レストランのワインリストって、どのように選んでいるんでしょうか?
もちろん、そこのシェフソムリエが自分の好きなワインをただ並べている・・・というわけじゃありません。
今回は元ワインバル店長としてリストを作成していた片山が、架空のレストランのワインリストをつくってみたいと思います。
友人と少人数で飲みに出かける際、きっと選びやすくなることでしょう。
ワインリストの選定プロセス
筆者片山は、前職はワインバルで働いており、ワインリストの作成もやっていました。
私以外はワインに詳しい者はおらず、年中無休のお店でしたのでアルバイトでも扱えるリストである必要がありました。
客単価は4000円ほどなのでリーズナブルなお店です。
今回はボトルワインリストについて考えます。私の以前の職場のように、ソムリエが休みの日があったりいない場合は、お客様自身がワインリストの説明を見て決める必要があります。
だから定番のワインリストを説明のしっかり入った、ワインをイメージしやすく選びやすいリストが求められます。
きっと「ソムリエのいないレストランのワインリストを考える」という場合、考えることはそう変わらないと思います。
レストランを想定する
世の中には多種多様なレストランがあります。
全てで使えるワインリストなど存在しません。客層に合わせてつくる必要があるからです。
今回はこんなレストランを想定します。
ジャンル:カジュアルフレンチ、カジュアルイタリアン、無国籍ダイニングなど
規模:30~50席の中規模店
立地:繁華街
客単価:5000~8000
ドリンクの種類:ワインに力を入れているが、他のドリンクもある
ワインリストの掲載数:全20種類ほど
ソムリエ:いない
大事なのはバランス
考えるのは、そのレストランの客層の要望をなるべく広くカバーすること。
味わいのタイプに偏りのない、バランスの良いラインナップにすることです。
「コルテーゼ種のワインありますか?(←実際にありました)」という要望には応えられなくても、似たような程よい口当たりと酸味の白ワインは提案できる。
そして味わいのバリエーションとともに、価格にもバリエーションを持たせることです。
価格と味わいのタイプは無関係ではありません。
ワインリストの中でのポジションと味わいというのは、深く考えます。
ワインリストの価格幅
大雑把に言うなら、ボトルワインの価格の平均値はそのお店の客単価の少し下、くらいじゃないでしょうか。
この客単価は実際の売り上げ÷人数ではなく、そのお店の名物料理を平均的に楽しんで、程よくお酒も飲んだ時の価格という意味です。
料理とドリンクの売り上げ比率が5:5~6:4くらいだと仮定します。
先述のとおり客単価5000~8000円のレストラン、間をとって6500円だとします。
ならワインリストの平均価格が6000円くらい。実際には5000円前後のボトルの選択肢が最も多く、1万円超えのものも1,2種類というラインナップだと予想します。
20種類だと仮定すると私ならこれくらいで振り分けます。
種類 | 泡 3種 | 白 7種 | 赤 9種 | 甘口 1種 |
4000円 |
1種類 | 1種類 | ||
5000円 | 1種類 | 2種類 | 3種類 | 1種類 |
6000円 | 1種類 | 2種類 | 2種類 | |
7000円 | 1種類 | 1種類 | ||
9000円 | 1種類 | 1種類 | ||
高額 | 12000円1種類 | 12000~15000円1種類 |
これで全20種のボトル単価の平均が6350円です。
白ワインリストをつくる
上記の枠組みに味わいを当てはめていきます。
その時に大事なのは、各ワインのポジション。
単にそのワインが美味しくて価格に見合っているかどうか、だけではありません。
そのリストの中でどういう役割を担うのか。どういうニーズのお客様を満足させるためにオンリストするのかです。
高級なものを選ぶ
例えば、白の高額ならどんな味わいをお客様は期待されるか考える。
スッキリ爽やかなものよりは、しっかりと飲みごたえのあるもの。
さらにブランド力のあるものだとなおよ良し。
標準となる原価率はお店の立地に左右されるので、あまり具体的には書けません。
ただ、飲食店で目安とされる原価率は3割。今回はボトルワインリストだからロスもないので、4割と仮定しましょう。
そうなると、9000円のところにはめる白ワインは、程よく樽の効いたシャルドネで決まりでしょう。
ブルゴーニュのマイナーな村名格がギリギリ扱えるかも、というところ。
シャルドネの人気を考えると、もう1本入れてもいい。「9000円のものよりは安いじゃん」と思って買ってもらう、カリフォルニアなどのシャルドネを5000円か6000円のところに入れる。今回は6000円の方にします。これも樽の効いているものでいいでしょう。
だとすれば7000円は樽シャルドネとはキャラクターが反対のものがいい。
樽を使わないスッキリ風味の上質ワイン、ブドウ品種で考えるならリースリングかソーヴィニヨン・ブラン。
同じような味の方向性で、5000円にも1本いれましょう。
7000円白で採用しなかった方の品種でもいいですし、ちょっと知名度の低い品種を入れてもいい。
シュナン・ブランやフリウラーノ、ミュスカデなど。
中価格帯はバリエーション広く、飽きさせない
変化球も入れたい。
アロマティック品種のゲヴュルツトラミネールやトロンテス、ヴィオニエなどを入れておけば、
ソムリエ
ちょっと珍しい、香りのいい白ワインありますよ
とおすすめができます。これも6000円のほうに入れてみましょうか。
残りの5000円のもう1本。
ポジションとしては、「細かなニーズにはめる1本」という位置づけです。
例えば「辛口白ワインがいいけど、酸っぱくないのにして」というお客様のためのワインを選ぶ。
やや温暖な産地のピノ・グリだとか、イタリアのガヴィ。スペイン、ルエダの白などもいいでしょう。
他には魚との相性をピンポイントで狙ったワインを入れるのも、提供している料理によってはアリ。
ピクプール・ド・ピネという南フランスのワインや、イタリアのヴェルメンティーノなどが候補でしょう。
低価格帯に入れるものは
4000円のワインは、ラインナップとしては必要だけど、正直それほど売れてほしくない。
ならばパッと味わいがイメージできなくてもいいから、ブレンドワインを入れてもいいでしょう。
コート・デュ・ローヌやポルトガル、中部イタリアの白ワイン。アルコールも気持ち低めで、ガブガブ飲めてしまうような味わいのものがベスト。
こうして出来上がった白ワインリストは次の通り。
価格 |
ワインの味わいと役割 |
4000円 | ガブガブ飲める味わい ブレンドワインも積極的に |
5000円 |
スッキリとした風味でメジャー品種でないもの シュナン・ブランやフリウラーノ、ミュスカデなど 《細かなニーズに応えるポジション》酸の低い白ワイン ピノ・グリやイタリアのガヴィ もしくは 《魚介との相性を最優先》ピクプール・ド・ピネ、ヴェルメンティーノ |
6000円 |
低~中価格シャルドネ 樽がほどよく効いているもの 《変化球とっしてアロマティック品種》 ゲヴュルツトラミネール、トロンテス、ヴィオニエなど |
7000円 | すっきり系高額 有名品種 リースリングやソーヴィニヨン・ブラン |
9000円 | しっかりとした味わいで高級感を与えるもの 樽の効いたシャルドネ ブルゴーニュなど |
ココスのワインで当てはめてみる
ワインの原価はレストランに卸す酒屋によっても違いますし、具体的な価格はヒミツです。なので当店の通常売価を仕入れ値が4割の原価と仮定して、ワインを当てはめてみました。
4000円 ブレンド | |
5000円 スッキリ | 5000円 魚介に合わせて |
6000円 アロマティック | 6000円 カリフォルニア |
7000円 高級スッキリ | 9000円 樽シャルドネ |
ついつい高いのを注文したくなるリストじゃないでしょうか。
赤ワインのリストをつくる
同じように赤ワインのリストも作ってみましょう。
立地を考える
私なら赤ワインのリストには白ワインよりも立地を考慮します。
住宅街や郊外立地なら21時以降の遅い時間の入店は少なくなり、ディナーでそう何回転もするものじゃない。
ならワインは料理と一緒に飲むことだけを想定してたらいいでしょう。
一方で繁華街立地なら、近場で食事を済ませたグループが飲み歩いて、ワインと軽いつまみだけの2軒目利用も期待できます。
1軒目ほどたくさん飲まない分、高単価のボトルも開けてくれるので、リストはより重要になります。
ワイン単体で満足感のある、濃厚なワインがより求められるでしょう。
今回は後者の繁華街立地のレストランと仮定してつくってみます。
高単価を取れるワード
ワインリストを選ぶうえで、「こんな特徴のあるワインは、高くても納得してもらいやすい」というワードがあります。
「濃厚」「ピノ・ノワール」「(有名産地の)カベルネ・ソーヴィニヨン」「希少価値」
この場合、「数が限られておりレア」な希少価値のあるワインは定番とするリストでは使えません。
なのでわかりやすく希少価値をアピールするなら、「ある程度古いヴィンテージ」のワインです。
高級品から考える
今回も最上位のものから考えてみましょう。
12000~15000円のものと、9000円のものです。
客単価の2倍のワイン、そう多くは売れません。しかし、オンリストしておくことで他が手ごろに見えるという、松竹梅効果は期待できます。
そう考えると、原価率4割ももう少し上げてもいいかも。
さて、最上位のこの2つの組み合わせ。2つの選択肢があります。
①9000円にピノ・ノワールにして、12000円に濃厚なカベルネ・ソーヴィニヨンを持ってくる。
②9000円に濃厚カベルネを持ってきて、12000円に熟成ワインを持ってくる。
お店のグラスも考慮する
ピノ・ノワールが大人気な理由はその豊かな香り。
安価なものはともかく、ボルドーグラスで良いピノ・ノワールを飲んでも魅力半減です。
赤ワイン用のグラスとして、ボルドータイプとブルゴーニュタイプを使い分けられるお店なら、①の9000円にピノ・ノワールでもいいでしょう。
しかしボルドーグラスだけだとしたら、②の12000円に熟成ワインがいいかもしれません。
今回は②のパターンで考えてみます。
だとすれば12000円に10年以上は前のヴィンテージのワイン。一番供給量があるのはボルドーです。
なら9000円のポジションには濃厚なカベルネ・ソーヴィニヨン、もしくは主体としたブレンド。ナパ・ヴァレーのものがギリギリ採用できます。
手ごろなワインを埋めていく
だとすればピノ・ノワールは「軽い赤ワインちょうだい」「渋味の少ないのがいいな」という要望に応えるポジションがいいでしょう。
5000円の赤ワイン3本のうち1本にしましょう。
ならば5000円のもうあと2本は、「この3本ってどう違うの?」と聞かれて簡単に答えられるものがいい。
では2本目軽さはなくて果実味はしっかりあるけど、渋味はあまり感じないもの。例えばイタリアのモンテプルチアーノ・ダブルッツォやカリフォルニアのジンファンデルなど。
3本目は渋味もある程度感じる、力強いものの。南フランスのタナ種をつかったものや、オーストラリアのシラーズなどをはめてみましょうか。
4000円は白と同様、軽い口当たりで美味しいけど若干の物足りなさがあるもの。
オーク樽熟成を行っていない南アフリカのピノタージュやアルゼンチンのマルベックなど、果実味主体のシンプルなものがいいでしょう。
中価格帯で面白味を持たせる
この中価格帯でお店のセレクトのセンスを発揮して、他店とは違うと思わせたいところ。
だから何をはめるかの定説化が非常に難しいポジションです。
特徴を出すためにと珍しいワインを入れてみるのも手ですが、単に珍しいだけでは勧めないと売れないワインになってしまうかも。
加減が難しいところです。
一つ考慮すべきは、お客様が注文されるボトルは1本とは限らないこと。
1本目を飲んでもらったあとに、「美味しかったから、次他のちょうだい」との要望にどう応えるか。
同じポジションのワインが2本あってもいいのです。
例えば軽めのワインが5000円の1本だけではちょっとまずいかも。
なら6000円か7000円にももう1本軽めのものを入れておこう。
ピノ・ノワールをもう1本でもいいですし、日本のマスカット・ベリーAなども面白い。
他には濃いワインの選択肢としてスペインのテンプラニーリョやガルナッチャ。
渋くないけど濃いものとして、イタリアのプリミティーヴォなどもいいでしょう。
以上の条件から出来上がったリストは次の通り
価格 |
ワインの味わいと役割 |
4000円 | 軽い口当たりで、美味しいけど若干の物足りなさがあるもの ピノタージュやアルゼンチンのマルベック、ブレンドなど |
5000円 |
①渋味が少なく軽い口当たりのもの ピノ・ノワール ②果実味主体でしっかりしているが渋味は穏やかなもの モンテプルチアーノ・ダブルッツォやジンファンデルなど ③渋味もある程度感じる力強いもの フランスのタナ種、オーストラリアのシラーズなど |
6000円 |
①渋味が少なく軽い口当たりのもの ピノ・ノワールやマスカット・ベリーA ②果実味主体でしっかりしているが渋味は穏やかなもの イタリアのプリミティーヴォやグルナッシュ主体のもの |
7000円 | 濃厚で渋味もしっかりとした力強いもの スペインのテンプラニーリョなど |
9000円 | 濃厚なカベルネ・ソーヴィニヨン ナパ・ヴァレー |
12000円 | 10年以上熟成したもの ボルドー |
ココスのワインを当てはめてみる
こちらも原価率4割の仮定のもと、当店の売価を当てはめて具体的なリストにしてみました。
4000円 ブレンド | 5000円①軽め |
5000円②果実感強め | 5000円③多少渋め |
6000円①軽め | 6000円②果実感強め |
7000円 濃厚しっかり | 9000円 ナパ カベルネ |
12000円 熟成ボルドー | |
スパークリングと甘口ワイン
全部で20本のボトルワインリストなら、これらはあまり選択肢はありません。
価格からスタンダードな味わいのものを選べばいいでしょう。
当店のワインから当てはめてみるなら、こんな感じです。
5000円スパークリング | 6000円ロゼ・スパークリング |
12000円シャンパン | 5000~6000円甘口 |
ソムリエがいないお店のためのリストです
今回はバランスを重視してワインを選んでみました。
なのでこのまま使うには、「そのお店ならではの個性が反映されていない」という見方もできます。
またワイン通の方には、「ワインが典型的なものばかりで面白みに欠ける」と捉えられるかもしれません。
これは次のような意図を盛り込んでいるからです。
・ソムリエがいない or いない日もあるお店
・ホールスタッフは主にアルバイトでもともとのワインの知識はない
・お客様からの質問に対して、ある程度マニュアル化できる
・同じワインメニューを数か月単位で続ける
リストを見てフムフムと楽しんで
架空のレストランのワインリスト、「自分ならこれ注文するかな」というものはありましたでしょうか。
我ながら、選びやすくはあるがややキャラ立ちがハッキリしすぎなリストだと感じています。ちょっと料理メインのお店にはずれてるかな~と。
このあたりが、レストランで飲まれるワインと、ワインショップで販売されるワインの差なのでしょう。
そのレストランのワインリストが、HPやぐるなびなどのサイトで公開されていることもあります。
ラインナップを見ながら選定者の意図を推測する、なんて楽しみ方もアリでしょう。
ではこの知識をどう活かすのか。
仲間内で飲みに行ったときに、ワインをスムースに注文することができます。
それを次回解説したいと思います。