ワインの楽しみ方ガイド

晩酌に便利な万能ワインの選び方 ポイントはミネラル感《ソムリエの家飲みワイン》

2022年8月25日

 
 
今晩のおかずは作り置きのものがいろいろあるから、それに無難にあう万能ワインが欲しい!
そんなわがままに、100点とはいかないまでも70点で応えてくれるワインがあります。
そのワインを選ぶポイントは『ミネラル感』
一度その万能さを体感すれば、冷蔵庫に1本常備しておきたくなるかも?
 
 

おうちペアリングは100点より70点

 
このワインはどんな料理にあうの?
ワインを購入する際、フードペアリングを気にする方はとても多いでしょう。
 
 
これは日本にワインが普及していく過程で、ソムリエの担った役割が非常に大きかったからだと思われます。
 
 

レストラン、ソムリエ、ワイン、マリアージュ

 
高度経済成長期の終わりごろから、日本にワインを飲む習慣が普及してきました。
何度かのワインブームやボジョレー・ヌーヴォーの盛り上がりなどを経て、ワインは通販で最も売上高の高いお酒です。(楽天市場上などで)
 
日本においてワインは主にレストランシーンが原動力となって広まってきました
日本ソムリエ協会の現会長である田崎真也さんが、1995年に世界最優秀ソムリエとなられたこと。それがメディアでも大々的に放映されたこと。それがきっかけでワインを飲むようになった方も多いはずです。
 
 
ソムリエ。すごく簡単に表すなら、ワインに特化したレストランのサービスマンです。
レストランにて食事をより美味しく召し上がっていただくために。相性のいいワインの提案は、ソムリエの仕事の一つ。
それもあって「ワインと料理のマリアージュ」があるというのは、驚くほど多くの方が知っておられます
 
 

マリアージュは1対1

 
本当に料理との相性を考えるレストランだと、コース料理に合わせたワインがセットになっている場合もあります。
自分でワインを選ぶ楽しみはないものの、その一皿に対してソムリエが最高と考えるワインを1杯ずつ楽しめるのです。
 
そうでなくとも、レストランならワインをグラスで注文することが可能なので、食事の間にいろいろな銘柄を楽しめます。
 
 
ワインと料理のマリアージュは『カギとカギ穴』に例えられるように1対1の関係
ワインと料理の100点の関係を目指せるのは、レストランならではです。
 
 

家飲みワインならもっと曖昧に

 
このようなピッタリの相性というものを、おうちで狙うのは大変です。普通は料理に合わせて何本もワインを開けることなんてできませんよね
「試してみたけど相性イマイチだから、今日は飲まないでおこう」というわけにもいかないでしょう。
 
家庭の夕食だって、普通は何品もおかずを食べます。だって栄養バランスが偏ってしまいますから。
それにワインを合わせるなら、どれか1品に100点の相性を目指せばいいってものじゃない。
全部の品に70点を目指した方が、いつもの晩酌を楽しめるというものです。
 
 
あまり意識しなかったけど、確かにこの料理を食べながらワインを飲んだら、よく進んでいる気がする
そんな曖昧な「相性がいい」の方が使いやすいものなのです。
 
 

今回のワイン選びのシチュエーション

 
晩酌のワインを買って帰る際、「この料理をつくろう!」と最初からペアリングを意識するのも一興。
でも、たいていはワインを買う段階でつくる料理って決まってないですよね。
だってスーパーに行って特売見て決めるんだもん。
 
 
ちょっぴり特別な日のごちそうをあらかじめ決めておくってことはあるでしょう。
でも普段の夕食って冷蔵庫の中身を見ての思い付きだったりしませんか?
 
 
料理を決めてからワインを買いに行くのは大変。
ネット通販ならもちろん間に合いません。
 
だからこそ、晩酌ワインとして使い勝手がいいのが、多くの料理と70点の相性の「万能ワイン」です。
 
 

例えばこんな時のためのワインです

 
例えば作り置きの総菜が冷蔵庫に一杯!うちいくつかはそろそろ食べてしまわないとな~。
いろいろつまむから1対1のペアリングは考えられなくて、どのおかずに対しても無難な食中酒が欲しいとき。
 
 
例えば先述のように料理は思い付きで決める。他にも家にワインはあるけど、どれもあんまり合いそうにないときの保険としてストックしておきたい
 
例えば友人宅に食事に誘われた。何かワインを持っていきたいのだけど、料理は何が用意されているか聞いてない。食事とは別に飲んでもいいけど、どうせなら食べながら飲みたいという場合。
 
そんなときに活躍するのが、苦手な食べ物が少ない万能ワインです。
 
 

まず思い浮かべてほしい「チャコリ」

 
「何にでもあうワイン」として、私を含め葡萄畑ココスのバイヤーがまず思い浮かべるのが「チャコリ」です。
それくらい、日ごろから晩酌ワインとして買って帰って、いろいろな晩ご飯と一緒に飲んでます。
いろいろな特集に登場させているので、当ブログを続けて読んで頂いている方にとっては、「またか。ゴリ押しするな~」と思われちゃっているかも。
 
どんなワインか簡単にご紹介します。
 
 

チャコリとは

 
スペインのフランス国境北部に、バスク州があります。リオハからも近いのですがワインは全く別。そこでつくられているワインが「チャコリ」です。
最も多いのが白のスティルワインや微発泡ワイン。ですがロゼや赤、スパークリングや甘口ワインもあります。
 
 
ブドウ品種はオンダラビ・スリやオンダラビ・スリ・セラティア、オンダラビ・ベルツァなどで、他では聞かない地ブドウです。
 
典型的なものは、リンゴや柑橘の控えめな香りに高い酸味、軽めのボディを持ったスッキリ辛口ワインです。特徴的なのが、塩味を感じさせるようなミネラル感。「海のミネラル」なんて表現することもあります。
 
 

「ミネラル感とは?」の触りだけ

 
「ミネラル」という表現は、ワイン上級者がやたら使いたがる、それでいてワインを飲まない人には絶対理解されない表現です。
本来ミネラルとは、体を構成する元素のうち、主要な4つ(炭素・酸素・窒素・水素)を除いたものを指します。カルシウムやマグネシウム、ナトリウム、鉄、リンなどなど、長期的に不足すると不調をきたすものです。
 
 
「ミネラルウォーター」とは、これらのミネラルを多く含む水。
しかしその成分は一定ではなく、またこういった金属元素は昇華(※)しにくいので、「ミネラルの香り」というものは厳密にはありえません
(※)昇華とは、固体から液体を経ずに気体となること。昇華しやすいものが香り成分として重要
 
ワインの表現である「ミネラル感」という言葉を使うのは、やむにやまれずです。
このワインは美味しい。その美味しいを伝えるために、風味を言葉にしよう。フルーツの香り、花の香り、スパイスの香り・・・そのどれにも当てはまらない風味がある。言葉にしづらいが、確かにこのワインを味わい深いものとしている。
 
 
そうやって当てはめられた言葉が「ミネラル感」なのだと、私は解釈しています。
ソムリエの間でも「ミネラル感とはこういう風味」というのが共有されてはいません。人によってとらえているものが違ったりします。
だから私はなるべく「ミネラル感」と使いたくないのですが、チャコリの美味しさを伝えるには、「ミネラル感」という言葉は避けて通れません。
 
 

チャコリに感じる海のミネラル感

 
海辺で磯に立った時に感じる風の香りを想像してください。
 
 
その香りのイメージと食塩の香りのイメージを比較してください。当然違いますね。
 
 
その違いとなる香りのイメージを持って、チャコリの香りを嗅いでみましょう。
なんとなく似ているものを感じませんか?
 
同じ「ミネラル感」という言葉を使っても、シャブリに感じる「ミネラル感」とは異質です。ドイツのモーゼルやラインガウ産リースリングのものともまた違います。
この辺が「ミネラル感」という言葉の曖昧さでしょう。
 
 

ミネラル感がうま味を引き立てる

 
この海のミネラル感は、ワイン単体でも味わいの奥行きをもたらしますが、何より食事のうま味を引き立てます特に魚介の出汁との相性が抜群です。
多くのワインが苦手とする生魚との相性も大丈夫。生臭くなってしまうことはありません。
 
 
ワインと料理がピッタリ合っていると、それぞれの味を感じつつもより風味が引き立って強く感じたり、余韻を長く楽しめたりします。酸味が尖って感じたり、喉につっかえるようなイヤな感じは全くありません。
 
海鮮との相性がいいのは、さすが港町で飲まれてきたワイン、というところでしょうか。
 
 

野菜料理や肉料理にも悪くない

 
シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンといった国際品種は、味わいがハッキリしていて香りが派手なものが多いです。
それが高級ワインをつくっても納得される理由なのでしょうが、家飲みワインには時にピッタリではない。
 
健康を考えた時、家でつくる料理の味付けって、お店ほど強くはしませんよね。特に庶民的なお酒を飲むお店の料理は、塩分多め、強めの味付けが多い傾向です。
高級店になると味付けはむしろ繊細になるのですが、その分素材が持っているうま味が強い。
 
 
そのメリハリのある味わいとは、毎日食べる家庭料理は別物です。
だからこそ味の強すぎるワインは、合わせた時に料理に勝ってしまう。料理の味を殺してしまう。
 
チャコリと合わせた時、野菜料理もちゃんと味わえます。お肉料理の中にはワインが負けてしまうようなものもありますが、だからといって不味くなるわけではない。食中酒として「高い酸が脂をスッキリさせて、口の中をリセットしてくれる」という効果は十分に期待できます。
 
 

チャコリは晩酌に便利

 
ワインが苦手としがちな生魚も大丈夫で、魚介料理との相性がいい
それでいて、野菜やお肉料理のときも、それほど悪くない
 
和食には概ね合わせやすいです。中華の時は味が負けがちですが、不味くはなりません。
 
 
苦手とするものが少ない、応用の幅が広いという点で、チャコリは晩酌ワインに便利なんです。
 
 

冷蔵庫に1本冷えていると安心するチャコリ

 
チャコリには残念ながらあまり安いワインがありません
もちろん高級品ではないのですが、1000円前後のチャコリというのはほとんど日本では見かけない。2000円台、3000円台が主流です。
というのもチャコリの産地であるバスク地方は観光地。地元消費グレードの安いチャコリは輸出するまでもなく観光客が飲んでしまいます。
一部の志ある生産者の高級志向なチャコリだけが、輸出されて日本で飲めるのです。
 
 

割とチャコリなら何でもいい

 
普通ならここで「チャコリの中でも当店のおすすめは・・・」と紹介するところ。
そこをあえて言います。晩酌に便利な万能ワインとしてチャコリを楽しむ上で、チャコリなら何でもいいと
 
チャコリを多く取り扱う輸入元のいろはわいん寺田社長は言います。

スペインバルでチャコリの銘柄を気にしている人なんていない。ウンチク抜きに楽しめるのが、自分がチャコリを好きな理由の一つだ

 
典型的なチャコリなら、どれでも万能に晩酌に使えます。まずは白のスティルタイプ、もしくは微発泡タイプから飲んでみてください。
そのうえで、もし口に合ったら、確かに晩酌に使いやすいなと感じて頂いてから、次の生産者を試してみていいでしょう。
 
白のチャコリは3つの生産地域、ゲタリアコ、ビスカイコ、アラバコの3か所で味わいを若干変えます。
最初はゲタリアコかビスカイコのチャコリから入るのがおすすめです。
 
 

2000円台のゲタリアコ&ビスカイコのチャコリ

 
 
どれを選んでも間違いないです。
しかしそれは、どれも味が一緒というわけではありません。やっぱり2000円くらいのものと3000円くらいのものは、1段階差があります。
もし口に合ったなら、同じものをリピートするのではなく、他の生産者のものも試してみることをおすすめします。
 
 

少し違ったミネラル感「ジルヴァーナー」

 
もうひとつ推したいのが、ドイツの「ジルヴァーナー」という白ブドウをつかったワインです。
フランスでは「シルヴァネール」という名前でつくられています。
 
これまたミネラル感を感じやすいブドウ品種で、晩酌用ワインに向いています。
 
 

ジルヴァーナーはどんなブドウ?

 
ジルヴァーナーはドイツにおいて「安ブドウ」の位置づけでした。
畑の面積当たりの収穫量を上げてもしっかり糖度が上がる、多収量品種。地元消費用のガブ飲みワインに使われることが多かったそうです。
 
しかしある程度樹齢の上がった樹から収量を制限してつくれば、なかなか素晴らしいワインになります。
ドイツでメジャーなリースリングと同様、オーク樽熟成はあまりしません。酸味はリースリングに比べると穏やかなものの、一般的にはやや高め。スッキリ系ワインになります。甘口がない訳ではありませんが、ほとんどが辛口
 
 
香りはリースリングよりも一段階大人しめ。というか地味。柑橘やリンゴのようなほのかな香りです。
なので高級ワインはほぼつくられません。たいていが2000円台。5000円オーバーはほとんど見かけず、手に取りやすいところが嬉しい点です。
そして特徴的なのが、余韻に残る苦味に近いような独特の風味、ミネラル感です。
 
 

ジルヴァーナーのミネラル感

 
ジルヴァーナーに感じるミネラル感は、チャコリに感じるものと少し違います。
 
海というよりも岩。私はグレーの岩を砕いた時の臭いが近いというイメージです。
濡れた石」という表現の方が、人によっては伝わりやすいかもしれません。
 
 
シャブリやプイィ・フュメで表現される「火打石のような」(ライターの火花を出したときの臭い)ともまた少し違った、硬質なミネラル感です。
 
 

これもやっぱり料理にあう

 
これを「苦味」と感じる方もいらっしゃるでしょう。だから正直、ワイン単体で飲み続けるのはちょっとしんどい。
だからこそ料理を引き立てます
 
イタリアの海沿いでつくられる白ワインには、苦味を感じるものも少なくありません。そういったワインも、料理を食べながらだと、不思議と苦味は全く感じないものです。
 
 
ジルヴァーナーもそう。
香りが穏やかなゆえに、例えば繊細な和食と合わせたとしても全く邪魔をしない。主張しすぎない。
それでいて食を進ませてくれます。生魚も大丈夫。
 
ヘレンベルガーホーフさんのYouTubeチャンネルでいそもとさんが熱く語っています。
 
 
 
 

冷蔵庫に1本常備しておきたいジルヴァーナー

 
ジルヴァーナーの「銘醸地」と言われるのは、ドイツのフランケン地方です。
 
生産量自体はラインヘッセン地方の方が多く、またフランケン地方でジルヴァーナーの栽培面積は1位ではないです。でも「美味しいジルヴァーナー飲んでみたい」と思ったなら、まずフランケン地方で探すのが間違いない。
銘醸地だからといって高価ではありません。先ほど述べた通り2000円台が主流です。
 
 
フランケンのジルヴァーナーの特徴として、「ボックスボイテル」という変わったボトルが挙げられます。
 
 

意外と便利なボックスボイテル

 
主にフランケン地方でのみ使うことのできる丸い形のボトルを「ボックスボイテル」と呼びます。
(正確には、バーデン地方のタウバーフランケン地区、およびポルトガルの一部でも使うことができます)
 
たまに奇抜なワインボトルを使う例もありますが、ボックスボイテルの形においては伝統的なものであるため、勝手に類似品がつくられないよう保護がかけられているわけです。
 
このボックスボイテル。ワインショップでは嫌われます。なぜなら、ワインの陳列スペースを1.8本分くらい占領するからです。ボックスボイテルを置くと、並べられるワインの種類が減ってしまうのです。
 
 
でも家庭の冷蔵庫の中では、意外と納まりがいい
ドアポケットの狭いスペース。缶ビールは入っても通常のワインボトルはちょっと入らないんじゃないでしょうか。ボックスボイテルなら収まります。
ドアポケットがいっぱいなら、メインの棚に寝かせて。通常のボトルはゴロゴロ転がりがちですが、ボックスボイテルは転がりません。上に食品トレーを置いても安定します。
 
ぶっとい瓶だからといって、家庭で避けるべき理由はありません
 
 

フランケンのジルヴァーナー

 
ドイツワイン専門店でない限り、フランケンのジルヴァーナーをそう何本もそろえているところはないでしょう。
正直、当店は3種類そろえていますが、キャラがかぶっています。
それでも、ジルヴァーナーは普段の家飲みに絶対有用なワインだと思っていますので、何かにつけて提案していくつもりです。
 
 
これまた、3本飲み比べればもちろん違いがありますが、文字にできるほどではありません。
どれを選んでもスタンダードなジルヴァーナーを感じ取れます。
 
 

おうちのワインディナーにチャコリとジルヴァーナーを

 
チャコリとジルヴァーナーには、香りがあまり派手ではなく、普通は樽熟成せず、ミネラル感を感じる味わいだという共通点があります。
そしてその特徴は、普段の晩酌ワインとしてとても有用です。ワインと料理1対1の100点のマリアージュではなく、1対多の70点の相性をみせてくれるからです。
 
 
このような万能ワインを、1本冷蔵庫にストックしておくことをおすすめします。
他に飲みたいワインがあればそれを開ければいい。今日の料理にピッタリのワインがあるならそちらがいい。
でも今日飲むワインに困ったときにいつでも気軽に開けられる。それが万能ワインの魅力です。
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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