。根を深くまで伸ばすことが、その要因だと考えられています。
 
 
カール・ローウェンの1896年に植樹されたマクシミン・ヘレンベルクの区画。これは"おそらく"世界一古いリースリングの畑であるとワイナリーHPに書かれています。
 
 

自根の方が高寿命?

 
これは先述のスリー当主が語っていたことですが、ブドウの樹は接ぎ木しない方が寿命が長いといいます。
接ぎ木したものは100年を超えてはなかなか生きられない。病気などで枯れてしまうと。
 
これが本当かどうかはまだ証明できません。というのも接ぎ木の技術が開発され広まったのは1800年代の終わり。『接ぎ木して120年前に植えた』というブドウが現時点ではほぼないからです。
しかしマクシミン・ヘレンベルクのこの区画がリースリングとして世界一古いことには、自根であることが関わっているのかもしれません。
 
 

否定できないワインの品質

 
120年以上前に自根で植えられたリースリングだから、ワインが高品質
そう言い切るのは栽培の専門家でない私にはできません。
自根だから高品質なのか。自根でブドウが120年以上も生き続けたから高品質なのか。
これはあくまで推論だということはご承知ください。
 
この推論に間違いはあるかもしれませんが、マクシミン・ヘレンベルクの1896年に植樹された区画から生み出されるワインが高品質であること。これは疑いようがありません。これはジャンシス・ロビンソン、ロバート・パーカー、ファルスタッフ、アイヘルマンといった評価誌がこぞって高評価を与えていることから明らかです。
 
 
ただしいくら高品質なワインだからといって、あなたの好みにあうかどうかは絶対ではない。それに1896年植樹の区画は0.8haしかないので、希少で高価なワインです。
まずは手頃なワインでカール・ローウェンの味筋を確かめましょう。
 
 

普段飲み/特別な日/コレクション

 
カール・ローウェンのラインナップは、大きく3段階に分類できます。
基本は「手頃なクラスから試して口にあえば上級を」がセオリー。
しかしあなたが今求めている用途にあうなら、いきなり上級を選んでも決して後悔はしません。
 
 

畑名なしのエントリーライン2種

 
カール・ローウェンのエントリークラスはこの2本です。普段の晩酌にも開けやすい価格であることがうれしい!
 

 
 
並べて飲んだことはないのですが、この2本には300円程度の価格差以上に味の差がある印象です。
特に口当たりの厚みに差を感じます。アルテ・レーベンの方がハッキリと深みを感じる味わいです。
 
どちらもモーゼルのリースリングとしてはリーズナブルな価格帯。初めての方はぜひ「アルテ・レーベン」から入っていただきたいです。
 
 

単一畑でつくる上級ライン

 
最上級ワインの「1896 ブラックラベル」がちょっと別格であるため、スタンダードを除いた4つのワインが上級クラスです。
単一の畑からつくられており、畑名が表記されています。
 

 

 

 

 
ブルゴーニュワインがお好きな方にとっては、モーゼルのリースリングで畑の違いを感じるのもいいでしょう。マクシミン・ヘレンベルク、リッチ、ラウレンティウス・ライ。樹齢はどこも高いです。だからこそ飲み比べることで畑の違いにフォーカスをあてるのが、ワインオタクとしては面白いでしょう。ブルゴーニュワインなら広域のスタンダードクラスすら買えない価格です。
 

瓶内二次発酵の長いシャンパンは白ワイングラスかブルゴーニュグラスで。フルートグラスはもったいない。

 
飲み比べなどなかなかできないにせよ、1本だけを楽しんでもこのクラスは大いに満足感があります。スタンダードクラスとは一線画した風味のち密さ。
友人とともに食事にあわせてワインを楽しむなら、極辛口でスマートな味わいの「マクシミン・ヘレンベルク GG」を。
ワインだけで楽しむ用途を考えるなら、畑名どおり「リッチ」な口当たりの「リッチ GG」をお勧めします。
酸味の高いワインなので、抜栓後もなかなか劣化しません。一人で1週間かけて飲むのも、風味の変化が楽しめていいでしょう。
 
 

購入出来たらラッキー!ブラックラベル

 
毎年ブラックラベルが完売するのが本当に早い!
次回は2022年ヴィンテージが2023年12月ごろに入荷する予定です。きっと今年も2、3日で完売することでしょう
 

div>カール・ローウェンの特別なワインであり、供給不足のためにめったに手に入らない1本。

この1本だけ別格の味わいであるという生産者のメッセージです。
伝統の栽培法、伝統の醸造法でつくることにこだわったこのワイン。近代的なプレス機もポンプも使わず、70年以上も使い続けるオーク樽で熟成されます。「グローセス ゲヴェックス」と違うのは、1本通りを挟んで隣接している別区画であることと、残糖度が少し高めで完全辛口ではない点です。
 
他のワインを飲んでカール・ローウェンが気に入ったという方。そんな方の手元に届きますように。
 
 

リピートしたくなる、自然と売れていく

 
カール・ローウェンというリースリングのつくり手を語るなら、『1896年に植樹された自根のリースリング』というのは外せません。
しかしその畑のワインは、生産量のうちではごく一部。その名声は決して畑の質に頼ったものではありません。
 
マーケティングに注力するのではなく、ひたすらに畑と向き合っていいブドウを育てる。その品質と値ごろ感によって、自然とワインが売れていくのを目指す
そんな彼のワインにひかれてリピートする愛好家が、日本でもじわじわと増えているようです。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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