ホストテイスティングとは、お客様に振る舞うワインをホストが確認することを示す儀式です。
『儀式』と表現したのは、様式が決まっていてほとんど判断する必要がないからです。
だから知識として知っていたら、何ら難しいことも怖いこともありません。
ホストテイスティングとはなにか。応用編としてそこで相談できることはなにかをご紹介します。
ホストテイスティングの流れ
ホストテイスティングとは、ホストとゲスト、つまりレストランでお客様の中にもてなす側と招待される側があって成り立ちます。
会社で行う接待などがその代表例です。
ゆえにあなたがホストとしてお客様を会食に招待する。そんなときのために備えておくべき知識です。
必然的にある程度高級なお店となります。プライベートで友達と連れ立っていくようなカジュアルなレストランでは、触れる機会がないかもしれません。
むしろ「ホストテイスティング」というものを知らずに生きてきた方の方が多いでしょう。
だから知らなくても恥ずかしくない。でももしものときにドキっとしないため、頭の片隅に入れておきましょう。難しいことではありません。
ホストテイスティングの流れ
ホストテイスティングはレストランなどでワインをボトルで注文したときに、ソムリエやお店のホールスタッフから求められることがあります。
その流れは次の通りです。
- ボトルワインをオーダーする
- ソムリエがボトルを持参し、オーダーどおりのものかを確認する
- ソムリエが抜栓、ワインの状態を確認する
- グループ内のホストに「ホストテイスティングをお願いします」と声がかかる
- グラスにワインが少しだけ注がれる
- ホストが香りや味を確認する
- ゲストの女性・重役から順番にワインが注がれる
ホストテイスティングの意味
「この場で私が(ホストが)あなた方に(ゲストに)振る舞うワインに責任を持ちますよ」
これを目に見える形で示すのがホストテイスティングです。
通常飲み物や料理は、まずはゲストから順番に、最後にホストに提供されます。
しかしワインの場合はまずホストが飲む。注文した1本を皆で分かち合うワインだからこそ、ホストテイスティングは意味を持ちます。
ホストテイスティングで確認するもの
ホストテイスティングにて確かめられるものは次の3つです。
1.ワインが注文した通りのものであるか
2.ワインの状態が正常なものであるか
3.提供方法に特別な要望はあるか
特に2番について解説が必要でしょう。
ワインが正しいものかを確認する
注文したのと違ったワインを間違えて持ってくる。
めったに起こるミスではありませんが、人間がやることです。起こりえないとは言えません。
たとえば2019年のイギリスのニュース。同じヴィンテージのボルドーワインで別のものを提供してしまった。しかも提供したのが60万円オーバーのワインだったということがありました。注文したワインの値段は書かれていませんでしたが、せいぜい5万円程度でしょう。
もしも自分がオーダーしたものとワインが違い、しかもずっと高級なものが持ってこられたら・・・。
そっとしておく、のではなくちゃんと「オーダーと違いますよ」というのは伝えましょう。
ワインの状態を確認する
これはワインが美味しいかどうか、好みかどうかを判断するのではありません。
ワインとして明確な欠陥がないかを確認します。もしこの段階で欠陥があると判断したなら、ボトルの交換を求めることができます。
どういった欠陥があったとき交換できるかはお店にもよるでしょうが、一般的には「ブショネ」と「熱劣化」です。
ワインの欠陥「ブショネ」とは
ブショネとは主にワインのコルク由来でその風味が壊れてしまう事故です。天然コルクで栓をされたワインではある程度の確率でブショネが発生します。それは保管の問題でも製造法の問題でもなく、打栓されたコルクの個体差によるもの。そして抜栓するまでブショネかどうかは誰にもわかりません。(マンガの登場人物は除く)
なのでホストテイスティングの際にコルクを見せられることもあります。ワインの前にコルクの状態を確認してください、という意味です。
ブショネのワインの臭いは、「腐った段ボール」や「牛乳を拭いたぞうきん」に例えられます。困ったことにワインの果実香をマスクしてしまうため、イヤな臭いがあるだけでなく、ワイン本来の香りも感じられません。
なので基本的にはワインの輸入元責任で交換なり返品を受けてもらえます。あなた方が不味いワインを我慢して飲む必要は全くありません。
保管状態が悪い「熱劣化」
ワインがワインセラーに入れて保管されるのは、高温によりワインが熱劣化するのを防ぐためです。
逆に保管状態が悪いとワインが劣化します。どんな味になるかはブショネほど画一的ではありませんが、シェリーのような香りが出てきたり、焼けたような風味や苦みを感じるようになります。
保管状態の悪いワインを提供するのはおおよそレストランの責任。(その前の流通段階の場合もあります)
ゆえに交換を求めてもいいでしょう。
現実には判断する必要なし!
「え?そんなワインの欠陥とか、私わからないよ」
そんな方が大半のはずです。自信を持って判断できるような方は、この初心者向けの記事を読んではいないでしょう。
でも大丈夫。おおよそあなたが判断する必要はありません。なぜならあなたの前にソムリエが状態を確かめているからです。お店の人が「問題ない」と判断したワインだけを、ホストであるあなたに確認してもらっているのです。
だからあなたは「大丈夫です」「結構です」と確認するだけ。
判断する必要がなく「OK」しかないので、『儀式』と呼んだのです。
言い争うだけ無駄
どうしても気になるときは、「このワインの状態、正常ですか?」とソムリエに再確認を求めてもいいでしょう。そこで「あ、やっぱりブショネですね」と気づくケースもあるはず。
でも大抵はあまりいい結果になりません。
ソムリエが気づかずあなたが気づくレベルのブショネということは、きっとそのソムリエはまだ新人で十分な判断能力がないのでしょう。
あからさまな熱劣化のワインを提供してくるとすれば、そもそも温度管理への理解がお店としてない場合が考えられます。
ゲストを放ったらかしにしてソムリエと言い争っては、食事の趣旨は本末転倒。
「このお店はハズレだった」と諦めて、別のボトルを注文するなりした方がマシでしょう。
好みじゃないとしても変えられない
注文したワインの味わいが、あなたが想像していたものと違ってあまり好みではなかったとします。
しかし好みでないことが理由でワインの交換を頼むことはできません。
ソムリエはワインを提案するかもしれませんが、最終的にその注文を決めたのはあなたです。
抜栓したワインをもとに戻すことはできません。あなたのキャンセルを受けてしまえば、お店が損害を被ることになります。そんな理不尽はありません。
ゆえにホストテイスティングで美味しくなかったとて、ワインの交換はできないのです。
応用編 ワインをより美味しく提供してもらう
ホストテイスティングでの際にワインの状態調整をお願いすることはできます。
具体的には温度調整とエアレーションです。
ワインの温度調整
テイスティングしたときに「もっと冷たい方が美味しいだろう」と考えたなら、温度調整をお願いすることができます。
「もうちょっと冷やした方が美味しいですかね?」などと相談すると角が立たないでしょう。
単純にそのワインの温度調整がイマイチな場合もあります。
一方で次の料理が暖かいメインディッシュだから、あえてワインの温度を高めにしていた場合も考えられます。
なので自分だけで判断するよりは、ソムリエと相談した方がいい結果が得られるでしょう。
デキャンタに移してエアレーションする
ワインの味わいで特に渋味は空気と触れることでまろやかになります。
ホストテイスティングで「渋みが強すぎるな」と感じた場合、デキャンタに移すことによるエアレーションをお願いすることもできます。デキャンタがないレストランもあるでしょうが、ワインにこだわるお店ならたいていのところに置いています。
「これ、デキャンタした方がいいですかね?」と相談してみるといいでしょう。
デキャンタに移せば温度が少し上がりますので、そういう意味でも味わいがまろやかになります。
ただしなんでもかんでもエアレーションで美味しくなるわけじゃないので、見極めが必要です。
ホストテイスティングは断ることもできる
ワインの欠陥臭を判断する能力
ワインの温度による味わいの変化
エアレーションによる味わいの変化
こういったものをあなたが十分判断できる上で、担当のソムリエさんへの信頼があまりないなら。
ホストテイスティングをちゃんとやるべきでしょう。
でもそうでないならホストテイスティングは断ってもいいんです。
ソムリエにお任せで
何度も通っているお店でソムリエを信頼している。
ソムリエがわからないものが自分にわかるわけがない。
それよりもゲストとの会話が遮られるのがイヤ。
そんな場合は「ホストテイスティングはいらないので注いでください」とお願いすることもできます。別に失礼でもなんでもありません。
「ホストテイスティングはされますか?」と聞いてくれる場合もあります。
ホストテイスティングを避けたとて、ゲストからの評価が落ちることはないと私は考えるのですが、いかがでしょうか。
「結構です」さえ言えればOK
結論としてホストテイスティングはしなくてもいいし、判断の必要もありません。
ホストテイスティングをする流れになったなら、「結構です」とだけ言っておけばいいんです。
「ホストテイスティングってなんだっけ?何を判断すればいいの?」
そうやって焦って大事な会食に集中できない!そんな事態を避けるための予備知識です。
今までホストテイスティングに縁のなかった人も、頭の片隅にいれておいて損はないでしょう。